第二十二話「三者三様の舞台」5
現地の会場に到着し、バスで先に到着していたクラスメイト達を集めたところで漆原先生は重苦しい心情を隠しながら、何時になく言葉を選んで生徒達に古典芸能研究部の辞退を伝えた。
情報の拡散は控えるようにと漆原先生からの伝達もあり、生徒達に動揺が広がり、その場にいる生徒間での憶測も飛び交う中、スケジュールは大きく変更になり、様子見のために待機時間が多く取られる形となった。
羽月は先ほどの車内で内情を伝え聞いていたので、現実的な事情を鑑みてスケジュールの変更は理解できたが、そこにさまざまな都合があることを思うと複雑な心境だった。
「昨日の言い合い……、最近険悪だって分かる雰囲気だったけど、無関係なのかな……、でも興味本位で知ろうとするのはよくないよね……」
前日にフォーシスターズの言い合いをする姿を目撃していた知枝は複雑な心境だった。他クラスの事情に深入りすべきでないと自分に言い聞かせる。
映像研の舞台が昼の13時入場、13時15分開演の14時までということが会場側から発表され、演劇クラスは15時開場の15時15分開演となった。
当初の会場の貸し出し時間をも超過する大幅なスケジュール変更、それだけまだ開催に対して会場側、学園側共に慎重を要しざわついている部分が多いということだろうと羽月は心の内で思った。
報道メディアや警察関係者まで観客の出入りが行われる中、会場を来ることになれば演劇どころではないというのは正直なところであるから、慎重になるのも仕方のないということだろう。
何よりも羽月は犯人が捕まり、行方不明のリズが見つかる事やエリザの意識が戻り無事が確認されることを望んでいるが、自分ではどうすることも出来ないのが現実だった。
それからすぐにニュースの方でも報道が解禁され、事件のことが伝えられた。
同じ学園で学ぶ生徒が通り魔による傷害事件の被害に遭った現実、被害者のエリザは未だ重体で、犯人も捕まっていないという。
会場を訪れている生徒達は不安に包まれ、心が沈んだ様子のままで、一方キャストは貸し出された会場内の控え室で事件の事を考えないように自主練習に励んだ。舞台に立つ以上、最善を尽くすのが彼らの役目だった。
*
午後になり、待ちわびた観客が会場に入場していく。
二階席も含めて500人キャパの会場がどんどんと埋まっていき、客席で鑑賞する演劇クラスの生徒も遅れまいと客席に座っていく。
「浩二、もしものことがあるから、浩二には伝えておこうと思うの」
委員長と副委員長、二人並んで座って舞台の開演を待つ中、羽月は浩二に話しかけた。
「どうした? こんな時に」
羽月の言葉に浩二は何か重要なことを話そうとしていると思い羽月の方に向き直った、その表情は真剣そのもので、気持ちが沈んでいるようにも見えた。
「さっきの事件の話し、少し続きがあるの」
「わざわざ今話すってことは、俺達にも関係のある事ってことだよな? 漆原先生から聞いたのか?」
「ええ、先生とは車の中でね、杞憂だといいのだけど、もしものこともあるから。
あのね、リズが行方不明なの、後ね、これは他の子から聞いた未確認情報だけど、昨晩、リズとエリザが一緒に繁華街にいたところを見たって……、それで、私、怖くなっちゃって……」
事情を話す羽月の表情が曇り不安そうな様子だった。
羽月は古典芸能研究部の委員長から連絡を受け、このことを聞いた。
浩二は羽月の言葉に込められた意味を理解した。
もしも、リズがエリザを……、考えたくはなかったが、犯人が捕まっていない以上、可能性を否定はできない。
もちろんこのことを一番信じたくないのは古典芸能研究部の委員長であろう。
フォーシスターズを守りたい気持ちで今はいっぱいであろうことは話を聞いていてよくわかった。
彼もこれ以上被害を広めないために必死な気持ちでいるということだろう。
「そうか、覚えておくよ。これ以上何事もなく、演劇が出来るのが一番だからな」
「ええ、よろしく。私は出来るだけみんなの傍にいるから」
会場の中にいても安心はできない。
リズが行方不明である以上、事件がまだ続く可能性だって残っている。
羽月は不安に駆られ神経を尖らせながら、生徒達を見守っていく覚悟だった。




