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第25話 クラスメイトたち②

 漆黒の洞窟の中。

 天王山たちはたいまつを手に、洞窟の中を進んで行く。


 洞窟の中では様々なモンスターが出現し、これまでに現れた奴らとはレベルが違い、苦戦を強いられていた。


「な、なんとかなったな……」

「まだ続くのか……この洞窟」

「皆、大変だけど頑張ろう。この洞窟を抜けなければ、これ以上北に向かえないらしいんだ。楽な戦いではないけど、でも大竹先生もいるんだ」

「おう。そうだ。俺がいるからな。お前らまとめて守ってやるから安心しろ!」


 天王山に乗せられ、また見栄を張る大竹。

 実際のところ、出現するモンスターに殺されないか心配で一杯だった。


 自分らは最強のはずなのに、まさかこんな序盤で苦戦する場面がくるなんて……

 この時点でこれほどのモンスターが現れるとなると、ここから先はどうなるのか。

 ほんの先の未来のことを想像し、ゾッと背筋を冷やす皆。

 

 天王山は皆の心が挫けそうなことを察知していた。


 ここで引き返す方が無難か……

 だが、皆に負け癖なんてついてしまったら、俺の計画通りに進まなくなってしまう。

 少々無理した方が、後々のことを考えるといい選択肢なのかもしれないな。


 引き返すことなく、先に進むことを決める天王山。

 最悪、強力なモンスターが現れたらいつでも逃げられるように準備だけはしておこう。

 来た道は記憶している。

 できるだけ後方に位置し、その時が来れば大竹を犠牲に逃げればいい。


 異様な緊張感の中、洞窟の奥へ進んで行く天王山たち。

 モンスターとの戦いに疲弊し、限界がとうとう訪れる。


「もうダメだ! これ以上は先に進めない!」

「引き返そう! な、天王山。そうしよう!」

「天王山……俺も引き返した方がいいと思うが……どうする?」


 大竹も限界が近い。

 真っ青な顔で天王山にそう聞いた。


 天王山はたいまつの火を眺め、無理があったとか深く嘆息をする。

 もう少し頑張ってくれると思っていたが、予想を下回る活躍しかできなかった。

 無理に先に進んだところで、この程度なら役に立ちそうにもない。

 それなりに訓練をさせないとゴミも同然か。


 仲間たちを見下すように。

 だが神妙な面持ちで皆に告げる天王山。


「皆が死んだら元も子もない。ここは一旦引き返すとしよう」


 ホッとため息をつく仲間たち。

 そしてそそくさと引き返し始めた。


 が、そこで突然のことが起きる。


「な、なんだ……あれは?」

「……犬? いや……モンスターだな」


 天王山たちがいる場所は、それなりに広い空間。

 その空間を引き返したところで、一匹のモンスターが静かに天王山たちを見据えていた。


 暗い空間に溶け込むような黒さ。

 見た目は犬だが、人間ぐらいの大きさをほこっている。


 天王山たちの前に現れたのは――ワーグ。

 一匹のワーグであった。


「大竹先生……行けそうですか?」

「あれぐらいならなんとでもなる。任せとけ」


 大竹が先頭に立ち、ワーグと対立する。

 ワーグはゆっくりと、大竹たちへと近づく。

 大竹は自分の武器――斧を手にし、ワーグの接近を見据えていた。


 ワーグの動く速度が上昇していく。

 一速から二速。

 そして三速へギアチェンジするように加速していく。


「ウオオオオオオン!!」


 ワーグの咆哮に怖気づく仲間たち。

 震え、そして体が硬直してしまう。


 動じなかったのは二人だけ。

 天王山と大竹だ。


「来いや!」


 大竹は正面からワーグを迎え撃つ。

 相手は一直線に向かって来た。

 斧を振り上げ、最接近した瞬間に脳天に叩き込む算段だ。


「ふん!」


 その瞬間が訪れ、斧を全力で振り下ろす大竹。

 が、不発。


 突然の方向変換。

 大竹の斧を右に避け、そして彼の左腕に牙を突き立てる。


「ぐわあああああああ!!」


 深く突き刺さる鋭利な牙。

 そのままワーグは、大竹の腕を噛み千切ってしまう。


「う、腕が……腕がぁ!!」

「せ、先生の腕が無くなった!!」

「千切られた……千切られてるよぉ!!」


 大パニックを起こす生徒たちと大竹。

 ワーグは自分たちが引き返そうとする方向で大竹の腕を食らっている。

 久しぶりの餌だったのか、それは犬が嬉しそうに骨にしゃぶりついているような光景。

 しかし、大竹たちから見れば恐怖以外の何物でもなかった。


「うぉおおおおおおおお! 俺の腕……痛いよぉ……痛いよぉおおおお!」


 大人のくせに子供のように泣き出してしまう大竹。

 そこで腕を食べ終えたワーグは、さらなる食事を得るため、大竹たちに赤い視線を向ける。


「て、天王山! どうすりゃいいんだぁ!?」


 大竹が天王山の方を振り向き、涙でグチャグチャになった顔でそう訴えかけてくる。


「先生……そんなの決まってるじゃないですか」


 天王山は大竹の後ろに立ち、ニコリと微笑む。

 彼は自分を助けてくれる。

 そういう算段がついているんだ。

 大竹はそう思い、ホッと安堵のため息をつく。


「――え?」


 しかし、そんな大竹の気持ちを裏切るかのように、彼の体を突き飛ばす天王山。

 大竹の体は後方にいるワーグの元へと静かに向かって行く。

 まるで吸い込まれるかのように。


「天王山――」

「今だ皆、走るんだ!」


 ワーグが大竹の首にかぶりつく。

 その瞬間、天王山を筆頭に生徒たちが走り出す。


 大竹をその場に放置し、生贄にし、全員で逃走を開始したのである。


「ま、待って……」


 役目を果たしてくれてありがとうございます。


 大竹に醜悪な笑みを向ける天王山。

 強敵との遭遇は想定内。

 被害も最低限に抑えることができた。

 これからも大竹を乗せておけば、気持ちよく働いてくれたのだろうが、だが多くの生徒たちを守れることを考えれば、あれぐらいの損失はいいとしよう。

 リスクヘッジだ。

 悪く思わないでください。


 天王山は走りながらこれからのことを思案する。

 今回は急ぎ過ぎたのが失敗だったな。 

 次はもう少しこいつらを鍛えてからこの洞窟を攻略するとしよう。


 生徒たちは生き残ることと大竹のことで頭がいっぱいになっていたが、すでに彼の頭の中には、無情にもこれからのことが展開されていた。

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