第18話 純粋なフレアちゃん
「うお!? なんでベッドが……」
小屋の奥には部屋がもう一つあり、そこを開くと中にはベッドがあった。
カタリナさんのところで購入した物だ。
黒いベッドで、毛布は白。
枕の上の部分には、時計やジュースなど好きな物を置けるスペースがある。
ベッドは部屋の三分の一ほどを占めており、少し狭い印象を受けるが、だがここは寝るだけの場所。
広さなど今はどうでもいいだろう。
「ええっ……誰が運んだの、これ?」
「お、俺が聞きたいぐらいだ……」
フレアもベッドが運び込まれていることに驚き、目をパチパチさせてベッドを見ている。
驚くよね。そりゃそうだよね。
「でもさ、細かいこと考えても仕方ないよね。なんだか不思議なお店だったし、不思議なことが起こってもそれが当たり前だと捉えないと」
「そうだな……って、俺はまだお前がここにいるのが不思議なんだけど」
「不思議じゃないでしょ。だってこれから一緒に暮らすんだから」
「暮らさないから! そんな長年連れ添ってきたカップルみたいな感じで言うのやめろ!」
だがフレアは俺の言葉に気にすることなく、ベッドに腰かけてしまう。
「ほら。美少女と寝れるなんて嬉しくない?」
「自分で言う? 美少女とか」
「自覚は無かったけど、ずっとそう言われて来たから……女を使った方が金を稼げるなんてこともね」
「う……」
ダメだ。
どうも俺は、可哀想な話に弱いようだ。
一緒に暮らそうなんて言われたら否定したくなるが、だが無慈悲に放り出すには心が痛む。
お願いだからそんな過去を思い出して悲しそうな顔をするな……
このままじゃ追い出せなくなってしまうではないか。
「でもさ、女を使うとかよく分かんなかったから稼げてないんだよね」
「へ、へー……」
「女を使うってどういうことなのかな? 皆詳しい話は聞かせてくれなかったの」
「純真! 田舎で育った子供ぐらい純真!」
こいつは、色々と常識を教えてから野に放った方が良いのでは……
そう思ってしまうぐらい、彼女は純粋で無垢なようだった。
これが演技だったら褒めてやりたいぐらいだ。
「ほら。もう一緒に寝ようよ。今日は色々あったし、疲れたでしょ?」
色々あったのは全部お前の所為だ。
俺は喉元まで上がってきていたそんな言葉をゴクリと飲み込む。
「……こっち寄るなよ」
「寄ってほしいんじゃない?」
「バカ言うな! 寄ってほしいわけあるか!」
俺はカタリナさんに操を立てた身。
一方的な感情ではあるが、他の女には目もくれないと決めているのだ。
だから寄らないでください。
下手したら惚れちゃいそうだから。
そう危険を感じてしまうぐらいには美少女なフレア。
皆から言われるだけのことはあるよ。
俺はベッドの右側に寄り、フレアは逆側に寄って眠りにつく。
なんだかんだ疲れていたのだろう。
俺も眠るのにそう時間はかからなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
「う……ん」
朝、フレアの温かい吐息で目覚める。
彼女の息が俺の首元を撫で、俺の眠気は一瞬で消え失せてしまった。
「……なんで引っ付いてんだよ!」
フレアが俺に抱きついている。
柔らかい肢体が俺の体に絡みつき、寝起きもあってか体が熱い。
背に回された手。
足に絡みつく足。
そして俺の頬に触れる髪。
これは……刺激が強すぎる。
健全に生きてきた高校生男子には刺激が強すぎますよ!
「おい、起きろ!」
「ほえ? あ、おはよう……」
フレアは一瞬瞳を開き俺に返事をするが、二度寝でもするかのように再び目を閉じる。
「おいおい! 寝てる場合か! なんでこんなにくっ付いてんだよ!」
「…………」
俺の魂の叫びに、ようやく目を覚ますフレア。
そして顔を赤くして俺の胸に顔を埋める。
「……恥ずかしいね」
「恥ずかしいよ。だから今すぐ離れろ!」
照れるフレアは可愛かった。
その顔は俺の心に響く。
お願いだからさっさと離れてくれ。
って、自分から離れればいいか。
俺はフレアを力づくで引き剥がし、ベッドから飛び出る。
「もう一晩寝たんだから、どっか行けよな」
「どっか行けって……このぬくもりを覚えてたらどこにも行けないよ!」
涙目でわざとらしく訴えかけてくるフレア。
俺は大きくため息を吐き出し、彼女に問う。
「……フレア。金が稼ぎたいって言ってたな」
「うん。言った」
金の話になった瞬間、彼女の目がキラキラと光る。
どうもお金が大好きみたいだな、フレアは。
「金を稼ぐのを手伝ってやる。それなら満足だろ?」
「うん。ありがとう! ユキムラは強いし、すぐにお金を稼げるよ」
「分かった分かった。一緒に金を稼いでやる。その代わりにここを出て行け。それが条件だ」
「条件、厳しすぎない?」
「厳しいか!? 当たり前のこと言ってるだけだぞ」
「厳しいよ。だってここで寝たら宿代も必要無いし」
どこまでも守銭奴なやつ……
だが宿の問題を解決したら出て行きそうだな……
よし、その点の問題を解決してやるとしよう。
それならさすがに文句ないだろ。