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4話_凪から朱へ

1年前の春。


穏やかな風に揺られて、薄ピンクの花びらが歌う並木道。

その聲を聴きながら軽く空を見上げると、はぐれた一輪の花びらが、おでこに向って降ってくる。

それを右手の中指、人差し指、親指で静かに掴み、目の高さまで下ろした所で語りかける。


「今年こそは、変われるかな?」


答えを求める事もせず、持ってる花びらを自分のおでこに軽く当て、目を閉じ願う…………



愛日高(まなびこう)で始まる新しい学園生活。

クラスのみんなは期待を膨らませ、浮き立つ気持ちと軽いノリで仲間を増やしている。

当然、自分(あたし)も新しい生活に馴染もうとは思っていたの。


でも。


「ねえねえ?あなたモテるでしょ?1人でいいからさ、私に適当な男を紹介してよ?」

「そ、そんな……あ、あたし…男の…知り合いなんて……」

「えーいないの?じゃあさ、今度一緒に合コン参加してよ?あなたが居てくれれば、絶対いい男が寄って来そう」

「え?……そ、それは困り…ます」


あたしに声をかけて来る女子は、みんなあたしをビッチ扱いし、欲のエサに利用しようとする子ばかり。たまに男子からも声はかけられるけれど……大体は分かったでしょ?


友達らしい友達は、全くと言って見つからなかった。てか強制的に見た目で勘違い。第一印象は大事とか、ほんと誰が決めたんだか。あたしは別にオシャレをしてる訳でもないの。

あ。でも誤解しないで下さい。自分に自信があるとかではないです。モテたいとか男を弄ぶような女じゃない。


むしろ……あたしは、自分に自信がなかった。


実は極度の人見知り。話す事が下手な出来損ない。いつも友達を作るのが苦手で、中学生の頃なんてずっと独りだった。そのおかげもあって、勉強には集中できて、なんとかこの高校に合格出来たの。

でも、ただそれだけ。中身はそんな簡単に変えられない。願うだけでは無理なの。そんなの分かってる。だから行動あるのみなのよ。だけど、こっちから声をかけてもかけられても、外見が誤解を招くばかり。


やっぱり……ここでも無理なのかな……


「ね?突然だけど、私と友達になって」


あたしの席の前で、満面の微笑みで明るく話してきた女の子。

なんだか子供っぽくて可愛い子。でも、彼女もみんなと同じ……


「あた、し…ほんとに男好きじゃ………」


あたしの言葉に、彼女は不思議顔で一瞬首を傾け考えたが、すぐに表情を元に戻し答えたの。


「なら女の子なら嫌いじゃないよね?せっかく同じクラスになったんだし、私も友達作りたくて」


そう言いながら握手を求める彼女。細くてたくましい手を数秒眺め、自然と彼女の目を見ると、柔らかくて透明感のある綺麗な瞳に……あたしの胸の奥が熱くなった。


「あ、あたしで……いいんです、か?」

「あなたがいいの。私、聖母虹花(まりあななか)。よろしくね」

「え?あたしも七凪歌(ななか)です。苗字……ですけど」


その言葉で、透明感のある瞳が眩しいほどに輝き、あたしが手を握ろうと伸ばした手には触れず、彼女の身体が突進して来る。


この時あたしは、初めて女子高生の柔らかさと温かさを知ったの。


「わー。絶対運命。こんな偶然があるなんて」

「あ、あの……聖母さん。握手は?」

「こっちの方が親しみあっていいでしょ?」


これが、彼女との始まりだった。

そして、あたしを変えるきっかけを与えてくれた人。

でも、本当にあたしが変わるのは……少し先の事。

彼女との出会いが、今の自分へと変化させたのです。


「は、恥ずかしいです……」



~ 4話_凪から朱へ ~



「とりあえず座ってよ」

「じゃあ遠慮なく」


あたしは彼をベンチに座らせ、彼の顔を見つめながら話をする。

内容は名前について。ふふ。なんだかここ最近は、名前の話題ばかりだなぁ。でも仕方ないよ。だって、あたしもナナちゃんも祈りさんも……彼もね、似てるとこあるんだもん。


「ざんねんでした。祈さんが言ってたんでしょ?」

「えっと……ああ。先輩に、俺の事を話す女の子なんてのは、2人しか存在しなくて」

「男の子かもよ?」

「俺に親しいヤロー友達なんていないさ。仮にいたとして、かろうじて枠鳴くらいさ」


彼の言葉に偽りがないか、イタズラに顔を近づけ瞳を覗くと、彼の頬が少し赤らみ、あたしの顔をあえて見なくなった。


ちょっと近づき過ぎたかな?でも、この距離は初めてじゃないのに……なぜ?

なんて考えていた時に、緩やかな風で髪が靡き、ほのかに香るシャンプーの香りが、自分の鼻に届いたの。


あ…………誤解されたかな?いや、待って。これはあたしのせいなの?彼を挑発してるように思われたかな?……ど、どうしよう。これじゃあ本物のビッチイメージになってしまう。

お、落ち着いて。とりあえず表情は維持よ。そして、あくまでも自然に話してしまえば……


『演じ続ければ、周りの視点は変化し、それが自分になる』


頭の中で彼女の言葉を思い出し、冷静さを取り戻す。


今のあたしは極度の人見知りではない。と言うイメージ。

実際は何も変わらない……じゃない。あたしは変わった。

ナナちゃんの助けと彼女とあの店で。


「そっか。奈緒くんは素直だから信じる。だから、あたしも少し自分の事を教えてあげるね」


あたしは彼から離れ、ベンチに両手の手のひらを着けつつ、状態を反らす姿勢で少し空を見上げた。


あの頃も、こんな色だったっけ。

あたしがあたしになれた……特別な空の色。


余分な想いは胸に秘め、あたしは彼に語り始めた。


◆◆◆


入学してから2ヶ月が過ぎようとしていた6月のある放課後。


クラスの仲間は各々に友達を作り、楽しく下校して行く光景をあえて見ずに、1人静かに帰宅準備に入る。

左手で鞄を固定しつつ、右手で持った教科書を鞄の奥へと押し込むも、何かに遮られ収まらない。このままではスッキリしないと言う言葉を、口には出さず、眉間にシワを寄せて鞄を覗き込む。


「あ。キミだったんだ」


思わず漏らした声は、誰にも届かず鞄に響く。

それでも周りを見渡して確認しては見るけれど、当然と言うか、当たり前と言うか。


結局この2ヶ月。あたしの評価は外見のみ。そう、ビッチ女と言うイメージが定着…………はせず、一転して気弱のクラスに馴染めない根暗キャラへ。

まあ性格を理解すれば見方も変わるよね。あたしもビッチよりは断然いい。けれど、やはり友達は増えることは無かった。


「ナギちゃん。鞄の中に何か飼ってるの?」


あたしの背後から顔をくっつけ、正式には頬と頬をくっつけ質問し、同じ姿勢で鞄を覗く女の子。


「な、ナナちゃん。ち、近いです」

「いいじゃん。てか、学校にペット連れて来ちゃダメだよ?」

「ペット?……ち、違う。これですよ」


あたしが指差した少しグレーの塊。

彼女はそれを目視すると、途端にあたしに抱き着いて、震え声で訴える。


「ね、ネネ、ネズミはナギちゃんには似合わないよ?」

「ネズミ?……だから、よく見て…下さい」


勘違いされた物を右手で掴んで鞄から取り出し、教科書をキッチリ収めてから彼女に見せると、胸を撫で下ろし、恥ずかしそうな顔であたしを見つめて手を差し出す。


「折り畳み傘ね。ネズミ好きかと思っちゃった」

「夢の国のネズミは好きですよ」


鞄に折り畳み傘をしまい、彼女の伸ばした手にそっと触れる。


「じゃあ、お金貯めてさ、一緒に遊びに行こうよ。夢の国」

「いいですね。まずはバイト探しからですね」


繋がれた手と彼女の明るい笑顔に癒され、教室を後にする。


あたしは友達が少ない。でもそれで満足。ゼロではないもん。こんなあたしをちゃんと認めてくれた友達は、確かに隣でいてくれる。同じナナカを持つ虹花さん。この人とずっといれるなら、無理に変わらなくても…………


「ねえ、珍しい人がこの学園にいるって話、聞いた?」


珍しい?あたし以上の珍しい人なんているの?

などと、その時は思ってたけれど。よく考えてみれば、あたしは別に珍しくも何ともなくて、どこにでも存在するモブキャラ。


「いいえ。どのように珍しいんです?」

「知りたい?興味出てくれた?」


彼女は、あたしの顔を真っ直ぐ見ながら楽しそうに問うので、精一杯の作り笑いで「知りたいです」と答えるあたし。


「だよね、だよね。何でもその人は1つ上の先輩で、いつも感情が一定で無表情なんだって」

「感情が一定で無表情?……それって、冷たい人とかで合ってます?」

「それは少し違うみたい。だから珍しい人だよ」


どう言う意味?無表情=冷たいではない?

なら感情表現が苦手な人って事?

でもそれじゃあ、珍しいって……何?


初めは関心が正直なかったけれど、少しだけ、その人の事が気になって来た。

でも今は、珍しいの答えが知りたくて。


「イマイチ理解が……」

「だよね。だから私、その人と友達になろうと思うんだ」

「ええ?ごめんナナちゃん、意味が分からない…」


予想通りの反応に満足した彼女は、人差し指の柔らかい部分をあたしの鼻先にくっつけて、こう言った。


「その人に会えば、ナギちゃんの悩みも解決しそうな気がする……かもよ?」


◆◆◆


ふと彼の口元がニヤけて何かを想像?妄想しているように見えた。


「な〜に?別にいいですよぉ。これであたしに対する見方が変わって評価が落ちても。あたしはむしろ大歓迎です」


「いや、そうじゃないんだ。虹花らしいなって」


どうやらあたしの事ではなく、ナナちゃんの事を優先してニヤけてたみたい。

彼はあの子の幼馴染だもんね。まあ仕方ないよ。

そう、仕方ない。


「で?何がナナちゃんらしいの?」

「言ってもないのに見抜かれてた。そして人助けと思い、いらぬお節介」


呆れた顔になりながら、簡潔にこれからあたしが話そうとしていた部分を、見事に省いてみせる彼。

そこらはホントに驚いてしまうよ。

彼は黙って答えを待ってるけれど、自分の答えに絶対的な自信を持っている。


はあ。何だろう?このもどかしい気持ち。


「正解。ナナちゃんは、ちゃんと見てくれてた。外見じゃない、本当のあたしを」


胸の上に手を添えて彼に答えると、彼は柔らかい表情で軽くうなずいてくれた。


「続き、聞かせてくれるんだろ?」

「そんなに聞きたい?」

「君の事だからね。もっと知りたいんだ」


彼は他の人とは違う。最近はそう感じてきた。

ナナちゃんの幼馴染と言う部分だけでも評価は違ったけれど、何度か会って、話して分かったの。


彼なら……彼も、あたしを変えてくれる。

でも、それは一生叶わない。


「言っとくけど、奈緒くんに知ってもらわなきゃいけないのは、あたしの過去なんかじゃないよ?もっとシンプルで、知ってもらわなきゃスタートラインにもたどり着けないんだから」


流石に理解が出来ない彼の表情を楽しみながら、話残した部分を勝手に語り出す。


◆◆◆


下校途中にある小さな公園の休憩所。

ここが、あの人との出会いだった。


「年下が何の用かしら?珍獣見物?」


あたしとナナちゃんに対面して、乾いた言葉と無表情で問いかける彼女。

少し怖くて、無意識に後ずさりしてしまったあたしを見て、ナナちゃんはそっと手を握ってくれた。

そして「大丈夫」と一言伝えてくれて、先輩の顔を見る。


「いえ。私たち、1人の女性として、先輩と友達になりたいんです」


彼女の言葉に、少しだけ眉が動いた気がしたけれど、表情はそのままで返事を返す。


「別に断る理由もない。けれど、あなたは私を恐れている」


「……す、すみません。確かに少し怖い…でも、先輩が嫌とかじゃなくて……こういうの苦手…なんです」


あたしのせいで、場の空気が重くなると悟った彼女は、直ぐに先輩に弁解し、あたしの事を端的に説明してくれた。


「事情は理解した。私に近づいた目的も」

「あはは……さすがっスね。七五三祈(しめぎ)先輩。理解が早くて助かります」

「七五三?」

「いや、七五三に祈と言う漢字をつけて、しめぎだ」


もの凄いインパクト。表情も口調も苗字も。この人はあたしにとっては全部が衝撃的だった。けれど、この後みんなで自己紹介をした事で、この組合せが必然だったと感じたの。

そう。ナナちゃんと先輩の”まりあ”繋がりとかね。


「さて、本題だ。2人はこの後、時間はあるか?」

「ナギちゃん、まだ大丈夫?」

「うん。平気」


答えを確認した先輩は、公園の出口に向かって歩き出し、無言であたしたちを誘導する。

歩き進んでいるその道は、賑やかな店が多く並んでいた。こんな所があったなんて、あたしはこの歳になるまで知らなかった。


一体どこに向かってるのかな?


少し不安になり先輩の方へ視線を向けると、ゆっくり立ち止まり、あたしの方へと身体を向けた。


「私にも、愛称を付けてちょうだい」

「……あたしが……ですか?」


先輩は軽くうなずくと、無表情のまま待ち続ける。

な、何であたしなんかに?ここはほぼ100パーセント彼女に決めてもらう所じゃないのかな?

どうしよ?しめぎ先輩。確か七五三に祈を付けて……


(いのり)……さん」


あ。苗字の確認をしていて、思わず独り言で声が漏れちゃった。


「ほう。そう来たか」

「へ?あの……今のはなかった事に…」

「すごいよナギちゃん。私も同じ事を考えてた」

「ええ?」

「祈。よい愛称だ。感謝するよ”(しゅう)”」


朱?それってあたし?

驚きと戸惑いの表情を、無表情の先輩に向けると、ほんの一瞬。口角が少し上がった気がした。


「先輩がいいなら、これからそう呼びます」

「ああ。よろしく頼む」


最初は正直冷たくて怖かった。でも、単なる思い込み。あたしが勝手に決めつけていただけ。

あれ?これってあたしと似てない?

外見ビッチ扱いされていたのは、周りの勝手な決めつけ。


目的地へと再び歩いている途中、先輩に対するイメージを頭の中で正していると、知らぬ間に先輩が近づいて来ていた。


「どうやら少し悟り始めたようだな」

「え?あ、あの……声に出てました?」


先輩は何も答えず立ち止まり、とある店の入口を指さした。


その店の名は『メイドーレ』。

基本はカフェなんだけど、店員さんがその名のごとくメイドさん。当然あたしは初めての場所だったけど、ナナちゃんはメイドさんのカフェ経験はあるんだって。


「入って。朱の答えはこの中にある」

「…………へ?」

「行こうナギちゃん。ここが変われる1歩目だよ」


ナナちゃんの手に引かれ、店の中へと吸い込まれて行くあたし。

先輩は軽く手を振りお見送り状態。

もう何が何だか分からない。だって、メイドさんの店が、どうあたしを変えるっていうの?

とか思いつつ、客として普通に座ってしまった。


「お帰りなさいませーお嬢様」


お、お嬢様?これは?

反射的にナナちゃんに顔を向けると、彼女は普通に「ただいま」と返している。

なに?これはこの店の基本(ルール)?ならあたしも言わなくちゃ。


「た、ただぃま……でしゅ」


緊張のあまり、最後の語尾を噛んだ事がとても恥ずかしく、うつむいていると、静かに近づいて来る足音。その音はあたしの椅子付近で止まり、足音の主は、頭の上から語りかける。


「そんなに緊張なさらずに。ここからは(わたくし)が担当させていただきます。さあ、恥ずかしがらず、綺麗な顔を魅せて下さいませ」


メイドさんが優しく丁寧な口調で、そしてどこか聞き覚えのある声で……この声…って。


あたしはゆっくりとメイドさんの顔を見上げると、そこに立っていた人物は……


「い、祈さん?」

「素敵ですよ。先輩」


あたしの目の前に立っているメイドさんは、さっきまで学生服姿だった祈りさん。

しかもあの無表情と無感情の彼女が、全く正反対の言葉づかいと鮮やかな表情。


ナナちゃんが言ってた珍しい人の本当の意味……やっと理解できたよ。


「はい。本日から”愛”改め、”祈”と改名させていただきました。以後お見知り置きを」


「「か、改名?」」


これもナナちゃんは知って……ないよね。一緒に驚いたもんね。しかも見事にハモって。

となれば、ここから先は先輩があたしに何かを仕掛けて来る事は理解できた。


「祈さん。これは一体?」

「まずはご注文をお聞きします」


先輩があたしにメニューを差し出すと同時に、耳元で「祈を見てて。朱ならすぐ理解できる」とささやいたの。


◆◆◆


彼の都合なんてお構いなしに当時の事を思い出し、語り終える頃には、結構な時間になっていた。


「先輩のスタイルがキミの原点か」

「演じ続ければ、周りの視点は変化し、それが自分になる……あたしは先輩に教わり、あの店で変わる事ができたの」


そう。今のあたしはニセモノ。

でも。今はコレがあたしなの。


「別にいいんじゃね?女優気取り、演劇部志望。他にも言葉は見つかると思うけど、要は受け取る側次第なんだろ?なら俺は何も気にしないぜ」

「なら、次に会った時は、昔のあたしで接しようかなぁ」

「ご自由に。どんなキミでも俺は諦めない」


やれやれ。嫌われる予定が、返って逆効果だったのかも。


なら…………いいか。


「じゃあ。惚れた(あたし)の名前くらい、ちゃんと覚えといてね?」


ベンチからそっと立上り、彼を見下ろす体制になると、2人の間に風が差込み、爽やかなシャンプーの香りがする髪が、あたしの目を隠す。


彼は無意識に、あたしの口元に視線を向けている。

その事を髪の隙間から確認し、ハッキリ伝わる口調で告げた。


「あたしは(しゅう)じゃなく、あかね。七凪歌(ななか) 朱音(あかね)


名前を告げると風も去り、手ぐしで髪の乱れを整えて、ついでに優しい笑顔を彼にプレゼントしたわ。


その笑顔に跳びつくように立ち上がり、あたしの両上腕を彼の両手に支配され、今度はあたしが彼を見上げる体制になっちゃった。


「まさか……朱の音色?」


ほら、ようやくスタートラインだよ。


「さあ?これもウソかもよ?」


ううん。もう走り出したね。スタートダッシュってやつ?


「あかねる……なんだな?」

「その呼び名は遠慮かな。奈緒くん」


否定されて、少し興奮気味の彼が落ち着きを覚え、急いであたしから両手を解き、距離を置いてくれた。


でもね。きっとゴールはないよ?


「2人でいる時は秀でいい。付き合う合わないは問わずだ」

「じゃあ、あたしも朱でいいよ。異性に呼び捨てされるのは慣れてなくて」


察しのいい彼は2つの事を理解したの。

1つはあたしの本名。

そしてもう1つは…………

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