幕間
人間界で最も古く、そして最大の版図を誇る国の城は、筆舌に尽くしがたいものがあった。雄壮さや防衛機能は言うに及ばず、居住性も他の追随を許さない。争いの絶えない世界において、唯一無二の楽園であると言えるかもしれない。
地上で最大最強の戦力を誇る超大国グレート・セントラル。その現国王は、空中庭園と銘打った、城のバルコニーで報告を聞くよう習慣づけていた。どのような煩わしさがあっても、吹き抜ける風が取り去ってくれるように思えるからだ。
「陛下、トルルードはしくじった模様です」
側近の男が平坦に述べる。感情の類いは何も乗せられていない。
「あの愚図め。せっかく泳がせてやったというのに、手もなく捻られおって。やはりコソコソと暗躍するような男に大事は成せんという事だ」
白髪混じりの男が嗤いつつ答えた。顔の端に浮かべる不敵な笑みが、彼の野心家たる性質を如実に語るようである。
「全てが予見した通りでした。神水晶は有能ではありますが、万能とは言いがたいです」
「お前はいつだったか、生身の人間に使うべきではないと申しておったな。同化法は無意味であると」
「左様にございます。確かに魔族どもの持つ能力を得られましょうが、それまでです。肝心の力が伴わず、結局は死兵を増やす結果となりましょう」
「そうか。古の魔王を意のままに操れば、魔人など一掃できたのだがな」
「心痛、お察し申し上げます。取り揃えた肉塊も、何かの折りで役立つことでしょう」
「だと良いのだがな」
王は掌で遊ばせていた物を放った。神水晶である。それはチェス盤の上で跳ね、花畑の中へと消えた。その行く先を眼で追う者は居ない。
「方針を変えねばならぬ。早急な対処を命ずる」
「承りました。吉報をお待ちください」
王は雲の少ない空に顔を向けた。謁見の終わりを告げる合図である。以降は一切の発言を控え、退席する事が暗黙のルールだ。たとえ長年仕える重役であっても、例外を認められてはいない。
「忌々しき魔の者共よ」
王の口から溢れた言葉は、呪詛にも似た響きがあった。晴れ渡る空模様とはかけ離れていた心境なのだ。
「必ずや根絶やしにしてやる。それこそが、人族の頂点に生まれ落ちた、我が使命なのだ」
一迅の風が吹く。彼の発した言葉は決意か、はたまた妄言か。誰が耳にするでも、答えるでもなく、城郭の方へ流されて消えた。




