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僕と金毘羅さんの不思議な話 その3

福岡に戻った僕は、なんとなく、

本当になんとなく、ハローワークで偶然見つけた、

志賀島の定置網の漁師の仕事に応募して、

漁船に乗ることになった。


そして、一緒に船に乗っている漁師たちの会話に、

「金毘羅さん」という言葉が時々出てくるのを耳にするのである。

金毘羅さんは海上交通の守り神であり、

漁師にとっては、金毘羅さんにお参りして、

金毘羅さんの旗を船に掲げるというのが、

ひとつのステータスだったのである。


ああ、金毘羅さんか、

こうして、何の縁もゆかりもなかった、

漁師という仕事に就くことになったのも、

もしかしたら金毘羅さんの導きなのかもしれないなと思った。


漁師の仕事はあまりにも過酷で、長くは続けられなかった。

その後、通販番組の制作をする会社に入ったが、

環境になじめず一年半くらいで退職した。


ハローワークの紹介で工業系の職業訓練学校に通い、

そこで無頼な友達ができて少し勇気づけられ、

そして短い間、郵便配達の仕事をしたが、

結局、また僕はディレクターの仕事に戻ることになった。


そのディレクターの仕事中に骨折して入院し、

入院中に心臓疾患が発覚して手術を受けることになり、

約8カ月休養することになって、

この4月からやっと仕事に復帰したのだが、

それが若松ボートでの、

スカパーの番組の生中継の仕事であった。


ボートレースに使われているエンジンは、

今では珍しい2サイクルのエンジンで、

燃料には混合ガソリンが使用されている。


朝、ピットに入ると、

混合ガソリンの独特の匂いが漂っている。

ああ、2サイクルのエンジンの匂いだ、と思う。


エンジン?

そういえば、金毘羅さんのてっぺんのお宮には、

なぜか船のエンジンが奉納してあったな・・・


ここで全てがつながったのである。

かつて東京で「金毘羅さんにお願いしなさい」と言われ、

福岡でディレクターに復帰した。

一時辞めて蕎麦屋の出前をしていたが、

またNHKでディレクターとして復帰した。

そのあと漁師になったが、

またディレクターの仕事に復帰。

その仕事も辞めて郵便配達になったが、

またディレクターの仕事に復帰。

骨折と心臓の手術で休職したが、

再度ディレクターに復帰。


結局僕の仕事は「ディレクター」なんじゃないか?

そして、これらの仕事の道筋を決めてくれているのは、

もしかしたら金毘羅さんなんじゃないのか、

と自然に思えたのである。


ほら、モーターボートだよ、エンジンだよ、

石段のてっぺんでエンジンを見たのを思い出せよ、

と、しびれを切らした金毘羅さんが、

わかりやすいヒントをくれたのかもしれないと思った。


金毘羅さん、もしそうなら、

鈍くて、経験から学ぶことの少ない、できの悪い僕を、

いつまでも見守ってくださってありがとうございます。

だからといって急に賢い子になることはきっとできませんが、

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

これで僕と金毘羅さんの話は終わりです。

その後僕は熊本に引っ越して、

ディレクターの仕事も辞め、最近では

金毘羅さんのこともすっかり忘れていました。

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