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whole history  作者: S・S
3/6

分かってたはずなのに、、

いつかはこの日がくる事は


目の前には青い顔をしてベットで横になるベスペルがいる

「どう?ヌマさん」

自分でも何を聞いているのか判別出来ない質問をする

私の質問に一切構わず診療していた彼がやっと口を開く

「栄養失調だ、僕から言える事は

しっかり栄養をとって安静にすること、ぐらいだ」

しっかり食べて安静にしていれば治る、だがそれが出来れば苦労はしないのだ

「わざわざありがとうございますヌマ先生、それにヘリアンちゃんも

わざわざ家まで来てもらって」

心配をかけまいと弱弱しい笑顔で感謝する彼女

どうすれば?

いったい私はどうすればいいの


結局答えを見つけられないまま彼女の家を出る

私の先を歩く彼に思わず弱音をこぼしてしまう

「私、分かってたのに、このままじゃいつかこんな日がくるって」

彼は聞いているのかいないのか歩みを止めない

そんな背中に向かって私は喋り続ける

「ベスペルはね、お父さんと二人で暮らしていて最近はお父さんが

毎日町まで仕事を探しに行ってるらしいけど中々見つからないみたいなの

二人には他に頼れるような親族もいないらしいしこのままじゃ、、」

いけない、弱気になってどうする私がなんとかするんだ

まだ遅くないはずだ、こうゆう時のために村の運営を勉強してきたんだろう

何とかするんだ、何かあるはずだ、私は前の彼を追い抜き足早に家に向かう

追い抜くときに見た彼の顔は恐ろしく冷たかった



あれから何日経っただろう、あと何日猶予があるのだろう

テーブルの上に両腕を枕にするようにして突っ伏し考える

小娘がいくら考えたところで現実的な解決策など思いつかなかった

周りの人間にヒントを求めたところで大したアイデアはなかった

こんな時に頼りになりそうなヌマさんは

「よそ者の自分が村の運営に口を出すべきではない」

と、きっぱり断られた

しつこくお願いしたら、お父さんに厳しく怒られてしまった

あれから何度か見舞いに行くがその度に弱っていく彼女に焦りが募る

ここまできたら手段は選んでいられない

私は立ち上がりお父さんの執務室へ向かった

ドアをノックし名前を告げる

「ヘリアン?どうぞ」

許可をもらうと同時に部屋へ入る

机で書類処理をしていた父は顔を上げ

忙しない挙動の私に不思議そうに来意を問う

「どうしたんだ一体」

一つ息を飲み答える

「ベスペルの事で話があるの」

私の言葉を聞いた瞬間苦い顔をする父

私は矢継ぎ早に二の句を継ぐ

「このままじゃ本当に危ないの!今すぐ助けないと」

「だが私たちにできることはもうないよ」

その他人行儀な言葉がここ最近溜まっていたストレスを爆発させた

「お父さんは悔しくないの、自分の村の人間が貧しさで苦しんでいるのを見て

村の人間を助けられなくて何が村長よ!」

「落ち着きなさい」

冷静に諭してくる父、だが今の私には逆効果だった

「自分の娘の友達一人助けられないなんて情けない

村長としても父親としても恥ずかしくないの!?」

「うるさい!」

喋る事に夢中になっていた私を衝突音と怒声が呼び戻す

机の上から書類がこぼれ落ちていく

目の前に立つ父はいつもの優しい顔とは別人だった

「お前に何が分かる!コツコツと貯めた資金はあっけなく消え

村の人間の失望の視線、それでも次こそはと、、

結局、村への道を素通りしていく商人達、、所詮私達は代理でしかないんだ

やれることだけを、言われたことだけをやっていればいいんだ」

そこまで言うと下を向き椅子に腰を降ろした

見た事ない父の姿に茫然としていた私に父が言葉をかける

「用が済んだのなら出て行きなさい」

このまま諦める訳にはいかない

「食べ物を提供するだけでも、、」

「だめだ、私達が不平等な行為をする事は許されない」

「、、」

何を、何を言えばいい

「さぁ」

言葉に詰まる私に父が再度出ていく様に促す


元居たテーブルに戻り突っ伏す

「あぁ、ああぁ」

苦しい、苦しいよ




「それじゃあ、達者でな」

「うん」

荷物を持ち上げ戸口に立つ妹に渡してやり言葉をかける

「体には気をつけろよ」

「うん」

「向こうの家の人と仲良くな」

「うん」

「何か困ったことがあったら俺に、、」

「兄さん」

目の前の妹が困った様に苦笑いする

「別にこれで二度と会えなくなる訳じゃないのよ」

「あぁ、そうだよな」

「それじゃ、待たせたてるからそろそろいくね、元気でね兄さん」

そう言って、妹は手を振りこの家を出ていった


一人家の中に戻り腰を降ろす

鳥の鳴き声や木々が揺れる音がやけに鮮明に聞こえる


さて、俺はどうしたらいいんだろう

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