狂依存
その時、私はひとつの骨を拾った。
その骨はきっと、さっき目の前で焼かれた遺骨。少し前は、私の母だったもの。
私は、その骨を見て泣くわけでもなく、笑うわけでもなく、ただ、ただひたすらに
いいなと、思ってしまったのだ。
口には出さずに、心の中でそっと、いいなと思ったのだ。
「もしもし?いま平気?」
深夜2時。静寂が独り歩きするこの時間は、私にとっては特別な時間でもある。
「特に言いたいことないんだけどさ、声聞きたいな…って」
私には友人がいる。私はその友人が好き。
きっと彼女も私のこと好きってわかるの。勘みたいなものだけど。
彼女は、秀才。私は、凡人。
だから私は彼女の才能が羨ましく感じる。でも、それは彼女以外の人がすればなんとも思わなくなってしまう。
だから、きっと好きなんだよ。彼女のこと。
電話が切れる音。まぁ、流石に夜中は駄目か、なんて少し開き直る。
この気持ちを恋と呼ぶ人がいるらしいけど、私はきっとそれには満たない。だってまだ愛が足りないなんて思ってるから。
気づけば、私は退屈になっていた。
そして、彼女のことを考えながら歩いていたことで迷子だ。
きっと彼女なら、涙目で私に「助けて〜」なんて言うんだろうけど。
「…会いたいな」
こんなに思っているのに、こんなに好きなのに、気持ちは全部から回ってかき消される。
どんなことも、二人で分け合ってきた。
好きなものも、嫌いなものも、病事だって。
辛いことほど分け合いたいじゃん?
ここまでやっても足りないみたいで、夜中に電話してみたらあんな感じだ。
もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
「もっかい電話しようかな」
そう考え、私は着信履歴の一番上にある彼女の電話番号を少し見つめ、電話をかける。
『おかけになった電話は、電波が届いてないか…』
電話の向こうから聞こえてきたのは、彼女の声ではなく、ただ無機質な声のみだった。
「…寝たのかな」
朝にまたかけよう。そう思い、私は通話を切った。
空気が澄んでいる。
道もわからず、お金も持ってきてなかった私は、公園のベンチで寝ていた。
時計を見れば、今は朝の5時。
私は、電話を開き、彼女に再び電話をかける。
しばらくすると、彼女は電話に出た。
「こんな早くにごめんね。起こしちゃったよね。今大丈夫?」
少し焦って、自然と早口になる。
だって、夢を見たんだ。
「君が別の人のこと好きになるって夢を見たんだ…」
私がそう言うと、彼女は「そうなの?大丈夫?」とだけ言ってくれた。
でも、私がほしいのはその言葉じゃない。
否定して。愛して。「好き」って、言って。
「だい、じょうぶ…だよ。ありがと」
きっと今の私は、嘘つきだ。
嘘をついて、笑顔もきっとひきつってる。
彼女は、そのまま電話を切ろうとするから、私は「最近冷たいね」と呟いた。
会話を繋げようと、必死だったのかもしれない。
彼女は、何も答えずに電話を切った。
「バカみたい」
私は、呟いた。きっと嬉しそうな顔をしているのだろう。
否定的な彼女も好きだ。
私は、また歩き出した。
一歩、二歩、三歩と…
四歩目を踏み出したときには、私はその場に倒れ込んで、五歩目は足が出なかった。
私は、この結末を知っていた。
その時、私はひとつの骨を拾った。
その骨はきっと、さっき目の前で焼かれた遺骨。少し前は、私の友人だったもの。
私は、その骨を見て泣くわけでもなく、笑うわけでもなく、ただ、ただひたすらに
いいなと、思ったのだ。
誰もいない葬儀場で、一言、いいなと呟いたのだ。
あの頃と何も変わらない、純粋な気持ちを抱えて。