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転校前日


 スカウトを受けてから、更に数日の時が経った。

 諸々の手続きを終えて、明日から俺も虹霓こうげい学園の一員だ。

 期待と不安に胸を膨らませ、新入生のような気分になりながら電車に揺られ。

 目的地にたどり着くと、駅に下りて改札を抜ける。

 すると。


「あっ、こっちですよ! 四季くん」


 すぐに彼女――詩織が出迎えてくれた。


「よう。何日かぶりだな」

「そうですね。四季くんも変わりないみたいですね」

「こんな数日くらいで変わるかよ」


 ちょっと忙しいくらいの、平和な日々だった。


「そうですか? でも、男子三日会わざれば刮目して見よ、ですよ」

「三日で変わってたら男はみんな目まぐるしくて大忙しだな」


 そんな軽い会話を交わしつつ、俺たちは駅を出た。

 見知らぬ街の景観に、非日常を感じて胸が躍った。


「虹霓学園は歩いて直ぐですから」

「あぁ。それじゃあ、行こうか」


 周囲の景色を満喫しつつ、通学路をいく。

 歩きながら視線をあちらこちらへと向けていると、詩織が視界に映り込む。


「……白か」


 何気なく色が浮かんで、それが口をついて出る。

 すると、詩織にもそれが聞こえてしまったのか。


「――もうっ! またっ!」


 赤面して、またスカートを押さえた。


「どうしてわかるんですかっ! もうもうもうっ!」

「いや、だから、たまたまだって。本当に」

「そんなたまたまが! あって! たまりますか! 白状してください!」

「本当にたまたまだってのっ。というか、詩織の自爆だって」

「どういう意味ですか、それは!」


 ちょっとしたアクシデントがありつつも、通学路を渡り終える。

 たどり着くのは、明日から通うことになる虹霓学園だ。


「――色取り取りの生徒たち。文字通りカラフルな学園だな」


 その校門前にて。

 敷地内にいる生徒たちを眺めながら、そう呟く。


「仰るとおり、この虹霓学園には特色のある生徒たちが数多く在籍しています」


 そういう意味で言った訳じゃあないんだが。

 訂正するのも面倒だから、そういうことにしておこう。


「そして、明日から四季くんもこの虹の色に加わるのです!」

「混ざって濁らなきゃいいがな」

「虹はいつでも綺麗なものですよ。さぁ、行きましょう!」


 一足先に詩織は校門を潜る。

 その後に続くように、学園の敷地内に足を踏み入れた。


「まずは簡単に学園を案内しますね」


 その一言で、まず学園施設ツアーが始まった。


「――ここが学食ですよ。カツサンドが絶品なんです!」

「カツサンドか」


 そう言われると、食べたくなってくるな。


「――お次は図書室。異能に関する書籍や、魔物の図鑑なんかがありますよ」

「活字を読むのは得意じゃないんだが、魔物の図鑑ってのは見てみたいな」


 敵を知っていれば、対処も楽になる。


「――この先に広がるのがグラウンドです。日本一、広いんですよ」

「へぇー、前の高校にあったグラウンドとは比べものにならないな」


 虹霓学園。

 異能に関する教育機関としては一流に属する。

 校舎の造りから生徒の在り方まで、その名に恥じないものばかり。

 その一員になるということが、どういう意味を持つのか。

 うすらぼんやりとだが、わかってきた。

 身が引き締まる思いだ。


「にしても、随分と人目を引くな。まぁ、この格好じゃしようがないけど」


 ツアーをしていると、生徒の視線がよく刺さる。

 まぁ、学内に他校の学生服を着た奴がいれば嫌でも目立つか。

 明日からは同じになることだし、今日くらいは我慢しよう。


「理由はそれだけじゃないと思いますけどね」

「それだけじゃないって?」


 ほかにも何かあるのか?


「四季くんはもう有名人なんですよ。なにせ、たった一人で魔物から街を救ったんですから。その話題の人がうちに転校してくるって、学園内は持ちきりです」

「あぁ……なるほどな」


 良い意味でも悪い意味でも、注目の的か。

 今はこの他校の学生服が、バリアのような役目をしてくれている訳だ。

 近寄りがたく、話しかけづらい雰囲気を出してくれている。

 けれど、明日からはそのバリアもなくなってしまう。

 今から明日が憂鬱になってきた。


「さぁ、ここが他の学校でいう体育館――ここでの名を、訓練場です」


 敷地内を歩き回り、たどり着いたのは訓練場と呼ばれる施設だ。

 固く重い印象を抱かせる造りをしている巨大な建築物。

 俺の知る一般的な体育館を、より重厚にしたような印象を受けた。

 物々しい雰囲気を感じとる中、詩織はその扉へと手をかける。


「ほら、行きましょう」

「あぁ、いま行く」


 俺たちが訓練場へと入ると、そこでは教師陣が待ち受けていた。

 五人ほどの教師が、訓練場の中心部に立っている。

 彼らの雰囲気は、訓練場の外観よりも重苦しいものだった。


桜坂さくらざか先生、霧先四季くんを連れてきました」

「ご苦労、多文」


 五人のうちの一人。

 長い髪を一つ括りにした女性教師が対応した。

 ほかの教師陣は黙って俺を見ている。


「霧先四季くん。まずはスカウトに応じてくれたことに礼を言う。我々はキミを歓迎しよう」

「それは、どうも」


 とても歓迎していますって空気感じゃないけれど。


「しかし、それはそれとしてだ。我々教師には確認しておかなくてはならないことがある」

「それはいったい?」

「キミの実力さ」


 俺の実力を測りたい。

 この視線は、品定めのためのもの。


「もちろん、キミの活躍は我々の耳にも届いている。多文が目を付けたんだ、うちの生徒になる資格は十分にあるのだろう。だがね」


 女性教師――桜坂先生は続ける。


「我々はこの目でキミの実力を確かめたい、見極めたいのだよ。信頼しているが、確認はする。だから、キミにはここで戦ってもらう」


 俺という人間が、どれほどの戦力になるのか。

 それを測るために、転校前日であるこの日に俺を呼んだ。

 その教師陣の考えは、理解できる。

 メディアも、噂も、所詮は誰かが見聞きしたものに過ぎない。

 自分の目で見定めること以上に、確かなことなどありはしないんだ。


「わかりました」


 教師陣にこの剣術がどれほどの物か、測ってもらえるのなら重畳だ。

 そして、それに見合った役割を与えてもらおう。


「ところで、相手は誰なんですか? 先生ですか? それとも魔物?」


 冗談っぽくそう言ってみると、桜坂先生は小さく笑う。


「いいや、相手はキミの隣にいる者が務める」

「隣って――」

「そうです。私ですよ」


 そう言って、詩織は隣から歩き出し、俺の前に立った。


「スカウトしたのは私ですから、戦う相手も私なんです」

「なるほど、そう来たか」


 俺のことを一番よく調べているのは、他ならぬ詩織本人だ。

 そんな詩織が相手を務めると言うのなら、こちらも本腰を入れなければならない。

 こちらは詩織のことをあまり知らない。

 知っていることと言えば、異能で焔を灯していたことくらい。

 ということは、詩織は焔系統の異能ということになるのか。

 焔は、近接で戦うには厄介な相手だ。


「戦う前に、一つ教えておきますね」

「ん?」

「私の異能、空想テラーは、頭で思い描いたことを現実に反映させる能力です」


 そう言いながら、詩織は両手に異なる異能を顕現させる。

 右手に焔を、左手に風を。

 異能は一人につき一つだけ。

 同時に二つの異なる性質を持つ異能を得ることは叶わない。

 だが、目の前でそれは行われている。

 思い描いたことを現実にする能力。

 厄介どころの話じゃあないな。

 けれど、一つ疑問が残る。


「……どうしてそれを俺に?」


 自らの手の内を晒して、なんの特がある。


「だって、私だけが四季くんの手の内を知ってるなんて卑怯じゃないですか」


 焔と風を掻き消しながら、詩織は告げる。


殺人刀活人剣メイク・オア・ブレイク。斬る対象を選択できる刀剣の具現化。ですよね?」

「……あぁ」


 異能の発現と共に、国が定めた機関によって名付けられた。

 この刀剣で活かすも殺すも、造るも壊すも、俺の意思次第。

 故に、殺人刀活人剣メイク・オア・ブレイク


「正々堂々が私のモットーなので」


 正々堂々か。

 実質、異能を使い放題の詩織と、降って湧いた超人的な剣術を使う俺。

 こう並べてみると、お互いに無茶苦茶だ。

 本当に正々堂々に見えてくる。

 まぁ、本人がそう言うのであれば、俺から言うことはない。

 どうせ一度、聞いてしまったものは取り消せないんだ。

 正々堂々、戦うとしよう。


「二人とも準備はいいか? そろそろはじめてもらうぞ」


 そう言って、女性教師が配置につく。

 戦闘開始を告げるために。


「問題ありません」


 左手に刀を具現化し、腰に鞘を差す。

 右手を柄に掛ければ、それで準備は完了だ。

 いつでも戦える。


「私も大丈夫です」


 俺とは対照的に、詩織は特に準備らしいことはしない。

 手ぶらでいても、詩織の異能なら問題ないからだ。

 だからこそ、なにを仕掛けてくるか読めなくて厄介極まる。


「では、開始の合図を告げよう」


 女性教師は手を振り上げる。

 そして。


「――はじめ」


 その手は振り下ろされ、戦いの火蓋を切った。

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