表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きて。  作者: 雨空涼夏
1/2

死んで。

アイツだけは死んで欲しい。

こんな奴が何で生きてるんだろう。

価値のない生命を灯し続けるくらいなら、惜しまれつつ世を去った人達の寿命に充てればいいのに。


あなたは、こうして誰かの死を願った事はある?


子供は無邪気だ。罪の意識を抱かずに命を毟り取る事が出来る。

花を千切り、虫を潰し捕らえ、笑顔で人を迫害し死に追いやる。

だったら、私も誰かの生を奪っていい?

私もまだ成人していないから、立派な子供でしょう?


あなただって、一度はしたことがあるんでしょう?


私だって勿論あるわ。母に暴力を振るう父に何度死ねと言い放った事か。欲しいから奪う、意に沿わないから力で服従させる、人の野蛮な習性は現代でも古代でもちっとも変わってはいない。


だからかつての小さい私は。


無邪気だった頃の私は。


父に向かって刃を向けた。


「死んじゃえ。」と、舌足らずな声で、そう言った。




世の中に平等なんて無い。幸も不幸も、希望も絶望も酷く偏って分配される。だったら、少しくらい足掻いたって良いじゃない。


お母さんはいつだか私の肩を掴んで言った。


「もし何時かお母さんが居なくなっても、茜は生きて。」


その頃の私には、その言葉は理解できなかった。


―――刃物を取り落とし殴り返され、私の顔は痛みに歪んでいた。


「このクソガキがぁっ、誰が生んだと思ってるんだ!」


私を産んだのはお母さんだ。この人間の血を引いているなんて考えたくない。気道が押さえ付けられ、意識が朦朧とする。お母さんが必死に父の手を引き剥がそうとしているのが見えた。


ふと、鍵の閉まっていない家の戸が開いた。どたどたと靴を履いたまま、何人かの知らない人が上がってきて、お父さんを取り押さえ何かを両手に繋いだ。私を殺す手が離れ、喉が咳き込みながら空気を吸い込む。


「ごめんなさい、何も出来なくてごめんなさい……」


私の体をきつく抱きしめたお母さんが、耳元でそう呟き続けていた。


後から知ったことだけど、近所の人が通報したみたいで、父は家から居なくなった。

結局父とは別れ、家を出て母と二人で暮らすことになった。


それは私達が掴んだ、ほんの僅かな幸福な時間だった。

だけどあの時の恐怖は拭えない。やっぱりたまに思い出して私は口にするのだ。使っているシャープペンシルをくるくると回し、その先端を虚空に突きつけて。


「死んじゃえ。」


舌足らずではない、はっきりとした口調で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ