クロエ 舞踏会にて、断罪され、婚約を破棄される。
アレクサス御爺様の執務室を出ると、ヴェルが待っていた。 なんとも、云えない顔をしているのよ。 執務室の中にはさぁ、御爺様の許可が無いと入れないから、ヴェルには、私の考えは伝わっていないの。 それも、狙ってたよ。 だって、止められるもの。 この人、こう見えて、結構、強引な所あるものね。
だから、内緒にしたの。
そんな、ヴェルの佇まいに、頬が緩むの。 いつものヴェルだからね。 パッと見、堅い執事なんだけど、よく観察してると、表情豊かなんだよ。 驚いたり、悲しんだり、笑ったり…… ヴェル、私は貴方の笑顔が好きよ。 その笑顔、大事にしてね。
さて、帰るか。 戦場に。
アレクサス御爺様とお話をして、私の考えをお伝えした。 渋々、お認めに成られた。 現状考えられる、最善の方法だとね。 お爺ちゃんズの、” 計画 ” を、一番、被害が少ない状態で、達成できると、理解して頂けた。 ただ、あの目…… 悲しんで居られたね。 援護も、援軍も、救援も見込めない、戦場に単騎で向かわせざるを得ない、指揮官の目だね。
でもね、アレクサス様……
クロエは、漲ってますよ。 だって、やっと、爺様や父様と同じ位置に立てたのですから。 愛しい人達を護り切る為に、立ち塞がる敵に、超然と立ち向かえるのですよ。 シュバルツハントの名は、私にその勇気と、魂をくれるのですよ。 だから……
私の背中を見ていてください。
―――――
学院に戻って、普段の生活を続けるのよ。 今まで貰った課題を、精査して、抜けが無いか、もっといい方法が無かったかを検証したり、朝の鍛錬を頑張ったり。 たまに、許可を貰ってから、騎士科の自主訓練場に行って、思いっきり、護剣を振るったりね。
周囲の目も、気に成らなくなったよ。 だって、今、学院に残ってるのって、白龍系の人達しかいないもの。 他家の方々は、皆領地に帰ってたんだよ。 まるで、示し合わせた様にね。 まぁ、白龍系の人達でも、南方領域の担当の方々は、リュウコクに行ってるけどね。
現在、王都シンダイには、高位貴族は、白龍系の方々しか、居ないってわけよ。
当然、その方々の向ける視線は、氷点下並みの冷たさだわ。 クロエ、泣いちゃうかもね……普通なら。 「氷の令嬢」の微笑みで、返り討ちにしたけど。 事務官様とか、一般の職員の方とか、各寮でお仕事してる人達とかは、……遠巻きにしてたよ。 なんか、ゴメンねの視線でね。 いいのよ、高位貴族の方々に睨まれたら、お仕事、難しくなるしね。 判ってるよ。 ホンワカした、笑顔で応えといたよ。
そんでね、とうとう、その日が来たんだよ。 そう、ミハエル殿下主催の、「夏の大舞踏会」 の日がね。
―――――
朝からさ、鍛錬フルセットして、さぁ、着替えようかって思ってたら、お部屋にコンコンって、ノックの音がするのよ。 お客様の予定はなかったから、ヴェルが飛んで行ったよ。 でね、予想外の人が、扉の外で立ってたのよ。
アンナさん……
なんで、貴女が居るの? どうしたの? なんか、大変な事でも、あったの?
「クロエお嬢様。 舞踏会の準備に参りました。 エル達は、お嬢様の御意思の通り、お屋敷に残ってもらっています。 準備は、わたくしが行います。 どうぞ、宜しく」
私に向かって、バッチリとカーテシーを決めて来た。 ほえ? なんで?
「あろうことか…… 大旦那様に、懇願されました。 お嬢様の戦装束の準備を頼むと。 勿論、わたくしの意思で参りました。 誰にも、この役目は渡しません。 お嬢様の、戦装束は、わ・わたくしが……」
うん、判ったよ。 宜しくお願いします。 とびっきりの、私にしてね。
アンナさんの技術は、ミーナの大魔法より、凄かったよ。 お屋敷から、ドレスも持ってこられたよ。 新しいの。 ギリーガ服飾店が、間に合わせたんだって。
私にとっては―――― 最後のドレスかな。
瞳と同じ、紺碧から、黒と見まがう濃紺へのグラデーション。 デコルテは大きく開いていて、シンプルな筒袖がくっ付いてるの。 袖口に、白い折り返し。 真っ白な、シルクの手袋。 同じく、真っ白なストッキング。 お靴は、濃紺のツイードで覆われたハイヒール。
水浴びをしてから、新しい下着を付けて、お化粧してもらったの。 ちょっと、濃い目なんだけど、ミーナがする、お化粧と違って、グッと大人っぽくなったよ。 キツイ目付きはそのままだけど、なんか、いいよね。 あってるよ。 髪の編み込みだって、素敵に纏めてくれた。 耳に下がっているのは、ウラミル閣下と、奥様に頂いた、イヤリング。 月をモチーフにしたアレね。
で、ドレスを着たのよ。 流石は、ギリーガのおっちゃん。 凄いね、これ。 体にキッチリと吸い付くように纏える上に、全然、動きを阻害しないの…… ほんと、職人さんの技術に、唖然とするわ。 全部が整った。 頭の天辺から、足の爪先まで、シュバルツハント黒龍大公令嬢が、完成したよ。 もう、幼さが無い、成人の令嬢が、鏡の中に立ってたよ。
「御飾りは……如何しましょう」
「無くていいわ。 あれは、とても大切な物。 勿体ないもの、たかが、ミハエル殿下の舞踏会には」
「……そうですね。 ええ、その通りです。 お嬢様…… 出来ました」
「ありがとう、アンナさん。 とっても、素敵。 皆さんのお心遣い、痛み入ります。 お礼を……お願いします」
「お嬢様……」
何とも言えない顔をして、アンナさんが、近づいて来たのよ。 そっと、額にキスをされた。
「大事なお嬢様を、お一人にしてしまう、不甲斐なさに…… どうぞ、どうぞ、御身大切に」
「ありがとう。 アンナさん、エル達の事、宜しくお願いしますね。 何が有ろうとも」
ジッと見詰めるのよ。 アンナさん、瞳から、一粒大きな涙が零れ落ちたの。 でも、瞬きもせず、私を見詰めてるの。 うん、そうだね、こういう時は、笑うと良いのよね。 ニッコリとね。
その私の笑顔を見て、アンナさん、とうとう、壊れた。 手を顔に当てて、その隙間から嗚咽が漏れて来た。 ほら、女の人が泣くのを見るのは、苦手なのよ…… 困った。
ヴェルがね、そっと、私を促して、部屋を出たの。 彼女には、これ以上何も言う事は無いってね。 う~ん、そうか? 傍に居た方が良いんじゃないか?
「そう、思われるのであれば、無事に、帰ってきてください。 わたくしも、待っております」
「……そうね。 努力してみるわ」
ヴェルにも、同じ笑顔を向けたのよ。 なんか……顔が強張ってたよ、ヴェル。
―――――
ヴェルにさぁ、エスコートしてもらって、舞踏会の会場に向かうの。 今回の会場は、【カメリアの大広間】 王城ドラゴンズリーチの中で、一番大きな広間。 内外郭にあるのよ。 つまり、ヴェルは入れない。 いくら、近衛親衛隊のトップ集団だからって、任務でもない限り、内郭には入れない。 内外郭への扉の前で、ヴェルとはお別れ。
「お嬢さま、くれぐれも、お気を付けてください。 暗部の者が、幾人か、居ります。 何かあれば、いつでも出られます」
「ありがとう……でも、いいのよ。 舞踏会に参加するだけだもの」
「お嬢様……」
「行ってまいります」
私は、ヴェルに別れを告げて、内外郭への扉を抜けたよ。 よし、此処からは、一人。 単騎で敵中突破だね。 判ってるよ。 ココには、私への悪意しかないってね。 でも、それって、魔物の森でも同じ。 怖くも無ければ、恐れも無いよ。 歩みを進めて、【カメリアの大広間】へ続く階段の下に来た。
そう言えば、一番最初にこの階段を上った時、リヒター従兄様がエスコートしてくれたんだっけ…… あんまり、高くって、ビックリしたんだよね。 その階段を、一歩一歩、昇るのよ。 紅い絨毯が、私の足音を消してくれる。 高さのある、吹き抜けから、そっと、後ろを振り返るの。
思えば、遠くまで来たもんだね。 北の辺境の、更にその辺境。 ロブソン開拓村の薬師の娘が、王都ドラゴンズリーチの【カメリアの大広間】に、シュバルツハント黒龍大公家の娘として……
――― 来たんだ ―――
……ほんと、何かの冗談だと思いたいね。
自然と微笑みが零れ落ちたのが判った。 死戦を前に、根性坐ったよ。 爺様も、父様も、こんな気持ちだったのかな…… 多分そうだろうね。 何となくだけど、理解した。 そうよ、私だって、シュバルツハント黒龍大公家の娘だ。 死戦を前に取り乱したり、泣き出したりはしない。
己が矜持の全てを賭けて、
―――― 笑って、この戦を戦い抜くのさ ――――
視線を、前方に向ける。 さぁ! 大広間だ。 大勢の貴族の方々がいるね。 特別な許可でも出したのか、色んな爵位の方々がいるよ…… ミハエル殿下の横紙破り、こんな事もしたんだ…… 知らんぞ、序列意識が強い人、相当いるから、後からグチグチ言われるぞ…… まぁ、そこまでして、取り巻きを増やそうとしたんだよね……
一人じゃ、心細いから?
ちっせえ~ ちっせい男だ! 相手にとって、不足はありまくるけど、この際いいや。 ミハエル殿下、王族の一人で、次期国王陛下だもの……
侍従の人が、大声で、私の到着を大広間の中の人に伝えたの。
「クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント黒龍大公令嬢、御到着されました!」
うん、なんか注目浴びてるよね。 よし、此処は、「氷の令嬢」の出番だ! 冷たい笑顔を浮かべて、歩みを進めるの。 時間には、問題なく間に合ってるしね。 ほら、まだ、ミハエル殿下も、エリーゼ様も、グレモリー様も、その御姿を見せて無いもん。 全員が揃ってから、お出ましになるのね。
うはっ、完全に国王陛下、気取りだね。
更に、歩を前に進める。 うん、私の周り、真空地帯だ。 結構、人が居る筈なのに、誰も、私に近寄ってこない。 きっと、これから起こる事、知ってるか、なんか、感じてるんだろうね。
丁度、その時、ファンファーレが鳴ったのよ。
あ~~~ ミハエル殿下、完全に国王陛下のつもりだね。 至高の冠は、まだ、頂いてないよ、貴方。 奥の間から、ゆっくりと、ミハエル殿下が進み出て来た。 取り巻きも、御一緒だね。 あれ? あいつ等、此処に入る資格あったっけ? あぁ、大丈夫か…… 自身は子爵だけど、親御さんの爵位使ったか……
ガッツリ、カーテシー決めといたよ。 周囲も、同じようにしてる。
ほう、エリーゼ様、頭に、何乗っけてるの? ティアラ? それ、舞踏会で付けられるの、王妃様だけよ? ……そうか、もう、王妃様になったつもりなんだ。 そんで、蔑んだ視線を私に投げかけて来るのね。 いつも通りじゃん。 ええっと、グレモリー様は? なんか、目が死んでるよね。 ボディウス教皇猊下が、側に居られて、支えられてやっと来たって、感じ?
休ませてやりなよ…… 魔力をかなり、消耗したんだから…… 顔色、悪いじゃん。
てな感じで、眺めてたのよ、そいつらを。 ええっと、今、龍王国、王都シンダイ、王城ドラゴンズリーチに居る、最高位の人ってそう言えば……ミハエル殿下か…… だから、こんなに強気なんだよね。 うん、理解した。
さぁ、戦闘開始だ。 気を引き締めて行こう! 望み得る、最高の反応を待ってる。
**********
「今日は、我が名を冠する舞踏会に、参じてくれて、礼を言おう!」
ゆっくりと、睥睨するように、威厳を持とうと、ことさらにゆっくり喋ってるね。 まぁ、いいや。 そんで、私の方を見たのよ。
「楽しみにしていた舞踏会を始める前に、少し、時間を貰おう! 此処に、本来ならば、招待すべきでない者がいる。 敢えて、呼んだ。 そうだ、お前だ、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント! 何故、呼ばれたか、判るであろう!」
ええっと、これは、発言を促しているのか? ハッキリしない奴だね。 いいや、言っちゃえ!
「ミハエル殿下、お話になっている事は、判りかねます」
なんか、一気に、顔を赤くしよったよ。 怒ってるんだって、全身で言ってるね。 冷静に成ろうとしているのは判る。 でも、失敗しとるよ。 王族として、感情を出し過ぎるのは良く無いよ? 揚げ足取られるよ?
「お前は、グレモリーの私物を隠し、壊した。 証人からの報告もあった。 先日も、注意したな!」
「御言葉ですが、その期間、わたくしは、王都シンダイにはおりませんでした。 距離的に申し上げても、学院内で、何かしようとしても、無理で御座います」
「誰かに頼んでやらしたのであろう!!」
「わたくしの姿を、認められたと、先ほど仰いました。 よって、わたくしでは、御座いません」
自分の言った事の整合性が取れて無いよ。 もうちょっと、考えてから、喋ろうよ。
「ぐぬ、しかし、お前は、グレモリーを直接害した!! 私が見たのだ!! 間違いはない!!」
「……法務官様が幾人か見えられて、その時の状況をお調べになりました。 わたくしは、なにも、しておりません」
「そうやって、いつも、言い逃れをする! 心底、心根の卑しい女だ!! もうよい! 話は、聞かぬ!! 言い渡す事がある!」
そう言って、一枚の誓紙をミハエル殿下は取り出した。 あぁ……あれ……婚約式の時の奴だ……
やっぱりね。 そうすると思ったよ。 さぁ、来い、その言葉、待ってたぞ!!
「我、ミハエル=ハンダイは、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントとの婚約を破棄する! 王命として、命ずる!!」
あぁ……言っちゃったよ。 ” 王命として ” だって。 貴方は、まだ、至高の階に上って無いって! そうミハエル殿下は、言ってから、持った婚約誓紙を、【 火炎 】魔法で、燃やしたのよ。 これで、婚約は破棄された…… うん、想定内。
「更に、お前には、我が寵愛を望む、その卑しい心根から、グレモリーを害したという罪がある!」
「お待ちください。 婚約の破棄は、受け入れましょう。 が、ミハエル殿下の寵愛を望むとは? 今まで、一度も、そのような事は、望んだ覚えは、御座いません。 また、婚約に関しましても、王家、王太后様から是非にとの、思し召しで、わたくしの意思では、御座いませんでした」
「なっ!」
低く、冷静な、私の声に、ミハエル殿下は、更に怒りを募らせたのだろうね。 眼に力がこもってるよ。 取り巻き達も、怒りをあらわにしてる。 お前ら…… 仮にも、殿下の側近だろ? そんな、感情出して、いいのかよ。 おや、ボディウス教皇猊下が、進み出て来たよ……
「ミハエル陛下、こ奴は、ミルブールと、ハンダイ龍王国、双方にとって、有害で御座います。 英断を持って、苛烈な処罰を願い奉ります。 その決断は、我が神の御心に叶い、陛下の更なる栄達をお約束する物になりましょうぞ!」
よし、目論見通り!! この馬鹿、本当に言いやがったよ。 私の排除目的が、はっきりしたよ。 私が目障りで、目障りで、仕方ないんだよ。 理由? そりゃ、奴のやる事、ことごとく、ぶっ潰してるからね。 さぁ、ミハエル殿下、この馬鹿に、” 陛下 ” って、煽てられて、その気になってる今だよ。 決定的な 「 言葉 」 を吐くのは!!
「そうだな、ボディウス教皇猊下。 ハンダイ龍王国と、ミルブール王国の間に、楔を打たんとする、この国賊に相応しい、罰を与えるとしよう! 勅命により、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント、貴様を磔刑に処す! 衛兵! 地下の土牢に連れて行け!!」
よっしゃ!! 来た!! この言葉、待っていた! 思わず、笑みが零れそうになったよ。 その言葉、もう、戻せないぞ。
「ミハエル殿下。 もう一度、言います。 わたくしは、何もしておりません」
「罪人の戯言を、聞く耳は無い。 連れて行け!! この勅命は、即時発令だ!! 明朝、処刑は実行する。 それまで、土牢の中で、せいぜい怯えるがよい!!」
私を、衛兵さんが捕らえようとする。 若干申し訳なさそう。 あれ? エリーゼ様、顔色が悪いよ? あれ、彼女、私を処刑するって思ってなかったの? 相変わらず、想定が甘いね。 取り敢えず、この場から居なくなれって、思ってたのかな? はぁ…… ダメだ、この人達。
衛兵さんが、手を伸ばし、私を捕まえようとするから、言っちゃったよ。 こんな綺麗なドレスを、触られたくないもんな!
「触らないで下さいませ。 地下の土牢で御座いますか…… 場所ならば、存じております。 先導してくだされば、それで結構です。 それでは、殿下、お暇申し上げます。 ごきげんよう!」
**********
衛兵さんに連れられて、ドラゴンズリーチの地下にある、土牢まで、案内されたのよ。 厳重に鍵が掛けられ、防御魔方陣が作動するの。 普通なら、此れで、ココから出られなくなるよね。 そんで、ココって、国事犯の重犯罪人が入れられる、牢屋なのよ。
初めて見たけど、明り取りも、何も無くてね。 暗くて、ジメジメしてるのよ。 ふぅ…… 煽ってやったら、見事に嵌った。 さて…… ” 仕掛け ” は、ちゃんと動いてくれるかな? 明日の朝には、磔刑が待ってるし。
ちょっと、疲れたよ。 馬鹿の相手するの。 剥き出しの地面に座るのは、ちょっと嫌かも。 だって、このドレス、すんごく、素敵なんだよ。 アンナさん渾身のドレスアップなんだよ? 汚したくないじゃん。
でね、暫く、突っ立ってたら、どっからともなく、足音がしたのよ。 この、足音はね、聞き覚えがあるの。 毎日、聞いてたから。 ヴェルだね。 ほら、やっぱり来たよ。
「お嬢様! もはや、此れまでです。 さぁ、脱出を!! 行く手を阻む者が居れば、”手”が排除致します!」
ゆっくりと、そう、ゆっくりと、首を振るの。 横にね。
「ヴェル…… 気持ちは嬉しいわ。 でも、今は動けないのよ。 「 役割 」が、あるの」
「お嬢様!!」
「ヴェル、今まで、ありがとう。 クロエの護衛は大変だったでしょ。 お疲れ様。 ココからは、私だけで行きます。 私だけの戦いなのです。 理解してほしいとは、言いません。 「 命令 」です。 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントから、貴方に対する、最後の命令です。 私を残し、黒龍家の全ての者を、一時、お屋敷に、退却させなさい。 アレクサス御爺様も、ご存知です。 願わくば、朝まで、私を一人にしておいて下さい。 宜しいですね」
「お嬢様!!」
「宜しいですね」
私の意思の強さを、ヴェルは知ってる。 一旦、言い出したら、なにが有っても、聞かない。 全ては、明日に掛かっている。 その為の準備も、整えた。 一撃で、全てを終わらせるためにね。 鷹の目で、ヴェルを見る。 強く、強く。
「……い、一旦引きます」
「それで、いいわ。 ヴェル。 ありがとう」
影の様に、ヴェルの姿は無くなった。 さぁ、一人きりだと思ったところに、又しても、足音。 今度は、誰だ? ヴェル、鉢合わせしなかったのか? あぁ、衣擦れの音がする。 ……まぁ、予測はしてたけどね。
「クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント。 お前の命も、明日の朝までだ」
重々しく、そう告げるのは、ミルブール国教会、最高指導者、ボディウス教皇猊下。 反射的に睨みつけちゃったよ。 もう、こんな時にやって来るなんてね。 まぁ、来た目的は、想像つくけどね。
「お前のせいで、我が計画が狂ってしまった…… まぁ、いい、これから、もう一度…… 今度は、あの王子を使える。 問題は無い。 私の側に居れば、命は助けてやることが出来る。どうだ、私に命乞いをしないか? …………ほう、よく見れば、なかなかの美形。 キツイ目付きも…… そそられるな。 お前が命乞いをし、我の前に全てを投げ出す時は、存分に可愛がってやろうか。 クックック……」
「下種に媚びるよりは、不名誉な死を選びます。 去りなさい。 妖魔精霊に魅入られし者よ」
「ほう、言ってくれる。 その強がりも、何時まで持つかな? 明日の朝、処刑台まで、持つかな? 箱入りの娘が、色々としてくれたものだ…… そうか、精々強がるがよい。 処刑台でお前の心変わりを待つことにしよう……ククックック」
クッソ気持ちの悪い!!! あの野郎、舌なめずりしながら、出て行きやがったよ。 馬鹿にするな! お前なんかに、お前なんかに、 髪一本でもやるものか!! よし、最後の、仕掛けを始めるぞ。 もう、時間はあんまり残されて居ない。 極力急ごう!
見てろよ!
野望やら、
邪な思いやら、
嫉妬やら、
汚い計画やら、
私の、「 誇りと矜持 」で、
全て、粉砕してやる。
まとめてな!!
ブックマーク、感想、評価、誠に有難うございます。
中の人、本当に勇気づけられました。
感謝の念で一杯です。
―――――
ついにやって来た、婚約破棄イベント。 長い道のりでした。
色々な仕掛けが、やっと、到達点にやってきました。
罠を喰い破るクロエを、ご期待ください。
また、明晩、お逢いしましょう!!




