クロエ 【精霊際】で、フランツの無事を祈る
学院の中庭で、お茶してたのよ。 だってね、マリーも、アスカーナも、マーガレットも、みんな領地に帰っちゃって、居ないもんね 。 ビジュリーは、この時期あっちこっちのお貴族様に呼ばれてて、ものっそう、忙しいのが、恒例。 でもね、お茶してたら、めっちゃいい顔の、ビジュリーが、来たんだよ。
あれ? もう、呼び出しで、忙しいんじゃないの?
でね、ビジュリーにも聴いてみたんだ、手元の茶器でお茶入れて、彼女に渡してた時に。
「ビジュリー様は、【精霊祭】の日、どうされますの?」
「わたしはぁ、いつもみたいにぃ…… いろんな、お屋敷にぃ、呼ばれているのよぉ…… でもねぇ、おかしいのよぉ…… ほらぁ、何時もだったらぁ、王都シンダイのぉ、お屋敷にぃ、御呼ばれするのだけどぉ、今年はぁ、いろんなぁ、領地を巡る事にぃなったのよぉ…… 【精霊祭】のぉ、 日はねぇ……青龍大公様のぉ、御領地のぉ、お屋敷なんだよぉ…… 遠いよねぇ…… その後ねぇ……青龍大公様のぉ、御領地をねぇ、回るんだってぇ……御兄さまがぁ、そう言ってたのぉ」
ほう、ビジュリーも、【婚約式】の事を知らされずに、連れて行かれるのかぁ…… ガンバレ! 精一杯、祝福してあげてね。 きっと、壮大な事になっちゃうんじゃないかなぁ…… 精霊様溢れるこの時期に、楽聖の全力…… もうね、光の羽根が、降り注ぎそうだね……
見たい! 聞きたい!! 参加したい!!!
はぁ……、 ダメだろうねぇ…… おねだりした所で、私まで行ったら、目立っちゃうもんね。 仕方ないよね…… はぁ……
「それでは、一両日中には?」
「そうよぉ…… 早いけれど……明日には、出発なのよぉ…… もう、たいへんなのぉ……」
ちっとも、大変そうに見えないよ。 そんなに忙しいなら、なんで、中庭でお茶してんだ? ほれ、行った行った!
「えぇ~、 だってぇ、また、暫くぅ、クロエ様の顔ぉ、見れなくなっちゃうんだよぉ~。 心の中をぉ、クロエ様のぉ、笑顔でぇ、一杯にしとかないとぉ~」
なんだ、この可愛い生き物は! あぁ~もう! ほれ、お茶だ。 ほれ、お菓子だ。 たんと喰え、たんと飲め。 そんで、微睡め! あぁぁ! 私、友達に、恵まれてるよ!! ブラッディ振り出して、ポロンポロン爪弾いたよ。 ビジュリー、めっちゃいい顔で、
……寝とるね。
まぁ、そんなこんなで、彼女は旅立って行ったよ。 名残惜しそうにしてたんだけどさぁ。 でも、あっちで、とても素敵な事が有るんだからさぁ、そんな顔しないで、行ってらっしゃい! お話、聞かせてね!
チクッ
まただよ…… 何だコレ? もう、なんで、水差すような、痛みが胸に走るんだ? 良く判んないよね。 でも……これで、大事な友達は、みんな、王都シンダイから旅立って行ったよ。 【精霊祭】での、王家の振る舞いが、どんな事態を引き起こすか判ったもんじゃないし、成り行きだけど、良かったよ。
そんで、私は、それを、阻止するんだ。 王都シンダイに住む、龍王国の民の祈りを、精霊様達に届けられるようにね!
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さぁ、【精霊祭】だ! 当然、王家主催の【精霊祭】には、行かない。 出席する意味、ないもんね。 そんで、今年は、ちょっと変わったことするの。
エルと、ラージェと、ミーナが一緒に居たのよ。 そんで、ヴェルも。 場所はねえ、街区の外れにある、小さな精霊教会。 まぁ、小さな教会なのよ。 聖職者一人と、修道女さん三人のね。 でもね、此処、沢山の孤児を抱えてる、孤児院が有るのよ。 小さい子を中心に三十三人もいるの。 ちょっと、無理しすぎじゃないかな?
「クロエ様が、色々と御力を貸してくださいましたので、皆、健康にすくすく育っておりますよ」
聖職者のおっちゃん、ニコニコ笑っていたんだ。 この人、ホントに子供が好きでね。 他の孤児院で問題起こした子達まで、引き受けちゃうんだよ。 で、この、ニコニコ笑顔で、その子達が安心するのかね……ここに来たとたん、問題行動、起こしてた子達が、大人しくなっちゃうんだよ。 いや、凄いよ、ほんと。
だから、ちょくちょく、見に来てたのね。 孤児の子達も、なんか、私には懐いてくれてて…… ほら、今年は、フランツ殿下の喪に服するって事で、盛大なお祭りがないから、詰まんなそうにしてたし…… お肉とか、果物とか、お野菜とか、飲み物とかをドッサリもって、来たのよ。
ほら、楽しみにしてる、お祭りなんだよ。 特に子供達に取っては。 つらい毎日を送って、それでも、頑張ってるんだよ? だから、私がちょっとした、楽しみをね、作るの。 教会について、荷物を出して、みんなでワイワイ言いながら、御馳走を作るの。
修道女さん達、なんか、目を真っ赤にして、喜んでたね。 まぁ、手を動かせ、手を! 御祈りの時間まで、そんなにないぞ!!
「クロエお姉ちゃん! あの人、お姉ちゃんの恋人?」
小さい女の子が、ヴェルを指さして、私にそう聞いて来た。 こら! 人を指さしてはいけません!!
「違いますよ? ヴェルは、私を護ってくれている、大切な友人なの。 優しくしてあげてね」
「なんだ! そうか! よかった! だって、【精霊祭】の日って、恋人とお祈りするんだって、兄ちゃんが言ってたから! お祈りしたら、恋人同士しか見えなくなって、どっかに行っちゃうって。 わたし、お姉ちゃんと、御馳走食べたいもん!!」
あぁ……お兄ちゃんとやら、やんわりと、小さい子に男女のホニャララ、伝えたんだ…… チッ、要らん事を。 ええ、居ませんよ! 心に決めた人とか、隣に立ってくれる男性とか!! ええ、自分の事しか考えない、龍王国の民に見向きもしない、ボンクラが婚約者ですからね!!
そうなんだよね……【精霊祭】の日って、まさしくもって、その通りの日なんだよね、本来は。 日々の安寧を感謝して精霊様にお祈りを捧げる……のは、建前。 まぁ、恋人たちの日でもあるのよね。 だから、庶民のお祭りって言われるのよ。 村でも、この時期、結婚を決める人たち、多かったもの。 心に決めた相手に、気持ちを伝えて……
なんか、顔、熱くなって来たよ。
心に決めた人……かぁ。 私だったら、誰だろう…… アルフレッド様? 違うよね。 それに、もう、ご結婚されて居るし。 イヴァン様? 従兄様だよ? 無いっしょ、それに、奥様から、怖~い目で見られそうだし。 だれか、思い出の中の家族以外で、私を、私を、私として、見てくれた人……居なかったかな~。
大体の御馳走が出来て、孤児院の中の大きなテーブルの上に、並べてたのよ。 そんで、一応、身形を整えて、お祈りを捧げに、教会の聖堂にはいったの。 入る前、扉の処でね、うっすらと、どんちゃん騒ぎの音が聞こえたのよ。 そういや、安宿 兼 酒場が、近くにあったなぁ……って、思い出したのね。
流れて来る、音楽がさぁ…… 「魔法弾の射手」 なんだよね。 へぇ……まだ、あの曲って流行ってるんだ。 酒場で演奏されるくらいに、人気はあるんだねぇ。 ふーん、そうなんだ。 でね、扉を押し開けた時に、風に乗って聞こえて来た調べ……
頭の中で、笛の音が重なったのよ……
そうだね、一人いたよ。
私を、私として、見てくれた人が。
フランツ殿下
” 下女のクロエ ”って、気が付いていない、殿下に、翡翠の指輪を渡したっけ。 それで、今も、殿下が生きているって、判るんだけどね。 あの時は、ただ、護りたかったから。 名前を書き加えて、渡したんだった。 でもね、ほら、ちょこっとだけ、私の気持ちも入れたんだった。
だって……
王家の中で、あなただけが、私を見てくれたもの…… 誰の影もささない、誰の顔も思い浮かべず、只 私を、 ” クロエ ” をね。
思い出したわ。 ほんと、唐突にね。 この気持ち……なんて、云えばいいんだろう。 飛び出して良ければ、今すぐにだって、探しに行きたい。 私の偽らない気持ち。 でも……役割を全うしないと、龍王国の民の安寧が破られる。 今は……行けない。
だから……祈るの。 彼に……フランツ殿下の安寧と平穏をね。
教会の聖堂で、一心に祈るの。 龍王国を守護してくれて居る、精霊様に、” 日々の安寧を授かりしこと、感謝いたします ” ってね。 そんで、今年は、ちょこっと、付け加えたのよ。 ” 願わくば、フランツ殿下の安寧と平穏、御守下さい ” ってね。 うん、お願いしちゃったよ。 祈り、祭る、この【 精霊祭 】でね。
ふんわりとした、光が聖堂に満ちたの。 温かくて、包み込むような光。 教会の聖職者のおっちゃんも、ビックリしとったね。 精霊様の顕現、見た事無かったんかい? でね、ふんわりとした、光が濃く輝いてね、渦巻くように、私の上で集まって……開け放たれた、聖堂の天窓から、物凄い勢いで、お空に帰って行ったのよ。
⦅願い、聞き届けたり⦆
精霊様の御声が、頭の中で響くの。 感謝しかなかったよ。 深く膝が折れた。 胸の前で、手を組んで、光の束が消えて行った、天窓を見詰めて……
⦅どうか、どうか、彼に祈りを⦆
って、聖句唱えてた。 うん、半分以上無意識。 いや、ちょっと待て。 コレって、戦場に赴いた、相方に捧げる祈りじゃねぇの? えっ、わたし……そんなに、想っていたの? なに、えっ? ど、どうしよう!
頭をね、撫でるそんな感じがしたのよ。 あぁ……多分、これ、精霊様の御手だ…… 願いを聞き届けて下さったんだ…… なんか……そうだよね。 うん……私を、私として、見てくれた人の安寧と平穏を祈るのは……あ、当たり前だよね。
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私たちの【精霊祭】は、恙なく終わったよ。 まぁ、聖職者のおっちゃんと、修道女さん達は、ものっそう、感激しとったけどね。 こんな小さな教会に、精霊様が具現化した、これは、凄い事だ!!ってね。 でもさぁ、そんな事無いよ? 子供達を慈しんで、優しく、逞しく、導いているんだもの。 加護が与えられて当り前よね。 たまたま、私がいて、具現化しただけだもん。 常に、優しさと慈悲の目は、掛けられてるって!
そんで、その後は、みんなで作った御馳走を、みんなで食べたのよ。 ワイワイ、ガヤガヤね。 なんか、ロブソン開拓村のお祭り、思い出しちゃったよ。 始終ニッコニコの私に、エル達が、微笑んでくれてた。 みんなも、楽しんでくれてるんでしょ? だったら、いいなぁ……
あんまり、遅くまで居ると、教会のみんなに迷惑だから、帰ったのよ。 勿論、学院にね。 だって、いま、黒龍のお屋敷、ほぼ、もぬけの殻よ。 でね、お暇しようとしたら、小さい女の子が、泣くのよ。 一緒に寝ましょう! って。 あははは! 懐かれたなぁ! なに、私の体から ” お肉 ” の匂いでもするの? 違うの?
「クロエお姉ちゃん……ママの匂いがするの……」
なんだって! 私、そんな、柔らかな匂いがするのか!! それに、なんだ、この可愛い小さい生き物は!! 上目遣いで、ポツポツと口に出す、その表情! あぁぁぁぁ!!! こうしてくれる!!
ぎゅ~~~って、その子を抱き締めたの。 うん、子供の頃、夜に寂しくなって、どうしようも無く不安になった時に、母様がしてくれたようにね。 暫く、そうしてたら……泣き止んだ。 その顔をジッと見てから、ニカッ って、笑って、言ったのよ。
「貴女の母様の匂いですか。 どうでした? 母様に抱き締められた感じがしましたか?」
「うん……あ、…………ありがとう」
「どういたしまして。 また、来ますから。 その時また、ぎゅ~ってして差し上げます」
「ありがとう!」
満面の笑みを浮かべた、その女の子。 とってもいい笑顔だった。 で、教会を後にして、学院への道を戻ったのよ。
――――――
月が出てた。
大通りからは、四人乗りの馬車に乗る。 その間は、エル達と一緒に歩くのよ。 仰ぎ見る夜空に、幾筋も光の帯が立ち上るのが見えた。 祈りは……届いてるね。
「ずっと…… このままで、居たいです」
エルが、何気にぽろっと、そう言ったの。 頷いてるのはラージェ、ミーナ。 なんだよ、君たちは。 知らんようだけど、君たちは、私じゃ無く、マリーの身辺を固める重職に就くんだよ? ちょっと、不審げに彼女達を見てたら、ヴェルが、こっそり耳打ちしてくれたのよ。
「エル達は、クロエ様にお仕えしたくて、研鑽しております。 祈りも、貴女に捧げておりました」
えっ!? そうなの? ……いや、ほら、嬉しいんだけど、ちょっと、困るね。 ……そっか……だから、この頃、私の側を離れたがらないのって。 お手伝いに行くときに、あんなに残念そうな顔してたのも、理解出来たよ。
大通りで、馬車に乗って、パッカポッコ、学院に戻るのよ。 夜風が気持ちイイね。 みんな、ありがとう。 楽しい、【精霊祭】だったね。
**********
街の教会で行った、【精霊祭】を終えて、学院に帰り着いたのは、もう深夜といってよい時間だったよ。 水浴びして、着替えて、さぁ眠ろうかって、想っていた時、扉をノックする音が聞こえたの。 ヴェルが扉の所で、なにやら、お話し中。
” おねがいします ”
とか、
” どうしても ”
とか、
” 時間が無いのです ”
何だろう、って思ってさ、ヴェルの後ろに立ったの。 私の顔を見つけた、来訪者は、ヴェルをすり抜けようとしたんだけど、あっけなく首根っこ捕まえられてたよ。 守護騎士なんだよ、ヴェル。 抜ける訳じゃ無いじゃん!
「どうしたのです?」
「クロエ様! 一大事なのです!!」
あぁ……わかった。 この目立たない、地味な女生徒が誰か…… でも、貴女は、まだ、晩餐会に居る筈なんじゃ無いのかな? 国王陛下とか、ミハエル殿下が、よく離してくれたもんだねぇ。
それにしても、【 モーフ 】の掛け方が雑だよ?
ねぇ、グレモリー様。
ブックマーク 感想、 評価 有難うございましす。
物語の展開が早くなってきています。
今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。
それでは、明晩、また、お逢いしましょう!!




