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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
この ” 矜持 ” に賭けて
92/111

クロエ 人事局からのお仕事を遂行する よん

 


 学院に帰る前にさ、黒龍のお屋敷に寄ったのよ。 うん、ソフィア様にお土産もあるしね。  街区まちでね、とっても可愛い、毛糸が有ったのよ。 そんでね、いま、ソフィア様、一生懸命生まれて来る、赤ちゃんに、編み物してるのよ。 それに使ってくれたら、嬉しいなぁって、買ったの。 まぁ、黒龍のお屋敷に寄った、本当の目的は、アレクサス御爺様とお話する事だけどね。


 黒龍のお屋敷に、” クリーク ” 預けて、お世話お願いしたの。 馬丁さん、” クリーク ” みて、ほれぼれしてたよ。 判るよ、その気持ち。 丁寧にお願いしといた。 そんで、ちょっとした、旅の汚れを落として、新しい部屋着に着替えてから、ソフィア様に、お土産、渡したのよ。




「クロエから、この子に、初めての贈り物になりますわね。 とっても嬉しいわ」


「ソフィア様…… 色々と悩んだのですが、ソフィア様と、赤ちゃんにと、思いまして」


「判っています。 ありがとう。 大切に、使わせて貰いますわね」




 喜んでもらえたよ。 良かった…… リヒター様もいらしてね、そんで、お喜びを申し上げたの。 なんか、ニヨニヨして、締まりなかった…… 父様、思い出しちゃったよ。 でね、アレクトール医務官様に、聞いてから、イヴァン様の処にも、お見舞いに行ったのよ。 


 医務室で、ベットに座ってらした。 あ~~~、奥様が一緒だぁ。 ご挨拶しといた。 イヴァン様がなんか、照れてらっしゃる。 ん? なんでだ?




「いや、あのな……そのな……助けて貰った時の事……思い出しちまった」




 ま、まぁね。 そ、そうだね。 今と同じ位の背丈だったし…… う、うわぁぁぁ……私もなんか、思い出しちゃったよ。 そ、そうだよね…… あんとき……ぜ……ぜん……全裸だったし…… よし、知らんふりだ! 全力で、知らんふりしとこう!!




「イヴァン様、お加減如何でしょうか? クロエ、とても心配しておりました」


「う、うん……まぁ、大丈夫だ。 母上とも、話していたのだが、精霊祭までには、立ち上がれると思う」


「そうですか……よかった。 早く、元気になって、また、遠乗り致しましょうね」


「あぁ……そうだね。 クロエ……迎えに来てくれて。 ありがとう。 心配かけた」


「どういたしまして。 家族ですもの」




 う、うん、なんとか、誤魔化せたよね。 大丈夫だよね。 イヴァン様から、襲撃時のお話伺いたかったんだけど……まだ、無理そうね。 アレクサス御爺様から、聞こう。 そんでね、まぁ…… こっちから行くのもなんだから、夜を待つことにしたのよ。 晩御飯頂いて、お部屋に戻っとくの。 途中、廊下で、マリオに逢った。




「……ヴェルが色々と……申し訳ございません。 わたくしからも……」


「マリオ。 大変助かっていますよ。 怒りに我を忘れた時……感情が走り出してしまった時……ヴェルが居てくれて、本当に助かりました。 マリオの薫陶のお陰ですね。 マリオ……ありがとう」


「……恐縮に御座います」




 なんか、騎士の礼されてるよ私……だから、答えといた。 騎士の答礼でね。 あははは……何だコレ? 顔見合わせて、ちょっと、笑いあったよ。 うん、そうだね、マリオも家族の一員だよ!






―――――






 深夜。



 ベッドの上で、横になりながら、龍王国の地図見てたの。 中央に位置する、王都シンダイ。 北東に位置する、アレーガスの森と、人工湖 ” ペシェ ”。 さらに、そのずっと先に有るのが、カガーンの砦。 で、そのずっと北東側にある、国境近くの森が……襲撃事件のあった森。


 こう見ると、一直線に並んでるんだよね。 でね、その線をずっと伸ばすと、ミルブール王国の王都ブルーパレスが有ったりするんだ。 なんだ、この符号。 


 龍王国に、干渉する為に、やって来た、ミルブール国教会の奴らが、偶然見つけた、アレーガスの森の、奥深くにあったグノームの集落。 奴等の手先として使う為に、グノーム達を捕まえて、操り人形にする為の拠点にしたと…… 辻褄はあうよね。 


 アレーガスの森は、王都に程近い。 操り人形にした、グノーム達を留めて置けるしね……。 二、三年前から仕掛けて来てるって、考えられるしね。 土地勘も無いから、こんな直線的な、配置に成ったって、考える事も出来るよね……


 なんか、ぐるぐる思考が回る。 でもね、ミルブール王国の内情が読めないんだ。 騎士さん達の噂話を総合すると、国境に最低二個師団くらいの兵力は存在するんだけど…… なんか、実戦部隊じゃないみたいだし…… 装備はバラバラ、編成は軽騎兵……




 なんだろう……変な感じ。




 ボンヤリと、天井を見ながら、そんな事を考えてた。 もう、オヤスミの準備もしちゃったし……寝ようかなぁ……




 ―――――




     コン  コン    コンコン




 密やかな、ノックの音。 アレクサス御爺様だね、きっと。 ちょっと、微睡んでた。 って、今、何時くらいだろうね。 お屋敷全体が、 ” しん ” って、静まり返ってるよ。 もう、” 淑女 ” の部屋に訪問する時間じゃ無いよね。


 でも、まぁ、此処に来た目的の人が、尋ねてくれたんだから、扉は開けますよ。 はい、どうぞ。 ようこそ、深夜のクロエのお部屋に!




「……いや、すまん。 こんな遅くに……寝て居ったな。 その姿」


「ええ、アレクサス御爺様。 このような、姿で、申し訳ございません。 どうぞ、此方へ」




 リビングに、アレクサス御爺様を招き入れたの。 お茶の用意をしている私を、御爺様は見ようとはしないのね。 うん、紳士的。 だってね、私、薄物の上に、一枚羽織っただけなんだもん。 でね、下着はパンツだけ…… だって、もう、寝ようと思ってたんだもん。 めっちゃ薄着なのは、ほら、こないだ、壁、切っちゃったじゃない。 あれ、まだ、補修できてないから、外に向かって、窓、開けられないよ。 




    暑いのよ……ホントに。




 まぁね、本来ならちゃんと着替えてお迎えするのが筋だけど、ちょっと、怒ってたのよ。 なんで、こんな深夜に来るんだって。 そちらが、礼法、無視なら、私も、存分にさせて貰おうと思ってね。 ちょっと、やり過ぎだったかしら? まぁ、刺激強いよね…… 本来ならね。




     御爺様は私の本性知ってるし、まず、問題はないよね。




「夜遊びに行って居った。 至急報が色々と届いておった物でな」


「左様で御座いますか……明日でも、宜しかったのでは?」


「明日には、帰るのだろう? それでは、遅いのだよ。 クロエ、この度も、やりおったな。 飲料水を管轄する部署の者達から、至急報があった。 『 ”ペシェ” 満水となる。 』 此の報を聞いた者達が、歓喜しておった」


「……行きがかり上、やむを得ない、状況に陥りました」


「それは、ヴェルから聴いた。 魔物と契約を結ぶとはな……」


「アレクサス御爺様、魔物では御座いません、妖精です。 外見は、かなり…………ですが。 半魔物デミではありますが、わたくしにとっては、あの者達は、妖精です」


「うむ……それは、それで……凄まじい事だがな」


「時の運と云う物でしょうか……幸運でした。 お願いが一つ」


「手は回した。 すでに、彼の地は、禁足地として指定する準備にはいっておる」


「流石は、御爺様」




 あぁ、やっぱり、そうするよね。 水源地護るんだったら、禁足地指定が一番手っ取り早いもんね。 ほんと、行動が早いよ。 グノームと結んだ契約も、なんか、承認してもらったみたいだし…… まぁ、王都シンダイ全域の水問題の為なら、多少の事は目を瞑るよね。 ウンウン…… だよね。


 でもね、これから先は、ちょっと読めないの。 あの五人の導師の事。 此れだけは、伝えなきゃね。




「グノーム達を使役しようとしていた者達ですが、あの者達は、ミ……」


「ミルブール国教会のものじゃろ? 森の端の砦からの照会で、ミルブールの公使が慌てて居ったと聞く。 言い逃れできぬでな。 幸い、クロエの配慮で、迷い込んで魔物にやられたように見せかけられるがの。 これで、動きが止まればよいが……」




 やっぱり、なんか、特別な連絡手段と人脈もっとんな、御爺様。 まぁ、そうだよね。 古狸だもんね。 だから、” 夜遊び ” に行ってたんだ。 ……食えん人達だよ、まったく。 じゃぁ、取り敢えず、私からの報告は終わり。 あと、なんかあるかな……




「クロエ、学院に戻ったら、気を抜くでないぞ」


「はぁ……何からでしょうか?」


「お前の婚約者殿だ」


「……」




 なにか、仕掛けるつもりかなぁ…… なんだろうね。 単純馬鹿だから、込み入った策を弄する事は、出来ないだろうけど…… あぁ…… 取り巻きと…… エリーゼ様か……




「何やら、企んでおるようだ。 学院の中の事は、良く見えん。 エル達も嗅ぎまわって居るが、いかんせん、上位貴族共の更に上位に位置する者達だ……漏れ聞く事もなかなかとな」


「気を引き締めます」


「うん、それが良かろう。 その成りで言われても、信用は出来んがな、ははっ!」


「嫌ですわ、御爺様ったら~~」




 ちょっと、” シナ ” 作っといた。 フフ、こんな事も出来る様な体型になったんだよ。 




        どうだ、じじい!!




「クロエ、判っておろうが、そういう事は、学院では、禁ずるぞ。 まだ早い。」




 急に真面目な顔するのよ。 判ってるわよ!! どうせ、無理してるって、判ってらっしゃるのよね。 だって、ほら、今、私、顔、真っ赤だもん。 もう! いきなり、恥ずかしくなったよ!!




「はい」




 素直に頷いておいた。 し慣れない事は、しない方がいいよね。 ゴメンナサイ。




「明日も、早いのであろう、じじいは、帰るぞ。 ……気を付けるのじゃぞ」


「はい、有難うございます」




 ふぅ……大タヌキとの話し合いは……疲れるね。 こっちの報告すべきことは、全部、知ってらしたよ。 お願いしようとしてた事までね。 そんで、あいつ等の事もね…… 何というか……掌の上で、転がらされた気分だよ。 まぁ……いいか。 若輩者らしく、オトナシク転がらされておこう。 御爺様を送り出した後……



    今度こそ、ゆっくりと眠りについたよ。





**********





 学院には、普通に、黒龍のお屋敷から、馬車で帰ったの。 うん、御嬢様しといた。 クリークはお屋敷で管理してもらうんだ! だって、そう言われたからね。 予備の制服も出来上がってたから、それ着て、学院に戻ったのよ。


 お部屋に帰る前に、連絡室寄って、報告書を提出したのね。 人事局の人が、めっちゃ、いい顔してたよ。 ウンウン頷きながらね。 




「 ” 王都シンダイにおける、飲料水の不足に関する調査依頼 ” 、 ” アレーガスの森の探索調査について ” 、 ” アレーガスの森における、地域魔力濃度の調査 ” 、 この、三つの依頼を、一度に、この短期間に終わらせましたか…… それに、単なる調査だけでは無く、水源の確保や、アレーガスの森の異変の原因を取り除き、魔力の揺らぎを止める所までとは……」


「時が味方してくださったようです。 私は、単に調査に出向いたまでですわ」


「まぁ、そう言わざるを得ませんな…… シュバルツハントは。余りにも成果が巨大すぎる。 いや、真面目な話、これだけの事を見せつけられるとな……あの方々の要求がなぁ。 君が行く先を早々に決めてくれると、良いのだが」


「恐れ多い事で御座います。 何卒……よしなに」


「うむ、次の仕事は、少し待ってくれ。 もう一度、調整せねばならんから。 此方から、連絡する」


「はい。 判りましたわ。 では、ごきげんよう」


「うむ……すまんな。 暫くは、自室待機だ。 もうすぐ 【精霊祭】 だ。 ゆっくりと楽しむといい」


「はい、有難うございます」




 最敬礼をしてから、連絡室を退出した。 あぁ~~~ また、暇になったよ。 どうしようかなぁ…… そうだねぇ…… お昼だから、お昼ごはん食べようか? たまには、大食堂もいいよね。 そういえば、前に行ってから、相当行ってないよ。 また、お昼のおススメ、あるかなぁ……


 ヴェルも行くかって、聞いたら




「お供します」




 だって。 一緒に行こうか。 まぁ、大食堂の高位貴族の専用の席は、いっつも空いてるもんね。 一人で食べるのもなんだから、ヴェルにも、席について貰おうって考えてたのよ。





**********





    大食堂、貴賓席。




 まぁ、なんだ。 めっちゃ、高級なレストランみたいなところだった。 うん、誤解してた。 間仕切りだけで、中は一緒だと思ってた。 なんだこれ? どんだけ、奴らは贅沢してんだ? はぁ…… 食欲失せた。 お茶だけにしとこう。


 そう思ってさ、給仕の人に言ったら、ヴェルが、お茶の用意してくれた。 はぁ……そういえば、ヴェルも、お茶入れるの、ものっそう、上手いんだった。 流石はマリオさんの弟子だ。 なんでも、そつなくこなすよね。 半分呆れて、その手際をみてたのよ。



 そしたらね、聞きたくも無い声が、聞こえて来たのよ。



 そうよ



 私の ” 婚約者様 ” の声だ。





「おい! シュバルツハント! お前に話がある!」





 なにやら、お怒りの御様子……


 早速、「氷の令嬢」 が出現したよ……








 面倒な事にならなきゃいいけど…… 





ブックマーク、感想、評価 誠に有難うございます。

中の人も、感激しております。 完走に向けて、走っていきます。

今後とも、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。


さて、お仕事も一段落と、思ったところで、まさかの乱入者。


氷の令嬢モードに移行したクロエ。


明日は、どっちだ?


また、明晩、お逢いしましょう!!

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