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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
この ” 矜持 ” に賭けて
88/111

クロエ 空の棺に、策謀を感じつつ、対策を練る

 



 暫く、アレクサス御爺様が付いて下さったのよ。




 監視? 私が無茶しない様に、お爺ちゃんズから、頼まれたの? うん、その疑いは、至極、的を射ているよ。 頭の中で、今回の襲撃の首謀者と思わしき人達、全員の抹殺、考えちゃったから。 そんで、完璧に想定しちゃったし。 


 黒い笑みを浮かべながら、ポツポツと、アレクサス御爺様に、お話したのよ。 こんな手が有ります、あんな手が御座いますって。 益々、一緒にいる時間が増えたわ…… 学院にも、戻してもらえないし、お友達との連絡すら、取らせてもらえないのよ。


 つまりは、私が、あんまりな状態だから、外部との接触を切って、完全隔離状態にしちゃったのね。 そんなに危なく見えたのかしら? あれ? あら? ヴェルがめっちゃおとなしいよ…… もう、私のお腹見事に打ち抜いて、意識を刈り取った人とは、思えないよね。 にっこり、微笑んであげたら、なんか額に汗が浮かんで、零れ落ちてた。


 そんでね、何処までが敵なのか…… そんな事、つらつら考えてたの。 案外、根が深いかも。 だって、今回の地方巡察、色んな所を巡るから、長期の予定が立たなくて、大まかな地方に何時くらいに行くかしか、決まって無かったって。 それでね、詳細な予定は、巡察地で次の予定地と通る道を決めてたんだって。 



 これ、アレクサス御爺様情報。



 あの襲撃、多分、かなりの準備時間が必要と思うの。 だって、グノームとっ捕まえて、隷属させないといけないし、その辺の大型で強力な魔物も、準備しないといけない。 龍王国の東側って、治安も安定してるし、魔物も少ない地域よ? 一朝一夕には、いかない筈……


 だれか、一行の中に情報を漏らした者がいるか、王城内で、予定を聞いた者が漏らしたか……それも、定期的に…… 身内を疑うのって、諜報戦の初手だけどさぁ…… なんか、嫌だね。 単に、目的も教えられずに、情報を流した可能性もあるし…… ほら、主家とか、上級貴族様の言葉に、異を唱えられる、文官って、あんまりいないもの……


 今は、私が落ち着くまでって、黒龍のお屋敷のお部屋で、アレクサス御爺様と差し向かいで、お茶してる時間が多くなったわ。 ははは、軟禁状態ね。 なんだか、懐かしいわ。 御爺様とゲームしてた時みたい。 でも、今は、現実の話。 ゲームみたいに、やり直し出来ないものね。 慎重に、慎重に、事を進めているのよ。 その分、思考が黒く染まるけどね。


 私ね、かなりの『 殺気 』を、また、まき散らして居たみたいね。 マリオと、アンナさんに、お部屋から出ない様にって、懇願されたわ。 あははは、ソフィア様に、おめでとうって、言いたいのにね。 でね、なんで、其処まで言われたか、理由は知ってる。 




     朝の鍛錬が、原因。 




 ムシャクシャしててね、七十二の剣の型の鍛錬を、この綺麗なお部屋の中でしたのよ。 鍛錬着無かったから、下着姿でね。 夜明けのはるか前。 絞った灯火の元。 リビングの調度品を、部屋の片隅に片付けて、大きく空間をつくったの。 でもね、それ、十五歳のクロエの空間で、今の私には、ちょっと小さかったみたい。


 爺様の護剣を振り出して、一番から、始めて……二十七番目。 同じように踏み出したと思った、一歩が、大きかったのね。 横一線に護剣が走って、光の線が出来たのよ……。 向かい合っていた、壁が切れた。 ザックリ逝った。 うえぁぁぁぁ! って、思った途端、マリオと、アンナさんと、ヴェルが駈け込んで来たのよ…… 問答無用で……叱られた。


 ” 対クロエ仕様 ” の内装切り裂いちゃったんだから、そりゃ、飛んでくるよね…… 重結界が施されているモノだからね。 きっと、マリオの部屋の警報が鳴り響いたんだと思うね…… ゴメン…… 得物無しでします……


 抜けだす気が無いと判ってもらって…… やっと、お叱りは止まったよ…… ヴェルとマリオが呟いていたの、聞こえたよ。




「……ヴェル、お嬢様の剣は、これ程の物だったのか」


「はい、マリオ様。 カール様の剣の型を直伝で伝授されて居られますから…… もはや、近衛親衛隊の騎士でも、対応は難しいかと」


「それにしても、この重結界を一刀のもとに、破られるとはな……王城の宝物庫並みの重結界だったんだぞ」


「下地にオリハルコンを仕込んでも、本気のクロエ様なら斬れると思われます」


「……言葉が、出んな」


「御意に」


「お目付け、すまぬが、頼んだぞ」


「命にかえましても」





 だってさ。 気を付けるよ。 体が大きくなって、目算が狂ったんだよ。 もう、大丈夫。 大体判った。 でも、この後から、本気で部屋に軟禁されたよ。 でも、まぁ、エル達もいるし、服とかドレスとかも作んなきゃならなかったし…… オトナシクしてたよ……




 ―――――




 国葬が発表されたの。 そうフランツ殿下の。 場所は、フランツ殿下の御生母様で有られるメントーア様の国葬と同じく、青龍大公様の御屋敷と、王城ドラゴンズリーチの間の広場。 つまりは、学院の正門前だったの。 高位貴族は全員出席のお達しがあったわ。 喪に服する為に、黒一色のドレスでね。 前日に、ヴェルに付き添われて、青龍のお屋敷に一泊させてもらう事になったの。


 でも、その前に、ソフィア様に一言で良いから、お祝いを云わせてほしいって、頼み込んだの。 オトナシクします。 決して、御心を惑わせませんって言ってね。 なんとか、了承してもらって、お部屋に行ったのよ。 優しいお顔されて居たわ。 エルザさんが出してくれたお茶を飲みながら、ご懐妊のお喜びを伝えたの。 


 大事な時だからね。 ほら、また、街に下りる事もあるから、なんか良いモノあったら、お贈りしますねって、伝えたら、笑って居られた。 なんか、ほっこりする。 リヒター様、ソフィア様、黒龍の御家……お願いします。


 そんで、国葬の前日、ヴェルと一緒に、青龍大公のお屋敷に向かったのよ。 あぁ……従者はヴェル一人。 エル達は、学院で頑張ってるもんね。 邪魔は出来ないよ。 着替えとかは、彼方のお屋敷の侍女さん達がしてくれるって。 で、装備一式、馬車に積んで、行ったのよ。 あの、白亜のお屋敷にね。


 お屋敷に着いて、当主様にご挨拶したら、なんでか、直ぐに連れて行かれたの。 そう、マリーのお部屋にね。


 あれ以来だったし…… ちょっと、まぁ、なんだ。 気まずかった。 でも、マリーは優しくしてくれた。 じっと見つめ合って…… フランツ殿下の居ない悲しみを分かち合ったの。 私には、感じられる、フランツ殿下が生きているって事は、今は云わないの。 マリー私が落ち着いたと、思ってくれたみたい。 


 それから、色々とお喋りしたの。 うん、色々とね。 出来る限り、王家の連中には近づかない事とか、ミルブール国教会の連中には細心の注意を払って、近寄らない事とか、それから、ギルバート様と出来るだけ、仲良くなる事ね。




「あの……クロエ様? 最後の注意って……」


「マリー様は、ギルバート様の事をお慕いしているんでしょ?」


「……ええ。 それは……もう」


「わたくしの、想いは…… マリー様には、何が有っても、ギルバート様を疑わないと云う、「強い意志」を、お持ち頂きたい と、云う事ですわ」


「えっ?」


「殿方には、わたくし達女性に言えない事も多々あるのです。 それは、龍王国の為に、あまりに重い使命に、時として、隣に立つ方の存在をも、失念される場合があるのです。 その時、御心が他に移ったとか、そう言った事を考えられては、ギルバート様の行動が阻害されます。 ……マリー様は賢明な方です。 常に御側に立つという意味をご存知です。 ですが……万が一と云う事が有ります。 だから、申し上げました」




 私の声、冷たく無いかな? 大丈夫かな? マリーが多分心を尽くしても、時として、距離が出来るかもしれない。 そん時に、亀裂が入ったら、元も子もない。 繋がりは強く、堅く、賢明に。 行く道に障害があろうと、無かろうと、一緒に歩む気概をもってほしいのよ。 




   だって……国王陛下と御妃様ってそうで無くては、ならないもん。




 マリー、ちょっと赤くなって頷いてた。 相手が盤石狙うなら、こっちはそれ以上の土台を作るんだ。 堅固にして柔軟なね。 何物にも犯されない、誇り高き心を持ってほしいのよ。


 深夜まで、二人でお喋り。 天龍様の事なんかもね。 龍王国が国として、人の住む大地としてやっていけるかの瀬戸際だもの…… 頑張ったわよ。 でね、マリーが聴いて来たの。





「クロエ様? 突然、今のようなお話をされるなんて……どうか、致しましたの?」


「マリー様、わたくしの知っている事を、大切なあなたにも、お知らせしたかったのです。 わたくしには、わたくしの、” 役割 ” が、有ります。 その為の、いわば、保証のようなものです。 貴女が、健在ならば……わたくしは、動けます。 選択肢も増えます。 だから、お話しました」




 そう、色々な選択肢・・・が、あるものね。 そんで、アレクサス御爺様に薫陶を受けた私は、いつも最悪を想定するの。 そう、最悪をね。 向かっていく先が断崖絶壁なら、その手前で、進路を変えるのよ。 たとえ、車輪の下に我が身を投げ出そうとね。 でも、その先を見通す目が、私の目だけだったら、迷走しちゃうでしょ? せっかく変えた進路が、チョットした事で、また、戻っちゃうかもしれないもの。




 だから、先を見通す目は、沢山あった方がいいの。 先を見通す「力」のある目がね、必要なのよ。




 マリーの手を取って、目を覗き込んで、お願いしたの。 もし、行く先が判らなければ、四大公の大公翁様達に、相談する事をね。 あの人達、タヌキだけど、若年の者に素直に頼られると、嫌と言えないから。 それも、龍王国の為、ひいては、民の為って云われたら、絶対に協力するわよ。 




      そうやって、この国は生き延びて来たんだもの。




 明日の為に、もうお休みくださいって、マリーの侍女さん達に言われて……とんでもなく長い時間、お喋りしてたって気が付いたの。 ゴメンね。 じゃぁ、おやすみなさい…… 





     お話聞いてくれてありがとう。





 **********




 霧のような雨が降ってた。 参列してた高位貴族の方々、嫌そうにしてた。 祭壇に中身の入ってない棺が置かれ、国王陛下が、弔辞を読まれてた。 神妙な顔をしていた、ミハエル殿下、エリーゼ様…… 私は、臣下の席に座っていたわ。 でね、祭壇近くの王族の席に、なぜか、ミルブール国教会のボディウス教皇猊下もいらっしゃったのよ。


 教皇猊下、自ら、葬送の儀を行うとかなんとか、言ってたわ。 国王陛下の弔辞が終わり、教皇猊下がお立ちになった時、見ちゃったのよ。 教皇猊下とミハエル殿下、ちょっと、視線を絡ませて、互いに口元に卑しい笑みが浮かんだの…… 




     やっぱりね




 その想いしかなかった。 ほんと、禁止されてなかったら、こいつら纏めて、彼岸への門に叩きこんでやりたかった。  まぁ、何食わぬ顔をして、下向いたけどね。 握った拳が、ちょっと震えたよ。 黒のベール越しだったから、あっちは、私が見てたってわかんないね。 まぁ、そうよ。 でね、そんなミハエル殿下を、なんか、燃える目で見ている人が居たのよ……




    エリーゼ様……




 あなた、今は、仮にも婚約者であらせられた、フランツ殿下の葬儀の真っ最中よ? なんで、そんな熱のこもった目で、ミハエル殿下を見れるのよ。 ほら、周囲の貴族さん達に、バレバレじゃん。 良識のある人達は、眉を顰めてんぞ? いいのか? それで。


 しめやかに、恙なく、国葬は終わったのよ。 国王陛下が、国葬の最後に、私達に向かって、言ったのよ。




「フランツは、誠に良い、王太子であった。 本当に残念な事であった。 これにより、フランツは、王籍を離脱し、廃太子となる。 しかし、龍王国の未来の為、王家は続かねばならん。 此処に、第二王太子であった、ミハエルの第一王太子への昇格と、次期国王とする事を宣ずる。 また、フランツの婚約者であった、エリーゼ=ナレクサ=ブランモルカーゴ白龍大公令嬢を、ミハエルの第一婚約者となす」




 騒めきが広がったの…… 主に、黒龍大公家にかかわりのある人達から。 そうね、此処でも、序列を持ち出したわけね。 元、第一王太子殿下の御婚約者であり、未来の国母と云う立場だった、エリーゼ様の傷心を御慰めする為……ってか? そんで、今まで、第二王太子殿下の婚約者だった私は、第二婚約者…… つまりは側妃とするって事ね。 私を、彼女より序列を下にしたわけだ……


 多分、白龍大公閣下の差し金ね。 ……娘に甘いって、評判を逆手に取ったわけよね。 平然としている私に、周囲がヒソヒソを始めるの。




 ”こんな仕打ちをされても、平然と……「氷の令嬢」には、感情はないのか?”




 ないわ。 別に、気にもならない。 王太后様が、私に目をむけ、軽く……本当に、軽くだけど、頭を下げられた。 特例中の特例だね…… 同じ仕草をしといたよ。 まぁ、判る人は判るってこった。 後は、しらん。 




    これで、確定したね。 




 アレクサス御爺様も、ご覧になってたよね。 この襲撃の主犯と実行犯、確定だよ。 でも、まだ、手出しは許されない。 観察を続けないとね。 でも、私には聞こえるの、崩壊の序曲がね……。





 ほら、悪い予感だけは、当たるのよ。





**********





 フランツ殿下の国葬が終わってね、私は学院に戻ったのよ。 戻ったって言っても、教室に行く訳じゃ無いのよね。 連絡室に行って、次の課題を貰うだけなのよ。 でね、人事局の人が気になる事言ってたのよ……




「……ミルブール国教会のボディウス教皇猊下……何を考えているのか判らん。 前々より、色々な打診があったのだが、グレモリー様をミハエル殿下の側室……いや、正室だな、……押し込もうとしているのだ」


「それは……なんと言いますか……誠ですか?」


「ああ、ご葬儀の後、動きが活発化しているのだ。 此れには、いかな白龍大公閣下とて、看過できぬのだが……ミハエル殿下がことのほか、乗り気でな…… あちらの重臣の方、筆頭公爵家の方々から、ミルブール王国の意思では無いと、言質は頂いておるのだが……」


「相手は、ミルブール国王陛下、グランミルブール様の信任厚き御方ですもの……横車おされますね」


「そこが……心配の種だ」




 次の課題を貰った後の雑談で、そんな事を言われたのよ…… 暖かいお茶を、貰って、ホッと一息入れてたらね、耳を疑うこの話…… こりゃ、荒れるな。 いや、別に私はどうでもいいんだけど、グレモリー様は、 『 地龍様の愛し子 』 よ? そんな人、他国に嫁に出せる訳ないじゃん。 ミルブール国教会、そんな事も知らんのか? …………あっ!




 あぁ…… 龍王国、と、ミルブール王国の、共倒れ狙ってるのか……




 ボディウス教皇猊下ってさぁ…… 喰えんオッサンだよな。 なにかするにも、二つ以上の目的を持って事に当たる…… 厄介な人だ。 いいように扱われている、ミハエル殿下が滑稽に見えて来たよ。 それに……これ、絶対にエリーゼ様の耳に入っているよ…… しょうも無い事、しなきゃいいんだけどね…… グレモリー様は、私みたいに黙って無いよ? 多分、しっぺ返しする。 



 あぁ………… なんか、悪い予感する。



 あの人の事だ、きっと、なにか仕掛ける。



 自分から、仕掛けている事を判らせない様に。



    誰かに、罪を擦り付けるね……



     そんな、悪知恵だけは、



     飛びぬけてるんだから。




 エリーゼ=ナレクサ=ブランモルカーゴ白龍大公令嬢って人は。





ブックマーク、感想、評価 誠に有難うございます。

大変、大変、喜んでおります。


物語はついに佳境に入りました。

まだ、もちょっと続きますが、頑張ります。


では、また、明晩、お逢いしましょう!!

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