クロエ 思考の深みに嵌り、決意する
採寸から、一日で ギリーガ服飾店から、新しい制服が届いたの。 凄いわね。 流石に、超一流ね。 そんで、ピッタリフィット。 前よりも、ボリューミーな胸元を、しっかりカバーしてくれてるの。 判ってらっしゃる。 派手なのは、嫌なのよ。
でね、試着して、バッチリだったから、下着も、部屋着も急遽、揃え直し出来て、学院に帰ろうとしたら、「 お客様 」 が、みえたの。 うん、マリーのサロンの人達。 私の大切なお友達。 きっと、今の私を見て、ビックリすると思うんだけど、仕方ないよね。 最初だけだから、最初だけ。
貴人応接室に通ってもらって、ちょっと遅れて行ったのよ。 だって、みんなして、黒龍のお屋敷に来るなんて事、無かったんだもの。 それにね、自分の姿が気恥ずかしいしね。 あれ? お部屋の中から、あんまり、喋り声しないけど。 ……いいや。 突入!
「皆様、ようこそ、いらっしゃいました」
「突然、お邪魔し!?!?!」
マリーが絶句したよ。 ……そりゃね、ちょっとの間に、私、めっちゃ成長したもんね。 ……四年分の魂、差し出したもんね…… はぁ……
「如何しました? マリー様?」
ニッコリ笑っとく。 威力、三割増しかな? 絶句が続くの…… どうしようこれ。 まぁ、そこは、マーガレットが、ちゃんと振ってくれるよね。 ほれ、ほれ…… なんで、黙っとるんじゃ! そ、そんなに、変か? どうなんだ?
「クロエ……なんか、大人びちゃったね。 何があったかは、ヴェルさんと、マリオさんに聞いた。 途中、アレクトール医務官だっけ、あの方も入ってこられて…… クロエの体調は、完全には戻ってないから、注意してほしいって…… まぁ、見たら、判るけど…… ほんと、やめてよね、勝手に死にかけるなんて!!」
怒っとるなぁ…… マーガレットがまともな事言ってる。 よっしゃ、ここは、きちんと詫びをしよう。 そうだね、婆様にも言ったけど、この人達、私のとっても大切な人達なんだもんね。
「ごめんなさい。 ご心配をおかけいたしました。 あれしか方法が無かったとはいえ、申し訳、御座いませんでした」
ちょっと、マジで、頭を下げたの。
「そんな事言ってるんじゃ無いの!!! んん~~~~、もう!! 無事に帰って来て呉れて、良かった。 助かって、よかった って、言ってんの!!!」
マーガレットは、そう言って、抱きついて来たのよ。 そっか……心配で、心配で、怒ってたのか……
ゴメン……ありがとう。
グッと力を入れて、マーガレットを、抱き締めたの。 耳元でね、”ただいま” って、囁いたの。 ウンウン頷いてた。 そしたら、みんなが周りに集まって来て、同じように抱きついて来たのよ。 マリーも、アスカーナも、そんで、ビジュリーもね。 あぁ、ギルバート様は、ちょっと離れたところに立っておられた。 暫く、グズグズしてたけど、まぁ、還ってこれたんだしね。
還ってこれたんだから、 ” 良し ” として、ほしいなぁ……
―――――
皆に席について貰って、掻い摘んで、「私のした事」 話したのよ。 何をしたか、そんで、何でこんな姿に成ったかをね。 また、みんな言葉を失ってたよ。 そうだよね、まぁ、古代大魔法が無きゃ、出来ない事だもんね。 そんで、そんな魔法使えるって知らないもんね。
「クロエ様は、何処までも予測不可能な方ですね」
アスカーナが嘆息しながら、そう呟いたのよ。 みんなも同調してる。 だから、言ってるじゃないの、あれしか方法が無かったって。 でね、マリーがね、続けて云うの。 今回の襲撃で、行方の分からなくなってるフランツ殿下の捜索の事をね。
「動きが緩慢なのです。 とても。 現在レオポルト王弟殿下の部隊が、捜索活動に入って居られますが、それ以外の騎士団の動きが御座いませんの。 ルベルグラディウス赤龍大公閣下、指揮下の多くの部隊は、東へ東へと、移動中です。 東部の砦に、すでに三個師団、移られました。 捜索には、人員が割り振られておりません」
そこに、ギルバート様が付け加えられたの。
「父上は、レオポルト王弟殿下よりの勅命を受けたそうです。 探索は、王弟殿下が行うので、防備を固める様にと」
お爺ちゃんたち…… 本格的に王家を切るつもりだね。 レオポルト王弟殿下も、それを認めたと云う所かしらね。 でも、なんでだろう? なんか、辻褄が合わないよ。 王弟殿下は、王都の宿将。 普通なら、何が有っても、動かれ無い筈。 そんでも、甥っ子である、フランツ王太子殿下の捜索と云う方便で、王都を出られたとすると……
お爺ちゃん達、なにか掴んだね。
ミルブール王国の戦闘集団の動きかなぁ。 やりかねないよね。 三個師団って、緊急展開出来る騎士団の、ほとんどだしね。 王弟殿下の部隊は儀仗部隊がほとんどだから、戦闘力あんまり無いし……この配置になったんだね。 頭の中でね、龍王国東側の地図が浮かんで、東側の砦、カーン、 カガーン、 ドーシュ、 リトメイ が、思い浮かんだのよ。 東側の重要策源地なのよね。
立派な施設だと聞いてるのよ。 十分にその人員を受け入れる事は出来るわよ。 元から居た部隊と合わせて、四個師団…… 本気で防衛線張るつもりね。 いつ暴発してもおかしくないって、判断された訳ね。 さらに、その増援部隊、輜重部隊として、レオポルト王弟殿下がでられたのか……
でも…… 殿下の捜索…… どうするんだろう?
「内々の話ですが……」
言い難そうに、ギルバート様が口をお開きになったのよ。 なんか、とっても、嫌な予感がする。 とっても…… スッと青くなるのが判るのよ、勿論、自分の顔色がね。 聞きたくないって、全身が拒否するのよ。 でも、聴かなくちゃ…… ここで、聴かないといけない気がするの……
「襲撃地点は、「魔物の森」と、呼ばれる場所のすぐ近くです。 冒険者達も、近寄りたくない森で…… そこに入った者の半数は出て来れません。 まして、殿下は単身。 足取りは、その森に続いていて…… ほぼ…… 捜索は…… 探索へ、移行しております」
ギルバート様の言う、「探索」ってね、軍務関係者の中では、ちょっとした隠語になってるのよ。 捜索は、行方不明者の足取りを追い、探す事。 でも、探索は……遺体を見つける事なのよ。
物凄い衝撃が……あったの。
言葉を失ったわ。 だって……私には、判るんですもの。 殿下は生きていらっしゃるって。 あの翡翠の指輪……私の制御下に有るのよ。 それが告げているのよ…… 生きていらっしゃるって……
「あ、あの…… それでは……」
「ええ、もう十日もすれば、全て打ち切られると思います。 魔物の森で、喰われたと……そう、発表されると……」
なんで、
なんで、
なんで!!!!
どこかに、居られるわ! 生きて居られるの!!! わ、私だったら!! 私だったら見つけられるの!!!!
立ち上がって……つと足を出そうとしたとき、がっしりとした手が、私を包み込んだの。
「お嬢様! お気を確かに。 今は無理です。 どれだけ望まれようと、わたくしが、御止め致します!」
ヴェルが、しっかりと抱き締めてた。 私は、ヴェルの胸を、拳でドンドンって叩いてるの。 言葉にならない言葉を呟きながら……
「誠に、申し訳ございません、皆さま。 お嬢様の情緒が不安定なので、この場を下がらせて頂きます」
ヴェルの拳が、鳩尾に入った。 うん、流石! 綺麗に意識が無くなって、白濁した視界に世界が揺れたの。
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「ヴェルを叱らんでやって呉れ」
アレクサス御爺様が、医務室のベットの脇に座って居られた。 何回も見た天井だなぁ……って、思ってた。 勿論、判ってるわよ。 いま、私は動けないってね。 でもね…… 心が……いう事を聴いてくれないの。 ものっそい、平坦な声が出た。
「アレクサス御爺様。 今回の襲撃の目的は、フランツ殿下なのですね」
「あぁ……そうじゃな。 あれだけは、逃がそうと思っていたが、裏目にでたの。 悪い事をした……」
「お願いしたのは、わたくしです……捜索は……」
「まだ、生きて居ると思うておるのか?」
「はい。 私には、判ります。 何故かは、判りませんが、フランツ殿下は、記憶を失って居られます。 しかし、生きて居られます」
天井を見詰めながら、やっぱり、ものっそい、平坦な声でそう言ってたの。 確かに、生きてらっしゃるのは、判るけど…… でも、殿下自身が、自分が誰なのか、判ってらっしゃらないみたいなの。
「……そうか。 わかった。 黒龍、赤龍、青龍の、” 暗部 ” には、今後も追跡を行ってもらう。 記憶を失って居る、冒険者……と、云う所かの」
「はい……ところで、アレクサス御爺様。 誰が仕掛けたのですか?」
「……今は、言えん。 確証がない。 が、クロエ、お前の考えるモノが、近い筈じゃな」
そうよね。 こんだけの事、遣らかすんだから、軽い立場の人間が画策するとは思えないのよ。 …… アレクサスお爺ちゃんだって、そう易々と言えないわよね。 その事からも、類推できちゃうのよ。
この襲撃で、一番得をするのは誰? 脳裏にさぁ…… 嫌な、答えでちゃったよ…… 良く出来た、第一王太子フランツ殿下。 殿下の御生母は、青龍大公家出身。 今のハンダイ王家の主要人物は皆、白龍大公家出身。 さらに、言うなら、現王妃様は、白龍大公閣下の妹君。 現、王太后様も、白龍大公家出身者…… 白龍大公閣下は、天龍様の事を除くと、王権に一番近い位置におられる、大公閣下。
いくら中立を旨とし、四大公家を同列に扱おうとしている、現国王フョードル陛下でも、白龍大公閣下の意見に引きずられている事は、他の大公家の方々も、知って居られる。 そして……ミルブール国教会が、喰い込んで、人の欲望を掻き立てているの……
このまま、フランツ殿下が、” 御薨御 ” 扱いになり、王籍を抜けられると、第二王太子で有られるミハエル殿下が、王位継承権第一位になられる。 さらに、彼は、良く言えば、欲望に忠実。 悪く言えば、我儘で傍若無人。 兄殿下に対しては、あまり良い感情を持って居られない。 今までは、第二王太子として、フランツ殿下を支える立場…… 当然、国王としての教育も不十分 且つ、甘やかされている…… 末っ子だもんね。
ミルブール国教会が甘いささやきを、ミハエル殿下に囁けば、欲望を掻き立てられている今の殿下なら、簡単に、思い浮かぶはず……
”フランツ殿下を排除しよう”
ってね。 勿論、実行犯はミルブールの導師達。 校外実習の時の方法なら、足が付く事が無いと、思っている…… さらに、言えば、ミハエル殿下ほど、傀儡にしやすい人は、白龍大公閣下にとっても居ない……
この考えが、もし、もしもよ、近いとすれば…… エリーゼ様は、籍が喪失したフランツ殿下の代わりに、ミハエル殿下の婚約者に横滑りする。 いや、白龍大公閣下が、させるね。 だって、より、盤石な体制に持って行きたい筈だろうしね。 若く、精神的に幼い、ミハエル殿下の後ろに立ち、全てを支配するつもりなのかもしれない。 当然、現国王陛下には、ご退場して貰う……
一人を手に掛けたのならば、もう一人も、簡単に手がでるわね…… 先の国王陛下として、儀典祭典用として…… 本当の【降龍祭】の意味も知らずにね……
つまり、フランツ殿下は、白龍大公閣下、ミルブール国教会、ミハエル殿下の三者にとって、排除する対象だったんだ。 で、その密命を下したのが、ミハエル殿下ならば、白龍大公閣下は、彼に首輪をつけたも同然。 ミルブール国教会は、その上前を撥ねて、白龍大公閣下、ミハエル殿下の双方に、徴という形で、恩を売れる。
……エリーゼ様は、単にミハエル殿下の歓心が買えるならば、唯々諾々と同調するわね……
最悪
白龍大公閣下…… 白龍大公翁様を罠に嵌めて、排除したのって……そういう事か。 自分が、王権に近い場所で、この国を龍王国を支配しようとしている……って事ね。 単独の宰相位に就きたいのかしら? そして、この国を、龍王国を衰退に導くの? そのつもりが無くても……
ただ、亡国への道を歩んでいる……
誰も、住めない土地に、王権なんて…… 支配なんて……
お爺ちゃんズが何を考え、何を成そうとしているかも、そして、天龍様との古の契約も知らずに……
馬鹿みたい……
「クロエ……考えるのも、其処までにして置け…… 剣呑な気が噴き出ている。 お前には、禁止しておくぞ。 一切、手を出すな。 これ以上は、お前の手に余る。 儂らに任せて置け。 この国を護る為ならば、儂らとて、捨て石になる覚悟くらいあるからの」
よほど、剣呑な気が出ていたんだろうね。 天井を見詰める私から。 もう、殺気がダダ漏れって感じかしら。 要は、直接手を下すな。 血は血を呼ぶと云う事ね。 自重して、自壊を待てと言う事かしら……
なには、ともあれ、試金石は、エリーゼ様の動向ね。 いつ、ミハエル殿下の御婚約者になるかって所。 もう一つ、グレモリー様の、立ち位置なのよ。 彼女の意思なんか、絶対に無視するだろうし…… それに、ミルブール国教会の最高責任者が今、龍王国に来てるもの…… あちらの国ではどういった動きが水面下で行われているかなんて、此処からじゃ、良く見えないしね。
私の役割は……
そうね、
観察、監視。
どんな状況になろうとも
龍王国の民の安寧が護られる様に
それだけを念頭に置いて
動くしかないわね。
でも
許さない。
絶対に、許さないから。
ブックマーク、感想、評価 有難うございます。
中の人、とても、とても、喜んでいます!!
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暫く、重い展開が続きます。 すんごく、重いです。
クロエが自縄自縛に陥りそうです。
頑張れ、クロエ! 負けるな、クロエ!
ちょっと、大人な雰囲気になった、クロエをお楽しみください。
それでは、また、明晩、お逢いしましょう!!




