クロエ 新入生を歓迎する。そして、突然の知らせ。
お願いは、通った。
うん、ゴリ押ししたよ。 マリーとギルバート様に、庶民および、下級貴族階層の人達の新入生歓迎舞踏会のマスターをお願いしたんだよ。 私は、ほら、パートナーがアレだから、表に出られないのよ。 だから、同じ大公家の御令嬢と、御子息に、ミハエル殿下の、代わりをして貰うのよ。
ほら、お爺ちゃんズの狙いが、お二人の御婚姻でしょ。 だから、この際、もっと、もっと、もっと、お近づきになればいいなぁ……って、思ってね。 何となくだけど、お爺ちゃんズが、画策しなくても、この二人は、いずれそうなる運命にあったんじゃ無いかなって、思うくらい、いい感じなんだよ。 だからね、ちょっと、背中押してみたくなったのもあるの。
うん、なんか最初は固辞してたけど、片方づつにお願いを繰り返した結果、やっと受けて貰えた。 二人とも、云うのよ……
「ギルバート様に、ご迷惑では無いでしょうか?」
「マリー様に、ご迷惑では無いのだろうか?」
うん、荒縄でふん縛って、どっか、暗い部屋に、二人を押し込んでやろうか? うん? どうだ? その話を、ちょろっとマーガレットにしたら、一本の鍵をくれたの。
「なにこれ」
「うちの研究室の隣にある、危険物保管庫の鍵。 丁度いい広さだと思うよ?」
ニカッって笑いやがった…… こいつ、ホントにダメだ。 絶対にダメな奴だ。 丁寧にお礼を言って、返した。 ヤバすぎるだろ。 お前の作った薬が、詰め込まれとる危険物保管庫なんて。 保管庫に何を保管してるのか、ちょっと気になったけど、聞いたら負けだと思うの。 だから、聞かなかった。 話したそうにしてたけどね。
で、面白い現象が有ったのよ。 招待状を庶民、及び、下級貴族の皆様にお送りしたところ、なんと、一部上級貴族の方々から、出席の打診があったのよ。 なんでだ? って、不思議に思っていたら、事務長様が、教えてくれた。
「現状、彼方の舞踏会に出席に成られる皆様の殆どは、白龍大公家、所縁の方々です。 青龍大公家、それに、赤龍大公家、所縁の方々は、ほとんどが、御欠席か、此方の歓迎舞踏会に出席を希望されて居られます。 赤龍大公家、ルベルグラディウス子爵と、青龍大公家、アズラクセルペンネ御令嬢が、お二人で、舞踏会のマスターと言う事も有るのでしょう」
そうだねぇ……その通りだと思うよ。 あぁ、黒龍大公家の所縁の方々は、ほとんど、欠席します。 ええ、もう、政治的な動きには絶対に乗るまいと、ご家族の中でも決まっているそうな。 だから、黒龍大公家の傍系の方々は、職務に忠実で、地味に、真面目に、龍王国の民の為に邁進されているそうですよ。
その子弟の方々も、例外ではなく、出席を指定された公式の行事以外は、ほとんど出席されないとか…… だから、学院でも、私の動きが余計に目立つのよ。 一番、派手に動き回ってるしね。
傍系の人達の心情は、ウラミル伯父様から聞いたのよ。 まぁ、伝え話だけど、間違いないと思うの。 彼等の御本家に対する気持ちね。 ええ、傍系の人がやらかした事に関して、主家の監督責任を取る形で、なんの関係も無かった、爺様が、貴族籍と近衛騎士の職を失ったうえ、王都シンダイから所払いされた、遠い過去の事件。
それと、父様が、部下の暴走の責任を取って、魔法騎士団の筆頭魔法騎士を辞任したうえ、貴族籍からも離脱し、これまた王都シンダイから出て行った事を、皆さまが、とても、とても、重く受け取って、いらっしゃるからだそうです。
だから、そう言った意味での政治的な場所には一切出ないって。 それは、全て、主家である、黒龍大公家がするんだって。 えっ? 私は……自儘にさせて貰ってるわよ。 まぁ、思いっきり無視されてるけれども…… それは、それで、良いんじゃないかしら。 ほら、裏方で色々と動いているの、傍系の人達も知ってるらしいし、思わぬ処で、お手伝いしてもらう事もあるのよ。
そんな、傍系の人達が言ってたんだって。 リヒター様から教えて貰った。
”クロエ様は、私たちの光です。 誰もが難しいと感じていた事を、安々とやってのけられる。 その行動力、胆力、頭脳。 私たちは、光を感じました”
って。 うん? 持ち上げすぎ。 やれることを、やれるだけ、やってるだけ。 そう、ただ、それだけなんだよ。 多分、言っているのは、スラム街の縮小と、治安の回復、道徳心の回帰、福祉と福利厚生。 その辺だろうと思うのよ。 ほら、精霊教会に ” 施し ” するって、殿下が無茶振りした時の話。 あれの事だと思うのよ。 色んな機関が頭を寄せ合って、上手く行かなかったからね。
まぁ、なんだ、そんな感じで、結構、順調に準備は終わったのよ。 名簿も揃えた。 会場も押さえた。 楽団は……なんと、生徒さんの有志の方々。 宮廷楽団の方々は、彼方に向かわれたらしい。 でね、おっかしいの。 当然ビジュリーはあっちだろうなぁ~って思ってたら。
「わたしぃ~、ほらぁ~、爵位とかぁ~、頂いて無いし~ 実家もぉ~ 子爵家だからぁ~ あっちには行けないのぉ~ だってぇ~ 子爵家の娘よぉ~ あちらにはぁ~、出席できないわよねぇ~」
だって。 多分、エリーゼ様 あたり、ひっくり返って、ダダこねるんじゃない? 出たいって人に、” 許可を与えてあげる ” って、立場だから、出たくねぇ~ って、云われたら、どうしようも無いものね。 なんか、黒い微笑みが浮かんできそう…… いけないわ、そんな、” いい気味 ” なんて、思ったら。
ビジュリー、心ゆくまで、居眠ってね!
さてと、準備も終わったし……事務官さん達とも、また、良いお仕事出来たし。 うん、満足!
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二つに分かれて実施される事になった、新入生歓迎舞踏会。
これに先立って、彼方の舞踏会を準備されてる、侍従長に連絡を取って差し上げたの。 あんだけの【 要望 】纏めようと思ったら、 案の定、【カメリアの大広間】 使うわよね。 警備に、魔法騎士団の方も動員されるらしいので、お教えして上げたのよ。 妖魔精霊除けの魔方陣。 クロエからの贈り物です、ってね。 侍従長に付いて来た、魔法騎士団の団長様、頷て受け取ってらしたわ。 めっちゃいい笑顔でね。
フフフフ、ボディウス猊下っ♪
貴方が召喚しようとしても、絶対に入れないから。 強烈な防御魔方陣だから、召喚者も焼くよ♪ もちろん、内郭での黒魔術系 と 精神作用系の魔法は、御法度だから、同じように、焼くよ? 魔法騎士団の団長さん、配下の魔法研究員の方が散々な目にあったんで、めっちゃ警戒してるよ♪
楽しみにしておいてね♪
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当日の朝。 とってもいい天気。 捗るわ~~ 呼吸鍛錬。
私の部屋の皆様は、こぞって、着飾って、皆で、チェックよ。 うん、妖精さんが一杯。 そんで、ヴェルは私の護衛 兼 エスコートと言う事で、キッチリお召し物も普段と違う、良い物に。 エル達のお相手さん達、本当に洗練されてきたわ。 なんか、最初の頃とは別人感があるね。
うん、エル達も、なんか、顔 赤くしてるし。 いいね。 楽しもうよ。
庶民、と、低位貴族さん達用の、新入生歓迎舞踏会の会場まで、皆でワイワイ言いながら、行ったのよ。 緊張せずに出席できたわ。 なんか楽しいね。 受付は、事務方にお任せ。 ほら、無茶云う人いないし、開始予定時間より前に、出席者が揃ったって、事務方の人に、耳打ちされた。 とっても、優雅に余裕を持って運営されてるわね。
良かった。
よし、楽しもう!! 一年生のみんな! 龍王国、王立魔法学院の新しい仲間だからね!
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ギルバート様、挨拶上手ね。 うん、ほら、騎士科の方々も一目置いてる方だし、当然、赤龍大公家の御三男って事もあるんだろうけど。 堂々として、ミハエル殿下よりも、ハッキリ言っちゃえば上等ね。 みんな聞き入ってるし。
「……今年の歓迎舞踏会はこのような事になってはしまったが、此処には、高位貴族も低位貴族も、庶民階層も無いと思って欲しい。 出席したのは、同じ王立魔法学院の生徒だ。 龍王国に対し忠誠を捧げ、民に安寧をもたらす為の勉強をする仲間達だ。 下級生は上級生をしたって欲しい。 上級生は下級生を指導、鞭撻して欲しい。 自らがかつてそうであったように。 では、皆、楽しもうでは無いか! まずは、私が、一曲、踊ろう! マリー、踊って頂けないだろうか?」
そう言って、スッっと手を出すギルバート様。 その手を、そっと握るマリー。
いやぁ~~~ 絵になるなぁ~~~
う、羨ましくなんか…… ないよ…… あんな風に、誘って貰った事無いし…… いや、あるか…… 一回だけ…… なんか、頭の中で、フランツ殿下に微笑まれた様な気がした。
い、いかん、いかん。 フランツ殿下は、第一王太子。 そんで、エリーゼ様の御婚約者。 うん、違うね。 頭をブンブンふって、その顔を払いのけた。 ヴェルがチラッと私を見て言うのよ……
「如何致しました?」
「何でも無いの。 マリー綺麗ね。 ホントに綺麗。 ステップも優雅だし……」
「左様で御座います。 流石はアズラクセルペンネ青龍大公令嬢様です。 クロエお嬢様に勝るとも劣らない、堂々とした御令嬢でございますね」
「……ええ。 そうね」
なんか、その言葉聴くと、ホントに…… 羨ましくなった。 でも、嬉しくもあった。 あの引っ込み思案な、それでも、激情家なマリーがねぇ…… 楽し気に踊るマリー達を眺めつつ、壁に近寄り、「壁の花」になってみる。 うん、やっぱ、ここ、落ち着くね。 私の定位置。 でもね、今年は違うのよ。側に、仲の良いお友達も一杯いるし、なにより、ブリザード状態じゃない。
柔らかく、楽しく、見てられる。
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でもね、周りを見ていると、やっぱりちょっと、ぎこちないの。 そうよね。 社交ダンスって、貴族の子弟なら必須だけど、庶民階層の人には、無縁の世界よね。 憧れて見てる人、飯食ってる人、なんか、飲んでる人。 踊った事無いんだもんね。
……………………!
よっしゃ、お姉さんが、いっちょ、楽しみ方、教えてあげよう。
楽器を一生懸命演奏してる生徒さんの所へ行ったのよ。 曲と曲の間にね。 そんで、お願いしたの。
「すみません。 ボルガーの酒盛りって、弾けます?」
「えっ? ええ…… お祭りとかで、よく聞くやつですよね、盛り上がって踊る時によくする」
「ええ、庶民の方々が多いので……」
「……クロエ様? まさか…… 踊られるのですか?」
「授業の一環で、街によく行きますの、この頃ね♪ だから、存じておりますの」
「そうですか……判りました。 おい、エルダストン おまえ、得意だったよな!」
「いつでもいけま~す」
ニヤッって笑っといた。 でね、ボールルームの真ん中に行ってね、ちょっと、ドレスの裾を持ち上げて……
ワン・ツー・スリー・フォー!
リュート 三台と、縦笛5本、流石~~! ノッてるね!!
パタパタと足でリズムを取りながら、踊るの。 下位貴族の方、ビックリしてた。 うん、基本、これ、一人で踊るの。 パートナーの要らないダンスなのよ。 庶民階層の生徒さんの一部が、知ってたらしいの。 もうね、それからは、無礼講。 あっちこっちで、パタパタ、ガヤガヤ。
でね、ビジュリー目を覚まして………… 踊りだした!!
直ぐ近くに来て
「クロエ様ぁ~ 知ってたんだ~!! 楽しいよねぇ~~~!!!」
って、叫びながらね!
―――――
マリーとギルバート様にちょっと引かれるくらい、楽しんだ。 マーガレットが、飲み物をもって来てくれたのよ。 そんで、小声で云うのよ。
「また、伝説作っちゃったね。 アゴーン!」
「えっ? わたし、やらかした? ねぇ、やらかした?」
「そりゃ、そうさ。 舞踏会で、下町の祭りの踊り披露しちゃったんだもんね。 でもまぁ…… あれ見て。 上級生も、下級生も、とっても楽しそう。 全力で歓迎してるよ。 だから、いいの。 クロエらしくてね。」
手渡された、冷たいお水が、とっても美味しかったよ。 でも、あんまり、ダレると、またほら、突っ込まれちゃうじゃない、此処に居ない誰かさんに。 だから、中締めでね、リュートを弾こうとしたの。 そしたらね、ビジュリーがそっと言ってくれたの。
「クロエ様ぁ……リクエストはぁ ダランダールのぉ 『新しき未来』 第四楽章でいいわぁ。 ほら……一度、一緒に弾いたじゃない……また、お願いしたいなぁ」
「承りました。 歓迎舞踏会には、丁度いい選曲かもしれませんね。 新入生の皆様への贈り物に」
「そうよぉ、その通りよぉ……一緒に、弾こうぉ」
私は、「ブラッディ」を振り出し、ビジュリーは……第一バイオリンの子に、借りてた。 流石に、分身は使わんよね。 そんじゃ、行きますか!!
そういえば、ビジュリー言ってたな、この曲は、 ” 幸せになって欲しい人に捧げるのぉ。 そうするとねぇ……とっても綺麗な音が出るのぉ ” ってね。 新入生の皆さま、そして、此処にお集まりの皆さま。 皆様に素敵な未来が来るように、祈りを捧げます。
ボディを叩き、リズムを取る。 後は、イメージだ。 最初の一音、極々弱く。 夜明け前のまだ星が満天を埋め尽くす、序盤。 曲の進行は、細く、弱く、密やか。 私のリュートに、ビジュリーのバイオリンの音が乗る。 スコアーが頭の中を走る。
徐々に東の空が明るくなり始める。 星が、一つ、また一つと消えていく、寂しさの中に、喜びが生まれ始める中盤。 此処から、バイオリンが先行する。 それに合わせた形で、リュートの音が乗る。
ビジュリーの、ピリッとした表情。 奏でられる美しい音色。 眉間の皺はご愛敬だね。わたしも、頑張るよ。 こんなに綺麗な音色、あの時以来だよ。 みんな、静かに聞き入ってるよ。
徐々に周囲が明るくなり、夜の帳が上がる。 天空は、深い青から、水色のグラデーション。一片の雲も無く晴れ渡った朝。 地平線はマルーン。 仄かに赤みがさす。 曲は終盤。 此処から、私の出番。 リュートの、音が大きく強くなっていく。
あぁ、精霊様。 お願いします。 皆の未来に、” 闇 ” を置かないでください。 彼等に幸せを運んでください。 感情が音に乗る。 大きく強く、高らかに!
東の空に太陽が昇る。 曲はクライマックス。 最大音量、一途に、一途に祈ります。 この学び舎で一緒に学ぶ我等に新しき未来を!
最後の一音が終わった。
しん、
と静まる、ボールルーム。
マリーとギルバート様が、二人して、拍手を始める。
釣られるように、ボールルームに居た、人達に、拍手の波が広がり、
溢れんばかりの拍手になった。
想いは
届いたかな?
みんな、頑張って、行こうね。
―――――
楽しくも、感動的な新入生歓迎舞踏会。
拍手の波が収まらない中、
御髪の乱れたヴェルの姿が目に飛び込んで来た。
私に、耳打ちする、ヴェル。
持っていた、ブラッディが滑り落ちて
大きな音を立てた。
「クロエお嬢様、イヴァン様が…… 襲撃されました。 重傷です。 お屋敷に緊急搬送されておられます。 医務官殿が治療されていますが…… 状況は厳しく……」
全ての物音が聞こえなくなり……
目の前の情景から、”色” が、抜け落ちた。
ブックマーク、評価、感想、誠に有難うございます。
更新が遅くなっており、申し訳ございません。
中の人、「力」入ってます。
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精一杯の歓迎をするクロエ。
大盛況のうちに、歓迎舞踏会は終わりを迎えようとした。
その時、凶報は突然入る。
千々に乱れるクロエの心。
また、明晩、お逢いしましょう!!




