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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
たとえ、悪者になっても
79/111

クロエ 誕生日、祝われたあと、進級口頭試問を受ける

 



 あぁ~ 終わったよ、今年の【降龍祭】。 いやぁ~疲れたよ。 何だったんだろうね、あれは。 ミハエル殿下なんか、私の顔見たくない筈なんだけどね。 グレモリー様にいいとこ見せたかったんだろうね。 うん、馬鹿だ。 そんで、教皇様。 あの人は、本当に何やってんだ? よその国に来て、やりたい放題。 まぁね、その位の勢いが無きゃ、布教なんか出来ないけど、それにしても、酷いね。 


 あれ、やっぱり、信奉してる妖魔精霊の影響かね…… 己の欲望に忠実過ぎる様な気がする。 ミハエル殿下と合うはずだね。 それにしても、国王陛下と、王妃様、古の契約を知ってる筈なんだけどなぁ…… なんで、あの人達が、【降臨の間】に入れるって、思っちゃったんだろ? その辺も疑問だ。


 でも、まぁ、終わったし、【晩餐会】も、ブッチして来たからね。 奥様と、ソフィア様が出ないって、意思表示してる、任意参加の晩餐会なんぞ、出る訳ないじゃろ? ほんと、侍従長《薄ら禿げ》には、理解してほしいよ。


 さてと、マリーのサロンに行こうかな。 ドレスも、御髪も、お化粧も、バッチリだもんね。 そんで、内郭、内外郭の扉を抜けたんだよ。 衛兵さんが、なんか、ものっそう不思議な顔してたよね。 そうだよね、エスコートも、護衛もなしに、内郭から女の子一人出て来たんだもんね。 そりゃ、彼等にとっては、” 異常 ” な、出来事だよね。 ごめんね、脅かした? 


 で、内外郭から、外郭に出たところで、待ってんのが居るのよ。 そうよ、私の有能な執事さん。 どっから、情報を得てんのか知らんけど、ほんと、バッチリいい感じの間合いで、現れんのよ。




「クロエお嬢様、マリーお嬢様が、お待ちになって居られます」




 だよね。 うん、行くよ。 だって、今日は私の、お誕生日会してくれるって、言われたもんね。






 ―――――






 マリーのサロンのお部屋。 いつ来ても、なんか ” いい匂い ” してるね。 ボリスさんにご挨拶っと。




「お招きいただきまして、有難うございます」


「ようこそ、おいで下さいました。 中で、皆さまがお待ちです。 どうぞ」




 左胸に右拳…… 相変わらず、私には、隠そうともしないですね、ボリスさん。 仕方ないですねぇ……じゃぁ、私も! 同じ様に、左胸に、右拳を当てて、ギッって見詰めてみた。 苦笑いされたよ。 ほら、臨時とはいえ、私、実戦部隊の隊長した事有るもの…… なんなら、”襲歩アゴーン” って、拳上げようか? 



  冗談で、やったら、本気にしそうね。 真面目だもん、ボリスさん。



 で、早速中にっと。 ホンワカなお部屋だね……。 マリーが微笑んでる、ギルバート様も居る。 マーガレットが、お茶、飲みながら笑ってる。 アスカーナが、机の上の食べ物を見詰めてる。 ビジュリーが、リュート持ってる…… エルも、ラージェも、ミーナも居る。 マリーのお部屋の使用人さん達、みんな居る。


 ヴェルが、私の肩に軽く手を添えた。




「お嬢様、お待ちです」




 うん、そうだね。 


 みんな……なんか、ありがとう……   




「クロエ様、お誕生日、おめでとうございます。 クロエ様が、お生まれになって、出逢えたことを、精霊様に感謝申し上げます。 さぁ、こちらへ。 皆様、お待ちかねですわ。 ささっ!」


「皆様、ありがとうございます。 クロエは…… クロエは、幸せ者です。 皆様に、祝ってもらうこの喜びを、精霊様に感謝申し上げます」




 テーブルの前について、祈りを捧げるの。 


 母様、父様、この世に生を授けて頂いたこと、こうやって、素敵なお友達に出逢えたことに、感謝します。 ぼんやりと、体が温かくなったよ。 きっと、母様も、父様も喜んでくれてると、思うの。 だって、わたし、今日で、十五歳に成ったんだもの……






 ―――――






 楽しい誕生日会は、深夜まで続いたの。 ビジュリーの演奏で、みんなで歌ったりね。 あと、ビジュリーのリクエストで、「魔法弾の射手」 オープニングから、エンディングまで、通しで弾いたりね。 あぁ、もちろん、お喋りはしてたよ。 最初の時の、無茶振りとか、先生の面白話とか……


 でね、ほら、この歌劇の一節…… 魔物が主人公の子供かっさらって、夜の道を走ってるとこ……


 フランツ王子の笛、思い出しちゃった……


 急に黙って、リュートを弾いてる私を見て、ビジュリーが云うのよ。




「あらぁ~ あらぁ~ クロエ様のぉ、御手がぁ 急に艶っぽくなりましたわぁ……どうしたのかしらぁ? ココはぁ、荒々しいぃ 場面なのにぃ?」




 ウッ! そ、そうかなぁ…… そういう風に聞こえるかな…… なんか、顔、熱いや…… あれ? あれれ? なんで?  な、流そう……うん、流しとこう!


 なんか、ビジュリー、ものっそう、ニヤニヤ顔なんだよ。 ねぇ、やめてよぉ…… なんか……恥ずかしいじゃん!




 楽しい夜は、時間が経つのも、早いよね。 深夜になる前には、解散したんだけど、あっという間だった。 ほんとにありがとう!! 


 お部屋に、エル達も一緒に帰ったのね。 ものっそい、笑顔だったみたい。 エル達が小声で喜んでた。 うん、心配かけてたもんね。 【降龍祭】に行く前の私の顔、見てたもんね。 うん、ゴメン。 でも、今楽しいし、幸せだよ。 ホント。 


 こんな日が続くと良いなって思ったの……






 **********






 【降龍祭】が終わると、また、学院の日常が戻るんだけどね。 進級口頭試問があるんだ。 今まで、習った事なんかを、ちゃんと理解しているか、応用が利くかなんかを見る為らしいの。 教官室で一人づつね。 その試験期間が始まったのよ。 その間、学生は自習。 低位貴族の皆様から始まって、高位貴族の皆様にって、感じ。 庶民階層出身者も、低位貴族の前に口頭試問があるのね。


 エル、ラージェ、ミーナは、難なく突破して、四年生になれるのよ。 早々と決まったわ。 三人とも、相当評価が高くって、五年進級時各寮から、お誘いがあるかもって、噂が流れてたよ。 そりゃそうよ、あの子達、今だって、十分にその能力あるわよ。 ただ、実際の業務の経験が足りないから、きっと、四年次は、各寮や、宮廷魔術師さんに、くっ付いて、実地研修始めると思うよ



    でね、高位貴族の皆さん……



 おまえら、ちゃんと、勉強してんのか? 話してる内容が 薄っぺらくて、内容が無い…… そんで、望みはバカ高…… 庶民階層の人達が頑張ってんのに……なにやってんだ? まぁ、中には天才肌の人もいるけどね。 そいつら、頭はいいのに、性格激悪だから……困ったもんだ。 特に、行政科で、一人いるのよ……


 殿下の腰巾着で、同じように、グレモリー様の取巻きやってんのが!



     エーリッヒ=ディ=ブラウン子爵。 



 白龍大公閣下の甥っこさん。 御父様は、 白龍大公閣下の、弟君であらせられる、ブラウン公爵閣下。 一応、外交筋では、重要人物。 なんで、行政内務科に来たか判んないけど、物凄いプライドの高い人。 白に近い銀髪で、切れ長の目に、ちょっと赤みがかった、茶目。 冷たく笑う人ね。


 で、その御仁が、よく突っかかってくんのよ…… 最初の頃は、やってやら!って思ってたけど、最近は面倒くさくて…… 先生方の覚えも目出度く、よく、褒められてるよ、この人。 で、クラスのトップエリートさんなのは、衆目一致する所なんだ。 うん、賢いと思うよ。 ゲームだって、そつなくこなすし……棋譜をアスカーナから、見せて貰った限りだけど。 


 ただね……通り一辺倒なんだ。 点数を取る為の勉強は出来ても、応用が全くダメなのよ…… ゲームでも、嵌め手をよく使うんだけど、条件が崩されると、ガタガタになるの…… そんで、対応できればいいんだけど、周りが悪いとか、言い出しちゃう人なの。 要は、誰かのお膳立てしてもらった上じゃ無いと、働けない人。 俗に言う、頭の良い働き者。 こまっけぇ事には異常に気が付くんだけど、大局が見えなくなるタイプなのよ……


 頭打つよ……実際に実務に着くと…… でも、口頭試問とかは、とってもいい評価貰えるのよ。 聞かれる事、想定できるしね…… あぁ~あ、フランツ殿下がおいでだったら、化けの皮、剥がされるんだけどねぇ…… あの方、実務も相当頑張ってらっしゃったみたいで、ご質問も、制度矛盾とか、すり合わせが必要な事とかを、聞いてらしたのよ…… あれ、喰らったら、”勉強だけが出来る人” だったら、沈黙するね。 


 でも、もういないの…… フランツ殿下。 これで、エーリッヒ子爵がダントツで有利になったわけよ。


 そんな、御仁、やっぱり、自分の口頭試問が終わったら、聞こえよがしに、私の事、馬鹿にし始めるのよ。




「この組には、行政内務科にはそぐわない者が居るな。 ゲームの時間も教室にすら入れて貰えない程、落ちこぼれで、驚いた事に、そやつ、魔法科との兼科していると云うじゃないか。 友人に魔法科の者もいるが、あちらでも、同じように、教室にも入れて貰えないそうだ……流石は大公家の御威光だな。 どんな無能でも、転科すらさせられないとは!」




 デカいんだよ、声が。 刺すような視線を送ってきやがる。 まぁ、事実では無いから、サラッと無視するよ。 でもまぁ、こんだけ言われても、別段、腹も立たない。 もう、相手すんの面倒だしね。 そうやって見下していたら、気分いいんだろうね。 ミハエル殿下も含めて、そいつら、せせら笑いやがるんだ、こっち見ながら。



         ふ~ん。 



 まぁ、グレモリー様が居るしね。 私を排除したいんだろうね。 そういえば、グレモリー様、どうやら、私の事を事前に、かなり・・・ お調べになってたよう。 そんで、龍王国に来てからも、彼女の手のモノに、なんやかんやと調べさせてるらしいね。 エルの情報網と、ヴェルの情報網に引っかかってたよ。 


 だからか……周りの声高な嘲笑を、眉をひそめて聞いてたよ……



          大変だね。



 さてと、私の番が来たよ。 ちょっくら、教官室にいってみっか……






 **********






 あぁ~~~~ これ、なんだ? 口頭試問じゃ無いのか? なんで、人事局の人が居るんだ? それに、各寮の局長クラスの人が何人も…… 内務寮の人だけでなくて、財務寮、国軍、さらに、外務寮のひとまで…… ついでに、なんで、宮廷魔術師の方が混ざってるのかしら?


 でだ、正面に居るのが、教官じゃなくて、学長。


 おい、なんでだよ!




「シュバルツハント。 ご苦労。 最近の課題の成果は、各寮からの報告書で確認済みだ。 ……年次は、三年生だが、教育課程上は、五年次以上と判断されている…… いや、六年次か……学院の規定に従って、飛び級は二年間のみとなっているが…… 人事局からの要請があまりにも強い」


「……光栄です?」


「まぁ、その、疑問の感じ、判らんでもない。 シュバルツハント、君が成した事、手腕、どれをとっても、十分に任官できるものだ。 しかし、規定もある。 ついては、君の四年次は、六年次と同じ特別教育課程とし、各寮の仕事を実際に手伝ってもらいながら、所属する先を 君自身・・・ に、決めて貰いたい」


「わたくしが、決めるのですか?」


「そうだ、そうでもしないと、この方々が納得しない。 仕事の内容については、この方々が説明する。 別室を用意した」


「は……はい」




 ちょっと、絶句してる。 仕事……選べるんだ…… どっかに任官して、自分で、喰っていけるように、なりたかったから…… う、嬉しいんだけど…… 破格すぎる…… なんでだ? 誘導されるまま、別室に連れていかれた。 ゾロゾロとね。 周囲を取り囲まれて…… 逃げ場がないよぉ……





 **********





 別室で、判明した事。


 四年生になったら、学院には、ほとんど居れない。 各寮を回りながら、お仕事していくらしい。 ほら、いろいろやらかしたから、もっと出来るだろう? 的な事言われた。 もうね……どうしよう。 そんで、皆さん、結構本気…… 四年終了時に、本格的に所属する寮を決めろって…… 内務寮と、騎士団がとっても、前のめり…… 


 あ、あのね……私、十五歳だよ?




「年齢は、関係ないだろう。 今までの成果を見れば、十分だ。 それにな、シュバルツハント、君は、あのミルブール国教会の教皇にも一歩も引かなかっただろ。 それだけの胆力を持ち合わせている者は、 ” 大人 ” でも、そうは居ないぞ」




 あぁ~~~ こんな所に影響がでてましたか…… 宮廷魔術師さんと、魔法騎士団の団長がなんか言い合ってるよ……後ろで。 どちらが、より龍王国の為になるかって…… わたし……そんな、大それた人じゃないよ? ちょっと、人より、魔力が多い位なもんだよ? 





「あの解析能力は、魔法騎士団の一員に相応しい! 彼女自身、指揮官の経験もあるしな!」


「なにを仰います。 古代魔法を練れる者が、宮廷魔術師に成らず、どうします! 偉大な魔術師は、魔術師としてですな……」





 なんか、勝手に話が進んどるね…… しかたない、ちょっと時間を貰おう。 これじゃ、らち開かない……





「あの……すみません」


「「「「 はい! どうしました! うちに任官してもらえるんですか!!」」」」





 おい、おい……なんで、そうなる。





「え、いや……あの、そうでは、なくてですね。 まず、四年生になって、お仕事拝見させてもらって、わたくしが出来そうな事を探したく……そう、願います」





 なんで、全員、渋い顔になるんだ? そんで、満面の笑みを浮かべた、人事局の人が、私の肩をそっと抱いて、云うのよ。





「シュバルツハントは、我が人事局にて、一時、預かります。 人事局より、出向として、各寮に、行ってもらいますので、ご了承下さい。 これは、ウラミル黒龍大公閣下のご了承も頂いております」





 あら? あらら? そうなの? ウラミル閣下おじさまも、御存じなの? ……もうね、逃げられない…… まぁ、手に職入れられそうなんだけど…… いいっか! そうだよね! 職が決まるもんね。 それまで、色んな所に行って、頑張ったら、行く先が広がるもんね。



 うん、頑張るよ。 これは、完全に自分の為だ! よし!




「皆様、どうぞ、宜しく、お引き回しの程を!」




 ガッツリと、カーテシー決めた。 うん、いずれ上官になるかもしれんし、私は無冠だし、最敬礼は私からの気持ちだし…… 受け取ってね。 私の気持ち。 うれしいなぁ……


 皆様、ちょっと、唖然としてたけど、それぞれの方法で、答礼を送ってくれた。 


 こうやってね、私の口頭試問が終わったの……


 なにを、諮問されたか、ちょっと判んないよね。 でも、まぁ、こうやって、誘いに来てくれたって事は、かなりの評価をして貰ったって事よね。 頑張ったかいが有ったよ…… ん? そうか? 三年の最後の方は、ほとんど、各寮の下仕事ばっかりだったよね…… 教室に入れて貰えなかったしね……


 わたし……本当に……学生か?




 **********




 今年の、卒業式も、恙なく終わった。 


 良く晴れた日だったよ。 春の風が、木々の萌える匂いを運んでいたのよ。 鮮烈な香りだよ。 在校生として、先輩方を見送るの。 龍王国の民がまた、力強くなるよね。 人材の厚みは、国力の厚み。 誰一人として、失ってはいけない、かけがえのない人達。 



            頑張ってください。



 進路を決められた方、まだ、模索中の方。 それぞれに、未来に馳せた想いを、表情に刻み込んで、学び舎を出て行かれます。 そんな方々に、精霊様の祝福を、お祈り申し上げます。


 卒業生の方々、笑って、門出を迎えられた人、ちょっぴり泣いてる人、いろいろだね。 でも、卒業していく上級生の皆さま、とってもいい顔されてたよ。 うん、未来を見て、歩き出した人の顔だよ。 




      私も、こんな顔して、学院を卒業したいな。



          ほんと、眩しい笑顔だよ。



          おめでとうございます。



           先輩方の行く道に、



             ”光を!”



           ”新しき未来ヌーヴォー・アヴェニールを!”







ブックマーク、評価、感想 有難うございます。

とても、嬉しいです。 高揚します!!


―――――


三年次終了です。


次回から、四年次突入です。 ドンドン行きます。

盛りだくさんの予定です。


クロエに迫る決断の時


彼女の選択は・・・


また、明晩、お逢いしましょう!!

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