クロエ 【降龍祭】に参加する。 王立魔法学院 三年目
【降臨の間】
薄暗いね。 いつ来ても……。 前から、ちょっと気になってたんだけど、ここ、何処にあるんだろうね。 門の精霊様に、御城の下にあるの? って聞いてみた事有るんだけど、違うって言われたような…… じゃぁ…… どこだろうね。 いつも、私は、転移門で来てるし……
まぁ、絶対に、教えてくれないだろうけどね…… 天龍様に逢える場所って、ものっそう貴重だからね。 あれ? そういえば、龍族ってどこに住んでるんだろうね。 あははは、今更聞けないよね。 こうやって召喚魔方陣で、召喚してんだから、どっか別の場所とは思うんだけどね。
そうそう、壁に刻まれてる、限定召喚大魔方陣……あれ、一生懸命覚えて帰るんだけど、帰ったら、記憶が混濁して、よく思い出せない部分もあるんだよね…… ココなら、読めるんだけどね……記憶に残らないよ。 はて?
そんな事を考えてたら、王太后様の召喚呪文が聞こえたの。 相変わらずだね…… 王妃様も、エリーゼ様も、ゴニョゴニョだし…… 国王陛下、入り口の転移魔方陣の方見てた。 あぁ、ミハエル殿下達が来るんだと思ってんのね…… それは、無いよ。
気が付かなかった事にしとこう……
なかなか、召喚出来ないね。 王太后様なんか、私の方見てるよ…… 仕方ないね。
⦅ 天龍様。 クロエ参りました。 御姿見せてください。 お願いします⦆
壁の大魔方陣が輝いて、天龍様のお顔が、デデン! と、登場!! 【降臨の間】全体が、ぱぁぁぁって輝いて、明るくなったよ。 この間は、すみませんでした。 時間が無かったから…… マリーは、もう大丈夫だけど、まだ、私の庇護下に置きますね。 この人達に知られたくないからね。
⦅天龍様、ご機嫌麗しく⦆
⦅うむ、待っていた。 クロエの召喚は良く聞こえるのに、この者達の声が聞こえづらくてな⦆
⦅では、まずは、穢れを⦆
⦅うむ、頼む⦆
天龍様の鼻先に両手を当てて、練った魔力を送り込むのよ。 ちょびっとだけだけど、やっぱり、天龍様、穢れが身に入り込んでるね。 私の魔力が、それを駆逐して、昇華させるの。 金色の粒がフワッっと天龍様のあちこちから立ち上がるのよ。 まぁ、一番最初の時みたいじゃないけどね。
天龍様の目が、気持ちよさげに、細められるの。 そうだよね。 私のお願いって、かなり、きついよね。 だから、私も、頑張るのよ。 鍛錬を重ねて、魔力を練って…… 宜しくお願いします♪ 天龍様が、物憂げに、私に聞いて来た。
⦅何が、聞きたい? いつも通りか?⦆
⦅御意に…… では、全体状況をお聞かせ願えませんか?⦆
⦅うむ。 全体に我の加護は、行き渡っている。 クロエのお陰でな。 そうだな……四方は、まずまずだ。 魔物達の動きも抑えられてはいる。 ……東側に不穏な気配が漂ってはいるな…… 魔物達が蠢いておるのが、判る。 それを促しているのは、人の子の使う、黒魔術の気配ぞ⦆
⦅御意に……それと……⦆
⦅あぁ……いつも聞くやつか…… もう、古き血の一族の声が聞こえん…… 門の精霊から、その血に連なる者の暴挙も聴いた。 どうだ、クロエ……新しき契約を結ばないか?⦆
ちょっと、ビックリした。 体、震えたんじゃなかろうか? いや、いや、いや…… 天龍様……それは、いかんでしょ。 王家の王権が無くなりますよ…… それに、今はその時じゃないし……それに、王権を ” 渡されるべき者 ” は、私じゃ無い……
⦅天龍様……今暫く、この者達にご加護を……それに、新しき契約を結ぶべきは……私ではなく、マリーに……⦆
⦅ん? クロエの友人にか? あれも「 龍の巫女 」では有るが…… 人の子は、我が加護を望むのであろう?⦆
⦅はい、是非ともに。 しかし……私ではありません⦆
⦅ふむ……人の子の事情は、計り知れんな。 クロエ、もし必要なら、我を呼べ。 この世の理の隙を突いてでも、来臨する⦆
⦅有り難き御言葉……⦆
⦅うむ……それでな、クロエに頼んでいた事なのだが……よくやったと、言祝がせてもらう⦆
あぁ……あれか。 グレモリー様の宝珠が、機能し始めたんだ……地龍様の穢れが止まったのかな?
⦅地龍の穢れ…… くい止められておる。 ……そうじゃな。 くい止められておるのだが。 しかしな……⦆
そうなんだよね……天龍様の口振りとか、雰囲気見てると、相当、穢れは、進行してて、早いうちに浄化しないと、それこそ悪龍に堕ちかねないんだね。 そんな気がする。 判ってる。 でも、まだ、無理だよ。
⦅地龍様が愛し子の内なる魔力の増大は、まだまだで、御座います。 あと一年…… いえ、半年お待ちいただかないと……それに、練り上げ方もご存知ない筈です⦆
⦅……出来るだけ早くな…… 思った以上に、あやつ、消耗しておる。 我も含め、同族の懸念は広がって居るしな…… あやつの巫女が、穢れを払わねばならんのだよ…… 手助けはできるが……⦆
⦅努力します。 準備が整い次第、お知らせいたします⦆
⦅たのんだ、クロエ⦆
話し込んでいる私達の後ろで、国王陛下とご家族、エリーゼ様が不安げにこちらを見上げているの。 いい加減、古代キリル語覚えればいいのに…… その気、無いみたいね。 人に丸投げして……困った人達だ。 辛うじて王太后様が聞き取れるんだけど…… 天龍様、敢えて判んない様に、あんまり使われてない聖句の文言使って、お話されてるのよ。 きっと、意味、掴めてないわね。
特に、王権云々の所。 そんで、マリーの話…… 謁見の間に帰ったら、ミハエル殿下が無茶して、門の精霊様、怒らせたって、聞くでしょ。 そん時、どんな顔するか……ちょっと、興味あるけど……まぁ、知らんぷりしとこ。
だから、掻い摘んで、お話された事、伝えとくの。 話せる所だけね。 両手を天龍様に付けたまま、国王様に告げるの。 うん、かなり上から目線になるけど、一応私、「龍の巫女」だもんね。 いいよね♪
「国王様、天龍様のお言葉です」
「うむ、それで、なんと?」
「龍王国はおおむね、平穏無事にご加護が頂けております。 魔物の出現も抑えられ、民の嘆きが大きくない現在、精霊様への祈りが龍王国に安寧をもたらしております。 ただ……」
「ただ?」
「龍王国東側。 穀倉地帯に点在する森、洞穴、古代迷宮における、魔物が活発に動いているとの事。 対処の程を…… 天龍様の御懸念は、それを引き起こしているモノが、黒魔術を操る者で有る事です。 これに対処せよとの、思し召しで御座います」
えへ……付け加えちゃった。 『対処しろ』なんて、言われてないけどね。 『居るよ』ってだけでね。 でも、言わないと、しないでしょ? 国王様、なんか別の事考えていそうだもんね。 黒魔術って助言を言っても、ミルブール国教会と繋げて考えてなさそう。 他の国が、ミルブール国教会の布教を許さないのも、きっと、龍族の言葉からね。
だって、黒魔術を操る集団が、国の中に入って、魔物達を操ってるなんて聞いたら、対処するでしょ普通…… しっかり、「龍の巫女」が仕事して、国権を持つ者がその話を聞けばね。 大丈夫か、龍王国。 だから、付け加えた。 うん、後悔してない。 『 嘘 』言ってないしね。
国王様、なんか、考えていたけど、それよりも、自分達が護られているかどうかの方が、気にかかるみたい。 早く続きをってな目で、私を見てるのよ…… それどころじゃないでしょ? まぁいいか…… ハンダイ家は、もう、風前の灯なんだけどね。 まだ……一応……どうにか……保ってられるよ。
「引き続き、天龍様は、国王陛下に、ご加護を与えられるそうです。 どうぞ、龍王国を御護り下さい」
私は、そう言ってから、天龍様から両手を放し、大きく頭を下げたのよ。 国王様、めっちゃいい笑顔。 王太后様も、ホッとされているね。 御妃様、エリーゼ様、ポカンとしてるけどね。 なんの事言っているのか、判んないらしい。
「そうか! でかした!」
満面の笑みで、国王様がそう言ってたの。 なにが ” でかした ” なんだか…… ちゃんと、御自分の役割を果たしてさえいれば、そんなに不安に思う事無いのにね…… もう! んでね、今年、一番驚いた事。 ここで、ナタリヤ王妃様が、お声を上げた事。
「クロエ! なぜ、ミハエルと、グレモリーと、ボディウス教皇猊下が、いらっしゃらないの!」
はぁ? ってなもんだよ。 これ……私が応えて云いのモノなの? 視線が私に集まってる。 非難がましいのは、王妃様、そんで、エリーゼ様。 あぁ……無関心なのが、国王陛下。 困った顔してる王太后様…… どうしよう…… でも、まぁ……知ってるちゃぁ、知ってるしね。 事実だけ、答えておこう。
「ナタリヤ王妃殿下。 この【 降臨の間 】に、入室できる者は、古の契約により、限られております。 ハンダイ龍王国の国王陛下、および、先の国王陛下。 王妃殿下、および、先の王妃殿下。 王位継承権保持者の婚約者だけで御座います。 先ほど、あげられた方々は、このお約束に、合致しません。 門の精霊様によって、排除されます」
「お、王子が、排除される?! どういう事!! こ、国王陛下の、勅命で、入室は許可されているのに!!」
「ナタリヤ王妃殿下……申し訳御座いませんが、この 【 降臨の間 】の入室権限は、国王陛下には、御座いません。 天龍様のみで、御座います。 お間違いの無いよう」
「キィィィ、 陛下の御威光が!!」
なんか、癇癪大爆発だね。 国王陛下……何とかしろよ。 馬鹿みたいに、突っ立ってんなよ。 仕方ねぇ……ちょっと、脅しとくか……
「国王陛下…… 」
「うむ?」
「天龍様の、権威をないがしろにされますと、いかに御心の広い天龍様でも、古の契約を取消されるやもしれません…… どうぞ、どうぞ、お忘れなく」
国王陛下、思いっきり、顔色青くしたね。 もうすぐ白くなるんじゃね? ってくらい。 慌てて、フョードル陛下、ナタリヤ妃殿下の手を引いて、転移魔方陣に向かったよ。 その姿を頭を下げて見送った。 王太后様、エリーゼ様もその後に続かれたの。
エリーゼ様が、【 降臨の間 】出られる前に、ボソッて言ったの聞き逃さなかったわよ。
「いい気になるんじゃないわよ、下賤の者が!」
ってね。 彼女が、転移門から飛んでから、私の口元に、ものっそい ” 笑み ” が浮かんだの。 自分でも、ハッキリと判るくらい。 冷たい、笑みがね。 天龍様、なんか困惑されてる。 あの人達の言葉は、私の中で、自動翻訳されて、天龍様も聴いてるんだけどね。
⦅クロエ……なぜ、笑っている?⦆
⦅天龍様……ハンダイ王家から、人心は離れております。 これ以上の醜態をさらさば、自分達の立場が危ういと、少なくとも王太后様はご存知です。 しかし、深く食い込んだ、古の契約を知らぬ、邪なる者達が、彼等に囁き続けているのです。 ” 王権は、人のモノである ” と。 天龍様の御加護が離れるという意味をご存知ない方々の、世の理を知らぬ、解釈です。 これが、笑わずにいられましょうか⦆
⦅クロエ……おまえ、護り抜く気だな⦆
⦅ええ、左様に御座います。 少なくとも、世界の悪意から、人の子たる、龍王国の民を⦆
⦅……良く判った。 しかし、クロエ⦆
⦅はい、何でございましょうか⦆
⦅死ぬな。 よいな、決して自ら死ぬな。 韜晦すればよい。 その為ならば、手を貸す⦆
⦅御意に……ありがとうございます。 誠に、誠に……⦆
振り返って、優しい目をした、天龍様の鼻先にもう一度両手を置いた。 温かい優しい魔力が、私の両手に戻って来るの。 私も、自分の練った魔力を両手に集めるの…… 二つが混ざり合って、光の粒が立ち上るの。 眩しいような、優しい光だった……
なんか、ものっそう、満ちたりた気分になったよ。 ホントにありがとう。 天龍様。
⦅さぁ、我を送還してくれ。 あまり長い間は、この世界におれんからな⦆
ん? どういう事? でも、天龍様のお言葉だしさ…… 送還呪唱えたよ。 スゥゥって、召喚大魔方陣で帰られたよ。 薄暗い 【 降臨の間 】に一人残された私…… なんか、色々あったね。 ちょっぴり、物知りになった気分。 そんで、愛し子の意味も何となくわかった。
もちろん、古の契約は、理解してるけど……ほら、感覚的なモノね。
さて、帰るか。 マリー達がまってるからね。
転移魔方陣に乗っかって、” 帰る! ” って念じたら、あっさり帰れた。 ここの、精霊様にもちゃんと、お土産渡してるしね。 後三枚の扉をスルって抜けると、王城ドラゴンズリーチの【 謁見の間 】に、到着したんだよ。 いつも通りね。 そしたら、目の前に侍従長が、立ってたの。
「クロエお嬢様……晩餐か……」
全部言い切る前に、言ってみた。 冷たい表情でね。
「出席せよ、ですか?」
「ええ・・晩餐会では、皆さまがお待ちに……」
「なっていませんわよね」
「……」
ほらね。 侍従たちのカッコが付かないからって、付き会わすなよ。 冷たい目で見ながら、侍従長に、続きを告げるの。
「また、晒し者にして、溜飲を下げるつもりなのかしら? 【降臨の間】での事は、わたくしの口からは、” 一切 ”、申し上げませんが、出席された方々が、どんな感情をお持ちかは、容易に想像が付きます。 また、この晩餐会は、たしか ” 慰労 ” であり、出席義務は課されて無いと、お聞きしましたわ」
「はい、クロエお嬢様。 左様に御座います……が、しかし・・」
「ならば、出席致しません。 ところで、侍従長様、先程のおかしな振舞を成された御二方は?」
なんか、目を白黒させながら、冷汗かいとるなぁ…… そんなに、自分の立場が惜しいのか? いい加減にしてほしいよ。 私の立場なんぞ、どうでもいいんだろ? ほっといてくれよ。
「御手当したのち…… かなりご立腹でした。 国王陛下が、ミハエル殿下を諭され…… 今は落ち着いておられますが…… 教皇ボディウス猊下に置かれましては…… 晩餐会でクロエお嬢様にお会いしたいとの、思し召しであらせられます」
「もう一度、言います。 出席しません。 ミルブール国教会の教皇様に望まれたから、出席しろと? 侍従長、貴方ならば、我が国以外での、ミルブール国教会への対応、ご存知のはずです。 それでも、出席を強要されますか?」
ほら、応えてみろよ。 他国は、巡礼者すら、受け入れてないんだぞ? それを、教皇自ら龍王国に来てるって? 他国からすれば、龍王国は、ミルブール国教会に帰依したって見られるぞ? 違うって言っても、思いっきり不審の目で見られるぞ?
黒龍の奥様も、ソフィア様も、今年から、【降龍祭】の後の 【 晩餐会 】には、出席されないって、言ってたし。 ……あれ? ……どうなんだろ? ……出席されているのかな? それと、マリーの御父様…… あの人も、他国の方々と貿易とかで、関りは深いし…… どうなってるのかな?
「侍従長、黒龍大公家ウラミル閣下の奥様と、令息リヒター子爵の奥様は、ご出席なのでしょうか? もう一方、アズラクセルペンネ青龍大公閣下は?」
「……お、御三方の御出席は……早々にご辞退と、相成りました……」
「そうですわよね。 御三方とも、外国からの賓客を、よくおもてなしになって居られますものね……では、何故かも、お分かりかと。 と言う事は、現在、ご出席の方々は、全て、ブランモルカーゴ白龍大公閣下の係累の方々のみで、ございましょうか?」
「……さ、左様に御座います」
「では、わたくしも、……黒龍大公ウラミル閣下の、『 奥様 』の、判断に準じさせて頂きます。 侍従長、それでは、ごきげんよう」
ふぅ……侍従長に、ちゃんと伝わったかな? 伝わって欲しいね。 て、言うか、判れよ。 ミルブール国教会の教皇と親し気にするって事は、ミルブール王国以外の国々との国交が、困難になるってことだよ。 国王陛下はあんまり、そんな事気にされない方だから、お前らが、きちんと判断すべき問題だろ?
なにか? 白龍大公閣下辺りからの、ゴリ押しか? あの方……いったい何を考えてらっしゃるか、いまいち、理解できないんだよね。 ミルブール国教会が、ミルブール王国を掌握してるとでも、思ってんのか? 外交担当だろ?
踵を返して、【 謁見の間 】から、退出した。 今日の【降龍祭】で、確信した。 ハンダイ王家は、龍王国に対して、害になる。 妖魔精霊の信奉者を、内郭に入れた。 古の契約の意味を忘れている。 野心家の白龍大公閣下は、国王陛下を、そして、次期国王陛下を裏から、操ろうとしている。ミルブール国教会と共に……
いけない……排しなければ……いけない。 でないと……
龍王国の民の安寧が破られる……
ギュッと拳を握り込んだよ。
もう、ほんとに、
後戻りは、
出来なくなった。
ブックマーク、感想、評価、誠に有難うございます。
嬉しいです。 モチベーション上がります。
―――――
降龍祭での事でした。 クロエも見切り始めています。 王家と、白龍大公家・・・
彼らの未来は、何処に向くのでしょうか・・・ 心配です。
それでは、また、明晩、お逢いしましょう!!




