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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
たとえ、悪者になっても
76/111

クロエ 夏の長期休暇を有意義に過ごす

 


 アスカーナを誘って、黒龍大公のお屋敷に向かったの。 馬車よ、馬車。 うん、流石にアスカーナを歩かせるわけにはいかないからね。 そんで、ヴェルにお願いして、用意してもらってたの。 ほら、去年もお願いしたじゃん。 



     でね、なんでか今年は、豪華な馬車になってた。 



 えっ? 私の友人としてではなく、アレクサス御爺様の賓客として? そうなの? 凄いね、アスカーナ。 あなた、御爺様に認められてるのね!






「え、え、そ、そうなのですか?」


「アレクサス黒龍大公翁様から、直接、乗り物を準備されたのよ。 貴方は、御爺様の賓客なの。 私はついでに、便乗させてもらうみたいね。 宜しくね、アスカーナ様♪」


「そ、そんなぁ……クロエ様の、意地悪……」





 ニヨニヨ笑いながら、黒龍のお屋敷に戻った。  先ずは、奥様と、ソフィア様にご挨拶しようと思ってね。 アスカーナも一緒に……って思ったら、奥様も、ソフィア様も、フーダイに居るって。 そっかぁ…… 外国からのお客様対応されて居るんだ……ゴメンね。 帰って居られるかと思ってたけど、あっちで、頑張ってるみたいね。 ソフィア様、ガンバ!! 私、今、とっても楽させてもらってるよね。 


 そんで、お屋敷には、見慣れない、第三執事の方とか、いつもは、あんまり見ない方々ばっかりだったよ。 うん、マリオも、アンナさんも、主だった人達、みんな、あっちへ行ってるもんね。 お手伝いにね。 そんじゃ、アレクサス御爺様の処へ行こう!!


 勝手知ったる、黒龍のお屋敷。 とっとこアレクサス御爺様の、執務室へ向かったの。 で、重厚な扉に、ノックノック!  音もなく、扉が開いて、めっちゃご機嫌な、アレクサス御爺様が、机の向こうに座って居られた。





「クロエ、戻りました。 ご機嫌麗しゅう」





 久々に、ばっちりカーテシーを決めたよ。 制服だけどね。 アスカーナも、それに続くの。





「今年も、お邪魔致します、アレクサス黒龍大公翁様。 どうぞ、よしなに」


「おう、来たか。 待って居った。 ……クロエ。 今年は、エリカーナ達は居らんな」


「はい、フーダイで、茶会、夜会にと、お忙しいそうです」


「お前は、シンダイで待機か…… 王家関連の呼び出し対応か?」


「はい。 今年の外国からの賓客は、ソフィア様が対応されると。 奥様は、その介添えに回られると。…… わたくしは、ドラゴンズリーチよりの、呼び出しに応えなさいと、仰いました。 今年は、此方に残る事に成りました」


「そうか……時間は取れるな」


「はい」


「ミーナも呼べ」


「はっ?」


「少し、手解きせねばならん。 アスカーナと、ミーナにな」


「黒龍大公翁様?」


「両面が必要なのだ。 正攻法と、裏の方法がな。 これらの力がいずれ、必要となる」





 ピンときた。 そっか…… マリーの側近にするんだ。 で、二人に、諜報戦仕込むんだ…… そっか…… でも、アスカーナは、嫌うと思うよ? 結構エグイもの…… ミーナは…… 嫌がってても、するかな? 積極的で無いにしても、素質は有ると思うよ?





「わたくしは?」


「指導役だ。 儂と一緒にな」





 う~ん…… そっか…… まぁ、そうなるよね。 手解きに、御爺様と、私が対戦するのね。 また、死闘するのね…… 気合い入れないと、死ぬ奴。 いいけど…… これで、とうとう、バレる訳ね。 アスカーナに…… はぁぁぁ 気が重い……


 でね、ヴェルにミーナを、呼んでもらったの。 出来るだけ、楽な姿でね。 ほんと、マジな話、恰好なんて、気にしてられなくなるもの…… そんで、ミーナが来た。 メイドとして呼ばれたと思っていたよ。 残念、あなたは、大切な手駒になるのよ。 マリー様の側近にね。 





「盤の用意はしてある。 クロエ、まず、手本を見せる。 付き合え」


「はい、御爺様」





 中規模盤が、執務机に置いてあったよ。 準備万端だよ。 状況説明書も有ったよ。 勝利条件もね…… やっぱり、不正規戦だね…… 





「アレクサス御爺様」


「なんだ?」


「彼女達は?」


「横で見て貰う。 解説は、ヴェルにして貰う」


「はい」





 やっぱり、そうか……ヴェルの思考って、ソッチ系だもんね。 かなり、アレクサス御爺様に鍛えられたんだろうね……じゃぁ、仕方ない。 全力を以って、思考を開始しますね。 御爺様。 






 ―――――






 うん、丸三日潰れた。 まさしく死闘。 こっち系の思考は、この頃ずっとしてるから、鍛えられてた。 見え透いた手の裏側に、判りにくい手を紛れ込ませて、あとで、効くやつとか。 全四十季、勝利条件は両陣営とも同じ、国力の増大と、敵国を圧倒する事。


 国軍は全軍一斉の使用を禁止。 動かせるのは、国軍の内、数個師団のみ。 ただし、部隊は問わない。 うん、辛勝。 勝てたよ。 アレクサス御爺様、また頭、掻き毟ってた。 だから、髪の毛無くなるよ? そんなにゴシゴシしたら。 


 御爺様、手を抜いたら怒るから、全力を出させて頂きました。 流石に、王都は落とせなかったけど、ガタガタにして差し上げました。 私の陣営? うん、王家も存続してるし、国軍も全軍健在。 国民もある程度裕福。 食料事情も悪くない。 周辺の魔物達も、抑えきってるしね。 開始時の二割増しくらいの国力。


 対する、御爺様の陣営。 王族一人だけ。 国軍二割減。 国民結構貧乏。 食糧事情、餓えない程度。 周辺の魔物達、一部、暴走中……うん、これは、此方からの仕掛け。 で、国力、開始時の一割減


 総合的に見て、三割くらい、私の陣営が有利なんだ。 四十季目でここまで、来れた。 最初は国力半分まで減らされたけどね…… 血走った目で睨みつけられながら、アレクサス御爺様は、私に言ったの。 





「鍛えられたの」


「御爺様の薫陶のお陰です」


「はて? そうか?」


「課題は果てしなく厳しく、兵站は切られております故」


「……すまぬな」


「いえ、望んだ道です」





 多分、最後の会話、二人には、判んなかったと思うよ。 現状の私の事で揶揄やゆしてみた。 でも、アスカーナも、ミーナも、それどころじゃなかったね。 盤上に蠢く怪しい作戦やら、行動に、目が奪われてた…… 興味津々というより、ドン引きって所。 人間って、どこまで悪辣な事考えられるかって、見せちゃったよ…… だって、死にたくないもの。


 アスカーナが震える声で、私への言葉を紡いだ。






「ク、クロエ様…… こ、こんな思考方法…… 初めてです。 でも、これって、アレクサス黒龍大公翁様の仰ってた、あの、” 悪魔を身の内にとんでもない飼う女童めのわらわ ”様と、同じ……」






 ニッコリ笑って、頷いて、そんで、突き放したように、応えてみた。 ゴメンね、隠してた。 そんで更に、ゴメンね、優しくして上げらないの……特に今は。






「生き残る事に特化した考え方です。 極めて現実に近い事ですね…… 現実では、国軍はそうは簡単に動かせませんから……しがらみだらけです。 そうですわよね、御爺様」






 御爺様、黙って頷いてらした。 ミーナが、半分涙目で、私に聞いて来た。 縋るような、眼つきだったよ。 突き放したけど…… だって、マリー様の後ろに立つんだから、甘えは許され無いのよ。 本当に厳しい道なのよ…… お願いね。 これは、貴方達にしか出来ない事なんですもの。 






「あの、クロエお嬢様……これを、私が……するのですか?」


「ええ、そうよ。 アレクサス御爺様は、出来ない事は要求されませんから」






 さらって言っとく。 出来る、出来ないならば、きっと出来る。 ただ、自分との戦いになる。 手を抜けば、見破られ、付け込まれる。 全力を持って思考しても、失敗すると、四十季持たず、滅亡する。 その後は、お叱り。 いつもの事よ。 御爺様、容赦なんかしないもの…… だから、「勝つ」しか無いの。


 御爺様、渋い顔をしながら、二人をみて、仰ったの。






「一度、盤面を変更する。 お前達も、混ざれ。 勝利条件は、同じじゃからな」






 あぁ~あ…… 始まっちゃったよ。 私は、止められないよ? だって、私、教えるとか、導くとか出来ないもの。 この二人には、そう言った事は不要よね。 自分達で、出来るもの……私の役割は…… うん、ヘタ打ったら、叩きのめす事だね♪ そういう事でしょ?  盤面は、二組。 御爺様と、アスカーナ。 私と、ミーナで始めたのよ。





 ―――――





 丸三日の間に、十数回、ミーナが泣いた。 ポロポロ涙をこぼしてね。 ダメよ。 泣いちゃ。 泣いたって、国は滅亡するだけ…… 生き残りたければ、思考するの。 突き詰めてね。 それがたとえ、どんな悪辣な手段であってもね。 同じ盤面で、十季持たないもの…… でも、十季以上持つことも有るのよ? 少ないけど……


 アスカーナも泣いてた。 うん、とっても悲しいね。 まったく違う思考体系だもんね。 正々堂々とした、綺麗な手なんか、何処にも無いモノ…… でも、筋はとってもいいわね。 頑張ってるよ…… 五季持たないけど……






「クロエ、どうじゃ?」


「どうとは? お二人とも、頑張って居られますわ…… ただ、アスカーナ様は、性格的に向かないと思われますの」


「……ミーナは?」


「私と手合わせして、最長で十三季までは……でも、其処で手詰まり……」


「容赦がないの」


「あら、御爺様が、そうしろと、仰いませんでしたか?」






 ニヤリって感じで笑い合いながら、テーブルの軽食を食べてたの。 二人は、精も根も尽き果てて眠っている。 執務室の片隅に置いてある、簡易ベットでね。







「次は、二人にさせてみるかの」


「宜しいのでは? 拮抗したお二人の実力ならば、見ごたえのある、ゲームになると思いますわ」







 また、ニヤリって二人で笑った…… あぁ……あとで、優しくしよう。 こんな事ばっかりしてたら、本当に、心が真っ黒になるよ。 呼吸鍛錬してて本当に良かった…… これは、思考方法の鍛錬。 追い込んで、追い込んで、追い込んで、そして、身に付く考えかただもんね。 


 でも、二人とも、よくやってると思うよ。 他の人だったら、きっと逃げ出してたわ。 きっとね。 で、私も、ちょっと、おいとまする。 やる事有るもん。






「アレクサス御爺様。 少し、抜けます。 ……五日間くらい」


「うむ……悪かったの」


「お屋敷には、必ず 戻ります。 学院の方で、少しと、青龍大公様のお屋敷にも行かねばなりませんので」


「うむ…… その間は、鍛えて置くぞ」


「あまり、無茶は、ダメですよ? 女性なんですからね」


「うむ、心得ておる」


「本当にですよ?」






 苦笑いしながら、アレクサス御爺様は、頷いてらした。 お二人に、ちょっとしたメモを残し、私は、お部屋を辞したの。





 **********





 先ずは、学院に戻ったの。 エルと、ラージェは黒龍のお屋敷に、留まってもらった。 アスカーナとミーナのお世話をお願いしたの。 きっと、ボロボロになるから。 癒してあげて…… 


 ヴェルと一緒に、魔法騎士団の屯所に向かったの。 そう、「例の件」。 魔法研究員の方……まともに会話は出来ない方達だけど、何らかの報告書は作ってるはずだから…… 見せて貰うのよ。 でね、行ったら、取り囲まれた。






「シュバルツハント! ど、何処からほどけば、いいんだ!  あれは、何だ!」


「放置していても、周囲に精神汚染が広がる! どんな兵器なんだ!」


「あんなもの、どうやって防げばいいんだ! どこで、手に入れたんだ!!」






 口々にそんな事、言ってくれやがりますね…… 普段、めっちゃ上から目線なのに…… 高位の研究職だからね。 あんた達、魔法に関して自分たちの右に出るモノはいないって、豪語してたじゃんか……


 仕方ねぇな…… ちょっと、実験室借りるよ。 うん、耐魔法障壁がガッツリかかってる、あの部屋。 知ってんだよ、そんな部屋があるの。


 ヴェルにも影響がでそうだから、部屋の外に居て貰った。 魔法研究員の筆頭を含め、数人の方達だけに入ってもらった。 ほら、ヘタに色々な人を入れて、精神汚染が広がったら、マズいじゃない。 そんで、重耐魔法結界の大魔方陣を発動してもらった。 テーブルの上に、私の傀儡の核だけおいて……



            【 強制展開 】 



 掛かっている魔法の魔方陣が展開されたの。 うん、掛ったままね。 こういった、精神系の魔法は対象者に魔方陣が転写されることが多々あるのよ。 外側から剝く事が結構、難しいのよね。 其処に私の依頼。 ”  解析お願いできませんか? 解呪、無しで……  ” だから、剥けなかったのね。 




            展開した結果……



【 魅惑チャーム 】とその上位魔法の【 魅了 】、【 誘惑 】。 それから、【魔力吸引】、【魔力転送】、【 威厳 】、【 威圧 】、【 服従 】。 ヤバいのは、【妖魔精霊勧誘】。 その数、九種類。 禍々しい黒紫色の魔方陣が目の前にクルクル回りながら現れたのよ。 よくもまぁこれだけ…… あぁ。グレモリー様の宝珠ドラゴンドロップ展開した時に、一部これに転写されたモノもあるのか……



      魔法研究員の皆さま、目を剥いて……息をのんでた。






「九種類ですね…… その内、魅惑系の魔法が三種。 かなりの強度になります。 まともに食らったら、精霊教会の教主様であろうと、高位聖職者であろうと、なにも考えられなくなって、帰依しちゃいますね……これじゃ……」


「シュバルツハント……これは?」






【妖魔精霊勧誘】の魔方陣を指さしながら、そう聞かれたの。 うん、ヤバい奴ね。






「問題は、此れです。 この魔方陣は、妖魔精霊が近寄ってきやすいように、対象者の ” 欲 ” を搔き立てます。 金銭欲、名誉欲、それと……淫欲も。 対象者の望むものが、ハッキリと判ります。 判りやすいモノがですが…… それを、妖魔精霊が関知して、手持ちの駒の中から、その ” 欲 ” を満たせる ” 者 ” や ” モノ ” を、しるしとして、対象者に分け与えるのです。 精神が……と云うより、魂が汚染されます」






 絶句しとった。 古文書でこの魔法を見つけた時、私も、絶句したよ。 そんで、グレモリー様の宝珠ドラゴンドロップに掛けられてたって判った時、血の気引いたよ……






「ど、どうすれば……か、解呪無しで……無力化出来るのでしょうか……」






 なんか、いきなり、敬語になってるよ、筆頭…… いやね、そんなに、畏まらないでよ。 この魔方陣、連携されてないでしょ? 全部単発。 だったら、やり方はあるのよね。 放射型の魔方陣は、内外逆転させてやればいいだけだし、指向型の魔方陣は、入り口と出口繋げてやればいいんだよ。 



            で、実際やってみた。




               出来た。




 単発で、やり易かった。 これ、重複してたり、連携してたら、それも考えなくちゃ、ダメだったんだけど、助かったよ。 でね、皆さん、それを見て、また、目を剥いてた…… あのね、別にバラシて、再構成するだけが、研究じゃ無いよ? 起動してる魔方陣を歪ませない様に制御するのも、必要な事なんだからね。 で、此処からがお願い。


 一応、無害化したけど、まだまだ、判んないことだらけだしね。 展開した状態で、此処に置いとくから、魔力の流れとか、この魔法を放った者が誰なのかを、調べ上げて欲しいのよ。 出来る? 出来るよね。 やってよ。 お願いします。






「……判った。 調べ上げる。 このような解析は、今までした事が無いが……いや、興味深い……シュバルツハント、大変参考になった。 礼を言おう」


「皆様の能力は、龍王国最高峰で御座います。 何卒、よしなに」


「……嫌味か?」


「まさか、 本当にそう思ってましてよ」


「全力を持って、当たるとしよう…… シュバルツハント、君には負けない」


「……宜しくお願い申し上げます」





 なんか、プライド刺激しちゃったね。 まぁ、結果が出れば、私が嫌われたって、別にいいじゃん。 それに、これ、とっても厄介な代物だから、注意してほしいね……巻き込まれない様にね……多分、大丈夫だろうけど……


 深々と、頭を下げて、その部屋を出たの。 もう、魔法研究員さん達、魔方陣に釘付け。 強制展開の魔方陣……見た事有るのかな? あんまり、驚いてなかったしね。 まぁ、有るんだろうね。 ここ、そういう部署だもんね。 


 じゃぁ……次、行こう、次!!





 ―――――





 一旦、お部屋に戻るつもりで、外郭通って、学院に向かってたの。 そしたら、ヒョコヒョコ歩く、マーガレットが居た。 ん? すんごい荷物持ってるよ。 遠目に見ても、大変そうね。 手伝おう!





「マーガレット様! 重そうな荷物で御座いますね。 お手伝い致しましょうか?」


「あぁ、クロエか……うん、お願いしたい…… 今朝、父上から届いたんだ……部屋まで運ぼうと思ったんだけど、学院の人も少なくてね、この時期。 だから、自分で運んでたんだ……ちょっと、重い」





 マーガレットの、御父様って、たしか……そうだ、ウィロー=ヴェルスタッド=エスパイヤー子爵、南の辺境伯様の傍系で……薬草学の大家……そうだよね。 そんで、ドラゴンズリーチの役人と大喧嘩して、領地に引っ込んだ人だった…… 原因、なんだったっけ?  手を貸しながら、そんな事考えてたら、マーガレットが、答えを言ってくれた。





「父上は、危険植物の地植えの植物園を作りたかったんだ。 此処にね。 薬効高いし、地植えの方が、良く育つし。 ほら、王都シンダイの周りって、魔法草とか、良く育つじゃん。 地面が魔力を良く溜めてんだよ。 でね、管轄の官吏と大喧嘩…… それまでの植物園の筆頭園師を辞しちゃって、領地に戻って、自前で作ったんだよ……「あほ」だよね……お陰で、うちは、万年貧乏なままだよ」





 でも、これなんだ? ホントにデカいのよ? 






「父上が、送ってくれた、薬草類だよ。 びっしり入ってるよ。 うん、クロエの言う、ヤバい奴」


「マジ?」





 ……思わず、口から、本音が漏れた。 だから、箱に入れて送ってもらったんだ…… これ持って何処に?





「部屋に……私の部屋。 あぁ、研究室じゃないよ?」


「ご一緒しても?」


「歓迎するよ」





 でね、お邪魔した。 マーガレットのお部屋……初めて来た。 子爵家の子弟のお部屋は……ものっそう居心地がいいね。 しっかし、いいのかね。 ヤバイ薬草類だろ? 研究室の方が良いんじゃないのか? ……あぁ、そうか…… これ、学院にも内緒の奴なんだ……






「狭くてゴメンね。 子爵の格だと、これでも良いほうなんだ。 一人部屋だしね。 男爵令嬢なんか、二人部屋に成ったりするんだよ。 まぁ、低位貴族には、そんな所だよね」


「そうなんだ……私には、こっちの方が落ち着くけど」


「ほんと、クロエは辺境の娘だね。 狭い方がいいなんてね」


「そう? だって、何処になにが有るか、一発じゃん。 で、何処に置く?」


「うん、此処。 ちょっと待って。 お茶入れるから」





 荷物を置いたの。 ヴェルはお部屋の外で控えてくれた。 そうね、此処は彼女の御城だから、通常対応で大丈夫ね。 もう、なっちゃってるけどね。


 お茶を入れて貰って、小さなテーブルに二人して向き合ったよ。 なんか、ほっこりした。 テーブルの上に、薬学関連の本が山積みされてるね。 開いてあるページなんか、ちょっと、ヤバめ…… 一体何研究してんだか……





「そんで、大丈夫だった? あの猊下と直接対決したんだろ? 心配したよ。 まぁ、私たちの【精霊祭】で、どえらい物見せてくれたから、大丈夫だとは思うけどね」


「うん……体調悪かったけど、原因も判ったしね。 対策もとれたし」


「そうなんだ。 ……気を付けてね」


「うん、ありがとう。 十分に注意してる。 でね、マーガレット、なにか、私が知っておくことない?」


「そうだね……」





 腕組んで、ちょっと考えてた。 なんか、可愛いね。 そんで、ふと、思いついてた。 私の目を見て云ってくれた。





「クロエの婚約者様……グレモリー様にご執心だよ。 もう、なりふり構わず、なんやら、かんやら、してるね。 エリーゼ様、モヤモヤしてるみたい。 彼女の御婚約者であらせられる、第一王太子フランツ殿下が、辺境巡察してるってのにね……なんか、変な構図だよ。 そんで、そんなミハエル殿下のケツ持ちしてんのが、猊下……なんだろうね。 ちょっと不思議。 グレモリー様のお輿入れでも、狙っとるのかね」





 ふん、ふん、そうなんだ。 なるほどね。 あいつ等がやりそうな手口だ。 頭から腐らそうとしとるんだ。 そんで、私が邪魔なんだ…… まぁ、そうなんだろうね。 そんなに近しくしてないし、普段は、没交渉だしね。 排除するには、相応の策が必要だもんね。 今度の【降龍祭】、気を引き締めて行こう。





「ありがとう。 私、本当にあの人達にとって、お邪魔虫だって事ね。 王族の人達、避暑でどっか行ってるしね」


「あぁ……そっか…… あんまり、クロエが普通に居るんで、忘れてた。 そうだよ、王族の人達、グレモリー様への歓待で、あっちこっち行ってるって。 まるで、外国から御妃様迎える準備してるみたいって。 内宮の人達の間で噂に成ってたよ。 クロエ、あんたの立場、完全に無視されとるよ?」


「まぁ、いいんじゃない? 王家の方々とは、お近づきに成りたくないし……ここだけの話、グレモリー様には、大きな役割もあるしね。 思惑通りに進むことなんて無いよ、きっと」


「ふ~ん、そうなんだ。 クロエ、なんか、仕掛けてる?」


「まぁね……情報収集中……罠に嵌り込まない様に頑張ってるよ」


「そっか……なんか、手が必要だったら、手を貸すよ」


「うん、お願いね。 そん時は、ちゃんと、お願いする。 全部話すから」


「そうだね」





 二人して、ニッコリ微笑んだよ。 黒く無いよ? 朗らかに笑ったよ? だって、マーガレットの顔、本当に心配そうだったもの。 うん、大丈夫。 きっと、大丈夫。 罠なら喰い破るし、戦なら、反撃する。 その為の情報戦だし、手を抜くつもりは、全くない。 こっちから、手は出さないけど、むこうから出して来たんなら、容赦しないよ。


 まぁ、そんな感じで、お部屋を辞したの。 今日はもう遅くなっちゃったから、青龍大公様のお屋敷に行くのは、明日にしようね。 マリーへの天龍様からの贈り物も、もうすぐ全部渡せるしね。 


 また、あいつ等、色々、悪巧みしとるんだろうね。



           負けないよ。



       お風呂入って、精進潔斎して


           聖句を唱えて


           眠りにつくの。


           なにが有っても、


          対応できるようにね。








           おやすみなさい。






ブックマーク 評価を頂き、本当に有難う御座います。

中の人、舞い踊っております。


―――――

クロエの夏は、穏やかに過ぎていきます。


穏やかか?


ええ、そう、穏やかです。 だって、命の危険が無いのですから・・・

まるで、彼女は戦神の守護が付いているみたいです。 つねに、やらかしております。


さて、物語ですが、三年目も終わり近付き、次回は【降龍祭】となります。


冒頭は違いますが・・・そのつもりです。


進行が、中の人の予定より、十話近く遅れております。 はぁ・・・

どうなってるんでしょうか。 物語の構成力とか、走らせ方とか・・・

書けば、書くほど、判らなくなります・・・ 勢いとノリでここまで着ました。

見捨てないでください・・・ 


切実に思います。


読んで下さった方、本当に有難う御座います。


では、また、明晩、お逢いしましょう!!

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