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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
たとえ、悪者になっても
73/111

クロエ フランツ殿下の昔語りと、精霊祭へ招待

8/14 副題を変更しました。


内容は同じです



 


「少しばかり……昔話がしたい」


「ええ」





 ボソリって感じで、フランツ王太子殿下が、零された。 お茶を飲みつつ、私は、出来るだけ静かに答えたの。 もう、こうなったら、破れかぶれね。 辛うじて、助教と生徒だと、周囲が認識できるよね。 そうだよね。 宵闇に包まれつつある、東屋で、ヴェルが居たって、二人っきりみたいなもんですもの…… 





「私は、十一歳の夏にエリーゼと婚約した。 学院に入る前だ。 国王陛下の主催のもと、王室舞踏会が催された。 高位の貴族家の者達殆どと、白龍大公と、国王陛下、王妃殿下、王太后様が列していた。 その場は、私と、エリーゼの婚約式でもあった。 国王陛下と、高位貴族家の者達が望んだものだった。 龍印を持つ女性との婚姻は、ハンダイ龍王国の安寧に不可欠なのだと、そう教えられた」





 まぁ、確かにそうよね。 国王陛下はもちろん、その御妃様は、天龍様のお声を聴かなければならないものね。 


 男性は、国王陛下と、国王陛下に登極した方しか、【降臨の間】には、入る事出来ないもんね。 うん、これ、天龍様始め、龍族とのいにしえの契約の一つ。 


 女性は、妃殿下と、妃殿下に登極した方、それと、次代の妃殿下・・・・・・つまりは、王太子様の御婚約者が、【降臨の間】に入る事ができるのね。


 昔の話だけど、ずっと以前は、もう一方……「龍の巫女」が、同席されたらしいわね。 ハンダイ龍王国の歴史書なんかの、古い記録にあるんだけどね…… ただ、かなり、” やんちゃ ” されたみたいで、その席が用意されたのは、長い龍王国の歴史の中でも、極初期に一度だけ……だったね。


 フランツ王太子殿下の言葉は、月の光に促されるように続いたの。





「まだ五歳のエリーゼは、何の事か判って無かったよ。 キョトンとしていた。 署名もそこそこに、ミハエルの元に行き、弟と遊んでいたなぁ…… 白龍も、何も言わず、王妃殿下もそうだ……。 だれも、注意しない。 その上、私は、高位貴族への対応で、クタクタになった覚えがある。 あの広い大広間、大勢の賓客が犇めいている中で、わたしは……なぜか、とても孤独を感じていたのだ」





 なんか、とっても目に浮かぶね。 次代の国王陛下として、その時から強いられているんだね。 貴族の対応って奴をね。 そりゃ、十一歳の、”男の子” としては、辛いだろうなぁ…… まぁ、それまでも、かなりの教育・・を受けて来られてたんだろうけどね…… 


 生涯を共にする伴侶が、年端もいかない女児。 周りは大人だらけで、高度な政治的会話が飛び交ってる。 誰も助けてはくれない。 誰も寄り添ってくれない。 人は大勢いるのに、孤独を感じてしまう。 うん、かなり、追い詰められるね…… でも、まぁ、王族ってそんなもんだよね。 





「夜が明ける頃、やっと王室舞踏会は終わった…… 朝焼けが、バルコニーから見えていた。 私は、最後の最後まで、居たんだ。 王命でね。 全ての賓客が帰り、それこそ、膨大な量の愚痴やら、噂話を、これでもかって位、注ぎ込まれたよ。 国王陛下の意図は、話を聞き、不満や不平の均衡をはかれって事だと理解した。 ……ただ、ただ、疲れた…… 勿論、エリーゼや、ミハエルは、先に下がったよ。 ” 子供に無茶はさせられませんからな! ” ってね。 あぁ、これは、白龍大公の言葉だ……」





 言外に、じゃあ、十一歳の自分は、もう、大人だと云うのか! って、そんな感情が、フランツ王太子殿下の瞳の色から、読み取れた。 ふんふん、そうだよね。 十二歳は、辺境では、第一成人だもんね。 何かしらの職業に就く為の見習いになれる年だもんね。 そっか……フランツ王太子殿下、十一歳で王様見習いになったんだ……



        ある意味、すっげ~~!



 そん時の取巻きって、誰だったんだろ? 同年代の御学友…… あぁそっか、まだ、学院入学前だし、特別、親しい同年代の者を、御側にあげるのは、偏りが生まれるってことで、まだ誰も御側にいないんだったっけ…… んじゃぁ、そん時、フランツ王太子殿下の周囲に居たのって教師陣? 


 あぁ…… 舞踏会参加資格、無いよね。 それじゃ…… 孤立無援だね。 好意にしても、悪意にしても、生の感情をモロぶつけて来る大人達。 防壁となる、自分の味方・・・・・の教師達は、その場に入る事すら、許されてない。 さらに、ご両親であらせられる、国王陛下、妃殿下は、フランツ王太子殿下に丸投げ。 一切の配慮無し。 つうか、” 婚約者が決まったんだ、喜べ! ” くらいなのかもしれんね……





「辛かった…… 何もかもがね。 上着を脱いで、ドラゴンズリーチから外へ出たんだ。 まぁ、警備の目を掻い潜ってだけどな…… 朝の澄んだ空気が、気持ちよかった。 体の中に溜まっていた、黒い物を溶かしてくれる感じがした。 ウロウロと歩き回って…… その時、その女の子に出会った……」





 フランツ王太子殿下、右手の中指にされて居る翡翠の指輪を、コロコロ回してるね。


 あぁ~~、そういえば、ソフィア様が、お輿入れになる前に、一度、黒龍のお屋敷に見えられたよね……あんとき、ソフィア様、言ってらしたわね。 フランツ殿下、その翡翠の指輪を、今と同じようにコロコロ回してたよね。






 ” お兄様、まだ、下女・・の ”クロエ” とやらを探しておられるのですか? ”






 うはぁ~~~、なんか、ヤベ~~~な。 確かに渡したよ……めっちゃ、” いい笑顔 ” の対価にね…… 私だって、あんときは、結構煮詰まってたよ…… 辺境から無理に連れ出されて、王都シンダイに着いたら、いきなり放り出されて、黒龍大公家では無く赤龍大公家で、御給金の出ない、下働き…… アリが居なかったらって思うと……ちょっと、ヤバかった。





「その子とは……フランツ王太子殿下が、お探しの、クロエという名の下女ですか?」





 振ってみた。 赤龍大公閣下、私の事隠したみたいだね。 身内の騎士が、アリ様を侮辱して、蔑んで、五歳の女の子にぶっ飛ばされたなんて、言えないよね。 当然、私の事は、黒龍大公家と、赤龍大公家の秘密になった訳だね…… そりゃ、フランツ王太子殿下が知らない訳だ……





「ああ、 逢って、一言でいい、礼が言いたかった。 あの時、あの場所で出会っていなかったら、私は困った男になっていただろうから」


「と、いいますと?」


「モヤモヤが心の中で、黒い感情が渦巻いていて……あの時、” クロエ ” に逢わなかったら…… 心を浄化する術を教えて貰っていなかったら…… 私は、ダメになっていたと、今でもそう思う。 なんでだろうか、その時、私は大切な指輪を贈ってしまった。 亡くなった母上の形見の品。 心の拠り所にしていたんだが…… 渡さなければと、その時、強く思ったのだ。 ははは、本来は、エリーゼに渡すべき【 (指輪) 】 だったのだがな」


「青龍大公家より王家にお輿入れになり、ご逝去された、故メントーア妃殿下様の、遺品……」






 マジ…… 御飾りの一部になってる、指輪……これ、そんな由緒正しいものだったんだ…… ふえぇぇぇ…… 本格的にヤバイね。






「あぁ、そうだ。 是非贈りたいと思った。 そうしたら、どうだ…… ” クロエ ” がな、下女が持つには、不相応なくらいの、この指輪を差し出したのだ…… ” 笑顔・・ ”のお礼だよ ” と、言ってな。 シュバルツハント…… 君なら知ってるであろう、未婚の男女が大切な指輪を交換するという、意味を……」





 うん、王都シンダイで暮らし始めてから、知った。 大切な、生涯を共にしたいと切望する男女が、交換する指輪の意味。 うん、” 永久とわの愛を誓いあう ” って事。 でもねぇ…… あんときは、本当にお礼だったんだよ。 なんも、あげられるようなもん、他に無かったしね……





「だから、彼女に聞いた。 ” 知らないのか ”、とね。 心に沁みる笑顔を、私に向けながら、彼女は云った。  ” 貴方に良い事が有りますように ” とね。 それから、幾度も、幾度も、辛い現実に叩きのめされたよ。 その度に、この翡翠の指輪に助けられた。 心に闇を宿すことなく、今まで来れた。 たとえ、その意味がなくとも、彼女に、礼がしたいと、ずっと思っている…… シュバルツハント、笑ってくれてもいい」





 い、いや、笑えないよね…… ここは…… 私は、貰った指輪の事は、御飾りを作る時まで、すっかり忘れてたよ…… 鍛錬着のポケットの裂け目に、嵌り込んでたなんて、言えないよね…… ゴメン殿下。 いまさら、その子が私ですって、とても、言えないし…… そっか……母様の指輪……よく効いているんだ。





「きっと、その、” 下女のクロエ ” とやらも、そのお気持ちを知れば、喜ばれると思いますわ」





 無難に避けよう、その話。 うん、突っ込まれない様にね…… でも……もう一度、ちょっと、触ってみたい。 母様の形見の指輪…… お願い出来るかな……





「フランツ王太子殿下、その指輪を見せて頂けますか?」


「ん? あ、あぁ……」





 少し戸惑い気味に、指から、その指輪を抜かれ、渡してもらえた。 懐かしい~~。 ちょっと強制展開して……って、あら、あらら? なんで、私が展開って思っただけで、魔方陣が展開してんの? 目の前に広がる精緻な魔方陣。 薄い桃色……コレって………… 母様の魔力の色? そうだよね…… きっとそう…… 殿下には、見えてないみたい…… 【 秘匿 】 と 【 娘へ 】って…… 


 あら……魔方陣の、守護対象……書き加えられる。 簡単に……何これ? ……婆様から、貰ったの? で、私に? ……えっと……対象の名前…… ” カールへ ” と、 ” エルグリッドへ ” って……


 うわぁぁぁ……そ、そういう【 指輪 】だったんだ…… 



             でも……



             これ……



         対象の【 重防御 】だよね……




          なんで、母様が持ってたんだ?




        父様が持ってるべきモノ、じゃ無いのか?


 


              …… !  




             あぁ……あの時か





         父様が、母様になんか渡してたよね……




              あの最後の日……






 母様…… 泣いてた…… あの時か…… 本来なら、両親に私が 【心に決めた相手】を、紹介する時に、渡される筈だったんだ…… でも、時間が、状況が、それを許さなかったんだ……だから、父様は、母様に託したんだ……






            そうだったんだ…… 




              でも……




               私が、




    これに、別の護衛対象者……書き加えちゃってもいいよね。




    今度は、心に決めた人じゃない人が、持つ事に成るけど……






             ……いいよね。




                 母様……




 護衛対象者に、”フランツへ”って、書き込んだの。 そしたら、魔方陣全体が透明の緑色に置き換わった。 あはっ、やっぱりね。 私が、フランツ殿下の御名前を書き込んだら、魔方陣の一般制御の権限が私に書き換わったよ。 


 こんどは、私が・・フランツ殿下…………に、加護を与える立場に成っちゃったよ…… でも、まぁ……地方巡察って、何が起こるか判んないし、御守は多い方がいいよね…… そんでもって、 フランツ王太子殿下には、死んでほしくないし…… これで、いいよね。 



   母様…… なんか、クロエ、トンデモナイ…………事しちゃったかな? 



「有難うございました。 守護の魔法が掛かっております。 きっと、精霊様たちは、殿下を、御守するでしょう」



 そう言いながら、指輪を、フランツ殿下にかえしたの。 殿下、指に早速嵌めてた。 ちょっと嬉し気ね。 何でかなぁ……見えない筈でしょ、フランツ殿下には…… フランツ殿下は、私があの、”下女のクロエ”って、気が付いてない。 でも、まぁ、それは、それ。 貴方は、護られてしかるべき人なんだしね。 


      ちょこっとだけ、私の気持ちも入れといた。 



             だって……



 王家の中で、あなただけが、私を見てくれたもの…… 誰の影もささない、誰の顔も思い浮かべず、只 私を、 ”クロエ” をね。 フランツ殿下は立ち上がったね。 なんか、清々しい顔してる。



「シュバルツハント、息災にな。 龍王国の国王になるという、重圧と責任は今も感じ続けている。 私の後ろには、幾万もの龍王国の民が居る。 彼らに、安寧と繁栄をもたらすべきが、王族と心得ている。 ……弟の妻として……  龍王国の王族として、助けて貰えると……  有難い」



 ん? なんだ? まぁ、いいか…… いいよ、そのつもりだし。 王族とか関係なくね。 だって、きっと、ミハエル殿下とは……ダメになるし…… これ私の予感だけどね。 でも、約束するよ。 民の為に盾になるって。



      この命は果てるまで…………・・。 お約束します。 



 本来は、婚姻の時に言うべき言葉なんだよね、これ、判んないように、別の言葉に置き換えたよ。 うん、判んない様にね。



「わたくしの全てを持ちまして……龍王国の民の為に」


「良きことが聞けた。 頼む。 【幾久しく……・】な」



 にこやかに、そう言われた。 それって……新郎が、新婦に言う言葉だよ…… おかしいよね。



             でも、



             なんか




            ……・・





            嬉しかった。





   月の光が、中庭の東屋に差し込んでいて、まるで、神殿みたいだったよ……





 **********





 アレクサス御爺様の情報は、間違いなかった。 



 学院の授業も、纏めの時期に入り、もうすぐ【精霊祭】 フランツ王太子殿下は、助教の職を辞され、地方巡察へ、出立された。 今回は、長期になるという事で、各大公家からも、従者が随身した。 黒龍大公家からは、イヴァン様が随身された。 巡察行の安泰、陰ながら、お祈りしております。



        いってらっしゃい。 気を付けて。



 でね、そうこうする内に、夏季休暇直前になってんのよ。 結局、行政内務科のゲームの授業……出られなかったよ…… その代り、内務寮のお仕事頑張ったよ。 楽しかったよ。 街に降りて、色んな問題点があったのも、理解した。 その為の方策も、上申しといた。 なんか、良い感じだね。


 でね、魔法科の方も、魔法騎士団の研究職の人と、いろんな事したよ。 まぁ、あのゴーレムからの繋がりだったけどね。 そうそう、あのゴーレムさん、ちょっと良い、ゴーレムの核を使って、上位種作ったよ。 【 土のゴーレム 改 】 ってね。 うん、今度はちゃんと髪の毛作ったし、装備もしてるようにした。 そんで、拠点防御兵器って事で、武器は【剣】から、【グレイヴ】に変更 生成固定時間……30日間に延長。 そんで、制御魔方陣、ちょこっといじって、ローブに張り付けた。


 こんでね、そのローブを着てる人の動きを、複写して、出来るようになったの。 自立型から、操作型へね。 その人が変な事しない限り、安全性は確保されてたね。 そんで、今は四体が交代で、各門に居るよ。




         えへへ…… 褒められたよ。




             嬉しいね。





 ―――――





 そんな中、一通の招待状がね、来たの。


 ほら、アレクサス御爺様から、言われてたでしょ。 あれ。 


 ハンダイ王家主催の 【 精霊祭 】 への、出席要請。


    開催日は…… 



            明日。



    やっぱりね。



 持って来た侍従の人に、冷たい 「氷の令嬢」 の顔で言っといた。





「時間も御座いませんので、制服での出席お許し下さい」





 ってね。





           固まっとった。






お盆休みですね。

読んで下さってる方。 本当に有難うございます。


恋愛タグ つけててよかった。 物語の進行上、外せない場面なので・・・


なんか、甘い。 猛烈に、甘い。


口から、砂、吐きそうになりながら、書きました。



それでは、また、明晩!

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