表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
ヌーヴォー・アヴェニール 本編 物語の始まり
7/111

クロエ 懇願する



 倒れてから、黒龍大公家の人達がなんか優しい。 ……弱っちいのが好きなのか? もうすぐ王室舞踏会なのに、ダンスのレッスンも、お茶会の御稽古も、勉強も何もかも、以前と比べてゆっくりしてる。 ん? 見放されたのか? そうなのか? これは、ヤバイ…… でも、御屋敷から追い出されるのなら、それもいいかもなぁ。



 私に使われている部屋にしても、そう、なんか不釣り合い……デカいんだよ。 ホントに。 開拓村のお家が二軒分入るよ。 この部屋だけで。 でね、今までも居たんだけど、このお部屋付きのメイドさんがいるんだ。 アンナさんは別だよ。 


 この人達がこの頃、良く話しかけてくるんだ。 ほら、田舎娘のボロを出さないように、礼法の先生から習った通りの対応してたんだけど、朝、起きてすぐとか、まだ、完全に目が覚めてないときに、いきなり話しかけられても、素の対応しかできないじゃん。 困ってんだよ。


 朝といえば、今までは、お日様が出る前に起きて、自分で身支度して、鍛錬に行ってたんだ。前まで、メイドさん達も、来てなかったらね。 気楽で良かったんだ! それがさ、倒れてから、こっち、私が起きる前に、もう部屋に来てるんだもん。 びっくりしたよ。 でね、身支度の世話をしようとするの。


 えぇぇぇ、出来るよ。そのくらい自分で。 もう十歳だし、今までもしてたんだから……





「お嬢様のお世話ができるのが、私達の栄誉なんです」





 ん? どういうことだ? 先生が言ってたけど、礼法上、メイドさんとは親しく出来ないことになってる。でもなぁ……優しくして貰ってるのに、無視って如何なものかと思うし……アンナさんに聞いてみよう。メイドさんにお願いして、アンナさん呼んでもらった。



「あの、お部屋付きのメイドさん達の事なんですが……」


「何か、失礼な事を?」


「いえ、いえ、そんな、いつも大切にして貰っておりますわ」


「そうですか。それはよかった。 それで、お話とは?」


「はい、メイド長のアンナさんには、お話して置きたい事があるので」


「なんでしょうか?」




 ぶっちゃけ、疲れるんですよね。 四六時中監視されてるみたいで。 出来れば、お部屋の中に限って、ロブソン開拓村に居た時の様に、振舞いたい。


 せっかく好意的にお世話してもらってるのに、ちょっとした言葉しか掛けちゃダメって言う礼法なんて、くそ喰らえだ!


 私の口の悪さは、村でも折り紙つきだったし、礼法もなにもあったもんじゃなかった。 付け焼刃がいつ剥がれ落ちるかと思うと、本当に疲れる。




 だから、部屋では、素でいさせてほしい。




 そんな事を、真綿でくるんで、お砂糖ぶっかけたみたいな言葉遣いを駆使して、アンナさんに、お願いした。 拒絶されるかなって思ってた。 だから、もう土下座せんばかりに、お願いしたんだ。 なんか、アンナさん―――笑ってるよ。




「そうでしたの。 配慮が足りませんでした。 お部屋に限りという事で、あの者達に言い含めておきます。 猫は大切ですが……時と場所は、ご理解頂けてますよね。」




 うはっ! メイド長に誇りを持ってる、アンナさんが、 ” 猫 ” って、言ったよ。 ” 猫かぶり ” してんのは、オミトオシって訳ですね。 さすがは、老練(全てご存知の)のメイド長。 素敵~~!! 私の『 猫 』、いい感じに育ってるから、大事にしろよって事だね。 




「ご理解、頂けて、本当に嬉しゅうございます。」


「ただし、部屋の中だけですよ。 お分かりですね」




 うはっ、早速、でっかい ” 釘 ” 刺されたよ。 わかっておりますとも。伯父様の顔に泥はぬれません! ええ、この国一番の御家柄なんですもんね。 とっても良く理解しておりますデス。




「もちろんですわ。 黒龍大公閣下の御面目を潰す訳にはいきませんから……ね」


「お嬢様。 その通りですわ……ね」




 よし、許可はもらった。 なんかアンナさんとは、通じたみたいだ。 よかった~~~ ついでに聞いておいた方が良いことがあったよね。




「あの・・この頃、少し、御稽古がゆっくりになっておりますが……何かご事情があるのでしょうか? 王室舞踏会も近く、少し、不安に思っております。 私、ダメな子で、見放されたのでしょうか? ロブソン開拓村に帰った方がいいのでしょうか?」




 ストレートに聞いてみた。 うん、アンナさんなら、大丈夫だと思ってるから。 なんか、悲しいような、寂しいような、そんな、複雑な表情を浮かべて、私を見たアンナさん。 突然、決心したみたな表情になった。 彼女の両腕で、がっつりと抱きしめられた。





「あ、アンナさん?」


「―――お嬢様、申し訳ありませんでした。 そんな事言わないでください。 お嬢様は黒龍大公家のお嬢様です。 わたくし達にとって、二人といない大切な方です。 もっと甘えてください。 お嬢様は、この大公家の家族なのですから」





 アンナさん、母様と同じ匂いがした。 なんか落ち着いた。 そっかぁ……家族って思ってくれてたんだ。 嬉しいな。 また、家族が出来たんだよ。 仲間でもいい、自分にとって大切な人が出来たのが嬉しい。





 *************





 翌日から、私の部屋限定で、私の対応が、 ”礼法対応” から、 ”おうち” 対応に替わりましたよ。 うん、かなり、大きくね。 部屋付メイドさん達、三人のお姉さんの御名前は、っと。 


 一番年上のおっとりさんが、「エルさん」 


 二番目のキビキビ動くお姉さんが、「ラージェさん」 


 一番下、でも私よりもずっとお姉さんで、眼鏡装備の無口な 「ミーナさん」 


 個性豊かな方々なのよね。 あちらが私を見ている様に、私も、メイドさん達を観察してたし。 うん、皆さん、とっても綺麗なお姉さんです。 そんでね、ちょっと、凹むのが、 お姉様方の胸部の発育の宜しい事。 ……いっぺん、顔、うずめたろうか! こちとら、ペッタ~ン 一直線だしねっ!


 そんな、お姉さんの一人、エルさんが 朝の鍛錬から帰って、水浴びをした後、聞いて来た。



「あの、お嬢様」


「な~に?」


「えっ、……いえ、洗物ランドリーの件なのですが」


「汚れ物? 無いよ?」


「い、いや……その……洗濯籠の中に……」


「うん、入れてない。 だって、無いもの」


「は? あ、あの……下着は付けないのですか?」


「ちゃんと、付けてるよ? チェストの中に有るでしょ? それに、御着替えの時も、見てる筈でしょ?」


「はい……いえ、その……汚れ物……」


「あぁ、そう言う事か。 うん、自分で洗って、乾かしてる」





 エルさんと、 ” 自分の ” 口調で、喋ってみた。 ラージェさんも、ミーナさんも、こっちを見て固まってる。 へ、変かな? 会話の内容から、私の汚れ物が、お屋敷の洗濯係の人に渡ってない事を言っているらしかった。


 そりゃ、ドレスとか、普段着でも気を遣うモノなんかは、お願いするよ? まぁ、お願いする前に持ってかれるけどね。 鍛錬の時に着る ”稽古着” と、”下着” は、自分管轄って思ってた。





「「「ご、ご自分で?!」」」





 えっ? 驚くところ、其処なの? 





「うん。 開拓村じぁ、自分の事は、自分でする事に成ってるし……なんで、今、聞いてくるの?」


「執事の事務方から、お嬢様のお洋服について色々と、お話がありまして。 新しい、下着とか、全然新調されてませんし……その、気が付かなかった私達が迂闊だったというか……」


「うん、サイズが変わったら、お直ししてたし。 替えなら村から持ってきたので、まだ、間に合ってるよ?」





 三人娘さん、互いに目を見合わせて、驚愕に震えてた。





「「「お、お直し!?」」」


「うん、裁縫も出来るよ? 自分の事は、しないとね。 まぁ、下着は、二個一し始めてたから……もうちょっとしたら、頼もうかと思ってた」


「す、すぐに、て、手配いたします!!」





 ” 叫ぶ ” みたいに、ラージェさんが、そう言って、慌てて、部屋を出て行った。 ミーナさんが、眼鏡を外して、目頭を揉んでる。 何が、いけなかった? 何をそんなに、驚いているんだろう? エルさんが、目をウルウルさせながら、私に諭すように言って来た。





「お嬢様……此処は、開拓村では有りません。 お嬢様の世話は、私たちの役目です。 快適にお過ごしに成れるように、整えるのが、私たちの仕事なんです。 お分かり頂けますか?」


「うん、私は、とっても快適に暮らしていますよ。 皆さんのお陰ですよ? なにか、不都合でも?」





 多分、価値観の相違でしょうね。 男ばっかりの黒龍大公家だから、何もかもして上げてたんでしょうね。でもね、私は違うよ? 大体、嫌じゃんか。 自分の下着を洗ってもらうって。 私は、生まれながらの ”お嬢様” じゃぁ無いんですよ? エルさん、震えながら、続けて来た。





「……こ、この部屋の中では、お嬢様は、お嬢様らしく暮らして行くと、アンナ様から申しつかっております。 御言葉も……そうなのですね」


「そうだよ。 この部屋限定で、お願いして、了承してもらった。 我儘だって、知ってるし、迷惑だってわかってる。 でもね……私が私で居る為に必要なの」


「……迷惑だなんて……」





 みんな、一生懸命仕事してる。 その仕事をさせない様にしちゃってる。 悪いのは私。 ごめんね。 でも、譲れないのよ。 これは。 快適で、豪奢な暮らしを手に入れると、手放してしまう、大切なモノがあるの。 それは、私の一部なのよ。 判ってくれるかな?





「アンナさんも判ってくれたの。 ごめんなさい」





 きちんと、二人に頭を下げた。 礼法には則ってない、普通の ”ごめんなさい” そんな私をみて、何かを決めた見たいな顔をした、二人。 私の我儘、許してくれたのかな?





「クロエ様……わかりました。 でも、必要な事、気になる事は、言ってください。 お願いします」


「それは、もう、絶対にまもります! ……それでね、ちょこっと、気になった事があるの。 ミーナさん」


「はい?」


「ちょっと、此処へ」


「はい」


「椅子に座って」


「はい」





 恐る恐る、椅子に座るミーナさん。 何が始まるのだろうと、気を揉んでいるエルさん。 ごめん、空気は敢えて読まない。 視界の端にチラチラ入ってた気になる事を、自分で・・・処理する。 自前の御針箱を取り出して、何かに引っ掛けてホツレテ落ちそうになっている、ミーナさんのお仕着せの裾を手早く縫い直した。





「お嬢様!!!」


「はい、終わり。 気になってたんだ! 気に入らなかったら、専門の職人ランドリーに頼んでね」 





 ウインクして、ミーナさんを見る。 なんか、茫然としてた。 そうなんだよ、私は、そういう人なんだよ。判ってもらえたら嬉しいなぁ……





 *************





 王室舞踏会まで、後二日になった。 ダンスも先生から合格貰った。 ダンスの相手を、マリオにして貰ったりもしてた。


 そうそう、あの・・執事補佐のヴェルって人とも踊った。 踊っている最中にお話も出来た。 うん、ヴェルは悪くないよって伝えた。 気になってたんだ。


 あれは、単に巡り合わせが悪かったのよ。 連絡が上手く行かなかっただけなのよ。 だから、気にしない様に、誰かになんか言われたら、私に言って来るように伝えた。 正確な情報はきちんと伝えなくちゃいけないもの。


 なんか、ヴェル眼が潤んでたよ。 気にする事無いのにねぇ


 御茶会の勉強も、色んな勉強も、一通り合格を貰った。 よかった。 晩御飯を黒龍大公閣下と一緒に食べていた時に、言われた。





「あす、リヒターが来る。 一応、舞踏会の前の顔合わせだと思ってほしい」


「はい。 分かりました。 どんな方なのでしょうか? マリオや、アンナさんに伺ってはおりますが……優しい人ならいいなと思います」


「……まぁ、優しいかな。 興味の無い事には、徹底して冷淡ではあるがね」





 うーん、まず、お友達にはしたくないタイプだわ。 うん、社交しよう。 当たらず触らずね。 どのみち、昼くらいからしか来ないし、伯父様と一緒に合うのだろうし。 そんなに気にしなくても、いいだろうなぁ……





 と、思っていた時もありました。





 朝の鍛錬をしている時に、バルコニーにいらっしゃいましたよ、息子さんリヒターさん。ラージェさんも、一緒に居たのよ、今朝は。 ほら、洗濯物を乾燥させるって言ったじゃない。 それに興味をもって、 ” どうやってするんですか? ” って、聞いて来たから、現物を見せようと、バルコニーに誘ったのよ。


 そんでね、ほんとに、間が悪いというか、なんというか…… 両手に風の魔法の魔方陣と、火の魔法の魔方陣を浮かべて、熱風を作り出していた時に、見目麗しい男の人リヒターさん 登場。 うわぁぁぁ…… なんだ、これ?





「まだ十歳の ”御子” と聞いておましたが……そんな、高度魔法、何処で習ったんです?」





 開口一発目。 目をキラキラさせた見目麗しい男の人リヒターさんに、そう聞かれたんだよ。 はぁぁぁ……ガッツリ興味の対象者に成っちまったよ。





「あ、あの……ち、父に……」


「ほう、それはそれは、貴女の御父上は、あの・・エルグリッド=アーサー=シュバルツハント 元近衛筆頭魔法騎士でしたね。 ” さすがは ” と、言うべきでしょうか?」





 眩しい笑顔で、そう言われた。 やっぱり一族なのね、その笑顔、父様に似てるよ。 ちょっと、はにかんだ様な、でも、めっちゃ嬉しそうな笑顔。浅い蜂蜜色の髪が、朝日にキラキラしてる。 うん、何処の王子様? 慌てて、魔方陣を消して、リヒター様に向かい合う。





「お初にお目に掛かります。 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント と、申します。 どうぞ、よしなに」





 汚ったない、鍛錬の時に着る ”稽古着”だけど、一応カーテシーらしきものを決めてみた。 クククッ って笑われた。





「これは、ご丁寧な、ご挨拶、痛み入りますお嬢様。 わたくし、黒龍大公家 長男、リヒター=ルードヴィッヒ=シュバルツハント子爵 と申します。 何卒、お見知りおきを。  クククッ ハハッ! 楽しい淑女だ! うん、とても気に入った。 明後日の舞踏会。 ちゃんとエスコートするよ、クロエ」


「は、はひ! よろしくお願ひ、申し、あ、あげます!」





 噛んだ。 うわぁぁぁぁ、 恥ずかしい! でも、なんで、此処に来るの!!!!





「御爺様に、早く会ってやってくれって言われてね。 君の居所はアンナさんに聞いた。 君、なかなか、家の者にも好かれているんだな。 良い事だ」





 なんか……ホントに、良い兄貴だなぁ…… 心の中で、 ” 兄ちゃん ” って呼ばせてもらおう。 うん決めた。 リヒター兄ちゃん。 宜しくね。





 王室舞踏会まで、後二日。




 何事も無く終わりますように。





 精霊様、お願いしますよ!






クロエの大公家での立ち位置が、決まったようです。


彼女らしく生きて行くための環境が整いつつあります。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ