クロエ 大公翁の夜遊びに付き合わされ、窮地に陥る。
「アレクサス御爺様……なぜ、わたくしが、この場に居るのでしょうか」
小声で、隣に座っている黒龍大公翁に聞いてみた。 返事が無いのよ…… 疑問、と云うより、居ちゃいけない気がしたからね。 円卓に座っているのは、ちょっと考えられない人達。 私が居て良い空間じゃない。 もうね、直ぐにでも帰りたい。 いや、帰して欲しい……
嫌だよ……この中に居て、お話聞いたら、もう、何もかも終わる気がする……
完全に絡めとられて、あとは、食べられるだけになってる、蜘蛛の巣に掛かった得物みたいに……おいしく無いよ? ほんとだよ? 食べるつもりなら、暴れるよ? マジで……
円卓の席に座っている人達を、もう一回眺める。 皆さん、席に着くなり、赤い小瓶を飲み干されていたし…… 何が起こってるんです? 実際、めっちゃ警戒してるから、ちょっと、目が鷹の目になってるよね、私。
先ずは、アレクサス黒龍大公翁様。
お隣は、リカルド赤龍大公閣下
そのお隣、セラフィム青龍大公翁様
で、見知らぬお爺ちゃん。 黒龍大公翁が、入って来た、このお爺ちゃんに、「すまん、クーベル緊急だ」って言ったから、判った。
クーベル白龍大公翁様だよね。
白龍大公家の最高責任者……目下私を目の敵にしているお家の、先の当主様……
なんでかな~~ どうしてかな~~
普通、あり得ない面子なんだよ。 それに、誰一人、従者付けて無いし、護衛も居ない。
あり得ない! 絶対に、あり得ない!!
ハンダイ龍王国、四大大公家の実質の最高責任者様達なんだよ…… なんか、繋がってるなぁって感じてたけど、ほんとに繋がってた…………
でね、なんで、此処に私が居るの?
マリーの事、言って、秘匿されてる理由を教えて欲しいって言っただけじゃん。 マリーの龍印が強い事も関係あるのかな? でもねぇ…… これは、無いでしょ、これは! この面子は!
「あー、すまん。 緊急じゃった。 クロエが行き着いた」
「予測より早かったですね」
「まぁ、そうじゃな。 いつも、予測の上を行くからの」
「…………」
あの……やっぱり、私が予測してたように、私がマリーの秘密に気が付くって判ってたのね。 まぁ、今回は、事故みたいなもんだし。 まさか、門の精霊とお話してるって思ってなかったもん。 で、気が付いたのよ。 ……本人、その事は、知らないよ?
「どうじゃろ、リカルド、少し、早めんか?」
「ギルバートの気持ちは固まってますよ、アレクサス様」
「セラフィム、 マリーは?」
「憎からず思っているの」
なんだ? 何の話だ? 私の目が、話の内容を理解しようと、グルングルン回っているのを見て、重~~い口を開いたのが、クーベル白龍大公翁様…… この部屋に入って一番驚いたよ。 クーベル白龍大公翁様、わたしの方を向いて、話し掛けて来たの。
「マリーと、ギルバート…… 二人の結婚の話だ。 この事は、前々より、話は出ていたのだ……ただ、もう少し後に……学院の5年次に婚約をと、考えておった…… しかし、お前が、マリーの持つ、「 強い龍印 」に気が付いた」
うわっ、なんだって? そんな話あったんだ…… いつの間に…… それに、両方も何となくいい感じになってるって…… まぁ、マリーなら女子力高いしね…… ギルバート様もなんか壁越えられたみたいだし…… でも、なんで、結婚話と彼女の龍印が関係するの? 繋がりが見えないよ……
「マリーの性格と、社交性の問題も、クロエ、お前が何とかしてしまったしな。 ギルバートは、今では、一等戦闘功労章である、【柏葉付銀月章】を胸に付けておるくらいだ……あれも、クロエの助言からだった筈だな…… お前は、いったい、何を成しにハンダイ龍王国、王都シンダイに来たのだ?」
だから、だれか、私の質問に答えてよ!! わかんないよ!! そんでも、クーベル白龍大公翁様の質問には、応えなきゃね。 ええっと……さっき、私も赤い小瓶の中身、飲み干しちゃったから……誤魔化せないね……沈黙を守るか……それとも、そのまま話しちまうか…… あ、あら? 口が勝手に開いちゃった……そんで、
「来たくて来たわけでは御座いません。 身寄りが無くなっても、ロブソン開拓村で、暮らして行けるだけの力は受け継いでおりました…… パウエル様の涙に、意地が折れたのです」
って、言ってた……あははは、ゴメ~ン、アレクサス御爺様……隠してたけど、これ、本心……
「そうじゃったな…… 今は亡き父上の涙が、クロエを黒龍に戻したのだったな。 クーベル、すまんな、父上の御意思じゃ、クロエが黒龍大公家に戻ったのは。 クロエには、最初から、その意思は無かった。 しかし、強い龍印を持ち、苛烈な意思を持つこの子に、黒龍は未来を見たのじゃよ……」
「で、今は、それまでの計画を修正した訳か……」
「おぬしが力を奪われてから、どうせ、計画は遅延する筈じゃったからの」
「アレクサス……お前、クロエの命、どう考えておるのだ!」
えっ? いやっ、なんで…… クーベル白龍大公翁様が、怒ってんの? それも、理由が、私の命って…… それに、なに? 計画って。 なにか悪巧みしてない? 青龍大公翁様も、赤龍大公閣下も、なんで、黙ってるのよ……
「お前ほどの漢が、見れん訳は無い。 こんな綱渡り、クロエにずっとさせるつもりか!」
「出来ん者にはさせんよ、クーベル。 それに、クロエは、ずっと、応え続けていてくれておるぞ」
「それが、怖いのだ! 判らんのか! クロエはまだ十五歳にもなって居らぬのだぞ。 お前、十五歳の時、何をしとった!」
「……女のケツ追いかけ回しとったわ! その位、判って居る! しかし、時間が無いのじゃ。 馬鹿者共の玩具にされて居る、王家の権威はもう持たんのだ!! 判って居るわ!!!」
うわっ…… なんか、トンデモナイ話がされてるよ…… 話がデカすぎる…… ハンダイ王家の王権って…… ちょ、ちょっと待って? なにかい? この人達、ハンダイ王家を見限っとるのか? そうなのか? そんで、マリーとギルバート様をその後釜に?
マジ? うそ……
ちょっとした、沈黙が円卓の上に流れたの。 それを破ったのが、青龍大公翁様。 難しそうな顔をして、私に語り掛けて来たよ……
「マリーの力を 《 今の 》 ハンダイ王家に利用されぬようにな…… そう考えておったのだ。 マリーは、激情家じゃからな。 クロエ、もし、マリーが君の立場に居たとしたら…… どうだ…… 何が見える?」
マリーが、天龍様の愛し子になって、王家の人にあれだけやられたら…… そりゃ、暴発するね! 絶対にね。 多分、内郭に天龍様の膨大な力が溢れかえって、王城ドラゴンズリーチは崩壊、ついでに、ハンダイ龍王国も滅亡。 ゆっくりと、天龍様の加護は無くなっていくね。 ……その間に愛し子が見つかる可能性と、天龍様に浄化の魔力を注ぎ込む事が出来るかと言うと、可能性は皆無。
そんで、愛し子を失い、浄化されない天龍様は、徐々に汚濁に飲み込まれて悪龍に堕ちると。 で、同じ龍族に屠られて、ハンダイ龍王国の版図は、何の加護もなくなり、禍の地になり果てる……
うわ……最悪。 ミールフルールの望んだ世界じゃん……
「……禍の地になりますね。 だからですか…… 制御できぬ力は、知らぬ方が良いと。 力を知られぬうちに、ギルバート様と、ご婚約、ご婚姻させる。 いずれ時が満ち、ハンダイ王家が崩壊した時、王家の代わりに、次代の王として、ギルバート様、王妃として、マリー様が立つと…… その計画が、私が王都シンダイに来たことによって、狂い始めていると。 そういう事ですね」
「判ってくれたか」
……理由は……判った。 なんだかね。 ものっそい、情けなくなったよ……
爺様と、父様と、婆様が、私がホントに小さい頃から、常に言ってた事を思い出したのよ……
”どんなに素晴らしい能力が有ろうと、その能力を使う意思が無ければ、無いのと同じ。 何をするかを常に心に”
そんで、母様の最後の言葉……
”誇り高く、穢れなく”
そうなんだよね…… マリーは可愛いけど、激情家なんだってね。 その性格を如何にかしようと、抑え込んだ結果、心を閉ざしちゃったんだよね…… けどね、それって、結局、彼女自身が心を制御できたって訳じゃないんじゃない? 変じゃん。 知らなければ乗り越える術すら判らないんだよ?
……つまりは、此処の人達…… マリーの心を小さい時のままに留め置く事しか考えてない…… マリーとギルバート様の結婚? まぁ、それはいいとして…… 彼女の心の問題は、まだ解決した訳じゃ無いよ? 問題を先延ばししただけだよ……
「クロエ、マリーを護ってやってくれんか。 あれは、お前には心を開いておる」
「ギルバートも信頼している。 クロエ、時が来るまで……マリーには龍印の事は黙っていて欲しい」
青龍大公翁様と、赤龍大公閣下が、口々にそう言ったのよ。 アレクサス御爺様も頷いていらっしゃるわね。 唯一不満気なのは、白龍大公翁様ね。 主導権が取れなくて無念とかそういった物じゃないわ…… 白龍大公翁様の目は、私を心配している目ね。 彼女を護るって事は、ハンダイ王家、および、今の白龍系の人々の注意を一身に引くって事ね。 派手に動いて、警戒されつつも、龍王国とマリーを護る……
そうね、私は捨て駒って訳ね。
いいわよ、それで龍王国の民が生き残れるのなら……。 誰かがその任を背負わないといけないのね。
でもね……
ちょっと、遅かったわね、その計画。 マリーが、門の精霊と喋っちゃった今となっては、龍印の発現は、時間の問題だよ…… そのうち、気が付くよ、龍印の発現が、どんな現象を引き起こすかを知ってる人ならね。
マリーの場合は、ハンダイ王家の人と、現白龍大公の周辺の人達ね。 次の【降龍祭】には、判ると思うわよ…… ほら、きっと、天龍様からの呼び出しがあるもの……
天龍様がお呼びになるのよ。 必ずね…… 天龍様の「黒の石碑」に刻まれし、龍印の持ち主には、漏れなくお呼びがかかるもの…… だって、龍族にとっては死活問題なんだもんね。 そこに、人の事情は勘案されないもの……
間違いは、訂正しなきゃね。
「根本的に間違いが有ります」
「「「なんだって?」」」
「マリーの龍印は、すでに発現しました。 天龍様の「黒の石碑」にその名が刻み込まれております。 彼女は、「門の精霊」と、『 お話 』しました。 彼女の真名を「門の精霊」に告げております」
不気味な沈黙ね。 そうよ、もう、時間は巻き戻らないの……知られれば、利用されるわ。 秘匿する方法は、たった一つ。 でも、ある意味【 賭け 】。 今まで貴方達が、マリーの心を成長させずにいたツケが回って来たの。 貴方達の計画が上手く行っていても、最後には、この【 賭け 】になるのよ。
「どうすれば……」
青龍大公翁様が血を吐くように、そう口にされた。 うん、よくわかるわ。 慈しんで、可愛がって、護り通して来たマリーが、毒蛇の巣窟に放り込まれそうなんだものね。 仕方ないね。 友達って初めて言ってくれた、マリーだもの…… 分の悪い【賭け】だけど、私が居れば、いけるかもしれない。
……いっちょ、やってみっか……
「一つだけ、方法が有ります。 王家の人達に知られず、天龍様も納得される方法が。 でも、とても大きな危険が伴います。 最悪、マリー様の御心が壊れてしまう可能性もあります。 受け入れられますか? それとも、マリー様と、ギルバート様を国外のどこかの国に匿われますか? ……難しい事ですよね。 フョードル国王陛下が王命を持って、迎えられるでしょうし……」
「……クロエ、そのたった一つの方法とやらは? 大きな危険を ” 伴う ” とは、何だ?」
白龍大公翁様が、問いかけて来た。 流石ね。
「天龍様にお目通りし、マリーをもう一人の「龍の巫女」にして貰います。 強い龍印を持つ者が複数いた場合、天龍様は、必ず、複数の「龍の巫女」を持ちます。 ただし……」
「ただし?」
「契約のなった暁には、膨大な量の古の記憶が、流れ込みます。 此ればかりは、避けようが御座いません。 また、意図的に龍印関連の知識を秘匿されていた場合、最初からになりますから、彼女の負担は更に大きくなります。 耐えられるかどうかは、彼女次第です」
脅すのは、此処まで。 それをする時には、私がついて行くし、彼女が壊れる様な事は、絶対にしない。 天龍様ぶっ飛ばしても防ぐよ。 私にとっても、マリーは大事な人なんだもん。 でね、良い事、教えたげるね。
「幸運にして、堪え切れた場合、彼女は彼女に課された役割を十全に理解し、暴発する事も激情に流されることも無くなりますわ。 龍印の重き使命の前に、個人の感情など、塵に同じ。 そう理解できますもの。 天龍様も満足され、わたくしの提案にも頷いてくれる筈です」
「提案とは?」
「はい、その時が来るまで、わたくしだけを「龍の巫女、龍の愛し子」と呼称する事と、龍印に関して、マリー様を、わたくしの庇護下に置く事。 その時が来たら、マリー様を、「龍の巫女」と呼称する事。 ……ですわ。 これで、王家には知られずに済みます。 龍印の徴も私に乗せられ、韜晦出来ます」
難し気な顔をしている、青龍大公翁様、赤龍大公様。 で、アレクサス御爺様は、何となく納得されているみたいね。 暫くの間、沈黙が、円卓の上を流れて行ったのよ。 皆さん、色々と考えてるのね。 マリーが受ける危険は、限りなく排除したいでしょうし……でね、やっぱり、白龍大公翁様が私に仰るのよ。 多分、他の方とは、違う視点。 さっき私が言った事が、気になったのですね。
「クロエ、お前は、それでいいのか? その時の後、お前はどうするつもりなんだ? 当初、我々が、計画した事には、クロエ、お前の事は、勘案していない。 事が成った場合、お前の状況は、非常に辛いものになるぞ」
「《最悪》を想定しておりますわ……最悪を……」
白龍大公翁様、サッと視線を私に合わせた。 しっかりと見つめられた。 長い時を生きて来られ、相応の修羅場を幾つも乗り越えて来られた、白龍大公翁様。 その、壮絶な旅路の果てに、絶望を見られたような、御顔をしておられますわね。 苦く、受け入れがたい現実を突きつけられて、食いしばる口から出た、白龍大公翁様の御質問……
「クロエ……お前の望みはなんだ?」
「龍王国の民の安寧」
「何を思って生きている?」
「誇り高く、穢れなく」
寸刻の間も置かず、答えられた。 白龍大公翁様、なんか、言葉失ってたね。 アレクサス御爺様は、すでに、ご存知よ? 常に覚悟は決めているもの。 白龍大公翁様、私を見ていた視線を、ゆっくりと、アレクサス御爺様に向けられたの。 御爺様、その視線を受けてから、これまた、ゆっくりと頷かれた。
カフッ って、白龍大公翁様が息を漏らされた。 絞められていた首を放されたみたいなそんな音ね。 溜息では無くて、詰まった息を吐き出した感じ。
「アレクサス、……お前の孫娘は……」
「クーベル、間違えるな、クロエは、カールとセシル様の孫ぞ、そして、エルグリッドの子ぞ」
「アレクサス、儂は誓うぞ、その時が来るまで、そして、来た後も……儂の有らん限りの能力をもって……」
「その先は言わんでもよい。 心にとめて置け、クーベル、お前らしくない。 しかし、礼を言わせてもらうぞ」
そうね、もう、色々と貰ってるしね。 そのお気持ちだけでねいいわよ。 それに、表立って動けないでしょ、白龍大公翁様は。 さてと、色々、理解出来たわよね。 お爺ちゃんズが、どんな策謀を練ってたかもわかったし…… まぁ、言い換えたら、私、アレクサスお爺ちゃんに、嵌められて、駒にされてたのよね。 そんで、この人達にも。 私の役割また、増えちゃったね。
龍王国の民を護りつつ、マリーを護り、グレモリー様の龍印の力を増大させて、白龍大公閣下の一党をハンダイ王家に押し付けつつ衰退の後押しして、ミルブール国教会と戦う…… なんて無茶な…… どんだけ、重荷を背負わせるのよ…… 色んな策謀が有るけどさぁ……これって、盛り過ぎじゃない? どれ一つをとっても、個人の力で出来る事なんて、微々たるものよ? 本来ならね。
皆さん、判ってらっしゃるのかしら?
そんでもって、最悪な事は、誰も表立って、助けてくれない。 全部、私、一人が、しなくちゃならないのよ? もうね、叫び出して、全てを投げ捨てて、どっかに行きたいくらい…… 天龍様との約束があるからそんな事出来ないけどね。
北の辺境に帰れるのは……まだまだ先ね。
それまで……生き残れるかしら?
ブックマーク、感想、評価を頂き、誠に有難うございます。
今後とも、宜しくお願いします。
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さて、龍王国側の問題が発覚しました。 無血クーデターですね。 そうなのですね。
何を、策謀しておるんでしょうか、お爺ちゃんズ・・・
巻き込まれた感、満載のクロエですが、其処はクロエ・・・ 自ら飛び込んでいって、引っ掻き回す根性を見せてくれるでしょう!
彼女の言動は、策謀好きのお爺ちゃんズでさえ、止める事は出来ないようで、色んな所で、”計画”とやらが、破綻しそうですねぇ・・・ クロエは、クロエだけの道を切り開きます。 大切なモノを護る為にですよ。
また、明晩、お会いしましょう!!




