クロエ 今年の精霊祭の予定を決めて、夜遊びに出る
奥様と、ソフィア様から解放されたのは、結構遅い時間だった。 ほら、授業に出んでもいいって、放り出されてるじゃない…… で、今は、黒龍のお屋敷に居るの。 黒龍大公翁と、お話したくてね。 で、その前に、奥様と、ソフィア様にご挨拶しに行ったのよ。
そしたら、取っ捕まった……
今年の【精霊祭】の件だって。 黒龍領のフーダイでするんだけど、かなり人数が集まっちゃってるんだって。 でも、ミルブールからのお返事まだ来てないんだって。 理由を類推せよって。 うん、知ってる。
「ハンダイ王家から、昨年同様【精霊祭】を開催するのでは? 教室で、ミハエル殿下が声高にそう申されて居られました」
「えっ? クロエは、今年、フーダイに来れないのですか?」
なんで、そうなるんだ? ソフィア様? えっ? なんで? 私、行くよ、フーダイには。
「クロエはミハエル殿下の婚約者なんでしょ? ご招待状は?」
「頂いておりません。 きっと、そのつもりも無いと思われます」
「なぜ?」
いやぁ~ そりゃ、嫌われっぷり半端ないっすから。 あっちは、あっちで遣って貰いたいですよ。 グレモリー様は、どう思うか判りませんが、私から蛇の巣に入るつもりは、毛頭御座いませんよぉ? お分かりになりませんの? みたいな表情で、ニッコリ笑っといた。
「そ、そんな……・」
「王太后様は、どうか判りませんが、今のハンダイ王家は、わたくしには、興味が御座いません。 たんなる【降龍祭】の巫女の役割ぐらい……かと」
奥様、めっちゃ難しい顔してるね。 御従兄さまが、現在の白龍大公様ですからね。 悩みも大きいのでしょう。
「クロエ。 貴女はそれでいいの?」
ソフィア様、食い下がるね。 いいんですよ。 別段、気にしてませんし。 あちらが視界にも入れたくないってんですからね。 こっちだって願い下げです。 いたって平穏ですよ。 それに、教室に行かなくてもいいんだから、願ったり叶ったりです。 だから、被せるように、もう一回、ニッコリ笑っといたよ。
二人して、悩んどるね。
なにが、有った? フーダイに行かない方がいいのか? どうしようね。 奥様が、おもむろに口を開いたのよ。
「クロエ、今年の【精霊祭】は、ソフィアに任せます。 黒龍大公家の面目はソフィアが護ります。 外国の方々にも楽しんで頂けるように、わたくしも、努力します。 貴女には、此処、シンダイに留まってもらいます。 そう、不測の事態に備えて…… クロエ…… 貴女には何かと重荷を背負ってもらっています。 すまないと…… 本当にすまないとおもっております。 ……わたくしが蒔いた種ですもの……」
涙目になる、エリカーナ奥様。 気にしてないって! 大丈夫だって! 最初は、フーダイに行く気満々だったけど、そういえば、私、なんか狙われてるみたいだしね。 お客様に迷惑かけられないし、黒龍のお屋敷だったら、護りは固いしね…… そうなんだよ、忘れてた。 奥様の知らない処で、事態は悪化しているんだよ。 だから、あんまり、気にしないで。
「エリカーナ奥様、ソフィア様。 クロエは、大丈夫です!」
今年の【精霊祭】は、こうして、王都シンダイに留まる事に成ったんだ。 うん、ほら、それに、嫌がらせで、いつミハエル殿下に、呼ばれるか判らんでしょ? 多分、奥様、なんか知ってるよ。 準備しとこう。
―――――
黒龍大公翁、淑女の部屋の訪問は、もうちょっと早い時間でお願いします。
……まぁ、早く会いたかったから、いいか。 深夜、きっと来るだろうなぁっておもって、待ってたの。 お部屋で黒龍大公翁に、預けていた、「例の魔導書」を、つらつらと、読んでね そんで、お屋敷が寝静まった夜半、密やかな、ノックの音がしたの。 あの隠し扉からね。
で、招き入れて、深夜の御茶会スタートなんだ。 あぁ、勿論、ちゃんと部屋着を着てるわよ。 失礼の無いようにね。 下着姿だと思った? 黒龍大公翁、残念でした!
「アレクサス御爺様、すこし、込み入ったお話が、二点ほどあります」
「うむ。 一つは大体わかる。 お前にも知らせねばならん事もあるしの」
「はい……まずは、一点目。 ミルブール国教会の導師とお話いたしました。 白龍大公御息女のサロンで、ミハエル殿下と、ご一緒に」
黒龍大公翁、遠い目をしてたね。
「やはりな……白龍の中に相当食い込んで居るようじゃな」
「ええ、その様ですね」
「グレモリー殿が、八大精霊教会が一つ、光の精霊教会に御行幸された。 お前は呼ばれて居ない。 そうだったな」
「はい、いつ御行幸されたのかも知りません」
「うむ。 ……姿が無かったからな。 八大精霊教会の教主と、シンダイの八十二ある精霊教会の聖職者達が、皆集まって居った。 ミハエルが、 ” 施し ” を発布しての。 みな、頭を垂れた。 まぁ、浄財は必要じゃからな。 我等からの、 ” 忠告 ” を、教主共はきちんと聞き入れおった」
黒龍大公翁、行ってたんだ…… 知らんかったよ。 そっか……自分の目で確認したかったんだね。 ほうほう。 それは、この戦が、総力戦って事ね。 マジ、ヤバい状況だったんだね。 理解はしてたけど、まさか黒龍大公翁が、出張ってたとは思わんかったよ。
「といいますと?」
「うむ、” 施し ” は、有り難く受ける。 が、精霊のおわす教会独自には運用せぬとな。 施された金銭は、いったん青龍が預かる。 各教会が、” 必要 ” とするモノを贖う時に、青龍の官吏が精査して、支払い、必要とするモノを、各教会に届けるとな」
「現状とかわりませんね」
「あぁ、その通りじゃ。 《祈りに金銭は要らん》と、そういう事じゃな。 ただ、会計は別管理とされた。 何時でも、寄進は受け付ける。 王族だけでなく、広く龍王国の民が寄進できるようにした」
「それも、良い事です。 教会内部の反発は?」
「グレモリー様、ミハエル様がお帰りになった後、教主達が集まり、最上位の光の精霊教会の教主が、宣下した」
反撃と云う訳ね。 なんだろう。 さっきの回答だけでも、大打撃受けてんのよ、ミルブールの巡礼者。
「それで、なんと、申されたのです?」
「小気味よかったぞ。 先ずは、この決定に異を唱える者をより分けた。 精霊教会で浄財を運用したいと思って居るものが居れば、挙手せよとな。 優しく語り掛けよった。 何十名かの者が、素直に挙手し居ったな。 その者達に、教主が言いおったの、 《祈りに、金銭は必要ない。 教会聖堂は祈りだけが価値あるもの。 これに異を唱える者は、教会聖堂の聖職者では無い。 また、高位聖職者で異を唱えた者は、一般聖職者としてもう一度修行してもらう》 とな。 挙手し居った者達、青褪めておったの。 大勢はこれで決まった。 のう、クロエ……爺もやるであろう?」
殲滅しよった…… すんげー!! 実際の敵だけじゃなくって、内側に居る者まで根こそぎ…… まぁ、チョットは、取りこぼしあると思うけど…… それでも、完勝じゃない! すごいよ、凄い! ものっそい、黒い笑顔が浮かんできた。 それを、黒龍大公翁が見て、同じような笑みを浮かべてたよ。
「まさしく……ミルブールの巡礼者もこれでは、手が出せませんね。 清貧を旨とし、邪淫を排する精霊教会の方々の取り付きには、金銭欲しかありません。 より良くする為にという、大義名分が其処にしかありませんから……」
「よく見た! その通りじゃ。 クロエ、お前の話もそうじゃろ?」
でだ、私の一番目の話。 ミルブールの導師を何とか押し返した時のね。 精神力、ガリガリ、削れたよ。
「ええ、あのサロンでの、穏やかにして、剣呑な戦争は、此方の勝ちです。 妥協、懐柔は、一切を受け付けませんでした。 全ては、ミハエル殿下の御威光で、押し通しました。 ……ミルブールの巡礼者も御国へ帰るそうです」
黒龍大公翁、さっきの黒い笑みを大きくしてた。 うん、私もね。
「うむ……間に合ったの」
「はい……ある意味、ミハエル殿下のお陰ですね。 ” お仕事 ” を、命ぜられて居なければ、もっと大胆に、浸食されていたと…… そう、考えております」
「まさに、怪我の功名という奴じゃな…… クロエは、大変じゃったがな…… よくやった」
「その御言葉で、クロエは報われました」
何とかなったね。 ミルブールの見えない侵攻も、防げたかな? まだ、油断できないけどね。 あいつ等、しつこいもん。 おっと、いけない。 もう一個、聞きたい事有ったんだ。
「あの、アレクサス御爺様…… お聞きしたい事が」
「うむ、申してみよ」
「マリー=ハンナ=アズラクセルペンネ青龍大公御息女についてです。 マリーは強い「龍印」の持ち主ですね。 それを彼方の御家の方は、御隠しになって居られる。 何故でしょうか?」
黒龍大公翁、真顔で口を引き結んだ。 単刀直入過ぎたか? それとも、他家の事情に、首を突っ込み過ぎたか…… 叱られるかも…… お爺ちゃん真っ直ぐな目で、私を見てるよ。 でも、判ってた筈よね。 いずれ、私が気が付くって。 だから、私も真っ直ぐな目で見つめ返したの。
「マリー青龍大公令嬢には、その事を伝えたか?」
「いいえ。 心苦しくはありましたが。 ……初動は、間違えましたが、伝えてはいません。 いずれお教えするとは、言いました」
ふぅ・・って、黒龍大公翁大きな溜息をつかれた。 安堵の色が顔に出たよ。
「伝えられては、マズかった。 よく秘匿した」
「ご本人にも、知られてはいけないのでしょうか?」
「あぁ。 知れば、徴が、発現する。 そうなれば、マズいのだ」
「左様でございますか……」
やっぱり、なんか、有ったんだ。 やべぇな、おい。 でも、どうしよう? 困ったな。 黒龍大公翁も、黙ってるよ。 睨みつけられてる。 なんか、考え事してるね。 なんだろう…… お茶が一杯無くなる頃、黒龍大公翁口を開いた。
「クロエ。 夜遊びに行くか」
「はぃ?」
「ヴェルを呼べ」
「はい……夜遊びですか?」
「あぁ……クロエを連れ出して、夜遊びじゃ、……ウラミルに叱られるの……」
なんか、判らんけど、面白そうだから、いいか……でね、ヴェルを呼んだの。 黒龍大公翁が、なんか指示を出したら、顔色真っ青になったよ。 私の耳には、ヴェルの声だけが、切れ切れに聞こえてくるの。
黒龍大公翁の周りには、簡易的な【消音】の魔法掛かってるんだ。 私の耳でも、きちんと聞こえない位、強力な簡易呪文がね。 まぁ、風の精霊様にお願いしたら、御言葉は届けてくれるんだけど、ちょっとヤバ気なんで、辞めといた。
( ……ですが……夜半ですので……お嬢様も??……それは……いや、しかし……判りました……えっ………… 無理です…………判りました……しかし……・わたくしだけでも……はい……ええ……承知いたしました………… 御意に……)
なんか、とってもヤバそうな雰囲気がしてる。 ヴェルがこんなに狼狽するなんてね。 きっと無茶振りなんだろうね。 で、私も無茶振りされました!!
―――――
うはぁ!! 夜の街って、なんか違って見えるね。 色んな所に女の人立ってるし…… まぁ、あれだ、私が、 ” ああなってても ” 、不思議じゃ無かったよね。 なんか、妙に納得できるよ…… 黒龍大公翁にチラッと言ったら、めっちゃ睨まれた。 これ、マジ怒りの奴だね。 ゴメン、言い過ぎた。
ほら、私、誘われないし、ご招待もされないから、夜会って黒龍の御家のしか知らないでしょ? 普通のお貴族様の御令嬢は、よく夜会とやらを開催されていてね、この位の時間は、まだまだ宵の口なんだと。 あぁ~~だから、貴族科の御令嬢様達、朝の授業は出ないのね……それでかぁ……
そんで、私の恰好…… うん、男の子! いや、これ、良いね!! 気に入ったよ!! 髪の毛はまとめて大き目の帽子の中。 コットンシャツに黒いズボン。 そんで、茶色いジャケットに、灰色のケープ。 ヴェルよ、何処で、こんなもの準備した? ばっちりあってるよ。 ちょっと小柄な少年?の出現だね。 いや、この方が、辺境のクロエっぽいよ。
で、黒龍大公翁について歩いてるの。 夜の街を。 護衛はヴェルも含めて居ないのよ。 絶対に気配すら感じさせられないって事で。 本来は、黒龍大公翁だけの、夜遊びだからね。 二人とも 【 陰行 】 の魔方陣を展開してるし、【 隠密 】 の魔方陣も用意してる。 だから、周囲の人ホントによく注意してないと、顔どころか、その場に居たっていう記憶すら残んないよ。
でも、夜の街って凄いね。 ほんと、人の息遣いがね。 昼間の雰囲気とはまるで違う。 闇の精霊様のお陰か? なんか、人の境界があいまいになってる感じ。 時々、不思議な匂いも流れて来る。 お酒? 違うね。 どっかで嗅いだような…… うえぇ……思い出した……あのクッキーに混ぜ込まれた薬草の匂いだ……
ほう、じゃぁ、このあたりって……大人の男の人が、夜に、遊びに来る所ね。
「クロエ、離れるな」
鋭い声がするね。 うん、離れる気無いよ。 でもこんな所で夜遊び? あっぶねぇな~ 黒龍大公翁何考えてんだ? そんで、チョコチョコと後ついて行ってたら、また、ものっそい細い裏道に入るんだよ…… なんか、別の匂いも……あっ、これ、ヤバい薬の匂いだ…… 今度は、別のヤバイ薬の匂い……
おいおい……王都に、こんな場所あったのかよ……
でだ、黒龍大公翁小汚い扉の前に立ったんだよ。 そんで、特徴のあるノックを三度…… 覗き穴がガシャンって開いて、濁った眼が二つ覗いたんだ。 扉の向こう側から、オッサンらしい、しわがれた声が聞こえたの。
「むしろ、いっそ、……」
で、黒龍大公翁が応えるの。
「殺してくれ」
黒龍大公翁? なに、それ? 合言葉なの? えらく剣呑だねぇ……。 そんで、扉がゆっくりと、開く。 何回もガシャンガシャンいってたから、かなり厳重な鍵が掛かっとるんだね。 んで、ついて入ろうとしたら、入り口にいたオッサンに、掴まれそうになった。
最初に謝っとくね。 ゴメン。 急に動かれると、反射で身体が動いてしまうんだよ。 オッサンが伸ばした手を掴んで、曲がらない方向に捻って、バランスを崩して、ちょっと蹴り上げる。 綺麗に一回転して、背中から床にたたきつけちゃった……
「あぁ…… すまぬ。 連れじゃ」
黒龍大公翁!! 云うの遅い!! 床で寝転がってるオッサン、息詰まってんじゃん!!
帽子の鍔をちょっと掴んで、ゴメンねってしとくよ。 オッサン、目を剥いてたけど…… まぁ通してくれた。
―――――
奥の小部屋に通された。 ごく普通の小部屋。 七、八人位座れる椅子と円テーブル。 まぁ、テーブルには白いクロスが掛かっていて、強い酒精のお酒の瓶が乗っかってる。 殺風景な部屋だね。 なんも無いよ。 壁掛けとか、お花とか…… 何用の部屋なのか、ちょっと判らん。
でね、ちょっと ” 見て ” 見たのよ。 【 鑑定 】 使ってね。
あはっ! すんげぇ…………
なんだ、ここ? 御城の宝物庫だって、此処までしないよ。
重防御大魔方陣 が、床一杯に書かれてて、
耐魔法防護大魔方陣 が、天井一杯に書かれてて、
陰行、隠密、遠見、聞耳 全部出来ない様に小結界がテーブルの周りに張られてる。
さらにね、よく見たら、テーブルの上に、赤いポーション瓶乗ってるの。
これ、最近見たよね。 うん、マーガレットの処で。【虚言拒否】のポーションだね。
今のところは、黒龍大公翁と二人
あと、何人かくるんでないか?
テーブルの上に五つグラスが有ったし……
一体、何が始まるんだ?
ブックマーク、感想、評価 本当に有難うございます。
大変うれしく思っております。 これからも精進いたします。
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とうとうクロエ、泥沼に入り込んでしましました。
今後の展開は、ちと重くなります。 彼女の運命の輪が大きく回り始めます。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます
また、明晩、お会いしましょう!




