クロエ マリーの秘密に迫り、疑問に心を悩ます
ミルブールの導師がサロンから出たあとね…… なんか微妙な空気が流れてさ、やっぱり、エリーゼ様のサロンには居れないわね。 ここで、お茶なんか出してくれないだろうしね。 ものっそい、邪魔者が要るって雰囲気が、ありありと…… 取り巻きのご令嬢さんたちがね…… ふぅ……
「では、わたくしも、失礼させて頂きます」
「ふん、そうか」
ミハエル殿下は気にも留めず、エリーゼ様はまるっと無視だったね。 うん、嫌だったんだろうね。 わかるわぁ~ では、さようなら! 控えの間を通り抜けて、デカい扉を抜けて、ホッと一息。 後ろから、なんか嫌な感じの話し声が聞こえとるぞ! せめて、視界から消えてからしろよなっ!
いやぁ~~ある意味、ミルブールのおっさんと対峙するより、緊張するわぁ~~。 どんな、揚げ足取られるか、判ったもんじゃないしね。
あぁ…… 喉乾いたぁ…… マリーの処でもいこうかなぁ…… そういえば、貴族科って、今、授業中? ダンス? 詩歌? だっけ? んじゃ、マリーも居ないね。 でも、行ってみっか……
―――――
案の定、マリー居なかった。 けど、ボリスさんが中に入れてくれたよ。 あっちの執事とは、物凄い差だな。 ヴェル、見習うなら、ボリスさんだよ。 マリオでもいいけどね。 美味しいお茶まで、出してくれた。
「クロエ様と出逢えてからのお嬢様は、変わられました…… 青龍の屋敷の者一同、胸を撫でおろしております」
「そうなんですの? 穏やかで、お淑やかで、淑女の見本のような方ですのに?」
「お小さい頃は、御気性の激しい方で…… わたくしをはじめ、屋敷の者が尽力しておりました。 しかし……これは、わたくし共の事なのですが…… ご教育に力が入り過ぎ、お嬢様の御心を閉ざす結果になってしまいました。 このままでは……と、御当主様が危惧為され…… お話のあった、王家とのご婚約も固辞なされました」
「 ” 龍印いと薄き者なれば…… ”と、固辞されたと、聞き及んでおります」
「……左様でございますか……」
そっか…… お転婆さん、だったんだ…… でも、今のマリーすんごく、お淑やかだよ? 私みたいに乱暴な事しないし、いつもニコニコわらってるよ? 龍印だって、いいじゃん。 別に。 有ったって、良い事なかったよ? 王家とのつながり? あんな王家だったら、必要ないじゃん…… ボリス様、なんかとっても優し気な目をされて、私をみてた。
「お嬢様が、お話しておられました。 ご当主様と親交のあった、エミール=バルデス辺境伯と、御子息のアルフレッド様から、マリー様のお友達にと、クロエ様を紹介されたのだと。 クロエ様は、学院で孤立されていると。 しかし、そのような事は、おくびにも出さず、凛としていると。 マリーお嬢様…… そのお話を聞かれて、なにか思う所があったのでしょう。 お嬢様は、御自分から周囲の方々との親交を絶たれて居られましたから…… 学院にも、従者も青龍大公家からの使用人も付けず、たったお一人で……」
「そうでしたの……」
マリー辛かったんだね。 で、猫飼ってたんだ。 でも、上手く折り合い付けられてなかったんだ…… しんどかったんだろうね。 マリーのお部屋は、大公家らしい大きなお部屋だしね……あんな、広いお部屋にたった一人って…… どんだけ、心、閉ざしてたんだ? 深い闇を抱えてたんだねぇ…… 親交というか、青龍の御家の方が、付けようとしていたのが、アスカーナだったわけだ…… それも、拒絶したんだ…… なんか、話し聞いてて、切なくなったよ。
「お嬢様の変化は、お屋敷にも届きました。 アルフレッド様が、クロエ様を紹介されてからです。 貴方様の佇まいに、とても、とても、感じ入って居られたそうです……」
なんで、涙目なの? やっぱり、マリー愛されてるねぇ。
「クロエ様と出逢えた事で、お嬢様は御変わりに成られた。 閉ざしておられたお心を開かれた……青龍のお屋敷に戻られた際は、御当主様、青龍大公翁様に、クロエ様のお話を、ずっとされて居られました。 そして、サロンの開設も…… あれほど、嫌がられていたにも関わらずです…… ひとえに、クロエ様が居られたからです。 屋敷の使用人一同、いくら感謝してもしきれぬほどに…… いや、申し訳ございません、このような話を、聞き頂いて……」
いや、いや、いや 私なんもして無いよ? ただ、一緒にお茶飲んでただけだよ? マリーがお友達になって呉れて、私がどんだけ嬉しかったか知ってる? ねぇ、ボリスさん。 なんか、しんみりしちゃったよ。 そうだね、マリーと友達になってから、学院の生活も楽しくなったよね。 ホントにね。 ボッチ確定してて、気を張ってたけど、なんか楽になったしね……
マリーが居てよかった。
そう思って、ホッとしたところに、マリーが来た。
「クロエ様! 来てらしたの! 嬉しいわ!」
「ごめんなさい、マリー様がいらっしゃらないのに、お邪魔してました」
「あら、いいのよ。 クロエ様は、このサロンの主催者の一人ですもの。 何時だって使ってもらっても」
「マリー様…… ありがとう」
「どうされたの?」
「ボリスさんにお聞きしてね♪」
「えっ?」
マリーなんか挙動不審。 で、ボリスさんを睨んどるね。 ほら、私が、黒龍大公翁に時々投げかける視線と同じ。 ” なに、いらん事、言っとるのだ? ” の、視線。 プププ、ボリスさん、なんか、慌てとる。 私を切なくさせた、お詫びに、じっくりと味わえ。
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なんやかんやと、マリーとお話してて、ミルブール国教会の導師の話になった。 貴族科の授業にも現れて、説法してたんだって。 うさん臭さ満載だったから、精霊祭の準備の下拵えしてたんだって。 さっすが~! でね、精霊祭の話から、降龍祭の話に飛んだのよ。
前年の降龍祭の日、マリー達にお誕生日祝ってもらったじゃん。 でね、今年もしようねって。 はい! お願いします! そっかぁ…… 楽しみだなぁ…… ぜってえ、晩餐会には出ない。 うん、絶対にな! そんで、マリー達にお誕生日祝ってもらうんだ! その方がいいに決まってる。
そんで、今年私は、十五歳になるんだ。 そうだよ、十五歳。 もしさ、ロブソン開拓村に居たら、お嫁さんになる年齢だよね。 だいたい、みんな、十五歳になったら、お嫁に行くのよ。 そんで、相手の御家の方と、色んな作業をするの。
あっちに居たら…… みんなが生きて居たら…… どうなってたかなぁ……
ふっと、アルフレッド様のお顔が浮かんで、にこやかに笑ってくださった後、消えた…… うん、そうだね、そんな未来もあったかもしれないよね…… あったかも……。 マリーが不思議そうな顔して、私を見てた。
「マリー様、うんと楽しみましょう。 私のお誕生日。 楽しく過ごしたいですね」
「そうですわね。 色々準備を致しますわ。 楽しみにしていてくださいね」
そういえば、とマリーが続ける。 あの日、私が、門の精霊を召喚した後、彼女、あの子たちとちょっとお喋りしたんだって。 驚きのあまり、口に含んでた、お茶吹き出しそうになったよ。
えっ?! なんですと?!
あの子達の事、見えるの? マジで? こ、これは…… どういう事? あの子達、契約印で縛られてて、ある一定以上の龍印の持ち主でないと、姿、見えないのよ? 王妃様も、エリーゼ様も多分見えてない。 明後日の方向、向いてご自分の真名唱えてるもん……
なんで?
マリーの龍印って、微弱って話じゃなかったの?
ちょっと、混乱してきた。
「あの……マリー様?」
「はい?」
「あの子達見えたんですの?」
「あの子……達? と云いますと? あぁ、門の精霊ですわね。 そう、お名乗りに成られました」
「も、もしや……名簿にお名前が有るとか……言って居られませんでしたか?」
「ええ、そのような事を……首をかしげて可愛らしかったですわよ」
――― 確定だ ―――
強い龍印の持ち主だ…… マリー、知らされてなかったんだ…… ど、どうしよう…… ここまで言って、誤魔化しは利かないよね…… マリー、興味深げにこっちを見てるよ…… あれ? あれれ? そんで、ボリスさん、私を見て頷いてる…… 知ってたの? マジ? でも、マリーは…… 知らないよね……
「マ、マリー様……」
「何でしょう、クロエ様……」
ちょっと不安げ。 当たり前か…… どうしよう…… どうやって伝えよう……
「あの、何か? お困りの事でも?」
「い、いえ…… あの、マリー様。 貴方は龍印について、どれ程、ご存知なんでしょうか?」
「何分と、龍印薄き者で御座います故、父にも気に病むなと…… 一般的な事しか…… それが?」
だめだ! 今、伝えちゃ。 マリーが知らないって事は、知らせたくない人が居るんだ。 私が言ったら、ダメな事なんだ!
「……すみません。 この事については、少々、お時間を頂きたく……」
「宜しいですわよ?」
「誠に無作法な真似を……ご、ごめんなさい」
「あら……何の事かしら?」
にこやかに微笑むマリー。 ハンダイ龍王国としては、龍印強き者が多くいた事に越したことは無い。 私が倒れても、マリーが居るとなれば、私の動ける幅も断然大きくなる。 青龍大公翁様、青龍大公閣下は、それを秘匿された。 マリー自身が知らず、また、ボリスさんは、知っていると思われる。 すると、青龍大公翁様も、青龍大公閣下もご存知と云う訳だ。
つまりは、ハンダイ王家にマリーは差し出さないと云う意思表示…… 黒龍大公家の私が口を出して良い問題ではない。 ……黒龍大公翁、知ってんのかな? 多分、知ってるよね。 青龍大公翁様と昵懇の間柄だもんね。 私と仲良くなったら、私が気が付くって思ってなかったの?
あの方達の事だから、それは無いわよね…… なにが目的なんだろう…… あの世代の方は、ハンダイ龍王国に対して、並々ならぬ忠誠心をお持ちだし…… そう、王家にではなく、龍王国にね…… その辺か…… これは、私の手に余る。 勝手に何かしたら、絶対に問題になる。
そう、何かが囁くのよ。 その時ではないって。
うん、これは、黒龍大公翁に、聞くしかない。
「マリー様、ごめんなさい。 理由は今は答えられないの。 でも、ちょっと、隠し事するね。 でも、青龍大公家のご意向もあるし、マリー様の為でもあるから、私の一存ではどうしようもないの…… ごめんなさい。 嘘は言いたくないの……でも、今は言えないの……」
「クロエ様? よくわかりませんが、クロエ様がそんなにお悩みになる事で、『 嘘を言いたくない 』って仰って下さったから、待ちます。 ” 今は言えない ” のならば、いずれ、お話下さるのでしょ? その時まで、マリーは待ちますわ」
「ありがとう……本当に有難う」
友達は、失いたくないし、誤解もされたくない。 あまりにも何故が多すぎる…… わたくし事で、お家の友誼を失う事もしたくない…… ゴメンね、本当に、ゴメンね。
ちょっと、沈黙が流れたんだけど、マリーが話題を変えてくれた。 精霊祭をまた、中庭でしましょうって。去年と同じに。 一も二も無く、その話題に飛びついたよ。 ほんと、マリーのこの ”読める” 感じ、有難いわね。 そんで、暫く、精霊祭の事をお喋りして、お部屋に戻ったの。
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お部屋に帰ったら、ミーナが半泣きだった。 教官に絞られたらしいの。 仕方ないじゃん。 黒龍大公翁に、仕込まれたんだよ私。 でね、色々掻い摘んで、感想戦したのよ。 反省点と今後の課題。 ミーナ判ってくれた。 十人の司令塔がいて、それぞれの担当決めてゲームをした事に間違いはないわ。 でも、それを纏めて勝利に向かう流れを作る司令官が不在だったのよ。
ミーナ、意見を聞きすぎ。 本来は攻勢をかける場面で、中途半端な攻撃しただけだし、民生でも税率を引き上げなさすぎ。 民力を上げるのは、苦しい時を凌いだっていう一体感も必要なのよ。 ゲームのルール上、そう言った事も反映できるしね……
ちょっと、足りないね。 頑張れ! ミーナ。 基本的には何も間違ってないよ。 だって、私、今回諜報戦仕掛けて無いもの…… 真正面から戦って、圧勝しちゃったのは、そういう事よ。
深夜まで掛かって、感想戦したから、眠かった。 色んな事が、一気にぐるぐる回った。 水浴びして、今夜はこの辺で寝よう。 明日は、黒龍のお屋敷に行く事にする。 授業に来るなって言われたしね!
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翌朝、鍛錬を済ませてから、黒龍大公のお屋敷に向かった。 控えてついてくるのは、ヴェル。 メイドズは、それぞれの授業に向かってる。 みんな、相当頑張ってるみたいね。 評判も上々。 外郭の回廊を進む。 噂話を小耳に挟みながらね。 相変わらず、東側がきな臭いね。 今度は、夜盗とか、強盗団とかの話が多かった。 今のところ、自警団で何とか対処してるけど、一度、大々的に、冒険者ギルドへ依頼をするとか、しないとか……
国が荒れるのは、良く無いよね。 精霊様への祈りが少なくなる。 まぁ、大人の人達は、きっとうまく対処するよ。 でもね……おかしいのよ。 強盗とか夜盗とかなら、郊外の寂れた道なんかで、稼ぐはずでしょ? それがね、主要街道ど真ん中とか、大きな町の近くとかでね、多発してるんだって…… なんか変よね。
反対に迷宮とか、洞窟とか、魔物の巣になってるような処じゃ、一切、報告されて居ないの……寂れてるからとかそう言った訳じゃ無いのよ…… そう言った、冒険者が稼ぎやすい場所の近くには、必ず町があってね、稀少素材やら、魔石やらの取引が活発なのよ……夜盗ならむしろ、そっちが美味しい狩場なんだけどね……
なんで、護衛の多い、人の目に着く場所なんだろ? ちょっと不思議……
そんな事を考えながら、ずんずん歩いて行って、広場を突っ切り、黒龍のお屋敷に到着。 うん、いつ見てもデカいよね。 黒龍大公のお屋敷は…… 帰ってきたら、先ずは、奥様と、ソフィア様にご挨拶申し上げて……と。
ちょっと、黒龍大公翁に、お話をしなきゃならない事が沢山出来たね。
もう、私だけでは、対処が難しくなってきてるよ。
なんか、大きな渦にゆっくりと飲み込まれてるみたいでね。
ほんと、そんな感じがするの。
断片的な情報では、よく全体像が掴めない。
黒龍大公翁、 頼りにしてるよ。
それにしても、最近のハンダイ龍王国は騒がしい……
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ちょっと、謎回ですね。 ホンワカ マリーの生い立ちが、すこ~し 語られました。
クロエも、困惑気味ですね。
また、明晩、お会いしましょう!




