クロエ 戦を始めて、勝算を得る
次の日から街へ出たの。 ヴェルも一緒にね。 今度はちゃんと、お嬢様してね。 パーティじゃないから、すんごいドレスじゃないけどね。 ほら、シンダイのお屋敷で着てた奴。 部屋着だって言ってたけど、ちょっといい普段着なんだよ。 綺麗な色のワンピースなんだよ。 髪をきちんと結い上げたら、黒龍のお嬢様に見えるんだよ。
うん、言質とってるしね。
で、行先。 先ずは商工ギルドなのよ。 うん、ちょっと相談が有ってね。 ほら、辺境に行く人は行くけど、やっぱり、王都シンダイで暮したいって考えている人っている訳じゃ無い。 でも、仕事がね。 で、お願いに行くのよ。
先ずは目先の事。 商工ギルドのなかは、王都の色んな職人さん達が居る訳よ。 そんでね、その下働き。 たとえばね、鍛冶屋の下職。 屑金属をインゴットに戻すのとかね…… そんな感じ。 それをお願いしたの…… 優先的に手に職を持っている人を使ってねって。
ギルドのおじさん、めっちゃ驚いてたよ。
「それは……黒龍大公様の思し召しでしょうか?」
「ええ、そう取ってもらっても構いませんわ。 王都の職人の方は、高度な注文に専念できますし、いま、困っていらっしゃる方々には、職が手に入ります。 とりまとめ、お願いできますでしょうか?」
「ええ、それはもう。 ただ……」
「ただ?」
「いえ、その下職をする場所なのですが…… 設備も要りますし……」
「ええ、その為に、私がお話を持って来たのです。 アレクサス黒龍大公翁様に ご相談ください。 場所、設備などの、基本的に必要となる物はご用意いたします。 必要なモノが有れば、ご連絡頂きたく」
「有り難き御言葉です。 御針子、鍛冶屋、色々な職で、下職は慢性的に不足気味です。 いいですね。 それは…… さらに場所もご用意いただけるとは……」
「お知らせに参りましたかいがありましてよ。 よろしくね」
ニッコリ笑っておいた。 んで、黒龍大公翁には、あとで、怒られることにしよう。 まぁ、当ては有るんだよ。 黒龍の御家の使ってないタウンハウスとかね。 二、三ヶ所開放してもらえるだけで、十分な筈だよ。
そうだよ、言質は貰ってるもの。
「もう一つ……お願いが御座いますの……」
「何なりと、お嬢様」
「はい、極、小規模な露店を出す許可を頂きたいのです」
「極小規模?」
「ええ、……実は、精霊教会に併設されている孤児院の子供たちの事なんです」
「はぁ……なんでしょう?」
「先日、各街区の精霊教会にお邪魔した折に、修道女さま達からお聞きしまして……」
「はい」
「なんでも、孤児院の子供たちが、露店で何かを売ろうとしていたらしいのですが、商工ギルド加盟者以外、王都シンダイでは商いが出来ないという、規則が有りますでしょ?」
「ええ、無用な争議を起こさぬためでして、それが?」
「子供たちが、精霊教会の為に、自ら進んで幾許かの利を得ようとしたらしいのです。 子供たちは、修道女さま達の真摯なお世話になんとか報いようとしたからでした。 でも、ルールはルール。 周辺の者達に禁止されております…… 彼らの気持ちがいじらしくて…… 教会の敷地内とか、市場の片隅に彼等孤児たちの露店を出す許可を頂けたら…… もちろん、其処以外での商いは許されません。 ただ、ほんの少しだけ……」
「……孤児たちの気持ちですか ……考えた事もありませんでした」
「いずれ、彼等も大きくなります。 頭角をあらわす者も、いるでしょう。 商工ギルドの方で、お手すきの方がいらっしゃれば、王都シンダイの商いの方法を教える事も出来ます。 また、不正をする者を監視する事も、腕のいい者を見出す事も出来ます。 ……御婆様に昔、教えて頂きました。 ” 子供は無限の可能性を持っている ”と 」
おっちゃん、腕組みをして、唸ってる。 そうだね、辺境じゃ当たり前の事が、王都シンダイでは考えもつかない事なんだよね。 辺境じゃね、十二歳に成る前に、一通りの仕事をするんだよ。
薪割ったり、纏めてデカい物洗ったり、露店で採って来た木の実売ってみたりね。 猛者なんか、魔獣の肉売ってんだよ? そんなの当たり前の風景だったよ。 小銭を稼いで、街から来る商人から、レース紐とか、山刀とか買うんだ。 お菓子もね。 楽しかったなぁ……
そんで、孤児院に居る子達、辺境で暮してた子も多いのよ。 知ってる訳よ、小遣い稼ぎの方法を。 でも、商工ギルドのルールが有るから、蹴散らされちゃうわけよ。 で、凹むのよ。 勿論、いろんな下働きとか有るわよ。 でも、楽しみが無いのよ。 自分達で何かをしたって云う、達成感みたいなもの……
活気づくよ、出来たら。 そんで、得たお金は、やっぱり子供たちの物ね。 色んなものを買ったり、精霊教会の人にあげたりできるじゃん。 人の想いは、精霊様の力になるのよ。 祈りは、金銭じゃ買えないの。
「判りました。……この話、商工ギルドマスターの私が、責任をもって実現いたしましょう。 良い事を聞いた。」
よっしゃ! 食いついた! 丁寧にお礼を言ってから、席を立ったの。 優雅に、微笑みながらね。 後日、許可証を貰えることになったよ。 黒龍のお屋敷に持ってくるって。 うん、楽しみ。 きっと、他のギルトの会員さん達に根回しするんだろうね。 良い事だよ。 取り敢えず、やってみるの。 そんで、ダメなら他の方法を探すの。
でね、精霊教会で愚痴られた、もう一つの大きな問題。
主食……なのよ。
もっと言えば、パンなのよ……
ほら、私が行ったのは、小さい精霊教会ばっかりじゃん。 大きなところは、自前でパンを焼くから問題は無いんだけど、小さい所は、そうも行かなくてね。 龍王国から下賜される、僅かな金額では、今抱えている孤児たちに十分な食事を与えられていないって。 勿論、青龍大公様も色々と頑張って捻出していらっしゃるけど、末端まではね……
そんで、私たちは、エルの実家に行ったのよ。
驚かれた。 うん、確かにね。 エルいないし。 私だけが来たもんだからね。 最初は、めっちゃ怯えられたよ。 エルがなんか、 ” 仕出かしたんじゃ ” てね。 笑って否定しといた。
「彼女が居ないと、なにも出来ませんから……」
「そんな、勿体ない! あれは、良く仕えておりますか? 御不興を買うようなまね、仕出かしておりませんか?」
「頼りにしております。 御心配には及びませんわ。 それで、わたくしの、お話と云うのは……」
売れ残ったパンを買い取らせてほしいのよ。 ” 原価 ” で。 物凄く勝手なお話なんだけど…… 予算が無いのよ。 でね、やっぱり商売って水物なんだよね。 目算付けて作ってみても、売れ残りが出ちゃう日も有るのよ。 エルが零した事あるんだよ。 ” 子供の頃は、売れ残りのパンばかり食べて居ました ” ってね。
そんで、ピンときたの。 売れ残りのパンが出た時に、” 原価 ” で売ってもらえたらなぁ…… ってね。 勿論、エルの実家だけじゃないのよ。 街区にあるあちこちのパン屋さん全部に同じ事して貰うの。 で、集まったパンを、精霊教会に寄付するの。
日によって、多い少ないは有るけど、これなら、無駄にならないし、お金だってそんなにかからない。 でね、この提案乗ってくれるかなって思って。
そしたら、エルのお父さん、乗り気でね。
「いいすっよ! それ。 時々、やらかすから。 原価で買って貰えるなら、御の字でさぁ!」
って。 そんでね、それじゃぁって事で、エルのお父さん連れて、もう一回、商工ギルドにいったのよ。 ギルドマスターまだいてくれてた。 そんで、会ってくれた。 よかった。 忙しい人だもんね。 ギルドマスターにお願いして、学院の口座を作ってもらったのよ。 そんでね、其処に配分されていた予算の一部と、奥様から頂いていた、例の ” お小遣い ” の一部を入れて貰ったのよ。
そんで、パン屋さんが、原価で売ったパンの代金をそこから引き出して、現物のパンは、一旦、商工ギルドに集められて、其処から各精霊教会に送られるようにしたの。 不正が起こりにくくしたわけ。 それに、日によって、街区によって、売れ残りってまちまちだから、商工ギルドで、公平に再分配してもらうのよ。 まあ、孤児たちの頭数で割るんだけどね…… これで、一日一回はちゃんとしたパンが食べられるんじゃないかな。
なんか、みんなニコニコになったよ。 で、ギルドマスターに 「預かり書」 出してもらってね。 これを、学院に提出したら、一応は、殿下の依頼をこなしたって事に成るでしょ。 もうちょっと、予算は残してあるけど。
その日は、一旦、黒龍のお屋敷に帰ったの。 だって約束でしょ?
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次の日に向かったのは、王城ドラゴンズリーチの外郭北側。 そう、内務寮の官吏の皆さんが居る所。 こっちは、なかなか面会時間取れなくてね。 頼み込んで、時間作ってもらったのよ。 場所は、人事局。 人がね、欲しかったの。
小さい精霊教会に行って、思った事があるの。 孤児の子たち…… 読み書きが出来ないの。 マズいわよ。 手に職を付ける前に、浮浪者に成っちゃうよ。 いくら、精霊教会の人が教えようとしても、精霊教会の人には、それぞれ、お勤めが有るからね…… でね、最低限の読み書き算術が出来るように、先生を募集したかったの。
長い時間とか、専門教育とかじゃなくてね。 読んで、書ける。 それから、簡単な計算が出来るようになる事は、王都シンダイに暮らすにしても、絶対に必要な事だもんね。 そんできたの。 狙いはね、
「はぁ? 登用試験に不合格だった者ですか?」
「ええ。 残念ながら、登用されなかった人達、お家で徒食してると聞き及びます。 よからぬ遊びもされて居るとか…… その方達に、先生になってもらいたいのです。 王立魔法学院で学ばれたなら、基本的な読み書き算術は出来ている筈。 それに、登用試験を受けようとされるくらい、龍王国の役に立ちたいと思われていたのだと、思います。 そんな彼らに、次代の龍王国の民の先生になってもらいたくって…… ダメでしょうか?」
綺麗な恰好をして、ちゃんとお化粧をしてると、” ダメでしょうか? ” 攻撃、効くようになって来たんだよ。 うん、ビジュリーの表情とか、マリーの口調とかがお手本。 なんか唸ってるね、対応してくれた人…… もうひと押し!
「あの、些少では御座いますが、福祉予算の一部の運用を任されました。 半期でこの位……・ 正規職員では御座いませんので、時間単位でお支払いいただければ…… かなりの人数を確保できるかと……」
うん、残りの金額と、やっぱり、奥様から貰ったの例の、 ” お小遣い ” の一部を、合わせた金額を提示してみた。 また、唸ってるよ……
「実際、登用試験に受からなかった者達は…… 色々と、問題が有ったので ……これは、有難い提案ですね ……そうですね、上司と相談してみます」
「この ” ご提案 ” は、わたくしからでは無く…… アレクサス黒龍大公翁の御名で出されても……大丈夫かと」
「なんと! そうですか! 判りました! 是非とも!」
流石、黒龍大公家の名前は、強いね。 内務寮じゃ、最強だよ! うん、ゴメン、使うね、名前。 こんで、子供達が「勉強」をする機会が出来る。 ド底辺から這い上がれるよ。 あとは、人となりだよ。 援助は、頑張る人が受け取るべきだしね。 そんで、感謝するのは、精霊様にね!
うん、これで、随分と多くの龍王国の民が祈りを捧げる機会は作ったよ。
あとは、時間だね。 一気に話を進めたけど、なにが有るかわからんしね。 でも、波はさざ波から、起こり始めるんだよ。 それは、辺境に帰還する人が、日に日に多くなってきてる事とか、あの白龍大公様の辺境伯でさえも、精霊教会に張り紙を出すようになった事とかみたいにね。
随分、浮浪者の人も、居なくなったって…… 黒龍のお屋敷に居る、騎士さんとか、衛兵さんとかが、噂してた。
よし! 下地は出来つつあるね!
色々動き回って、あちこちに顔出して、お願いして、やっとこ、色んな許可証とか、巡回表とか、パンの配給表とかが手に入った。 予算、使い切っちゃったし、奥様から頂いていた、例の、” お小遣い ” も半分ほど、使っちゃったよ。 でも、まぁ、宝石とか、買うより、ずっとましな使い方だから、許してくれるよね。
そんで、それらの成果を引っ提げて、各精霊教会に向かったのよ。 町娘のカッコでね。 ヴェルと一緒に。 でね、各精霊教会の聖職者さん達への説明は、ヴェルにお願いしたのよ。 私じゃ、説得力無いし……。 うん、通りの良い方が、いいに決まってるよ。 ヴェル、説明上手だしね。
めっちゃ、喜んでくれた。 ホントに、小さい精霊教会の聖職者さんは、涙流してた。 うん、全ては、精霊様の思し召しだよ。 精霊様に、祈りを捧げてね、お願い!
でね、王都シンダイに有る、八十二の精霊教会、全部に行ったのよ。 そんで、そこの孤児たちとも、お話したのよ。 みんな、前来た時は、ぼんやりとしてたのが、生き生きしてたね。 自分達でお小遣い稼ぎが、出来る様になった事が、一番うれしかったみたいよ。 頑張ってね。 それでも、ちゃんとルールには従うのよ。 そうで無くては、精霊様、お喜びに成らないからね。
子供達、みんなの、キラキラした笑顔見てたら、嬉しくなっちゃったよ。 やってよかった。
こんだけ遣れば、あいつらに吠え面、かかせてやることだって出来るかも! 個々の祈りは小さくたって、ハンダイ龍王国は、精霊様に祈りを捧げる国なんだよ! 妖魔精霊なんかに負けるもんか!
あとは、グレモリー様の八大精霊教会へのお運びを待つばかりだ!
ミルブール国教会よ、
お前等の野望、叩き潰してやるからな!
ブックマーク、感想、評価、誠に有難うございます
嬉しいです。 毎日更新頑張ります!
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対、ミルブール国教会 頑張って予防線を張っています。 浮浪者が龍王国の民に戻り、精霊様に祈りを捧げ始め、子供たちが、生き生きと生活を始め、感謝の祈りを始めます。 個々の祈りは小さくても、集まると奔流になる事を、クロエは知っています。
だから、必死にその状況を作り出そうと、もがいています。
頑張れ、クロエ! 中の人、熱くなっております。
それでは、また、明晩、お会いしましょう!




