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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
たとえ、悪者になっても
63/111

クロエ 対ミールフルール戦、兵站を整える



 


 もし……




 もしも、だけどね、……





 私が、あの精霊教会の周りにたむろってた人達と同じ立場なら……って


 そう、考えたのよ。 魔物に追われ、せっかく耕した畑を投げ出して、親類縁者も居ない王都にやってきたらって…… そんで、自分がしてきた仕事が、ココでは何の役にも立たなくて、家族どころか、自分の食い扶持すらも稼ぎ出せないって…… うん、凹むね。 かなり、凹む。 


 そんでも、故郷を捨ててまで、生き残っちゃった手前、故郷に帰るって選択は出来ないし……まだ、安全かどうかも分かんない…… 無理して帰っても、逃げ出さなかった人に何言われるかもわかんない。


 怖いね…… 王都に居れば、精霊教会が恵んでくれて、その日は生き延びられる…… だから……動けない……


 うん、判るかも……でも、それ、龍王国の民の暮らし方じゃないよ。 ダメだよ。 それは…… そんなんじゃ、簡単に誰かに付け込まれちゃうし、いずれ心が腐ってしまう。 だからね、ちょっとだけ背中を押してみようと思ったのよ。




 まだ、やり直す事を考えられる人は、龍王国の民に戻れるよ。 きっとね。




 エミール=バルデス辺境伯おじさまから、お返事貰ったの、早かったからね。 内容は思った通り。 辺境地帯って、すんごく人手不足。 せっかく耕作地にしたところも、泣く泣く放棄してる状態なんだって。 魔物の侵攻はあるっちゃ有る程度。 辺境に暮らしたことがある人なら、問題ない位に減ってるって。 出て来る魔物だって、弱っちいのばっかりなんだって。



 よし、行けるかも!



 んでね、張り紙を作ったの。 八十二枚。 




               ―――――





     >>>>  急募! 辺境から魔物に追われし者達! <<<<




 シーガイカの地、バルデス辺境伯爵領では、人手不足の為、耕作地の放棄が続いている! 君の力を貸して欲しい! 旅費はバルデス辺境伯が支給。 住む家も無償で貸し出す。 君の力を待っている農地がある! 一緒に素晴らしい村を作ろう!



               ―――――




 これをね、八十二の精霊教会に張るのよ。 ウラミル閣下おじさまにはね、大型の駅馬車を用意してもらったの。 強請っおねだりした。 何人行くか判んないけど、試しにね。


 張り出して、三日で大型駅馬車の定員が埋まったのよ。 まだまだ、捨てたもんじゃないね。 そんで、第一便を送り出すときに、駅に行ったの。 みんなボロボロの格好だけど、眼がね…… 輝いてたのよ。 いけるよ、これ、いける。 やっぱり必要とされるって、人を変えるよね。


 引き続きお願いした。 バルデス辺境伯爵領での人手不足は、かなり深刻だからね。 結構、たくさんの人が行っても、大丈夫だよ。


 私が、行政内務科の授業に顔を出してなかった、一ヶ月の間に、二便目も出せたよ。 うん、かなりいいペースね。 たった、二回でも、精霊教会の周りの空気変わったよ? うん、なんというか…… ちょっと清々しさがもどった感じ。




 ―――――




 ゲームの授業に顔を出したら、教官が憮然としてて困ったの。 教室に入る前に、腕掴まれて、教官室に拉致されちゃったよ。 わたし、言いつけ守っただけだよ? サボって無いよ?





「すまん、シュバルツハント。 まだ、準備が出来て無いんだ」


「はぁ? 教官、確か一月って……」


「……ミハエル殿下だ。 あの方に振り回されている。 なんでも、グレモリー様の精霊教会への、お運びに、尽力されていて…… その、なんだ…… 授業が進まん。 いまだに、中規模盤の戦闘だ…… これでは、シュバルツハントとバランスが取れない」


「あの…… それでしたら、わたくし、裁定官でも宜しくてよ」


「貴族共が納得せんよ、それでは。 くそっ、シュバルツハントに手を抜けとは言えんし……」


「ならば、アスカーナ様と対戦するのも……」


「グレモリー様、ミハエル殿下も一緒にか?」


「……それは……」


「最初に選択を誤った……今更、ホテップ男爵令嬢を、グレモリー様から外すわけにもいかんのでな…… すまん、もう一月くれ」






         あぁぁぁぁぁ!!! 何やってんのよ!!!! 


           授業が! 授業が!! 授業が!!! 


          なんか切れたい! ホントに、切れたい! 


               仕方ないよね…… 


             うん……  諦めるか……


 




「ひと月で御座いますよ? お願いしますね」


「判っている、それでもダメなら、ミーナと対戦させる。 あいつも、なかなかやるようにはなったんだが……」


「では、…… 一月後に」





 しょんぼりして、教官室を後にしたよ。 ものっそい、脱力感だよ…… なんでかって? 此処に来る前に、魔法科でも、同じ事言われたからね。 教授に、 ” 片手に魔方陣二個出してみろ ” って、言われてさ。 何でだろう?って 思ってさ。 そんでさ、何処まで出来るのか見たいんだろうなぁって、思ってさ。 片手に、重防御魔方陣と魔法障壁魔方陣、重ねて出したら、絶句されてね。




        そんで、あっちも、一月来なくて良いって……




          何でだよ!!!  私、学生だよ!!!





 ―――――





          凹んだよ……ホント、凹んだ。




 行くところ無くなって、魔法薬学科のマーガレットの研究室、覗きにいったのよ。 鬱蒼とした、鉢植えが並んだ温室の向こうの小部屋に、居たよマーガレット。 


 ニコニコしながら、迎え入れてくれたんだ。 そんでね、椅子に座って、ホッと一息ついてから、教室から追い出された話をしたんだよ。 マーガレット、腕を組んで、ウンウン頷いたあと、口を開いたんだよ。





「そりゃ、あの、シュバルツハント遊撃隊の指揮官だもんな! そうなるって! アゴーン!」


「おい! やめろ!」





 ほんと、やめてよ。 それじゃ、私が脳筋じゃない。 いっつも、どっかに突撃してるみたいじゃない! ホントにもう!! でね、笑いながら、マーガレットが続けたのよ。






「―――考えても見てよね、クロエ。 緊急時における、状況判断、作戦立案、実戦指揮、重複魔方陣展開の上、魔法騎士と同等の攻撃魔法を放ったんだよ、あんたは。 その上、こないだの歓迎舞踏会の仕切り。 いや、仕切りじゃ無いよね、あれ。 第一級国賓に対する舞踏会の準備と施行の現場責任者だったよね。 難しい、実戦指揮官にして、有能な官吏。 流石は、歴代最高・・・・の実習評価を受けただけあるわね、クロエは」


「なにそれ……私、知らないよ、そんな事」





 ちょっと、ビビった。 なんで、そんな事に成ってるのよ。 やるべき事、やっただけじゃない! それに、なんで、マーガレットが……





「学生は知らない。 でも、私は知ってる」


「なんで」


「聞かない方がいいよ」





 そう云って、真っ赤な小瓶を振ったのよ。 こいつ…… 何やらかしたんだ? それって、【虚言拒否】のポーションじゃね? だれに使ったんだ?



      だ ・ れ ・ に !! 



 くそ、やっぱ、来るんじゃなかった! こいつ、ホントにヤバイな。 マーガレット、急に真顔になって、声を抑えて口を開いたんだよ。





「でだ、クロエ。 あんた、今、ちょっとヤバイよ」


「なんで?」


「あんた、相当、問題の有る連中に目を付けられてるよ」


「だれに?」


「―――ミルブール国教会」






           うわっ!





 ここで、出るのか、その名前。 流石にびっくりしたよ。 なんか、この頃その名前良く聴くよね。 黒龍大公翁おじいちゃんにも、言われたばっかりだよ。  でも、それ以上に、なんで、知ってんのよ、マーガレットが!






「クッキー事件の後ね、例のお薬と、薬草の出所を追跡してたんだ。 とっても気になってね、青龍大公翁閣下の御言葉がね。 失いたくないんだよ。 だから、調べた」


「……で、行き着いたって事ね」


「そう、行き着いた」


「危険な事はやめてね。 お願い。 本当に、お願い。 マーガレットが思ってくれてるのは判る。 でも、私だって、大切な友人失いたくないもの。 絶対に、絶対に、危険の無いようにしてね」


「逃げ道は、常に作ってるよ。 相手が相手だからね。 だから、言っとく。 狙われてるよ、クロエは」





 嬉しい反面、困った。 もう滅茶苦茶、心をかき乱されたよ。 マーガレットの顔を見ながら、考え込んじゃった。 目下抱えてる課題は、そいつらの出先機関てさきを、ぶっ壊す事だからね…… やっぱ、トラブルの方が、私を熱烈に求めてるんだね……





「その忠告……ちょっと、遅かったみたい……」


「はぁ? ヤバいって、手を引いた方が良いって!」


「うん、ちょっと、無理。 始めちゃってるもん……」





 マーガレット、じ~~っと私を見た。 目を大きく見開いて、私の表情をじっくりと、観察してるみたい。 で、私がてこでも動きそうにないんで、諦めたようね。 そんで、彼女、大きく溜息をついたよ。






「クロエは…… 止められないか…… でも、これだけは約束して」


「ん?」


「ヤバいと思ったら、逃げる。 王都シンダイから逃げる事を。 どこでもいい、絶対に逃げて」


「うん……わかった。 善処する」






 また、じ~~っと私を見て、ニヤって笑う、マーガレット。 その顔を見て、私も、ニヤって笑ったよ。そうだね、友達だもん。 マーガレットの言う通り、命には代えられないしね。 最悪を想定して動くよ。 そんで、黒龍大公翁おじいちゃんにも、伝えとく。 



       うん、そうだね、来て良かったよ。



           気が引き締まった。



           注意深く進もう!






 *************





 お部屋に戻る前に、図書館によって、十数冊の本を借りて来た。 そんで、お部屋でお茶飲みながら、それ読んでたの。 調べたい事、有ったからね。


 色んな本を読み漁って、ミルブール国教会が信奉している、妖魔精霊 を調べてみたのね。 


 判った事がある。





         マジで、 ” ヤバい ” よ、こいつ。 





 黒龍大公翁おじいちゃんが厄介なモノって呼んでた訳、しっかりと理解出来たよ。


 ミールフルールって云う、妖魔精霊は、精霊様とは対極をなす存在なんだと。 人の感情とか、弱った精霊様を、喰っちゃう奴なんだと。 


 人の祈りが強い時は、手出しが出来ないんだけど、祈りが薄くなったり、反対に、妖魔精霊ミールフルールの信奉者が増大して、力を付けると、糧として、精霊喰っちゃうんだ…… で、精霊の加護が消えてしまう。 妖魔精霊は、人の、”欲心” も糧とするんだって。


 で、気に入った人にだけ、しるしを与えるんだってね。 その結果、そのしるしを求める人が信奉をすると。 まるで、病原菌みたいだね。 奴の目的は、人の世界に魔物の世界を、誘引することなんだと。 


 いかんよなぁ…… 精霊に捧げる祈りが無くなって、妖魔精霊に力を渡す…… 当然、目に見えにくい精霊様の加護は消え、精霊様も妖魔精霊に喰われて消える…… で、奴の使う手は……


 金銭を、 ” 浄財 ” として、差出させて、見返りに、その人に与えた、” 欲 ” を満たすんだ。 「富」 とか、 「権力」 とか、 「淫欲」 とかね。 更に、もっともっとって、追い打ちをかける訳だ…… 人に祈りを捨てさせて、妖魔精霊の生々しい、目に見える、 ” しるし ” を、与えるんだ。 気が付かない内にね。



 なんだ、ミール教って、俗に言う、【悪魔信仰】そのものじゃん……



 読んでた本、パタンと閉じたよ。 ホントに気分が悪い。 ミルブール国教会のやつら……何を企んでんだ? 人の世界を、魔物の世界に変えるつもりか?  危機感を抱いた、国々が、ミルブール国教会の導師を入国禁止にしてる訳だ…… 


 ミルブール王国も、十二支族の人達は結構抵抗してるらしい…… でも、ミルブール王国の国王陛下、グラン=ミルブールが帰依しちゃってるしなぁ……



 龍王国も、対策たてなきゃね……



 先ずは、何処まで食い込んでるか…… そんで、喰い込まれてる、精霊教会の聖職者さん達、この事知ってんのか……だよね。 これ、自分じゃ動けないよ。 それでなくても、狙われてるらしいもんね。 


   ……黒龍大公翁おじいちゃんに頼もう。 


 いや、頼らなきゃいけないよね。 これは、もう、個人でどうっていう問題じゃない。


 でね、黒龍のお屋敷に向かったの。 ヴェルを連れて。 ほら、たくさん、お休み貰ってんじゃん、私。 そんで、ミハエル殿下の命令もあるし、いちいち学院まで戻るの大変だから、黒龍のお屋敷に居させてもらう事にしたんだよ。 勿論、学院には許可取ったよ? 規則違反はしないよ? 


 だって、揚げ足取られたくないじゃん!





 *************





「アレクサス黒龍大公翁様……お話が」


「そろそろ来る頃じゃろうと思って居った。 ……国教会のことであろう?」





 アレクサス黒龍大公翁おじいちゃんの執務室に、夜ご飯を食べた後でね、伺ったのよ。 そしたらね、黒龍大公翁おじいちゃんお酒片手に、待ってたのよ。 ものっそい、機嫌よくね。 





「手は打った。 青龍、赤龍も同意した。 白龍は……クーベル白龍大公翁のみ、ご存知だ。 あの方は、底がしれんからな。 いずれ、なにか、するつもりじゃろうな。 ……大精霊教会の教主には、話を通した。 驚いておったの。 で、クロエ、お前はどうする? 民を辺境に誘って居るようじゃが」


「……有難うございます。 お話と云うのは、まさにその事でした。 ……黒龍大公翁様おじいさまは、今の状況をどうご覧になられます?」


「……戦争じゃな。 すでに、戦端は開かれておるの」





 私と同じだね。 ホントにそう思うよ。 完全に侵略だよ。 それも、魔物の世界から、人の世界へのね。 負けたら、龍王国どころか、人の世界まで、破壊されちゃうよ。 そんで、人の尊厳なんかも失われてね……





「防衛戦闘を開始しますね。 先ずは、不確定分子の誘引と隔離から。 祈りの増大も必要ですね」


「うむ、青龍の処から、面白き連絡があったの」


「何で御座いましょう?」


「 ” 人手を奪うな ” 、とな。 青龍の辺境領でも、同じような勧誘を開始すると。 あそこは、水利を知っている者が大量に必要じゃてな」




        うほっい! 




 ニンマリとした笑みが浮かんだよ。 ホントに嬉しい。 やっぱ、間違いじゃ無かったよね。 やったね! ” 次 ” が、現れたよ! スラム街の浮浪者が、龍王国の民に戻れるんだよ! これは、大きいよ。 ホントに大きい。





「有り難き思し召しです。 かなりの数の民が、これで、救われます」


「そうじゃな。 ” 救われる ” な。 感謝を祈りに変えるか。 人に命の糧と、尊厳を……か」


「はい。 全ては、精霊様の御加護と」


「うむ、相分かった。 進めるがよい」





 そうだよ、これで、精霊様への祈りが増えるんだ。 辺境に戻ればよくわかるよ。 天龍様の御加護で魔物達は平穏化して、それまでとは比べようもなく、暮らしやすくなってる筈だし。 もともと、辺境に居る人は、常に精霊様の加護を身近に感じてるもん。 水、大地、光、闇、風、火の精霊様が護ってくれてるってね。


 あっ、 ” おねだり ” しとこう!  ホントは、使いたくなかったんだけどね。 どうしても、要るんだよね。 ある特定の人達を動かすのに……





「それと……」


「なんじゃ? 何か必要か?」


「 ” 黒龍大公家 ” の御名前をお貸しくだされば……」


「ん? なんじゃ、クロエ、お前はシュバルツハントを名乗って居ろう? この屋敷に来た時から、お前は、黒龍の姫御子じゃよ。 断りなど要らぬ。 存分にな」


「……アレクサス様……有難うございます」




 よし、言質はもらった! ちょっと、色々考えてる事が有ってね。 黒龍大公翁おじいちゃんの言葉で、動けるよ。 ミルブール国教会の侵攻は、絶対に、潰す。 この国は、精霊様の御加護で守られている事を、知ってもらう。 




            ミルブール国教会よ



           先に仕掛けたのお前らだ



            ぜってぇ、負けねえ。




           吠え面、かかせてやる!! 





ブックマーク、感想、評価 本当に有難うございます。


本当にうれしいのです。 どうしましょう?


―――――


さて、三年目の山場に到達しました。 これより、防衛戦闘に入ります。 あっ、でも、剣劇も無ければ、派手な魔法合戦も無い、地味~~~な話が続きます。 でも、結構好きなんです、こういった話。


ほら、「清水一行 先生」の企業ものとかね。 


ちょっと、目指してみました。 で、これも、何かの一環ですハイ!


では、また、明晩、お逢いしましょう!!

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