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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
たとえ、悪者になっても
62/111

クロエ 人々のために、画策する




ビジュリーの部屋の中に通してもらったんだけど…… 




 控えめに言っても、嵐の後の森の中。




 色んなモノが散乱してた。 荒れたんだねぇ…… ゴメンよ。 ホントに眠かったんだよ。 座る場所すらないの。 私はさ、ピッパ持ってるから。床に座り込んだの。 アスカーナも、マーガレットも、ひっくり返った椅子とか、戻して座ってた。


 ビジュリーの部屋の使用人さん達が、手早く片付けて居るんだけど、凄い状態だからね…… 当人は…… 一旦、奥の間に引っ込んでた。 着替えだね。 昨日のままだもんね。 流石に、楽器には手を出していないよね。 うん、そこはね…… ” 音楽家 ” だしね。


 でね、アスカーナが真顔で聞いて来たのよ。 隣で、マーガレットも真顔で唸ってるし……





「クロエ様、どんな魔法を御使いになったんですか?」


「魔法? いいえ、ピッパを弾いただけですよ?」


「クロエ…… あの状態になったビジュリーは…… 戻んないんだよ…… 暫く…… うん、前の時は半年くらいだったかな……」


「そんなに? ダメですね。 何があったのですか?」





 片付けをあらかた終えたメイドさんの一番年嵩の人が、私に一礼して言葉をつないだのよ。





「……学院入学前……ご指名で、さる高位貴族様のお屋敷で、演奏された事が御座いまして……」





 あぁ、そうか……そういう事か……





「……何となく判りました。 無茶なお願いばかりで、弾き始めると誰も聴かない。 耳を傾ける事すらしない。 それで、ビジュリー様   ―――ご自身を、否定されたのですね」





 私の言葉に、その人、頭を大きく下げられたの。 正解! って所かしら。 そうだろうなって思ったよ。 ビジュリーのあの、おっとりした口調は彼女の鎧。 嫌悪を外に出さずに、生きて行くための方便なんだよね。





「嫌だわぁ……そんな、昔の事ぉ……」





 奥の間から、ビジュリーが出て来た。 水色のドレス着とるね。 とっても、清楚ね。 おう、ビジュリー! 元気になったみたいだね!





「お邪魔しております、ビジュリー様」


「よくいらして下さいましたぁ……クロエ様ぁ……き、きのうは……」


「―――月がとても綺麗でしたよ? その時に奏でたソナタを、ピッパで弾いてみますね。 この楽器なら、南アフィカンの空に浮かぶ月になるかしら?」





 そんな事を言いながら、ピッパで、ベーザベルのソナタ、 ” ムーンライト ” を、爪弾いたのよ。 うん、変な音! でも、面白いね! ビジュリーの顔に、笑顔が戻った。





「凄い! 凄いぃ! 凄いぃぃぃ!!!」





 手を叩き、喜んどるね。 そんな彼女を、優しく見てたよ、アスカーナも、マーガレットも。 でね、お茶を頂き、ピッパでなんか演奏しながら、昨日の舞踏会の様子なんかを聞いてたの。 うん、大盛況だったみたいね。 まぁ、不穏な言葉なんかも、多々あったらしいけどね。 これは、良い事聞いた。 あとで、エル達をとっちめる材料入手したぞ!



      主に私への悪罵雑言の類ね。 





「マリー、あんまり気分が悪くなって、途中退場したよ。 そしたら、それもクロエのせいだって言ってた馬鹿が居たから、そいつの飲み物の中に、下剤突っ込んどいた」


「はぁ? なんですか、それは。 ダメでしょう。 危険なモノは持ち込み禁止だった筈ですよ?」


「ああ、持ち込んじゃいないよ。 飾られてた花と葉っぱで即席で作った」


「余計に悪い!!!」





 マーガレットの話は、心臓に悪い。 本当に悪い。 こいつだけは敵に回したくない……





「グレモリー様も、お可哀そうでしたわ。 立てるのは、ダンスの時だけ。 それも、お相手は学生会執行委員の方のみ……グレモリー様、ずっと閉じられた扉を見てらしたわ。 今日の授業で、殿下がお席を離れられた時、わたくしに尋ねられたの。 ” どうして、クロエ様はボールルームに来られなかったの ” と」


「アスカーナ様、ご説明申し上げたの?」


「ええ、学生会執行委員の方がお命じになった、 ” 受付 ” は、ボールルームに入る事は出来ず、扉の外で待機する事に成ってますと、ご説明申し上げたわ」





 あ~、アスカーナは真っ直ぐすぎるんだから…… グレモリー様、よく走りださなかったね……





「授業中だったので、終わればすぐにクロエ様の処に行かれると…… グレモリー様も、其処までは、無茶されませんわ。 授業の終わる時間まで、お待ちになる筈でした。 でも、クロエ様先に教室を出られたから……」





 アスカーナ、グレモリー様の御気性、知っててやらかしてたんだ…… 何狙ってたんだ? 黒龍大公翁おじいちゃん、アスカーナはたぶん本物の悪魔を身の内に飼ってますよ?


 しかしねぇ…… 私、殿下から新しい、 ” 任務 ” 仰せつかったしね。 教官にも出てけって言われた様なもんだし…… そんで、教室には暫く行かない事になっちゃたしね…… あぁぁぁ…… また、誤解されるよ…… ホントに、奴らのガード固いからね……


 や、ヤバい、また、ビジュリー黒い何かが漏れてる……






「なんで……クロエ……ばっかり……」


「ビジュリー! 次、何弾く? 何でもいいよ! 一生懸命練習したから!!」





 もうやめよう、この話題。 ほんと、何処に罠が有るか判ったもんじゃない!


 取り合えず…… まぁ、何とかなった。 後は、マリーか。 お部屋かな? それとも、サロンかな? まさか、中庭…… って、ことは無いよね。 ヴェルに居所探ってもらって、行っていいか聞いといてもらおう!





*************





 ビジュリーの部屋で楽しく、お喋りして、お茶でお腹タップンタップンにした後、お部屋を辞した。 んで、ピッパを持ってくれてたヴェルが、マリーの居所を教えてくれた。 サロンに居るらしい。 で、何時でも来てくださいって…… かなり、やられてたって……



         一体何があったのよ。 



 どんな事、言われてたのよ。 私が何て言われてたって、わたくしは、気にしないけど、こうも揃って、周りがおかしくなるって……なんなのよ?


 でね、お部屋に戻らずに、マリーのサロンに行ったの。 ボリス様が恭しく迎えて下さった。






「マリー様! 入ってもよろしいかしら?」


「クロエ様!! どうぞ!」





 ふんわりしたピンクのドレスが、とっても可愛いね。 良く似合ってるよ。 でね、お願いしたの、テラスに行きたいって。 勿論、喜んで承知してくれたわ。 夕方の風が気持ちイイの。 此処からじゃ月は見えないけどね。





「クロエ様……大丈夫でしたか?」


「ええ、問題なく、お勤め出来ました。 近衛親衛隊の皆さまが、良い仕事をしてくれましたので」


「そう…… 良かった」


「なんでも、途中、お気分が悪くなられたとか? マリー様はお体の方は?」


「ええ、気分が悪くなってしまったの。 あんな話題ばっかりで…… 頭にきちゃった…… 馬鹿の相手嫌なのよ…… 話を聞くだけで、吐き気がする!」






             えっ? いまなんと? 





 傍に立っているボリス様、ニヤリって笑ってた。 はぇ? どういう事? ボリス様の、持ち上がった口から、変な言葉が紡ぎ出されて、私の方が絶句した。






「お嬢様、漏れております」


「だから、なに! ……いいでしょ、別に! ……ここには、クロエと私しかいないもん」


「わたくしも居ります」


「ええ、そうね。 一番マリーわたくしを知っている貴方がね。 作り上げたって言った方がいいのかしら」





 マリー、目が座ってるよ…… なんだ? 彼女の強い視線を真面に受けて、ちょっと、たじろいだよ。 どうした、そんな肉食獣みたいな顔をして。





「人を利用して、のし上がる事しか考えてない馬鹿の相手は、嫌なのよ。 ホントにバカバカしいから。 大体何よ、あれって。 クロエはクロエでしょ、あの馬鹿達には、なんの関係も無いのに。 ミハエル殿下のお気に入りになりたいの? バッカみたい! 殿下も殿下よ、クロエが、殿下に  ” 恋い焦がれている ” と、思い込んでるの。 あり得ないじゃない! 周りが馬鹿ばっかりで、思い込まされてるの?  ご自分が何をして来たかくらい、判るでしょうに!  追従や甘やかしばかりで、堪え性の無い、我儘な馬鹿作ってどうするのよ!  仮にも龍王国の王子よ?  それが、あんなに考えなしで!!!」





   もう、止められない……私には、無理……ボリス様、何とかして!





「クロエお嬢様、マリー様は、幼少の頃より、青龍大公家の中で一番、気性の激しい御方でした。 王立魔法学院に入学されてからずっと、御自分の中で溜めて来られたのでしょう…… 今しばらく、お付き合い頂きたく」





 マリーに聞こえない様な小声で、ボリス様、私に耳打ちしたのよ。 はぁぁ…… マリーもかぁ…… みんな、溜めこんでるね。 いいよ、吐き出しちまえ! 聞いてあげるよ。 あぁ、でも、ピッパ弾いていい? うん、私の心の平安の為にね


 結局、夜遅くまで、お付き合いした。 晩御飯食べ損ねた…… と、思ってたら、マリーの処で、出た。 とっても、美味しかった。 量も凄いの。 ちょっと無理かも……って、思ってたら、私の分まで、マリー全部食べたよ。 マリーのお胸のボリュームが大きいのは、コレが理由か? 





   なら…… 私、小さいままだ…… 無理だぁ、あの量食べるのは……





「クロエは、小食なのねぇ……」





         だって……苦笑いしかでないよ……





 ―――――





 お部屋に戻った。 水浴びした。 沐浴したかった…… 遅すぎるから、水浴びで済ませた。 食べ過ぎたんで、幼児体型に戻った気がする……


 どっと、疲れた。 なんか、一気にみんなとの距離が詰まった感じがする…… うん、近い、近い。 いいのか、私に其処まで踏み込ませて……


 まぁ…… ” 友達 ” だし……ね。 私が悪罵雑言を受けて、それを怒ってくれたんだ。 素直に喜んでおくよ。 ほんと、有難いね。



   みんな…… 


      ありがと






 *************






 翌日、ヴェルと一緒に城下町に出た。 う~ん、王都シンダイに来てから、何回、城下に降りたんだろう?  逃げ出した時と…… 一人で歩いたのは、あんとき位か…… でも、まぁ、大きな町ってだけだからね。 そんで、一番に行ったのが古着屋さん。 学院の制服のままじゃ、目立つ、目立つ。 そんで、古着屋さんで、適当なの見繕って着替えた。 制服は、暗部の人達が持ってってくれた。





「お嬢様……こちらで、用意いたしましたのに……」


「ヴェル? 身に合った仕立て上がりの服を着た女が、雑多な街に入ると、どうなるでしょう」


「……護衛の方は、わたくしと、暗部が」


「暗部の方々の護衛圏内って、案外小さいの。 三方から急襲されたら、手の打ちようが無くなるわ。 紛れる方が有用よ。 それに、気配消すわよ、わたし。」


「……それでも……お嬢様なのですから」


「そうね、それも無し。 此れより、私の事は、”クロエさん” で統一。 貴方は、私のパートナーって事で」


「そ、それは……」


「任務よ、任務。 その位の役割をこなしなさい。 優秀なんでしょ?」


「はい……お嬢様」


「クロエさん……そう言った筈よ」


「はい………… く……、クロエ さ……、さん……」


「はい、ヴェル様♪」





 うはっ! 困っとるね。 いいね、いいよ! ヴェルのこんだけ困った顔、初めて見た。 うん、とっても、満足! 此れには理由が有るのよ。 回れって言われた八大精霊教会以外は、結構辺鄙な所に建ってる教会が多いの。 そんで、大体近くがスラム街。 そんな中に学院の制服で入ったら、まず間違いなく、トラブルの元。 


 事実の把握段階で、こっちの素性をぶら下げて歩くわけにはいかないの。 王都の商会の者で、王城から必要なモノは何かを調べる様に依頼されて、渋々来た感じがいいのね。 愚痴だって聞けるしさっ!



         さぁ、行くよ、ヴェル様♪




 ―――――




 現実は、想像以上ね…… ほんと、凄まじい事。 精霊教会には、浮浪者がたむろしていてね。 教会からの施しを待ってる感じなのよ。 ほんと、ヤバいよ。 主に治安方面でね。 表の方はまだましだけど、裏通りに行くと、空気まで濁っとる。 



           どうすっかなぁ……



 手に職っていったって、そうそうないしねぇ…… ほんと、村に帰ればいいのに……みんな暗い顔してるよ。 更に悪いのが、精霊教会の裏手…… 孤児院が併設されてる場所が多いんだけどね……みんな、やせ細ってるのよ。 それに、人数も多いし……


 八十二ある精霊教会、全部回るのに、半月かかったよ。 学院に戻る時間が惜しかったから、ここ五日間ほどは、各精霊教会を泊まり歩いてた…… ヴェル、消耗しつくしてた。 うん、寝室同じだしね。 ほら、偽装が上手く行きすぎてね、精霊教会の神父さんや、修道女さんが、誤解してね。 



            乗っかったけど。



 愚痴ばっかり聞いてた気がする。 最初はノリノリだったけど、物凄く凹んで来た。 大人たちは自信を失っててね…… こりゃいかんね。 そんで、学院に戻る前に、黒龍のお屋敷に戻ったの。 うん、閣下おじさまと話合う為にね。 お願いがあってさ…… お手紙も書いたよ。 先ずは、出来る所からってね。


 お手紙の宛先は、エミール辺境伯爵おじさま。 辺境の人手と、魔獣の出現回数とかの状況確認。 多分、予想だけど、かなりの人手不足だと思うの。 閣下おじさまには、東方、南方、西方の辺境伯へ、同じ質問をして貰った。 最初、訝しんでたけどね。


 でね、閣下おじさまの執務室。 町娘の恰好をした私をジッと見詰めてたのよ。 あの怖い目でね。






「クロエ……何をしていた? ヴェルから報告は上がっているが……お前の口から聞きたい」


「はい。 事前調査を」


「……ミハエル殿下の命令か」


「左様に御座います」


「そこまで、する必要があるのか? いわば、公の仕事だぞ?」


「公の予算を使用いたしますので」


「アズラクセルペンネ青龍大公から、聞いている。 ……しかし、無茶をするな、殿下も」


「わたくしの…… 出来る限りをもって、治めます」


「協力は惜しまないよ。 しかしな…… 内務寮の一部署を以て行うような事だぞ?」


「……人員にも限りがございますゆえ」




 うん、腹の探り合いだね。 大丈夫かな。 当然、見透かされて居るよね、私の考えた事なんか。 でも、実行するかしないかでは、大きな差が出ると思うよ? 最初は小さい波でいいんだ。 強制は何も生まないからね。 だから、自信を取り戻してもらうのよ。 閣下おじさま強請るオネダリするのは、大型の駅馬車四台の確保かな……



     やり切るつもり。 出来ればだけどね……



 で、閣下おじさまには、ガッツリしぼられた。 いくら護衛が居るからと謂えども、単身でスラム街に行く事は認められないってね。 でも、お仕事なのよ…… なんとか、納得してもらったけどね。 それでも、夜は、必ず帰ってこいって。 少なくとも、王城の中に入れって…… 


 眠っている間になにか有ったらどうするんだって。 ……あのね、私、ほとんど、寝て無いよ? 言ったじゃん、精霊教会の人に、ずっとず~っと 愚痴聞かされてたって…… あれね、一晩中なのよ…… 今は…… 眠いから、寝かせて欲しい……

 



  ……すっかり、夜になってから、やっと、お叱りは終わったよ……




―――――




 黒龍大公翁おじいちゃんが、夜半、黒龍のお屋敷の私の部屋を訪ねて来たの……例の扉から…… 来るんじゃないかなぁ……って、思ってたから、眠い目擦りながら、起きてたのよ。 そんでね、お茶を出して、お話したのよ。 





「八大精霊教会に、ミルブール国教会のモノが潜り込んでおる……それと、ミール教が崇拝しているモノがわかった。 ミールフルールだった……また、厄介なモノを……」





 黒龍大公翁おじいちゃんの、特大の問題発言で、目が覚めた。 うん、バッチリ。 黒龍大公翁おじいちゃんの言った、ミールフルールって、妖魔精霊だよね……精霊喰っちゃう奴……。 俗に言う、悪魔信仰じゃん……


 うわぁぁぁ……だから、金銭を、 ” 浄財 ” とする訳だ…… 人の心の問題を、空蝉の世に縛り付ける為にね……





そっかぁ……




王国を内部からねぇ……




コレって、ある意味侵略だよね……




黒龍大公翁おじいちゃん……











        やっちゃっていい? 








ブックマーク、感想、評価有難うございました!!


とても、嬉しいのです。 物語はどんどん加速していきます。

クロエを取り巻く状況は更に暗雲が立ち込めていきます。


頑張れ! クロエ    負けるな! クロエ



また、明晩、お会いしましょう! 

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