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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
泣き言は言わない
51/111

クロエ 学院で【精霊祭】を、前倒す

 




 二年目の王立魔法学院も、もう直ぐ夏休暇。



 授業もそんなに無いよ。 五日間の特別なお休みがあったけど、そのほかは全部出席してたから、取りこぼしも無いしね。 でね、マリーのサロンに行ったのよ。 ちょっと、お願いがあってね。


 マリーのサロンで、ボリスさんに出迎えられ、にこやかにお部屋に入って行ったら、マーガレットに、いきなり言われた。





「アゴーン!」


「おい!」





 思わず素で、言っちゃったよ。 噂が噂を呼んでるらしい。 なんでも、凍り付いてる、「氷の令嬢」が、蒸発しそうな程、上気して、高々と鉄扇を掲げ、”アゴーン(突撃)!”って、叫んだって。 


 い、いや、間違いじゃ無いよ……かなり、興奮してたし……オッちゃん生徒の分隊長と、その仲間の気持ち、めっちゃ嬉しかったし……騎士の誓約まで、受けちゃったし…… でもね、此処でそれ云うわけ? 恥ずかしいじゃん……


 みんな笑ってくれたけどね。


 ギルバート様も居たんだ、マリーの部屋に。 どうも、常連と化してるらしいのよ。 いいけど。 でね、ギルバート様が、真剣な面持ちで私に言うのよ。 





「あの場では、流石に言えませんでしたが……、クロエ様に何故、褒賞が無いのか……疑問に思います」


「あぁ……ギルバート様は、御存じありませんが、わたくし、フランツ殿下を謀りましたの。 殿下、大層お怒りで、お許しを頂ける代わりに、わたくしへの褒賞は一切無いという事になりましたのよ」


「そ、そうだったのですか…… しかし、存外に、殿下も御心が狭い……」


「良いのですよ、それで。 幸い、お許し下さいましたし……」





 この言葉を聞いて、アスカーナがぼそりって感じで言ったのよ、狙ってた効果をね。





「クロエ様が、褒賞を貰えたら、この度、叙勲された方の名誉が一段も二段も下がるからですか? クロエ様が、指揮官として叙勲される、” 部隊として ” の、叙勲よりも、個々の兵が勇戦し勝利したという方が、本来、彼等が受けられる栄誉よりも、更に高い名誉が与えられるから? ……クロエ様、貴女はどうして、そんなに……」



 うえぇぇぇ………… だから、頭が良くって、あの、”ゲーム”に、精通している人って、難しいのよ。 戦術級の思考で止まらず、必ず、戦略級の思考で状況を見るのが癖になってるからね。 そうよ、その通りよ。 私……死にたくなかったし、あの人達の栄誉が一番だしね。 私が、殿下を謀ったって事で、叙勲を避けたのは、二つの意味でも、是非とも必要な事だったの。 だからね、誤魔化すよ? ほら、私、”悪魔を身の内にとんでもない飼う女童めのわらわ”じゃ無いからね。 





「あら、何の事かしら? 私は、只ついて行っただけよ? その場に次席指揮官が居なくちゃならない、決まりがあったから……」





 ウインクしといた。 アスカーナ、フィナンシェ食べながら、頷いてた。 彼女、私の表情で、読んだね。 私が、” 望んで無い ” ってのと、狙ってやったって事。 



^^^^^^^^



 でね、本題。 みんな居たし、伝えたの。 やりたかった事。






「あの、皆様に、お願いがあって……」


「「「あら、めずらしい!」」」





 なんだよ!! でも、お願いは、ホント。





「あのね…… 明後日なんだけど…… お時間頂けますか? 中庭でなんだけど……」


「え~~~、あさってなのぉ~~、わたしぃ、ちょっとぉ~いけないかもぉ~」





 なんだ、先約があるのか……ビジュリー……マリーも微妙な顔してるしねぇ。 ……こりゃ、無理かな? 





「今年の【精霊祭】も、黒龍のお屋敷に帰らねばなりませんの……それで、前倒しで、皆様と……と思ったのですが……お忙しいですよね。 ゴメンなさいね」





 ちぇ~~~。 やっぱり事前の根回しは必要よね。 ごめんね、聞き流して。 みんな、なんか変な顔してる。 なんでだ?  みんな、ビジュリーを見てた。 そんで、彼女、ちょっと、バツの悪そうな顔をしてから……





「それじゃぁねぇ……マクリーンの ” 交響曲3番 第三楽章 ” が、いいなぁ~」





 はっ? 





「リュートはぁ…… クロエ様のぉ…… ” ブラッディ ” でねぇ~」





 ちょ、 おま、 なんで、その、 ” リュート ” の名前まで……





「聞いてるよぉ~ わたしぃ、お抱えのぉ、服飾屋さん居るのよぉ~ でねぇ~ あちこちの【精霊祭】に出ないといけないのにぃ~ ドレスがぁ…… ちょっとぉ…… アレなのよぉ~ でねぇ~、お直しをぉ~しようとぉ~したらぁ~、職人の人がぁ、全部居ないのよぉ~。 でねぇ~、やっと捕まえた人にぃ~ 聞いたのよぉ~ 凄い事したのねぇ~ クロエ様ぁ」





 そうか、あの職人さん達からか! なら、なんで、その選曲か理由が判った。 ずっと弾いてたからね、鎮静音楽。 そんで、マクリーンの交響曲3番 第三楽章って、最適なのよ。 ゆったりとして、なんか落ち着けるのよ。 音楽だけ聞いてたら、寝ちゃうくらいにね。 判ったわよ。 でも、いいの? 





「お時間頂けるは、有難いのですが…… 宜しいのですか? なにかご都合でもあったのでは?」





 にへらって笑ったの、ビジュリーとマリーが。 マリーが、ちょっと、困惑気に話し始めた。





「あの……サプライズを用意しておりましたの…… 同じ日に、中庭で……クロエ様が思って居られたのと同じ 『【精霊祭】の前倒し』を……」





 え? そ、そうなの?





「クロエ様がお忙しいのは、判っておりますし、わたくし達も、屋敷に帰らねばなりませんし……それに、この度の事で、だれも、クロエ様をお褒めになっていませんでしたので…… ゆ、ゆ、友人として、クロエ様に賞賛をと……思いましたの。 ……ご迷惑かしら?」





    う、うはぁぁぁ!    う、嬉れっしい!!!





「とんでもございませんわ! わたくし、とても、嬉しく思います。 では、ご一緒に、【精霊祭】が出来ますのね?」


「ええ、ええ、そうですわ!」





 なんか、盛り上がって来たね! いいね。 やっぱり、持つべきものは、友達だよ!! みんな、ニコニコしてた。 とっても嬉しい、御茶会だった。 なんかホントに嬉しいなぁ…… 早速、ヴェルに、リュート取って来てもらおう! あの「ブラッディ」をねっ!






 *************






           そんで、二日後……


       中庭に行ったら……


   なんか、とんでもない事になってた。


 なんでさ。 なんで、こんなに人が居るのさ。 エルは、知ってたのか、平然としてた。 ヴェルはちょっと引いてた。 ラージェは…… なんでか騎士の礼装を着込んでた。 ミーナは…… 私に大魔法かけてた…… ミーナ自身は制服だったよ…… 


 ちょっと、集まって、【精霊祭】の真似事して、お茶でもしようと思ってたのに……なんで、こんなに人がいるの? いつもの東屋につくまで、結構時間掛ったよ。 そんで、普段はあんまり見ない、騎士科の人も、なんでか、ラージェと同じ騎士の礼装に身を包んでいる人多かったし……騎士科の制服姿も多かった。そんで、みんな、にこやかに私に頭下げるの。 騎士科の人に至っては、胸に拳を当ててる始末……


 で、ちょっと後ろを、荷物を持ってついてくる、エルに聞いてみたの。





「なんですの? これだけの人が集まってるなんて……」


「お嬢様、本日は、中庭での、”大公家のお茶席”にて、【精霊祭】をすると、各家の使用人達に通達が回りまして、手隙の者が全て、ええ、全て集まりました」


「騎士科の方も?」


「ギルバート様が、騎士科の叙勲された方にお話になったようです。 ” クロエ様の栄誉を称えたければ、来い。 来ないと、後悔するぞ ” だ、そうですわ」



 頭、抱えたかった…… 東屋に向う私に、其処に集っている方々が、スッと頭を下げるのよ。 騎士職の人は、胸に拳を置いたりしてね………… 何だってんだ? どうなってんだ? 私が、東屋に着いたら、マリー先に来てた。 そんで、グラスを銀器でチンチンと叩き、其処に居た人達に、言ったのよ。





「皆様! クロエ様、御到着です。 これより、【精霊祭】の精霊様と、クロエ様の栄誉を称え、各人の信奉する精霊様に、祈りを捧げます! よろしいですか?」





 声を上げるマリー…… あなた、人見知りで、社交が苦手じゃ無かったの? すんごい、ホストぶりよ?




「では、皆さま! ……世界に加護を与えし精霊様! 我らが真なる心よりの祈りを捧げます。 感謝と、よき友に栄誉を!!」




 うわぁぁぁぁ………… ざわついていた中庭…… 一気に聖堂みたいになったよ。 私は天龍様と、いつもの五大精霊様にお祈りを捧げたよ。 ブワッって、何かが出たね。 そんで、複雑に絡みながら、お空に上がって行った。 みんなの集中した祈りが聞き届けられたって…… そんなふうに感じたんだ。 なんか、キラキラした空気になったよ。 ホントだよ。 すんごく、澄み渡ったって感じ。 夏は…… 良い事有るかなぁ……


 「お祈り」が済んだら、あとは、歓談。 気の置けない仲間達とかは別に、他家の使用人さんとか、騎士科の人とか、庶民階層の人が多かったよね。 皆、口々に、【精霊祭】おめでとう! って。 なんか、使用人さん達、いっつも忙しくしてて、なかなか、こんな風にお祈りする機会がないんだって。 良い事したよね。 祈りには、貴賤はないもの。 純粋な祈りは、精霊様に近づくっていうしさ。 



         で、私の別な本番。 



 持って来たリュート、 弾きましたよ。 リクエスト通りね。 鎮静音楽だけどね。 日はまだ高いけど、御茶会だしね。 素敵ドレス姿で、東屋で、頑張りました。  ” ブラッディ ” って、割と「いい音」出すのよ。 そんで、音量も大きいしね。 遠くまで聞こえたんじゃなかろうか? 


 ビジュリー、ニッコニコで、……寝てた。 


 いいよぉ…… どんどん寝て! 気持ちイイよね! なんか、まったりと時間が過ぎて行ったよ。 もってたクッキーとかサブレとか、みんなに食べて貰ったしね。 わたしが作ったんだよ! わたしが!! 久しぶりにね。 ちょっと不揃いだったけど、美味しいよ? 変なモノ、混入してないよ? 作ってる時には、マーガレット、いなかったしね!!


 来てた人とも、仲良くお話出来たし、面白話も聴けたし。 よかった、よかった。 そんで、ちょっと見直したのが、分隊長さん。 すんごく礼儀正しいの! 私と同じような、きっつい目付きしてんだけどね、私と目が有ったら、ニカって笑うのよ。 ちゃんとお髭も当たっててね、カッコいい青年騎士に見えるのよ。 案の定、他家の使用人さん達から、激烈なアピール喰らってた。 うふ、嫁さん見つかると良いね!


 ある意味、とっても、サプライズだったよ。 楽しかった。 




      さぁ……黒龍のお屋敷に帰るか!!





 *************





 一旦、黒龍のお屋敷に帰ってから、ご領地のフーダイに向かったの。 今回は強行軍でないから、ちょっとした観光もしたよ! 手の入ってない森とか、薬草園とか…… うん大体、私の興味のある所。 まぁ、魔法科関連のね。 実習で採取した、結構貴重な薬草とかは、灰になっちゃったしね。 ホントに、欲しかったし…… 買うんじゃなくて、自分の目で生えてる所見て摘みたかったしね。


 そんなこんなやってて、ちょと遅めに、別荘に到着。 ヴェルは疲れ知らずで、あれやこれや手伝ってくれたよ。 ほんと、「ザ・執事!!」って感じだよね。 うん、いいね。 普段通りにしろって、アレクサス黒龍大公翁おじいちゃんにも言われてたしね。 うん、普段通り、動き回ったよ。 


 別荘には、ウラミル閣下おじさまと、奥様と、リヒター様、ソフィア様、そして、今回は、イヴァン様もいらした。 アレクサス黒龍大公翁おじいちゃんは、お留守番だって。 だから、アスカーナ置いて来た。 うふふ、楽しんでくれっかな?




「クロエ! ……ちょっと見ない間に、随分と大人になったな! 見違えるほど綺麗になったよ」


「イヴァン様! そんな事有りませんわ。 ……まだ、きちんとお礼を申し上げて居ませんでしたわね。 エル達のエスコートさんを厳選して頂いて、ホントに感謝しております。 エル達も…… 喜んでいますわ」


「それは、重畳。 ちょっと、気にはしてたんだ。 あいつら、年喰ってる割りに、奥手だからな。 訳アリなんだが、いい奴らなんだ。 気に入って貰えたら、いいな」


「勿論です。 紳士的にお付き合いされて居られますわ」




 玄関ではなんだからって、さっそく、居間の方にエスコートされたよ。 イヴァン様、なんか、大人びてるよね。 かなり鍛えられてんじゃないかな。




「ああ、なかなか、王都に戻してもらえなくてね」


「あら、どこかへ?」


「うん、あちこち。 国内の実情を見分し、問題点を洗い直せって、上司が……」


「上司?」


「……リヒター兄上だよ…… 人使い荒いのなんのって! 自分が足を延ばせない場所は、全部振って来るんだ…… そうそう、これ、会えればって、渡されてた!」




 一通の書状 イヴァン様は大事そうに、私に差し出したの。 宛名は、” クーちゃんへ ” とっても、懐かしい筆跡だったよ。 思わず、抱き締めてしまった。 もう、この筆跡見ただけで、誰だか判るよ。




「北の辺境まで行かれたのですか?」


「ああ、伯父様、大叔父様、奥様、大奥様のお墓にも、花を手向けて来た」


「イヴァン様……」


「アルフレッドに案内してもらった。 凄い所だね……あそこで生まれたんだよね、クロエは」


「はい……なにも無い田舎ですが、私には……とても、大切な場所です。 ロブソン開拓村は……」


「村の人達も皆、気さくで良い方ばかりだった。 色々と『お話』を、聞かせて貰ったよ」


「……『お話』?……で、出来れば……何を話されたのか……お教えねがえませんか?」


「いいのか? 村長の息子さんのエリック君と、君の古い友人という、ソーニャさんという方が、話してくれたよ……ホントに、口に出していいのか?」


「いえ、結構です!! それに、エリックの話は、事実を五倍くらいに大げさに語ります!!」


「えっ、五分の一でも……」




 くそエリック! 何言いやがった!! 今度会ったら、とっちめてやる! 





 ―――――





 歓談もいい感じに進み、一旦、着替えてから、夕食にしましょうって事で。 お部屋に行ったのさ。 何つうかな…… 豪華な部屋だったよ。 ほんと、なんで、そんなに甘やかすんだ! いいんだよ! 別に納戸の隅でも! アルフレッド様のお手紙は、後で、寝る前にでも、読もう! なんか、勿体ないし…… で、お風呂で水浴びして、ちょっとしたドレスを着せてもらった。 部屋付のメイドさんに聞いたのよ。





「あの……このドレスは?」


「奥様がご用意されました。 お寛ぎ用として使うように、命じられております」




 ニカって笑われた。 ほんと……なんて言うのだろうね……奥様の気持ちが想いが……重いよ……ダイニングでお食事に行かなくちゃ。 頑張って社交外交しなきゃね。 奥様の想いに報いる為にも。


 美味しい、晩餐と、楽しい会話。 私は主に聞き役。 イヴァン様が色々な所に行ってて、その話を聞きながら、お食事したのよ。 ウラミル閣下おじさまも、興味深げに聞いてらしたわ。 リヒター様は時々突っ込み入れながらね。 食事も最後の飲み物が出た頃、リヒター様が、イヴァン様にお聞きになったのよ。




「イヴァン、そろそろ、行けるか?」


「……あと、二、三回りたい街が有る。 主に裏関連でね」


「そうか……気を付けろ。 あっちは、何かと物騒だ」


「なら、こんな事命じないで下さいよ、リヒター行政官!」


「仕事だ……すまん。 心から頼りに出来るのが、お前くらいなんだ……」


「大丈夫ですよ! 兄上。 仕事だけじゃなくて、友人としても、護ってやりたい方ですからね」


「そうか……」




 なんの話だ? 頭に ” ? ” が浮かんだよ。 内容から、大体は類推できるけど…… まぁ、暫くは休暇、貰ったみたいだし、” 御守 ” でも、あげとくかぁ……



        イヴァン様、 お仕事お疲れ様です。



        イヴァン様、 十分、気を付けて下さいね。




         なんか、首筋に寒気が走って、




             凄く嫌な









         「予感がした」、から…………







ブックマーク、感想、評価、誠に有難うございます。


クロエの二年生生活も、半分を過ぎました。

社交外交のシーズンです。

”家族” と呼べる人々が、あつまりました。


団らんの一時でした。


クロエが、気後れするくらい、”家族” の皆さまは、クロエが大事なようです。



また、明晩、お会いしましょう!

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