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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
泣き言は言わない
50/111

クロエ 忠誠を得て、突撃する

 


           終わった・・・


        なんか、灰になった気がする。 


       全てをさらけ出したような気も・・・ 


 最後の方は、ずっと下着姿のまま、リュート、弾いてたような・・・ 




          自分の心の平安の為に・・・ 




 仕事が終わった職人さんから、帰る筈だったのに、なんでか、全員居た。 奥様が、歓待したみたい。 普段、庶民が絶対に入れない、大公家のお屋敷に逗留できるんだもんね。 そりゃ、帰らないよね。 


 そんで、洗濯場ランドリーの人達とか、メイドさんとか、裁縫を任務しごとにしてらっしゃる方々が、ギリーガのおっちゃん家の職長さん達に、色々教えを乞うていた。 いいねぇ・・・麗しの徒弟制度だよ。 


 圧巻だったのはね、レースの職長さん。 めっちゃ無口な人。 腕は超一級品。 冒険者ならSSクラス相当ね。 ” 早い、上手い、丁寧 ” の三拍子が揃った、パターンが腕に組み込まれている様な方。 その方が、全力で編むのよ・・・ 見てる間に出来上がっているレース。 そんで、そのレースを片端から、連結されて、服地にしていくお弟子さん・・・ もうね。 ほんと、凄かった。 


 私だったら、十年いや、二十年くらいかかるんじゃ?ってな、レースの反物が、二日目には出来上がってた。



     職人さん達の、やり切ったって顔・・・輝いていたね。



 私? うん、肉刺マメが二度ほど潰れた。 リュート血まみれ・・・ この子、【ブラッディ】って名前を付けたげたよ。 そうね、血生臭いわね。 いいじゃない、私らしくて。


 で、三日目の夕刻。 出来ました。 皆さんの、血と汗と涙と、涎、鼻水(・・・なんか汁物ばっかりだね)の結晶。 六着のドレス。 トルソーに掛かる六着のドレスは、どれも、素敵なモノ。 あの汚しちゃったドレスにも引けを取らない、素敵なドレス達。



「ギリーガさん・・・素敵・・・」



 両手を口に当て、目を大きく開き、トルソーに掛かるドレスに見惚れながら、隣に立ってたギリーガのおっちゃんに、そう声を掛けた。



「全力です。 ええ、ギリーガ服飾店の名に懸けた全力です。 クロエお嬢様、貴女だけのドレスです」


「ありがとう・・・本当に有難う。 職人の皆さま・・・クロエの為に、本当にありがとう!!!」



 周囲で出来上がったドレスを、ウットリした目で見ていた職人さん達も、私の言葉で、ハッとして、皆で頭を下げていたよ。 何でじゃ?



「クロエお嬢様には、ずっと、本当にずっと、私たちの為に、リュートを弾いて頂いていたので、皆頑張れました。 私も同じです。 お礼なら、私が言いたい。 自分の力【以上】の結果が引き出せました。 此れからは、これを目標に、精進していきます」



 御針子の職長さんが、そんな嬉しい事を言ってくれた。 で、閣下おじさまと、奥様がいらっしゃるってんで、イブニングドレスを試着。 残り五作品を前に、待ってたの。 


 で、真打、って言うか、パトロンって言うか・・・まぁ、その、なんだ。 こんな無茶を言い出した、張本人が登場。 言葉、失ってた。 うん。 当然。 最高の職人さんが、最高の仕事を、死ぬ気でしたんだ。 その反応は正しい。



「美しいな、クロエは」



 はい、そこ、間違い。 素敵なのはドレス。 私じゃ無い。 褒める所そこじゃないよ、閣下おじさま



「あなた・・・、女性は、何度も生まれ変われますのよ。 クロエは、まだまだ、美しくなります。」


「エリカーナ、お前よりもか?」


「当然です。 クロエは、大輪の百合の花のように、気品に満ちて、美しくなります。 いま、確信いたしました」



 何を「お惚気」なんです、閣下おじさまは?  それに、奥様・・・それは、無いでしょう。 いくらなんでも、褒めすぎです。 素敵ドレスの補正効果が100倍、越えてますよ? その評価、おかしいですよ? それでもさぁ、やっぱり、嬉しいんだよ。 新しいドレスが、こんなにも素敵だもの。



「ウラミル伯父様。 エリカーナ奥様。 こんなに素敵なドレス。 有難うございました。 クロエは、幸せ者ですね!」



 精一杯、びしっと、カーテシーを決めた。 もう、限界まで頭を下ろした。  感謝はいくら捧げても、足りないくらいだった。 




       本当に、有難うございました!!!




 *************



 休暇は、あと二日あったけど、私は、学院に戻ったよ。 うん、叙勲式と祝賀会に出るんだ。 9組のおっちゃん達とギルバート様が叙勲されるんだもん。 お祝いしなくちゃね。 でね、お願いして、出来上がったドレスの中で、デイ・ドレス、一着だけ持っていくことにしたのよ。 他のは、お屋敷で保管。 だって、私が保管してたら、いつの間にか「血みどろ」に、なってる可能性だって・・・あるじゃない?



    だから、一着だけ。 



 でね、それもって、学院の部屋に帰って来たのよ。 そしたら、ヴェルが居た。 ん? そっか・・・私付きの執事だもんね。 エル、目を丸くしてた。 でもまぁ、アレクサス黒龍大公翁おじいちゃんとの約束だったし、エル達にも、これから一緒に暮らすよって言っといた。


 叙勲式は、ボールルームで行われるのよ。 天井高いし、全校生徒が入れるくらいの大きさあるしね。 そんで、フランツ殿下が、柏葉付銀月章(一等戦闘功労章)を渡されるのよ、あの時、あの場所に居た、皆にね。 そんで、そん時一緒に、騎士にもしちゃうって。 良かったね。 騎士任官は四年終了時なんだけど、それまで騎士補として、行政騎士科と一緒に訓練したり、勉強したりするって。 お給金も出るのよ? 



      就職おめでとう!! いいなぁ~~。



 叙勲式に出るために、エル達に精一杯のおめかししてもらった。 今回作ってもらった、デイ・ドレスを着たのね。 目の色とおんなじ紺碧のドレス。 帯がパールホワイト。 デコルテは、派手では無いけど、シックなレースで首までね。 お袖は三分袖。 夏仕様ね。 私、お外が大好きだから、バルコニーとか、テラスが有ったら必ず出るじゃん、だから、これまたパールホワイトの長手袋が付属品として、指定されてるの。 素敵よ・・・ 


 靴もね、ギリーガのおっちゃんの、仲間が、作ってくれた。 ドレスと同色のミドルヒール。 汎用性たっかい靴よ。 素敵なのよ。 スカートの裾から、つま先がちょっと出るくらいなのよ。 でも、ツイード仕立ての靴って、ほんとに素敵よ。 私には、勿体なくって・・・


 お飾りはもちろん、”宝珠ドラゴンドロップ”  でね、閣下おじさまと、奥様から、贈り物頂いたの。 耳飾りなのよ。 翡翠をあしらった、月の耳飾り。 うん、魔除けみたいなもの。 良くないものを退ける祈りを込めたって。 ほんと、どんだけ私に甘いんだ? あの二人。 有難く頂戴しないと、いけない雰囲気だったので、もらったよ。 有難う御座います。 


 で、ちょっと、短くなった髪を結って貰って、化粧をしたのよ。 うん、ほら、ミーナの大魔法・・・ 鏡の前に別人が立ち上がるのよ? その綺麗な人が、私とおんなじ動きをするの・・・ もうね、流石はミーナね。 



「ありがとう! 魔法が解ける前に、戻ってくるからね」


「明日の朝ですか? 朝帰りはちょっと・・・」


「えっ、そんなに持つの?」


「前々より、お伝えしております。 ”ずっとです” と」


「・・・凄い魔法ね」


「・・・違います・・・」



 ミーナ、なんか残念な動物を見るような目で、私を見てた。 なんでじゃ? まぁ、気を取り直して、ボールルームに行こうか。 でだ、こんな格好してると必要になるのが、エスコート。 うん、居ないよね。 いつも通り、一人で、サッサか行こうとしたら、ヴェルに止められた。



「お嬢様、エスコートいたします。 ・・・護衛も兼ねますので」


「・・・よろしくね」



 はい、わかりました。 そうだよね、私一回、一人の時に襲われてるもんね。 そんで、目の下切った。 未だに、ちょっと引き攣れてるしね。 うん、わかった。 お願いするよ。 ヴェルの腕をとって、ボールルームに急いだ。 でね、みんな見てるのよ。 そうね、凄い服なんだもの、当り前よね。 そんで、黙ってりゃ、ヴェルだって、めっちゃ男前だし。




      うん、いい感じな絵面だよ。




 *************



 さて、会場。 



 人、一杯だね。



 でもね、ふしぎ~~っ! 目の前に道が出来るのよ。 勝手にね。 それで、行きました、最前列に! 端っこでよかったのに、なぜか真ん中に、押し出される私・・・なんでじゃ? まぁいいか。 良く見えるしねぇ。 でね、周りは騎士科の人と、行政騎士科の人達ばっかり。 そうね、当り前だよね。 みんな、式典用の装具に身を包んでるよ。 うん、三割増しにカッコよく見えるね。


 壇上には、9組の小隊長たちとその副官、それと、私を除く衛生兵分隊全員。 あと、ギルバート様が、第一種装備で並んでた。 皆さん、御髭も綺麗に当たって、おっさん度が駄々下がり。 かっこいい青年騎士になっとった。 うへへへ、目の保養。 


 でだ、叙勲する方に、フランツ殿下。 うん、居たね。 絵になるよね。 ホントに凛々しくていらっしゃるね。 そんで、脇に赤龍大公閣下。 軍事関係の統括責任者だもんね。 それに、御三男のギルバート様もいらっしゃるしね。 


 さらに、各騎士団の長が勢ぞろい。 色んな色のクロークがひしめいていたよ。 あれだけの戦果だ。 当然っちゃ、当然だ。 どの騎士団にしても、一人でも多く、優秀な人材が欲しいもの。 皆様、目を皿のようにして、壇上の生徒さん達を見てるよ。


 いよいよ、始まるねぇ・・・ おい、なんで、勲章、貰うのに、そんなに不満気なんだ? 不機嫌な顔してると、幸せが逃げるぞ?



「・・・苛烈な後衛戦闘において、撤退部隊の支援を果たし、あまつさえ、強大な戦闘力を有する魔物の一団を撃滅せし事、真に勇猛果敢。 その勇にハンダイ龍王国は敬意を示し、ここに、勲章を与える。 また、この者達を、ハンダイ龍王国の王国騎士に叙し、その栄誉を称える」



 盛大な拍手が巻き起こった。 当然私もね。 思いっきり拍手したよ。 嬉しかったもん。 でね、一人、一人に勲章と騎士職への登用を示す記章を渡されてたわ。 うん、カッコいいよ。 ニコニコしながら、それを見てた。


――――――


 祝賀会は、その後に行われた。 すんげぇ・・・、食べ物がいっぱい出て来た。 やっぱり、騎士なんだね。 でね、叙勲されたばっかりの人達が、ウロウロしてんの。 ほら、ちゃんと繋ぎ作んなきゃ・・・ ホントにもう! 手っ取り早く。 赤龍大公様とかに、挨拶してきなよ!  仕方ないなぁ・・・繋げてやるか!



「おめでとうございます。 衛生兵分隊、分隊長様」


「ありがとう御座います、お嬢様・・・って。 お、お前・・・お、お嬢か?」


「あら、もうお忘れですか? 寂しいですわよ」



 ちょっと、拗ねてみた。 でも、目の前のオッちゃん生徒の分隊長、固まってる。 お~い、戻ってこい!



「お、お嬢が・・・お嬢様だ・・・信じられん。 夢か? これは・・・」


「何を言っているのですか?」


「ちょ、ちょっと待て。 おい、お前ら、ちょっと来い!」



 オッちゃん生徒の分隊長が、【特設シュバルツハント遊撃隊】の面々を呼び付けたのよ。 みな叙勲者だから、一気に周りの目が集まったよ。



「お嬢が、お嬢様なんだ! おい、ちょっと、殴ってくれ」


「ははは! まさか、こんな可憐な、美しい姫様が、あの鬼人だって? おまえ、嬉しさで頭おかしく・・・マジか!!」


「何だよ、お嬢・・・って・・・なんで、そんなに綺麗な令嬢になってんの? ・・・なんで、そんな、虫も触れませんって・・・顔してんの・・・なんで・・・」



 くそっ失礼な奴らだな! 何だよ、私が、お嬢様らしくするのが、可笑しいのかよ。 だったら、笑えよ! なんで、驚きながら、顔、赤くするんだよ! なんだよ、まったく!!



「・・・シュバルツハント黒龍大公令嬢おひめさま・・・だもんな、 ”お嬢” は・・・」 



 最後にボソッと呟いた奴、前へ出てこい! 何だよ、お姫様って! 私はクロエだ。 それ以外、何者でもない!



「皆様、何を言って居られるの? 今日は、貴方達の輝かしいハレの舞台よ。 なぜ、もっと誇らしい顔をしないのですか?」


「それはな・・・」




      オッちゃん生徒の分隊長が、ボソリと呟いた。




「叙勲されたのは、学生部隊の撤退支援隊であって、【特設シュバルツハント遊撃隊】じゃぁ無いからな。 指揮官の、 ”お嬢” が、叙勲されないのに、俺達だけ叙勲されたんだ、こんな顔にもなるさ」



 ・・・そっかぁ・・・ 私の事、心配してくれたんだ・・・ 私、自分の都合ばっかり考えてた・・・ ゴメンね、みんな。



「叙勲されたのは、皆さまが、勇猛果敢に戦われたから・・・私は、そのお手伝いですよ。 真に栄誉を賜るのは、貴方達なんですよ」



 取り繕ってみる。 みんな、黙って私を見てるの。 ちょっと怖い。 やっぱり、最初に口を開くのは、オッちゃん生徒の分隊長。



「お嬢・・・納得いかねぇな」


「無理にでも、納得してください」


「なんでだよ」


「私が困るからです」


「また、無理、通しちまったんだろ。 規則とか、軍令とか使ってさ」


「そんな顔しないで・・・お願い。 貴方達が居なかったら、みんな生還できなかった。 それは、事実。 私は、私の得る物を得たから、栄誉は貴方達が受け取るべきなのよ」


「わかんねぇな・・・」


「じゃぁ、判る様に言いますね」


「おう」


「私、誰かから狙われてるのよ。 目立ちたくないの。 死にたくないのよ。 これで、納得してもらわないと、みんな纏めて、【魅惑の魔法】をかけて、私の言う事、聞かせるわよ!」



 やばっ!・・・素が出っちゃった・・・ どうも、調子が狂う・・・みんな、じっと何か考えてた。 そんでもって、やっぱり、オッちゃん生徒の分隊長が、口を開くの。



「無理矢理、納得しよう。 でも、これだけは受けてくれ」



 そう言うと、右手を拳を胸の前に持ってきて、左ひざをついたの。 騎士の礼ってやつ。 ”貴方に忠誠を誓う”ってやつ・・・も、もう! そしたら、其処に居たみんな、そう、【特設シュバルツハント遊撃隊】の面々が、ババッと分隊長の後ろに整列したかと思うと、みんな同じように、騎士の礼を取ったの。



「 我、【特設シュバルツハント遊撃隊】の兵、ユージン=コビック。 我が、指揮官 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント、 ”お嬢” に、捧げる。 ”お嬢”が望む時、「参集」の命を下さば、何時、如何なる場合でも「即時」、参集する。 騎士の誇りと、個人の命を懸け、お嬢を護る「盾」となる。 ・・・お嬢、早く、許すと言え!」



 も、もう! もう! もう! 目立ちたくないって言ったのに!


      ・・・わかった。 気持ち、貰うね。


           ありがと。



「許す」



「誓約ここに定まれり」



 そしたらね、みんな、急に立ち上がって、一斉に抜刀したの。 もうね、・・・あんた達、何やってんの~~~!!!



「我が命に懸けて! アゴーン!」


「「「アゴーン!!!」」」



 ど、何処に突撃するつもりよ!! まったく!! って、言ったけどね。 やっぱり、仲間ってうれしいものね・・・ 体が反応してた。 腰に差していた、鉄扇を高く掲げて、同じように言ってた。




        「アゴーン!」


 


 ってね。


 *************



 なんかね、祝賀会・・・凄い事になった。 取り巻きが全部勲章持ち。 みんなで笑って、みんなで飲んで、食べて。 楽しかった。 うん、赤龍大公閣下にも、キッチリと繋ぎつけたよ。 私がみんなを連れてった。 そんで、みんなの事を頼んだ。 大切な友人ですって。 赤龍大公様、ビックリしながらも、頷かれて・・・大爆笑されたわ。


「クロエらしいな! お前の友人達は、一騎当千の猛者ばかりか・・・ おまえ、何になるつもりだ?」


「赤龍大公様。 私は、何者に成れるのでしょうか? 自分でも判りかねますわ。 今は知識と知恵を得て、少しでも、龍王国の役に立てるよう、日々努力しております」


「そうか・・・励め、クロエ」


「はい」


 これで、祝賀会の目的は全部完了。 さぁ、お部屋に戻ろう!  


 魔法が解ける前にね。





ブックマーク、感想、評価、誠に有難うございます。


クロエの喜ばしい日々ですね。 たまには、こんな日が有っても、いいと思います。


楽しそうな、クロエに中の人も筆が進みます。


また、明晩、お会いしましょう。


読んで下さって有難うございます!!

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