クロエ 内緒話をする
奥様と、ソフィア様、私のドレスを物凄く気にしてくれてた。 ほら、今、ドレスないじゃん。 クッキー事件の時に、素敵ドレスダメにしちゃったでしょ? その前に作ってもらった、薄緑色のドレスは、サイズが合わなくなって、着れなくなってたでしょ? だから、制服しかないのよ。
【精霊祭】の後って、社交シーズンだし、黒龍の別荘で外国の方々の接待有るでしょ…… 前は制服着てたけど、今度は、そう言う訳にはいかないって。 奥様が云うのよ。 前は、わざわざ、前々日まで私に知らせなくって、緊急で呼び出された呈にしたから、制服でも良かったんだって。
でも、今回は、きちんと招待状に私の名前を書くから、ホストとして、ドレスアップをしなくちゃならないんだって。 本当は、あの汚しちゃった、ドレスが一番良かったんだけどね。 仕方ないよね。 でね、本来なら、ドレスの採寸とか時間をかけてする事に成るんだけど、校外実習であんな事に成ったもんだから、時間が取れなくなって、今に至ると。
奥様、ソフィア様、なんか力はいってんね。
「明日、ギリーガ服飾店の方が見えられます。 三日間お泊りになります。 今シーズンのクロエのドレスを、最低三着は作ります。 いいですね。 ギリーガは、明日の朝到着です」
「はい」
なんかね…… これが、黒龍大公家の御威光だね。 黒龍大公家の御威光最大限に生かしての無茶振り。 一体、何人来るんだ? 簡単な普段着縫うのでも、布からだったら、丸三日かかるよ? ドレスだよ? いろいろ難しいよ? どうすんのさ。
でも、まぁ、そう言われて、嫌ですとは言えないし、素直に頷くしかなかったよ。 そんで、その日は解散になった。 夜ご飯は、みんなで食べた。 美味しかったよ。 なんか、厨房の人、私が帰って来てるって聞いて、張り切っちゃったみたい…… ねぇ、どんだけ、娯楽無いのよ。 私は珍獣か?
美味しいごはん頂いて、厨房の人にお礼を伝えて貰って、お部屋に帰った。 やっと一息つける。
お叱りを受けるって思って、かなり身構えて来たけど、なんかね。 ……なんか、歓迎されてるよね。 おっかしいなぁ…… なんかしたっけ? 取り敢えずは、お風呂! エルにお願いして、沐浴にして貰った。 水浴びでも良かったんだけど、明日の事が有るしね。 それと、ラージェに、鍛錬用の木の棒もって来てもらった。
そんで、眠ったよ。 疲れたもん。 一体何が起こってるのか判らない位、周りの動きが速いの。 対応しきれないよ……
――――――
微睡に堕ちる前……エル達も侍女部屋に帰った後。 灯火を最小まで絞った、薄暗い部屋……聞こえるのよ……微かなノックの音が。
ビビった。 ホントにビビった。
ワイト? レイス? でも、ココお屋敷だよね。 私、ほぼ、無防備だよ? 取り敢えず、魔力を練る。
「誰?」
ノックの音にビビりながらも、そう聞いたのさ。 どうも、衣裳部屋の奥から聞こえる。 ベッドを抜け出して、音のする方に行くと、衣裳部屋の奥の壁に、パッと見判んない様に、扉があったの。 其処から、ノックの音が聞こえる。 もう一回、聞いたのよ。
「誰……ですか?」
ハッキリとしたノックの音だから、魔物じゃ無いよね。 そんで、低い男の人の声が聞こえた。 うん、良く知ってる声。 そんで、この部屋を作った人。
「儂じゃ」
「アレクサス黒龍大公翁!!」
「開けと命ずると、開く。 ちょっとした、魔法が掛かっておるからの」
……驚かすなよぉ・・はいはい、・・んじゃ、命じますよ。
「我は、命ずる、開け」
あっさりと、隠し扉は開いた。 へぇ……面白い仕掛けだねぇ…… お爺ちゃん、向こう側に立ってたよ。 そんで、短い通路の先に、あっちの部屋が見えたよ。 その部屋、すんごく見覚えが有るんだ。 そう、軟禁されてた、黒龍大公翁の旧執務室……
繋げんな!!!
「夜分、すまぬな。 内密で話したい事があったんじゃ」
怪しい……内密に、それも、私にだけって所が、凄く怪しい。 軽く睨んどいた。 黒龍大公翁を、部屋に招き入れて、居間に行ってもらった。 流石に寝室は無い。 でも、私、今、寝る時の恰好だよ? 殆ど、下着姿だよ?
取り合えず、ブラウスを羽織って、スカートを履く。 素足だけどね。 いくら、お忍びでも、余りにも失礼すぎるもんね。 そんで、お茶の準備をして、居間にいる、黒龍大公翁の元に行った。
「すまぬな、・・茶まで。」
「いえ……お話とは?」
お茶を入れながら、話を聞いたよ。 なんで、内密なのか、なんで、黒龍大公翁だけなのか、その話を聞いて判った。
色々、有るんだろうけど、私が知っておくべき情報だった。 そんで、その対応方法だった。 黒龍大公翁、私を狙った人達、当たり付けてたよ。
「ミルブール国教会」で、間違いが無いらしい。 丹念に調べて、あのクッキー事件も、ミルブール国教会が仕組んだのが、判ったって。 エクスター子爵を、嗾けたのは、舞踏会で自分で仕掛けて、そんで恥かいた、エドガー=パンナレル子爵。 そう、私をダンスに誘った、馬鹿。 宮廷魔術師のノガード=パンナレル侯爵の息子。
でも、『ガーダモン』ってハーブを渡したのは、エドガー経由だけど、ミルブールの大使館の人。宮廷魔術師のパンナレル侯爵は知らなかったらしい。 熱を加えても、薬効が落ちない事を教えたのも、その人なんだって。 だから、エクスター子爵は、クッキーに混ぜたらしい。 使用人に作らせたってさ。 確信犯だね。
良くそこまで、調べられたと、思ったね。 ホント凄いよ。 でも、今は情報収集だけで、なんの行動も起こしてないって。 今、行動を起こしても、ネズミの尻尾を切るだけで、また、別な経路を作られるって。
それなら、観察しやすい、今の経路を残す方が安全度が上がるってさ。 ほう…… 馬鹿の処分はしないんだね。 まぁ、つまみ食いした、妹さんのマリアベルが、死にそうになったんだもんね、そうは動けないよね。 でも、気を付けよう。
そんで、黒龍大公翁が、この部屋に来たのは、ウラミル閣下にも、聞かせたくない内容が有ったから。
囮に成れってさ。
将来的危険を、早い段階で潰すって。 そんで、その経路の幹を見つける為に、暫くの間、表面上は、従来通りの警護しか付けないって。
唯一変わる事があるの。 学院のお部屋、もう二部屋、従者用にって開いてるでしょ? まぁ、その内一部屋は、鍛錬部屋にしてるけどね。 残ってる一部屋に、執事を置くって。 ヴェル様だって。 すんごく勉強してて、次の執事長も彼じゃないかって噂のヴェル様。
マリオも成長著しい彼に一目を置いているって。 でね、此処からは内緒話なんだけど、ヴェル様、黒龍のお屋敷の暗部の一部隊を任せられてるんだって。 その部隊ごと、私の護衛に入るんだって…… なんだそれ? 部屋一杯になるんじゃないか?
「そんな訳、あるか。 みな隠遁の専門家だ。 それとなく張り付くんじゃよ。 それの司令塔がヴェルじゃ。 これは、決定事項じゃからな。 いいな」
「 ” 嫌です ” とは、言えませんね。 お受けいたします。 わたくしは、何をすれば、一番良いのでしょうか?」
「普段通り……じゃな。 警戒していると、悟られんようにの」
「はい、アレクサス様」
「うむ。 お前を囮に使うなどとは、ウラミルにもリヒターにも言えんな。 アレ等は、クロエに関しては、飛びぬけて甘い…… バレぬようにせねばな」
悪戯っぽく、黒龍大公翁が笑う。 へぇ、こんな笑い方も出来たんだ。 いいよ、乗ったげるよ、この話。 炙りだしかぁ…… 効くと良いねぇ。
お茶、二杯分の話は終わった。 黒龍大公翁は、来た時と同じように、静かに帰って行った。 ふぅ…… 何かな……ホントに、囲い込まれてきたみたいね。
取り敢えず、寝よう! それからだ!!
*************
翌日から、三日間は目が回ったよ。 朝の鍛錬が終わったあと、水浴びして、新しい下着に変えて、制服着て待ってたの。 そんで、朝ご飯の時間が来る前に、エル達が駆け込んできた。 とっても慌ててね。 びっくりしたよ。 あのいつも冷静なエルがよ?
「クロエお嬢様! 大変です! 奥様と、ソフィア様が!」
「どうしたの? そんなに慌てて…… えっ、奥様?」
エルの後ろに奥様が居た。 その後ろにソフィア様も。 うえぇぇ…… ” 前触れ ” 直後かよ…… 着替えて待っててよかった。 ゆったりとした、微笑みを浮かべて奥様が、口を開いたの。 有無を言わせない、何とも言えない迫力が有るのよ……流石ね。
「支度は出来ているようね。 広間に…… ギリーガ服飾店の者が、待っています」
「はい、奥様」
でぇぇぇぇ……・ 黒龍大公家のメンツを賭けた、無茶ぶりだよ。 今何時だよ。 まだ、朝ご飯、前だよ。 お腹すいたよ…… トボトボと、奥様とソフィア様に、挟まれるようにして、大広間に向かったよ。
大広間はね、言葉通り広いの。 ウラミル閣下が、お役所の偉い人全部集めて、お話したり、お屋敷の使用人全部集めて、お話したりする場所なのよ。 だから、軽く百人単位で入れるの。 でね、その大広間に、奥様に連れられて入ってビックリ! 中央にでっかい長テーブルがコの字に置かれてて、その上に、服地が ”ドッサリ” 積みあがってんの。
そんでね、 正面と、両脇の壁際に、ずら~~って椅子に座った人達。 ベランダに出るガラスの扉の所以外は、全部埋まってんの……何人いるのよ……
「「「エリカーナ奥様、ソフィア若奥様、クロエ御嬢様! おはようございます!!」」」
そんで、全員が、立ち上がって、そう言って頭を下げるのよ……
もうね、圧巻。
思わず後ずさったわよ。 ギリーガのおっちゃん、丁寧に頭を下げて、奥様の前に来たの。 奥様、笑顔で、ものっそい無茶振りを始めたよ。 何か奥様が言う度に、おっちゃん、顔色なくなってたよ…… ゴメンね……ほんと、なんか、ゴメン。
「宜しくね。 ギリーガ。 クロエは時間が無いの。 六着同時にお願いするわ。 イブニング・ドレス、パーティ・ドレス、デイ・ドレスの三種類。 各、二着ずつね。 各国の貴人の方のお相手をする予定なので、気品を忘れない様に。 デザインは、クロエの趣味を一番に考えてね。 クロエが、素敵になる様に、よろしくね」
「……はい、奥様……」
もう、……なんも言えない…… ギリーガのおっちゃん、ほんと、顔色無いのよ。 それでも、私を笑顔で見てた。 まぁ……そうだよね。 うん、私も、笑顔で応えるよ。 そうしないと、なんか、ぶっ飛びそうだし……
先ず、ギリーガ服飾店のデザイナーの人が三人来て、私の要望を聞くのよ。 唯々、豪華さを出さない様に、使い勝手が良くて、シンプルに……コレしか言えない。 ギリーガのおっちゃんも知ってるよね。 ずっと、そう言ってるもんね。
んで、さらさらって、デザイナーの人が、スケッチ描くのよ、何枚も、何枚も。 早いのよ……でも、ゴージャス系が多いの…… ダメじゃん…… ほら、私、ストンだし、お胸も無いし……お尻はデカいよ、乗馬で鍛えたもん。
んで……段々と、絞れてくるのよ…… 私の要望がシンプルって判ったのか、ソッチ系のスケッチが、量産されるのよ…… もうね……流石は専門家ね……
で、なんだかんだで、決まる訳よ。 大筋が…… 其処にね、奥様と、ソフィア様が登場! うん、真打だね。 そのデザイン画を見て、……ちょっと、ご不満な感じ。
「クロエが望むなら、いいでしょう。 でも……質素ね」
「エリカーナ御義母様、クロエは華美なドレスを好みませんわ……質素と、云うより、清楚ですわ」
「そうねぇ……ソフィア、 貴方はどう思う?」
「クロエらしくて、とても素敵だと思いますわ、御義母様。 クロエは、他家のお嬢様の様に、自らを飾り立てる様な事は、好みませんわよ、御義母様もご存知な筈。 うふふ、とても楽しみ」
「そうね、ギリーガ、進めて下さる?」
「御意に……皆! 始めるぞ!」
もうね、技術職の人って、目の前に難しい条件が有れば、有るほど、燃えるらしいの…… ギリーガのおっちゃんの言葉で、火が付いた職人さん達、私を取り囲んで、あちこち計るのよ。
為すがままね。 棒立ち。 で、中央の服地の山を、他の職人さんが、デザイナーさんと、あれやこれや言いながら、引っこ抜いてるのよ…… まるで、砂糖に群がるアリみたい……
用意されていた椅子に座って……試着の仮縫いが出来るまで暫し休息…… 戦場が、目の前にある所で、お茶なんぞ出来んよ…… でも、私が出来る事なんて……
なんか、無いかな……
この人達の、荒みそうになる気分を和らげる何か……
なんか
なんか…… そうだ!
「ヴェル♪ お願いが有るの」
マリオの代わりに、傍に控える様になったヴェル。 初めてのお願い。 聞いてくれる?
「お嬢様、何なりと」
「ありがとう。 では、私が使っていた、リュートを持ってきて」
「リュートで御座いますね。 暫しお待ちを」
驚きもしないし、理由も聞かないのね。 何にでも対応できるって自信? それとも、覚悟? まぁ、伝説に残る様な、執事を目指している事は、判る。 ヴェル、頑張れ! ” 私、対応 ” は、厳しいぞ!! 私、” 無茶ばっかり ” するからな!
でも、ヴェル、ほんと、直ぐに、リュート持って来たよ…… すんげー。
でさ、前にビジュリーに云われてた事有るんだ! ”音楽ってね、一番の鎮静剤なのぉ” ってね。 おもいだしたの。 ほら、運指の練習にもなるし、職人さんに気持ちよく、仕事してもらいたいじゃん。 そんでね、弾き始めたの。 色々ね。 色々。 主に鎮静楽曲をね。
そしたら、職人さん、ビックリしてたよ。 ちょっとだけ、殺伐とした雰囲気が、収まった。 なんか、作業も早まったみたい。 私の休憩は、試着の時だけ…… そう、なんせ、六着分だもの……なんやかんやで、度々止まったよ。
「お嬢様、皆、喜んでおります。 御嬢様が、皆の事を思い、奏でて頂いて・・皆の手がはかどります。 レースの職長など、ほら、あのように…… 誠、有難い思し召しです」
「皆様の、お気持ちに少しでも安らぎが有れば、良いのですが……」
「勿体なく。 みな、全力を出す事でしょう。 我が家の下職を全員集めた甲斐が御座います」
全員……つまり、ほぼ街区丸々一つ…… ほんと、黒龍大公家の方々は無茶をするね……町の方は大丈夫なのか? 心配になって来た。 でも、三日間だし……私も頑張るね。
頑張る
頑張る
がん
が
……
死ぬ……
ブックマーク、感想、評価ありがとございます。
とても、励みになり、執筆が加速します。 蛇足も増えます。
お楽しみ頂いているのでしょか? 不安になります。
クロエも頑張りますが、中の人も頑張ってます。
今後とも、宜しくお願い申し上げます。




