クロエ 呼び出される
単日PVが、初めて3000PVを超えました。
ひとえに皆様のお陰です。
誠に有難うございました!!!
7/17 20:00 一部修正いたしました。
はぁぁぁぁ…………
でっかい溜息しか出ない。
うん、校外実習は、すんごく、楽しかったし、色々有ったけど、充実してたし。 参加出来て、とても良かったと思ってる。 ほら、騎士科のオッちゃん生徒さん達とも、あれで仲良くなれたんだし。 時々、中庭で彼らの姿を見かけるようにも成ったしね。 そういった面では、ホントに良かったと思ってる。
で、なんで、溜息しか出ないかって言うと……
課題……なのよ。 ほら、校外実習で課せられている課題。
行政内務科の、他の組で実習してた人達は、もうみんな提出しちゃったらしいのよ……そんな話で盛り上がってたのよ、教室で…… ミハエル殿下の金魚のフンの、エーリッヒ=ディ=ブラウン子爵なんか、先生にものっそう褒められてたよ…… 今まで、いい勝負してたと思ってたんだけどなぁ……
その上、なんでか、助教のフランツ殿下を、完全に怒らせちゃったみたいだし…… 目の前真っ暗だよ…… それでも、なんとか、体裁、整えようとはしたんだよ。 ほら、野営地から、なんか帰ってくるみたいだし……期待してたんだよ……
それがね、全く残ってないの。 王都に帰還してから、二、三日たってから、野営地に残していた装備、備品、荷物が全部、王立魔法学院に戻って来たんだけどね、私が期待してた、” モノ ” は、吹き飛ばされて何も残ってなかったんだよね。 辛うじて部品が残ってた救護天幕くらいが、衛生兵分隊の荷物の残骸って事。 ……もうね ……どうしよう。
行政内務科の課題だった、備品類の管理記録、入出庫管理記録、人員の管理記録、その他諸々の管理の記録……騎士科の人達に協力願って、結構細かく記帳してたのよ? 台帳、四、五冊にキッチリ纏めてたのに…… 保管してたの、救護天幕の中だったのよ…… 灰になったわ……
魔法科の課題だった、薬草摘み、野外での緊急製薬、毒薬の採取に、調合。 その他諸々…… あの襲撃で、摘んで保管してた薬草とか、作った傷薬とかポーションとかは、ほとんど使っちゃったし、毒物は危険だからって、救護天幕の危険物保管庫に入れさして貰ってたから、粉々……何も残ってないのよ……
たった一つ、手元に帰って来たのが、最後の最後で制御を手放した、最後の傀儡の核。
これ見つけてくれたの、騎士科のオッちゃん生徒の一人。 衛生兵分隊の一番年嵩の人。 魔鬼が残した、大量の魔石の中に有ったんだって。 私が意識を失って、魔法科の天幕の中で寝てた時、魔鬼の魔石を回収してて、見つけたんだって。 そんで、これ、返してくれたの。 野営地で作った魔法科関連のもので、残ってるの、ホントに、此れだけなのよ……
騎士科に行って、9班の小隊長達探し出して、お話したけど……脳筋には記憶って無いのね。……もう備品関連の入出庫は全く分からず。薬品に至っては……もう、何がなんだか。 最初からある備品と、私の作った物が混ざっちゃって、誰の記憶にも残ってないのよ……そんで、救護天幕がバラバラになったもんだから、全損扱い……帰って来た装備、備品も帳簿上、全損扱いになってるし……もうめっちゃくちゃ。
はぁぁぁ…… 頭痛い……
記録上、9組の私が出来る事は……
”全生徒、無事に帰還 予備装備、消耗品、備品は、戦闘により消耗、および、放棄”
の、紙っぺら一枚だけ……
行政内務科の課題……全然無理だ。 こんなの、提出、出来ないよぉ……
魔法科の課題だって……なんにも残ってないし……
で、呼び出し喰らった、助教のフランツ殿下にね。 『校外実習の件で、話があるので、すぐ来るように』ってさ。 謝ろう。 泡食ってたけど、私の管理ミスだ……会って、謝ってこよう。
*************
「失礼します。 シュバルツハントです。 御呼出しの件で、参りました。 入室許可頂きたく存じます」
担当教官の部屋。 重厚って言葉がすっぽり当てはまる、木の扉。 その前に立って、提出書式に則った、紙っぺら一枚持って、会いに来ました。 もう、どうにでもなりやがれ!!
「許可する。 入れ」
「はい」
何回も来た事有るけど、ココって、窓無いのよ。 燭台の光だけで、明かりを賄ってるのよ。 基本的に薄暗いの。 そんで、部屋の中は、結構人が居た。 担当教官でしょ、助教のフランツ殿下でしょ、行政騎士科担当の騎士先生でしょ、騎士科の担当教官でしょ、魔法科の担当教官。 なんで、勢ぞろいしてんのよ。
……詰められる…… なんか、トンデモナイ事いわれんじゃないのかな? このメンツって。 担当教官が口を開いた。
「席に、掛けなさい。 シュバルツハント」
「失礼いたします」
まるで、口頭試問だ。 それも、卒業間際の就職先決める時みたいな…… うへぇぇ
「先ずは、ご苦労だった。 君の活躍は、各方面から報告を受けている」
「いえ……教則に従い、行動いたしましたので」
「うむ、そうだな。 お手本のような動きだった」
フランツ殿下以外が、私に頭を下げた。 えっ? なんで? ……問責じゃないの?
「シュバルツハント、君は確かに教則通りに行動した。 しかも、殿下をギレ砦にキッチリと送り出した。 勿論、君の目論見もあったのだろう。 各員から事情は聴いている。 殿下が野営地に入り、指揮権を掌握され、一般撤退に移った後の意見具申。 近衛親衛隊の隊長から、報告があった。 状況をよく把握した判断だと、彼等は評している」
「勿体なくございます」
行政騎士科の担当教官が、おもむろに口を開いた。
「うむ。 それに、シュバルツハント、君は軍務令にも精通しているようだ。 ” 最上位指揮官が離脱する時は、その場の次席が殿を直卒する ” なるほど、此れでは、フランツ殿下も、文句は言えない訳だ。 指揮命令系統の先任順など、戦場では良く忘れられる事がある。 よく知ってたな、行政科の学生と、騎士科の学生の先任順を。 そうだ、行政科の生徒は、皆一律に座学では有るが、部隊指揮を学ぶ。 騎士科では、3年次以降に習う事だ。 よって、あの場では、行政科の生徒が先任になる。 普通、知らんぞ?」
「規定に記載されております。 きちんと規定を読込めば、誰でも知ってしかるべき内容です」
行政騎士科の担当教官、面白そうに笑ってた。 そうなんだよね、結構こういった、規定類って読んで覚えるだけで、あんまり、記憶に残らないものなのよ。 それはね、なんで、そんな規定が作られたかって事に、思いが至らないからよ。 きっと、昔、規定がない頃、現場で混乱が生じたんでしょ。 規定類って、先人の知恵の塊なんだ。 絶対に裏がある。 それ、読込まないと運用出来ないもん。
魔法科の担当教官がここで、口を出して来た。
「シュバルツハント、君は、この襲撃事件以前に、どの位の薬草を採取した? 何種類のポーションを作った? そして、何種類の魔法を使用した? 多方面からの報告を聞く限り、君の実績は、魔法科の専門職、いや、宮廷魔術師、三人分以上の働きをしている事が判明した。 それにだ、たまたまだが、君の作ったであろう、回復薬を騎士科の生徒が保管していて、提出してもらった。 素晴らしいモノだった」
「……わたくしの集めた薬草類も、作成した薬品類も、全て灰になったと、聞き及んでおります。 いったい、誰が?」
「あぁ、君が撤退部隊に最後尾に配した衛生兵が所持していた。 備品のポーションには、学院の封がされているのだが、それが無いポーションが有ったのだ。 彼が、もしやと思い、私の所に持ってきたくれた」
「……そうだったのですか……」
あの時は、かなり現場は混乱してたし、早く渡さなきゃならんかったから、救護天幕にあった、ポーション、ガッツリ引っ掴んで、渡したもんなぁ…… あの中に紛れてたんだぁ…… そっかぁ…… 騎士科の担当教官が口を開いた。
「部隊運用にしても、そうだ。 異常な敵に対し、落ち着いて、作戦を練り、地の利を生かした配置を行い、出来る限りの準備をし、実戦の攻撃指揮もこなす。 あの難しい男達が、云うのだ。 『 ” 特設シュバルツハント遊撃隊 ” の一員だった事を誇りに思う』とな。 さらに、『部隊指揮官が、” お嬢 ”でなかったら、二階級特進で、聖堂に祭られてた』とな。 あの男達の忠誠を得るとは…… いったい、何をしたんだ? いや、事実関係は報告済みだ。 しかしな…… あれ以来、奴等、貴族の生徒にも、それなりに対応するようになったんだぞ?」
「彼らの『人となり』で御座います。 それに、あの方達は、わたくしにではなく、龍王国に忠誠を誓われたのだと、そう思います」
なんで、こんな事言われてるんだ? 真意が分からん。 課題の話じゃ無かったのか? なんでじゃ?
「各方面からの報告、および、細々した ” モノ ”、 ギレ砦の指揮官からの戦闘詳細、全てを勘案して、君の実習の課題は、全て提出された物とする。 勿論、高評価を付けさせてもらった。 行政内務科だけではなく、全科で同じ評価を下した。 ……しかしだ……」
うわぁ……なんかある…… この口振り、なんかある……
「此処からは、私が言う」
ふ、フランツ殿下? なんで?
「シュバルツハント、君の功績は、間違いなく一級のモノだ。 各方面からバラバラに報告されている事実を組み合わせればの話だがね。 では、その事実をまとめて、上級指揮官に報告するのは、誰だろう?」
「……はい……現場指揮官だった、わたくしです」
「だな。 最初にその報告を受けたのは?」
「……襲撃翌日に野営地に到着されていた、ギレ砦の重装騎士の指揮官様です」
「そうだ。 その通りだ。 で、なんだ、あの報告は!!!! 全て、他の者達の功績になっている!!! 戦闘詳細も騎士科の面々の勇戦が謳われているだけで、君の作戦案、作戦指揮が、全くない!!! 遅滞防衛戦についても、”魔法 及び、戦闘で、敵魔物の一群の足止めを行った” とだけ。 どういう事なんだ!!! 魔法科の教師でなくても、判る。 私もその場にいて、襲撃も受けた身だ。 あれを、どうやって足止めしたんだ? 簡単に魔法でと記載してあったが、そんな訳あるものか!!!」
うわぁ……顔真っ赤にして怒ってるよ…… ええっと、ええっと……
「よ、予断を含まず、憶測を含まず、事実関係だけを報告いたしました」
「事実関係? 私を逃がして、君が最後の壁になった事は?」
「軍務令を運用しました」
フランツ殿下…… 貴方は生き残るべき人なのですよ。 その為の方策は、出来るだけしましたよ。 特設シュバルツハント遊撃隊の面々にも、出来るだけ生き残る方策を立てましたよ。 しかし、これは結果論でしかないのですよ。 予測や、憶測が大分部を占めた私の迎撃作戦は、嵌れば、今回のように上手く行きますが、一つ何かが違えば…… 私達は、遠き時の輪の接する所へ襲歩して、殿下も無事では済まなかったのよ…… 危険な賭けだったのよ。 褒められるような事ではありませんよね。
「野外実習に参加した9組。 特に騎士科で最後まで戦った男達には、柏葉付銀月章の叙勲を申請した。 当たり前だ。 正規の騎士団でも、此処までの戦果をあげる事は難しい。 あの異常な魔物の集団に対して、普通ならば、重装騎士団、一個大隊を投入する。 勿論、魔法騎士団も付随した混成部隊としてな。 それを、僅か21人で……柏葉付銀月章の叙勲は、必ず受理される。 というか、させる。 しかし、シュバルツハント、この報告書に基づき申請をするならば、君は対象外だ。 なぜだ。 君ならば、こうなる事ぐらい、判っていただろう。」
うん、知ってた。 だって、わたし、要らないもの。 それがあって、就職に有利になるの、騎士科か、行政騎士科だもの。 だったら、彼等が、最高に評価されるようにするべきじゃん。
私は、それにくっ付いた「だけ」って事にした方が、彼等の評価も高くなるじゃん。 そんだけだよ? わたしは、行政内務科の評価さえもらえればそれでいいのよ。
「殿下……彼らは、良く戦い抜きました。 わたくしは、そのお手伝いをしたまでです。 ……成り行きとは言え、殿下に誤解をして貰う為に、敢えて、曖昧な言葉を弄した事は、誠に申し訳ございませんでした。 何卒、ご容赦の程を」
静かに、でも、硬い意思を込めて、殿下にそう言ったわ。 殿下、じっと私を見てた。 何に怒ってんのか良くわかんないけど、殿下が特設シュバルツハント遊撃隊の面々を高く評価してくれているのは、有難い事だね。
柏葉付銀月章の叙勲も凄い事だしね。 この勲章って、国の命運をかけた戦いで、戦功の有った人に与えられる、めっちゃ凄い勲章なのよ。 庶民階層の人が貰った事ってあったけ? でも、私は要らない。 そんなの貰ったら、目立ちすぎるもの。
「わかった。 納得しよう。 これは君に対する罰だと。 私を謀った罰だとね。 この罰をもって……許すよ……私を謀った事をね…… 先生方、宜しいですか」
教官の方々が頷かれてた。 えっ? これだけなの? お説教は? わたしホクホクだよ? 実習の評価丸ごと貰えたし、騒動に関しては、表立って名前でないし…… まぁ、臨時の部隊名くらいは、正規の報告書に乗るかな? いや、無いよね。
あれ、部隊内の呼称だし…… うん、正式書面には、臨時編成の部隊で、最先任の私が指揮官だったって事だけ。 そんで、殿下の話から、叙勲されるのは、部隊の人達だけだから…… うん、大丈夫! 目立たなくなってる!!
やっほ~~い!!
狙った通り!!
「ご寛恕を頂けて、感謝いたします。 今後も学業に邁進してまいります」
深々と礼をしたよ。 ホントに有難くってね。 下がる前に、提出書式に則った、『 全生徒、無事に帰還 予備装備、消耗品、備品は、戦闘により消耗、および、放棄 』 の、紙っぺら一枚だけを、担当教官に提出したの。 なんか、ものっそい笑顔だった。
扉を開けて出て行く。 部屋を出て行くときに、担当教官の声が聞こえてた。
「……この報告書が、歴代最高の評価を受ける報告書……アハハハハ! 前代未聞の珍事だ! 学院の歴史に残るな!」
「そうだな、まぁ、後任の者達の頭を抱える様が眼に浮かぶよ! 殿下、シュバルツハントは、何者になるつもりでしょうかね」
「……弟の妻だ。 ……龍王国最高のな。 なんで、弟なんだ! くそ!」
「これは、これは! 殿下のお気持ち、判りましたぞ! ハハハハ!」
その話をチラッと聞いて、顔から表情スッと抜けたね。 もう、完全に無表情。 見てる人が居たら、きっと引いてたろうね。
何を言っているんだ、先生達は。 そんで、何となくだけど、殿下が怒った理由、判った気がする。 フランツ第一皇太子殿下…… 私は、ミハエル殿下の婚約者ではあるけれど、きっと、それは、ダメになるよ。 それから、私は、たぶん、ココには居られなくなるよ。 だから、そんな事、気にする必要もなくなるよ。
たぶんね。
これ、私の悪い予感。
*************
教官室からお部屋に帰ったのよ。 ちょっとウキウキ。 悩んでた『課題』について、全部かたが付いたもんね! 久々に、ゆっくりとお茶出来る。 えぇっと、マリーのサロンにでも、顔出してみるかぁ…… それとも、中庭の方がいいかなぁ~~~。
ほとんど、スキップしながら、部屋に帰ってきたら、エルが待ち構えてた。 こっわ~~い顔してた。
やっぱり、来たか…… だろうね。 報告するって言ってたもんな。 忘れてたよ。
「クロエお嬢様。 旦那様がお呼びです。 馬車が、回されております。 お急ぎください」
「はい…… ねぇ、エル…… ウラミル閣下 どのくらい…… お怒りだった?」
「……ご自分で、お確かめ下さい。 ちなみに、わたくしと、ラージェは、マリオ様とアンナ様に、叱責を受けました。 ……クロエ様の御側を任せられないと ……お嬢様 ……わたくし達は、そんなに頼りになりませんか?」
やっぱり、目に一杯涙をためて、私を睨みつけて来るぅ。 何、言ってんだ。 あの場で、一番頼りにしてたのって、あんた達だよ! 他の誰を頼りにできた? そんな事で、叱責を受けたのか? バカバカしい。 ちょっと怒った。 エル達に? 違う、現場を知らずに、エル達を叱責した人にだ。
「怒っとくよ。 マリオにも、アンナさんにも。 エル、ラージェ、ミーナは、 素晴らしい従者だと。 それを取り上げる様な事はするなって。 貴方達だから、任せた。 貴方達だから、信頼できた。 其処はしっかりと、伝える。 私だけじゃなく、みんな『死んじゃう可能性』だってあったんだ。 貴方達の事、信頼して、任せてたから、出来た事なんだ。 離さないよ、貴方達が、” 嫌だ ” って、言うまでね」
「お嬢様…………」
ほら、直ぐ泣く…… 女の人の涙は、対処が出来ないんだよ。 もう!
よし、覚悟決まった。 怒られに行くか!
なんか、この頃、黒龍のお屋敷に戻るたびに、この覚悟決めてる様な気がする。
でも、私悪くない。 絶対に、悪くない。
だから、今回は、謝らない!
ブックマーク、感想、評価 誠に有難うございます。
皆様が読んで下さるのが、励みになった居ります。
ーーーーー
一段、一段と、クロエは階段を昇って行きます。
行き着く先は、何処なのでしょうか。
また、明日の晩、お会いしましょう。




