クロエ 校外実習に参加する ごー
yasuno様 のご指摘の誤表記、修正いたしました。
また、言葉足らずで、文意が曖昧になっていた部分も加筆修正いたしました。
yasuno様、本当に有難うございます。 7/17
「今です。 弩を放て!」
第三小隊の小隊長のオッちゃん生徒が、弩の引き金を引いた。 うん、彼ね、冒険者さんだった人。 その人ね、弓の名手なんだって。 他のオッちゃん生徒が言ってたのよ。 針の穴通す様な精度の弓の名手で、大型の弓から、こんな弩まで、お手のものだって。
大きな矢は一直線にグノームの背中に突き進んでいった。 そうよ、真っ直ぐにね。 パシッって音がしたのよ。 やっぱり、あのグノーム、防御障壁張ってた。 でもさぁ…… ちゃんとそれなりに、対策打ってたでしょ? ほら、あの「誘惑」の魔方陣。 黒魔術の障壁は、黒魔術を纏ったモノには効かないのよ。
それに、弩から、放たれた矢は、この距離だったら、重装騎兵の装甲だって貫けるわ。 あの黒魔法の物理障壁だって………… ほらね。 キッチリ打ち抜いて、グノームの背中に突き刺さったよ。ダラダラ、冷汗流しながら、口の両端がキュ~って、持ち上がる。
「戦場で邪な事考えるからよ」
グノームが口から盛大に血を吐き出す。 よっしゃ! 命中! 暫くは、気にしなくていい! 傀儡の目から、見たグノームの表情は、驚愕しか無かった。 ほんと、馬鹿ね。 胸から鏃の先っぽ見えて無いから、確実に 【聖水】奴の体の中に入った! これで、魔力の回復は無いね! さぁ、じゃんじゃん行くわよ!
「我、クロエが命ずる! 土壁立ち上がり、敵を囲め!」
救護天幕が有った場所の周囲に、土の壁が立ち上がった。 土魔法ね。 起動したら、周囲を取り囲むように書いておいた奴。 綺麗に隙間なく取り囲んだ。 魔物達、密集してたから、取りこぼし無し。 でだ、一方向にだけ、隙を作ってね、立ち上がらない様にしておいたのよ。 つまり、奴らが出ようとする方向は、一方だけ。
土の壁が立ち上がるのと同時に、特設シュバルツハント遊撃隊は、持てる魔法を全部放ったのよ。 ……凄いわよぉ。 流石は、凄腕の元冒険者さんと元傭兵さんね。 彼等の放つ、「ヘイムアロー」、「サンダーアロー」、「フローズンアロー」が流星みたいに殺到するの。
私だって!
あんな、辱めと屈辱、許さないからね! ……っと、その前に、魔鬼にぶら下げられてる、傀儡から、制御を手放した。 うん、頑張って、振り切った。 自分を攻撃して、また、あの激痛喰らうのは、避けたかったからね。
「我、クロエが命じる、雷よ、 火炎よ、 凍てつく氷よ、我が槍となれ!」
詠唱は短い方がいいよね。 魔方陣を色々こね回して、作った起動方法。 早いよ! 土壁に埋め込んでた雷撃槍が横方向に飛び出した。 ” スタン ” 効果を期待できるから、魔物達の動きが止まる筈。 で、地面に書いた火炎槍と、氷の槍の魔方陣、立て続けに起動。 これで、罠関連の魔法は底を突いた。 もう、事前に仕込んであった魔法はなんにも残ってないわ。
うん、面白いくらい、串刺しにしてくれてる。 結構な防御力を持ってたはずの魔物達が、次々と動きを止め始めた。 本来なら、ここで、グノームが回復魔法をかける筈なんだけど、追いついてないみたい。 そりゃそうさ、グノーム自身も大怪我だし、自分の回復しないと、まず間違いなくヤバイ状況だもんね。
そん時、遠目に見ても判るんだけど、グノーム、懐から魔力回復ポーション出して、飲もうとしてんの。ここで、回復されたら、ヤバい! でも、そんなの杞憂だった。 ポーションの瓶が懐から出されたと同時にはじけ飛んでた!
弩を放ってくれた、オッちゃん生徒の元冒険者さん、バッチリと、そのポーション瓶を、長弓で射貫いてくれたんだ。 凄いね、流石の腕だよ。 惚れ惚れするような弓術だよ! グノーム、ただでさえ激しい魔力消費なのに、魔力回復ポーション割られて、【聖水】が体を焼いているのよ。 もう、他の魔物の回復なんて、考えて無いんじゃないかな?
でも、こっちだって、只じゃ済まないよね。 そう、この攻撃が全力。 うん、魔法関連は全力なの。 予備も余裕もなく、全部注ぎ込んだね。 特設シュバルツハント遊撃隊全員の、 ” ありったけの魔法攻撃 ” を、投射してるの。
私もその攻撃に続いた、「ファイアージャベリン」、「アイスジャベリン」、「サンダージャベリン」、大きな攻撃力を出せる魔法、全部、撃ってたもん。 結構大きな魔法よ? ゴリゴリ魔力が削れるの。 連続する攻撃に、周りに放射される攻撃の残滓に、土壁が悲鳴を上げてる感じがするのよ。 その位、集中したって事。
襲って来た魔物を全部一纏めに出来た事が、良かったのよ。 そうでなくちゃ、こんな無茶な魔法の使い方、出来ないもの……。 いくら強く、生命力が大きい魔物でも、集中する魔法攻撃の中では、耐えられないわ。 ハイゴブリン8体、灰色コボルト12体は、あっさりと、その存在を魔石に変えたの。 ” 死亡した ” って事ね。
散々に、私の傀儡、蹂躙した罰よ!
で、オーク4体中、3体も魔石になった。 全身から青い煙を噴出させてね。 残りは、瀕死のオーク一体と、同じく瀕死の、魔鬼一体。 全身ハリネズミみたいに、魔法の槍が突き刺さっているわ。 魔法だけじゃなくって、数十本の矢もね。 とうとう、魔力が尽きた特設シュバルツハント遊撃隊の面々は、自分の得物を手にした。
私? 残りの魔力も僅かだから、全周囲索敵に振ったの。 この時点で、他の魔物が襲ってきたら、まず間違いなく、ヤバい。 だから、私は、索敵特化するのよ。 これ、事前に言ってなかった。 今さっき気が付いて、実行中。 よかった、周りには、こいつ等しかいない…… やっぱり、このグノーム操ってる奴、軍事知識ないね。
で、オッちゃん生徒の一人が、促してくるのよ。 私に…… 止めを刺せって。 で、了承したわ。 私以外で止めを刺してもらえるならね。 私は、周辺索敵に忙しいのよ!
「特設シュバルツハント遊撃隊 行けますか?」
「「「「おう! お嬢、いつでも!!」」」」
皆さんから、とっても頼もしいお答えが頂けたわ。 士気は爆上がり。 怪我しないでね。 じゃあ、決めるか! 大きく息を吸って、しっかりと敵を見据えて、全力を持って、あげる鬨の声。
「特設シュバルツハント遊撃隊 襲歩!! アゴーン!!!」
「「「アゴーン!!! アゴーン!! アゴーン!!」」」
鬨の声を上げ、討ちかかっていく特設シュバルツハント遊撃隊の面々。 早いよ、走るの…… あっという間に、ボロボロになった土壁に到着。 戦斧で、大剣で、戦槌で、脳筋らしく、滅多打ちにしてた。 魔鬼も、オークも、幾許もしないうち、動きを止めた。 消えゆく魔物足元に大量の魔石が落っこち始めてた。
……うわぁぁぁぁ ……すんげぇぇぇ
まだ、息の残っているのね、このグノーム。 ボロボロになってた。 もう、幾許も持たないでしょうね。 でも、まだ聞きたい事有るの。 近寄って、グノームを冷たい目で見たの。 さっきの御返し。
「あなたは、誰ですか?」
「……なぜ、戻れぬ……何故だ!」
聞いちゃねえな。 仕方ねぇ、教えてやるか。
「魅惑の魔法に掛かっているからですわ。」
「な、なに?!」
「鏃の先に、魔方陣張り付けておきました。 貴方の魂は、此方に固定されています」
「き、貴様!! ……こ、このままでは……」
「そうですわね、このグノームと一緒に、人が行くべきでない混沌に行く事に成りますわ」
「く、くそ!」
「最後の名残に、御名前は御教え下さいませんか?」
「……言わぬ」
そう、ならいいわ。 別に、貴方の名前がどうしても、必要な訳じゃないし。 遠き時の輪の接するところ、刻が意味をなさぬ場所には、絶対に辿り着けない。 何でって? 私が、それを、許さないからね。 魂は、魔物に引き渡され、混沌の海の中を、いつまでも、いつまでも、永遠に、輪廻する事無く、引きずり回されるわ。 魔物達の良い玩具ね。 自業自得よ。
それで、最後の望みを絶ち切ってあげたのよ。 彼が何者で、何に属しているって、隠したがっている事。 もうね、教えて貰ってたから。グノームに施されている、魔方陣の一つを指さして、言ってあげた。
「ミルブール国教会の紋章ですわね。その紋章」
「ぐっ……」
絶望に打ちひしがれた表情を浮かべたのよ、そのグノーム。 まったく、魔物 ” らしくない ” わね、その表情。 グノームの目から光が消えたのは、その直後。 体から紫色の煙が上がって、後に魔石が残った。 大きいの。 でも、これは拾わない。 こんな、汚れた魔石、要らないし、何が起こるか判らないもの。 衛生兵にも剣は支給される。 だから、私の腰にも下がっている。
鞘から抜く。 いつも手入れしてたら、綺麗だよ? 逆手に持ち、刀身を魔石の直上に持ち上げる。 渾身の一撃。 魔石にヒビが入り、虹色の光の粒が立ち上がる…… これで、もう、絶対に復活できない。 魔石から力が抜けていく。 単なる石ころになった……
終わったよ…… やっと、終わった……
膝から力が抜けた。 立ってられなくなって、崩れ落ちた。 もうね…… しんどい…… マジ、しんどい。
「お嬢!!」
私が崩れ落ちたの見た、オッちゃん生徒の一人、……違う、仲間の一人が、飛んできた。 衛生兵分隊の一番年嵩の人。 元傭兵の私に愛称をくれた人…… 駆け寄ってきて、抱き起してくれた。
「お嬢! 無茶をする。 まだ、生きてるか?」
「ありがとう……クロエは、大丈夫です。 ……ちょっと、疲れました」
「そりゃそうだろう……あれだけの傀儡からの、「返しの風」を耐えたんだ……なんでだ?」
「はい?」
「なぜ、そこまでする? ……名ばかりの指揮官だと、そう思っていた。 何故だ?」
「…………「愛称」を………… 貴方達は、わたくしに、「愛称」を付けてくれました。 ……仲間に入れてくれました…… 仲間の為に全力を出すのは……当然の事では?」
何とも言えない顔してた。 ” たったそれだけの事で…… ” って、呟いてた。 そうよ、龍王国の民は、護るべき存在なのよ。 それに、この悪意に満ちた世界で、好意を向けてくれたんだよ、この私に。 どこまで、出来るか判らなかったけど、自分の持てる力の精一杯を出し切って、護り抜くのよ。 あの日、精霊誓約で交わした約束なのよ。
”誇り高く、穢れなく、生きる”
ちっぽけな私の、大それた望みなのよ。 にっこりと微笑んだ私の顔を見て、なんか気が抜けたみたいに、大きく息を吐いてたわ……
それからは、あんまり記憶にないの、残念な事にね。 ちょっと、ホントに疲れすぎて、意識が曖昧になったのよ。 意識がハッキリとしたのは、深夜。 魔術科の天幕の中で、横になってた。 軽装も装甲は取られて、鎧下だけの姿だったけどね! 誰が脱がしたんだ?
*************
夜が明けた。 眩しい朝日が、野営地に降り注いでいた。 私は例のごとく、起き出して、天幕から出て、最低でもしなくちゃならない、呼吸鍛錬をしていた。 鎧下でね! だって仕方ないじゃん、軽装鎧、何処にもってったか判んないんだもん。
コッソリ、朝日の当たる場所で、呼吸鍛錬をしてから、広場に出たら、なんか一杯いた。
救護天幕のあった辺りで、……なんか、一杯、重装騎兵の皆さんが居た。 臨戦態勢? みたいな、物々しい雰囲気を漂わせてね。 その一団に仲間たちが居たの。
私に気が付いて、走ってみんなが寄って来た。 ほんと眩しい笑顔! でね、オッちゃん生徒が真顔で云うのよ。
「お嬢! もう、起きていいのか?」
「はい、回復しましたし、誰かに指揮権を返さねばなりませんよね」
「……まだいい」
「はい?」
「9組の他の生徒は、殿下と共に、ギレ砦から、王都シンダイに戻った。 我等も後を追う。 王都シンダイに戻るまで、9組残余の我々は、”特設シュバルツハント遊撃隊” だ。 そして、お嬢、貴方はその指揮官だ。 指揮権は、直接、王都シンダイで、殿下に返すんだよ」
「いいのですか?」
「この場に居る、最先任は、” お嬢 ” 、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントだ。 俺達には、なんの不服も無いが?」
「……ありがとう」
皆、拳を胸に、騎士の礼を持って、私の前に片膝を付いた。 私は、指揮官として、立ったまま、拳を胸に答礼した。
まぁ、鎧下姿で、締まらなかったけどね。
その後、ちゃんと装備を整えて、重装騎士の一団の指揮官と、お会いしたの。 だって、この惨状の報告義務があるでしょ。 推測や、憶測なんかは、この場で言うべきじゃないし、言っても混乱するだけ。 事実関係だけを報告したのよ。
〇 魔物の群れが、野営地の近くに出没した。
〇 学生の部隊では対処が出来なかった。
〇 先生は救援を求めて、この地の、各屯地に向かった。
〇 学生部隊は、野営地に留まり、一般待機命令が下った。
〇 其処に、フランツ殿下の小部隊が視察に見えられた。
〇 フランツ殿下の小部隊もまた、魔物の群れに襲撃されていた。
〇 フランツ殿下は直ぐに、ギレ砦への撤退を命じられた。
〇 殿を、9組の最精鋭が受け持った。
〇 幸運にも、魔物の群れを撃退する事が出来た。
報告にすると、こんなものね。 あっさりしたものだったわ。 過剰な修飾語を使わない、私の報告に、重装騎兵の指揮官びっくりしてた。 魔物の群れの構成は、他の人の役目。 だから、敢えて報告しなかった。だってそうでしょ? あんな集団、見た事も、聞いた事も無いモノ。 考察とか、意見とか求められても困るもん。
重装騎兵の指揮官から、護衛を付けるって云われたけど、丁重にお断りしたの。 だって、私達帰るだけだもの。 此処にある装備や備品は全部残して行っていいって云われたし、” 特設シュバルツハント遊撃隊 ” だけの移動なら、大抵の事には対処できる。 此処はまだ、森の中よ? 重装騎兵さん達の方が、一人でも多くの人員が必要だもの。
ちょうど、その日が、実習最終日。 私たちは、身の回りのモノを纏めて、王都シンダイへの帰途に就いたの。
ちぇ~、せっかく集めた、薬草も、作った薬品も、まとめた資料も、全部、灰になっちゃった……課題……どうしよう……落第しなきゃいいんだけど……
お日様が、真上に来る前に、野営地を出たの。 みんなで、騎乗してね。 密集隊形でね。
じゃあね! 楽しい実習だったよ!
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王都シンダイに帰還するんだ。 天気はいいし、馬さん達も機嫌がいい。 当然、行足も速くなる。 往路は五日掛った道。 夜間行軍はしない事にしてたの。 無理して、なんかあったら嫌だしね。 一日目は、野営地を出たのがお昼前だったから、半日分しか移動時間が無かったのね。 だから、ギレ砦に泊まらせてもらったのよ。
すんごい歓待受けたの。
何でだ? 口々に、褒めてくれるのよ。 仲間たちは、当然だって顔をするのよ。 なんでだ?
「魔鬼に、オーク四体討伐って、とんでもない戦果だ。 当然だろ。 お嬢、もっと誇っていいんだ」
「いえ……それは、あくまで結果です。 一つ判断を間違えば、全滅もあり得ました。 もっとうまく立ち回れた様な気もします。 とても、誇れるものでは……」
「謙虚過ぎるのは、悪癖だぞ。 お嬢。 少なくとも、賞賛は素直に受けておくべきだ」
「ええ……」
「考えて見ろよ、お嬢が手も足も出ない『相手』を、退治した奴が、 ”俺、弱いっすよ?” って言ったら。 お嬢だって、ムカつくだろ?」
「あぁ……そうですね。 判りました。 その通りです」
「わかりゃいいんだ。 ホントに凄い事したんだからな!」
「はい!」
ギレ砦の実戦指揮官が撤退部隊の人達の話を聞き違ってて、私の報告を信じてくれなかったの。 で、納得してもらうために、いろいろ説明してたのよ。 いわゆる事情聴取よ。 なかなか眠らせて貰えなかったのよ。 酷いわよね。 お肌、荒れちゃうよ。
で、今回の迎撃戦の骨子を図に表して、説明したの。 私が説明する事に、なんか、あっちの実戦指揮官が違和感があったみたいね。 オッちゃん生徒の仲間に小声で聞いてた。
「実際に…… 指揮を執っていた方に聞きたいのだが?」
「だから、 ” お嬢 ” に説明してもらっておりますが、なにか?」
「えっ? ……まさか、本当に?」
「ええ、特設シュバルツハント遊撃隊の指揮官は、名実ともに、” お嬢 ” です」
絶句してたね。 いいんだよ、珍しいって言うか、あり得ないもんね。 普通。 まぁ、そんなこんな、やっててもね、何とか、翌日の朝には、王都に向けて出発する事が出来た。 当然、朝の鍛錬はフルセットでしたよ? 仲間達も、なぜか一緒にね。 ん? なんでだ?
そんで、その日一日は、大分距離を稼げた。 早いのよ、行軍の速度。 ほら、馬車も無いし、休憩だって少ないし、お昼ごはん作る時くらいしか休まなかったしね。 そうそう、お昼作ってる時に、第四小隊の小隊長さんに言われた。
「お嬢に、昼飯の用意してもらうなんてな、他の部隊だったら、考えられん」
「御口に合えば、宜しいのですが……」
「それに、コレだ……まったく……戦の時の鬼人ぶりが嘘みたいだ……」
き、鬼人って!! ” お嬢 ” だの、” 鬼人 ” だの、変な「あだ名」ばっかりじゃない! いいじゃん、クロエちゃんで! どうにか、そっち方向に行かないかなぁ。 なんなら……く、クーちゃんでも……いいのよ?
その日の夕方、宿に着いた。 初日に泊まった宿だった。 実質、半分以下の時間で、駆け抜けたわけだね。 お尻が痛いよ。 9組の人達は、殿下と夜間行軍して行ったみたいね。 頑張るわね、フランツ殿下。 私達? ええ、それはそれはフワフワのベットでお休みしました。 ゴメンね、ゆっくり眠るの、やめらんない!
で、翌日も、朝から皆で鍛錬して、朝ごはん食べてから、騎乗。 お昼前には、王都シンダイに入れるわね。 昨日と同じ速度で、馬を走らせていたのよ。 遠くに、王城ドラゴンズリーチが見えて来た。 白い城壁に、青い屋根。 綺麗な御城なんだよね…… 王都シンダイの、南門の手前で、なんと、フランツ殿下御一行と、9組のみんなと合流できたのよ!
みんなと一緒に王都に戻れるの。 良かったぁ! 9組のみんなも、大喜びよ。 誰もかれも、もうダメだとおもってたって。 生き残れたのは、残った私たちのお陰だって。 嬉しいね。 ほんと。 頑張ったかいがあったね! で、さぁ、エルと、ラージェの姿が遠くに見えたの。 遠くからでも判るくらい、怒りのオーラが見えたの。
やっべ~~~
でね、彼女達に捕まる前に、指揮権を返上しに、フランツ殿下の元に向かったの。 丁度、小休止だったみたい。 緋色のクロークの人探して、近寄って行ったの。
「フランツ殿下、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント 以下、21名、原隊復帰致しました。 指揮権返上いたします」
「うん……判った」
めっちゃ憮然としてる。 ご機嫌斜め…… 殿下、なんか怒ってるの? 何でじゃ? それに、殿下の頬に青痣……なんか、戦闘でもあったのかな?
「あの、殿下……御顔に御傷が……」
「……お前のせいだ、シュバルツハント……」
そう言ってプイって向こうを向いてしまった。 うわぁぁぁ、めっちゃ怒ってるよ! ど、ど、どうしよう! 親衛隊の騎士さんが、スルスルって近寄って来て、耳打ちしてくれた。
「殿下の御顔の傷は……まぁ、貴女のせいですね」
「まぁ……どこかで、魔物に襲われたのですか?」
凛とした佇まいの、親衛隊の騎士さんが、真正面から私を見て、真剣な面持ちで伝えてくださったの。
「いいえ、違います。 ギルバート子爵が伝令を完遂して、保護部隊を引き連れ、殿下の元に戻られた時、クロエ様が撤退部隊に居ない事が判明いたしましてな。 最後尾に付いている衛生兵二人の内一人が、クロエ様のクロークを召されていましたので、その時点まで、先頭集団の我等は、貴方が居ない事に…… あの戦場に残られた事に…… 気が付いておりませんでした」
「脱落者の防止の為、わたくしが命じました。 あの場に残る指揮官として」
私の答えに、目を細められた、親衛隊の騎士さん。 その眼が、言ってるのが判る。 ” そりゃ、そうなんだけどさぁ~ ” ってね。
「……親衛隊に配属されて初めて見ましたよ、ほぼ、錯乱状態になられた殿下の姿を見たのは……。 恐れ多いことながら、わたくしが、殿下を羽交い絞めにし、同僚が殴りつけて、どうにか正気を取り戻されましたが…… その後の御機嫌が…… クロエ様、無茶はしないでください。 我々からもお願いいたします」
えええ~~~ それって、私が悪いの? 最上位指揮官が離脱する時は、その場の次席が殿を直卒するの、軍務令にもあるじゃん! 顔の傷だって、親衛隊の騎士さんに殴られたんだろ? それでなんで、私に、怒ってんのさぁ!! もう、知らない!
この時点を持って、特設シュバルツハント遊撃隊は解散。 全員、原隊復帰を果たしたの。 みんなお疲れ様。 そして、ありがとう! そうそう、中庭の御茶会、何時でも来てね。 待ってるわよ!
はぁぁぁ……って、一息ついてたら…… 出たよ。 魔鬼より怖いのが……怒りのオーラを纏いつかせて、目に一杯の涙を湛えて…… つかつか、寄って来たよ…… 思わず身構えたよ……
エルと、ラージェ……
目が怖いよ…… ホントに、怖い。 魔物の前では、微塵も感じなかった恐怖なのにね。 漏れて流れて来る、怒りのオーラ。 人の形をした、鬼が、目の前に居るんだよ。 二人も……
「クロエお嬢様…… お分かりですね」
「えっ、い、いや ……なにが?」
「私達を騙した事です」
「えっ、いや、騙して無いよ。 ちょっと、曖昧に言っただけだよ……」
「私達が誤解するようにですよね。 それを、騙したと云うのです」
「そ、そんなぁ……」
「御当主様、御隠居様にご報告申し上げます」
「い、いや…… そ、それは……」
「ご ・ 報 ・ 告 、 申し上げます!!!」
エルの言葉に、ラージェが思いっきり頷いてる…… うわぁぁぁ、お説教二、三日コース確定だぁ~~~ こいつら、絶対に、マリオとか、アンナさんにも言うな、確実にな。 黒龍家一家を上げて、お説教だぁ~~。
エルの頬に涙が零れ落ちた。
「よ、よくぞ、御無事で……ほ、本当に、良かった……本当に……」
いきなり抱きつかれたよ。 そんで、力一杯抱き締められた。 ラージェも同じ…… もう、嫌だなぁ~ 恥ずかしいじゃん!
でも、ありがと! 帰って来たよ。 私は。
エル ラージェ
ただいま。
ブックマーク、感想、評価、誠に有難うございます。
中の人、モチベ―チョン爆上げ状態です。
本当に、感謝です!
本編、校外実習最終話です。 クロエ無双です。 オッちゃん生徒、いい感じになりました。
数少ない、クロエの友人の誕生です。 名前は無いのですけれど・・・ いずれまた・・・




