クロエ 校外実習に参加する よん
ついに、戦いが始まります。 長文注意です。
残余の戦闘力を保った騎士科の人達と一緒に救護天幕の前に集まったの。
指揮官は私。
うん狙ってた。 脳筋じゃぁ、この状況では、全滅必死。 じゃぁ、死なない様にするには、どうするか。 戦術訓練受けてる、行政騎士科か、行政内務科の人間が、作戦を立案する事ね。 格段に生存率が跳ね上がるわよ。
残っている人には、悪いけど、経験だけでは、この状況を覆す事は難しいと思うのよ。 廃墟や、森の中での魔物との遭遇戦で無敵の冒険者さんでも、それは、あくまで、個人の武勇での勝利であって、狙ってやる、組織戦とは違う。
冒険者小編成だったら、マズい状況に成ったら、逃げりゃいいもんね。 個人の戦技がとっても高くっても、大きな群れに対しては、いずれ、消耗してしまう。
撤退支援、遅滞防衛戦は、訳が違うのよ。 突端から、状況は非常に不利。 だって、本来は逃げている状況だよね。 でも、大事な人達を守る為に、最後尾で、 ” 肉の壁 ” になるって、良くある話じゃん。
冒険者さん達が、酒場で盛り上がる系のね。 で、実際に其れをした人は、みんな、酒場の話の中の人になっちゃってるんだ。 最後は、その人に、お酒やら、強いお酒を捧げちゃうんだよ。
ロブソン開拓村で、あの日の後からの、私が、そうだったみたいにね。
命を投げ出して、大事な人を救うって「状況」に、ちょっと酔っちゃう事って、ありがちよね……。それでも、死ぬのが嫌なら、鍛えろ! ってね。 でも、黒龍の御家や、学院で学んだ事が、それを否定していたのよ。
いくら個人が頑張ったって、所詮は、蟷螂之斧。 逃げる時は、逃げて、戦力の温存を計るの。 万が一、状況が撤退支援を要求するなら、最善を尽くして、生き残りの方策を探るのよ。
何が何でも生き残るって意思。
後に成れば、成るほど、絶体絶命の状況に耐え抜いた結果がモノを言うの。 これ、黒龍大公翁との、ゲームで鍛えられた思考方法。 最初は漠然と、後になって、明確な意思の元、その思考方法を突き詰める事が出来るようになったのよ。
黒龍大公翁の薫陶の賜物ね。 感謝してる。
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でだ、現在の戦力分析。
指揮官は、十三歳の私、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント。
衛生兵分隊は、二人抜けて、オッちゃん生徒が、六人。
魔物討伐隊の、第一小隊から、第七小隊の、兄ちゃん生徒の、隊長さん、及び、副官、十四人
総勢、二十一人。 以上
第八小隊は、女性騎士な上、小隊指揮官がラージェだから、殿下について行ってもらった。 不確定要素は排除しておくべきだしね。 不確定要素って? うん、ラージェが言ってた、リーダーらしい、 ” グノームの治癒師の言葉 ”。 さんざん、威力偵察で遣り合ってるのに、” いない、ココにもいない ” は、変でしょ? で、思ったのよ。 戦ったのは、全部男の人。 つまり、探して居るのは、女の人なのかなって。 だから、抜けて貰った。
そんで、この場に居るのは、私を除いた二十人の猛者、この人達、みんな庶民階層で、年喰ってんのよ。 そんで、元傭兵とか、元冒険者で、十分な経験を積んでる上、乗馬も、武器の練度だって高いの。 訓練見てたら判るわよ。 ほんと、頭抜けて優秀。
直ぐにでも、近衛騎士に配属されたっておかしく無い程にね。
そんな人達の前にでた。
「状況は、撤退支援、魔物の群れの侵攻の遅滞攻撃です。 本野営地に、群れが到達するのは、遅くとも、日没前。 方向は、北西方向の小道入り口からが予想されます。 それまでに罠を仕掛けきります。 大規模な罠ですので、宜しくお願いします」
憮然とした表情の、隊長さん達と、衛生兵の仲間…… そんな、睨まないでよ。 私は、役割を全うしてんだから…… 一番年嵩の、衛生兵分隊のオッちゃん生徒が、口を開いた。 なんでか、突然、ニカって笑ってさ。
「意見具申!」
「どうぞ」
「士気を高める為と、混乱を防止するために、呼称の統一を求める」
「はい?」
「撤退支援人員とか、肉壁とか、頭では、判っちゃ居るんだが、……今一、気乗りがしない。 此処は、パッと一つ、いい感じの部隊名を決めちゃいかんか?」
「……よろしいですが……何か案でも?」
良くぞ聴いてくれたって顔。 なんか、ニヤついているのも、ご愛嬌ってか? まぁ、士気が上がれば、生存確率上がるけどね。
「特設シュバルツハント遊撃隊。 まぁ、あんたの名前を部隊名につける」
「えっ? で、でも……」
「それとだ、部隊指揮官の呼称問題。 俺たちゃ、戦闘中はいっつも愛称で呼び合ってる」
「ええ……それは知っております」
「アンタ事の事を、皆、てんでバラバラに呼んでるよな、この際統一するべきだ」
「ええ、それは……有難いのですが……なんと?」
一番若そうな見掛けの、実は年喰ってるもう一人の衛生兵分隊の人が口を開いた。
「”シュバルツハント令嬢閣下”……なげぇ……”令嬢閣下”……閣下じゃねえしなぁ……”お嬢ちゃん”……もう一つだなぁ……”クロエちゃん? クロちゃん? ”……さすがにマズいだろうぉ……そうだ、 ” お嬢 ”!」
お、おい、マジかよ……さっきのオッサン生徒がニヤリと笑った。
「呼称統一! 特設シュバルツハント遊撃隊、部隊指揮官の呼称を、” お嬢 ”で統一する。 いいか、野郎共!」
「「「おう!!!」」」
なんでこんな事に? 指揮官、 ” お嬢 ” は、誕生してしまった。
…… ”クロエちゃん” でも良かったのに……
衛生兵分隊の、オッサン生徒って、リーダーっぽいね。 確か、傭兵してたとか言ってたよね。 寄せ集めの兵士纏めんの、得意なんだろうな。 戦闘小隊の指揮官と、副官、一発で大人しくなったよ。
でも、決まったからには、従うよ。 仕事は山積み。 みんなで手分けして、出来る限りの事を、日没前に済ませるからね!
*************
「お嬢、意見具申!」
戦闘小隊の隊長さん達の中で、馬術の上手い人、二人が、索敵したいってお願いしてきた。 時間が確定できないって、とっても不安なんだって。 絶対に戦闘しないって事を条件に、お願いしたのよ。 でね、羊皮紙に遠目の魔方陣を描いたの渡したの。 あっちの索敵圏外から、確認できるようにね。 それに、大体の到着時間が判ったら、引き返して来るようにも、伝えた。
大きく頷いてた。 羊皮紙を丸めて、望遠鏡みたいにしてた。 うん、正解。 やっぱり、実戦経験のある人って素敵。 説明の必要ないもの。
彼らの背中を見送ってから、救護天幕の周りやら、中やらに、ありったけの攻撃魔方陣を描き込んだの。 私の魔力でね。 私が起動しないと、判んない様に。 他の人達には、残された他の天幕の中に、音を仕込んだ、 ” 魔石 ” を投げ込んでもらってたの。 これは、相手の注意を他に逸らさない様にするための、保険。 ザワザワって、まるで野営地に9組の全員が居る様な、 ” 空気感 ” を、出す為にね。
ほら、いくら魔物でも、もぬけの殻だったら、すぐに殿下達を追っちゃうでしょ? それを避ける為。 天幕を壊すなりなんなりして、人がいないって確認させる時間稼ぎ。 でも、これも、保険。 だって、もし、私の悪い予感が当たってるなら、要らないもの……
私は、さっき仕込んだ、 ” 地面に、魔石を、植えるように埋めた ” 場所に戻って来た。 よしよし、馴染んどるな。 魔方陣を展開する。 ホントに紙一重で合法な魔法を起動する。
「我、クロエが命ずる。 我が身を写し傀儡、立ち上がれ」
むくむくと土が盛り上がり、十体の傀儡が出現。 そうよ、いわゆる ” 生ゴーレム ” って呼ばれている奴。 土と生き物の遺骸を使って生成する、命無きもの。 人間の遺体を使って作ると、腐人が生成されちゃう奴。 そんで、それは違法。 使役用に、他の知能の無い動物の遺骸を使うのは、合法。 そん時の形態は、使役者の姿を模す事が条件。 それ以外だったら、違法。 うん、ギリギリ、合法。
目の前に立ち上がった傀儡は、みんな、私そっくりだしね。 着ているモノは、バラバラだけど。 ” 軽装甲 ”、” 重装甲 ”、” 学院の制服 ”、” 作業服 ”、” 普段着 ”、” 訓練着 ”、” 魔法師学生のローブ ”、” 乗馬服 ”、” 戦装束 ”、そして、” 白衣白帽 ”。
私が着た事が有る物ばかり。 ” 探している ” 者が、何者なのか、それを特定するためにね。まぁ、みんな虚ろな表情してるけど、キッチリと制御出来ているのよ。 なんでか判んないけど、とっても繋がりがいいの。 この子たちが見たり、聞いたりしたことは、全部私の目と耳に入る。 ついでに感覚もね。 十人分の感覚を一人で受け持つのよ。 ちょっと、しんどそう。
彼女達を救護天幕の中に入れたのよ。 そんで、見た目が一番、清楚っぽい白衣白帽の傀儡を中心に、円を描くように跪拝の姿勢にしたの。 真ん中のは立ったまま、祈りの姿勢。
遠くから見ると、助けてくださいって、祈っている様に見えるわね。 うん、これでいい感じに、囮になるよ。 事前にエルに防御魔方陣を書いて貰ってたから、私の傀儡は、全部その中に収容した事になるね。
外の準備が整ったと、呼びに来た衛生兵分隊のおっちゃん学生が、中を見て、ビックリしてた。 そんで、聞いて来たよ。
「お嬢、……なんだ……これ?」
「罠の囮です。 どうも、女性を探して居るらしいので。 これで、どんな人を探して居るか、特定出来る筈です。」
「で、何でまた、天幕の中なんかに? お嬢、バラバラに配置した方が、判り安いんじゃないのか?」
「天幕を中心に、色々な攻撃魔法を仕掛けました。 おびき寄せる為です。 救助を祈る姿にしました」
罠って言ってるけど、本当に効くか判らない。 嫌な予感通りだと、効くと思うけど、確証が持てないのよ。 ただ、何もしないよりも、してから後悔の方が、 ” まし ” だもんね。 オッちゃん学生、なんか考えてから、おっも~い口調で、言ってくれた。
「了解。 おびき寄せてから、一網打尽にするんだな」
「ええ、そのつもりです」
―――――――
もう一つの罠、弩の用意は進んでた。 拠点防御用の大きな弓で、普通じゃ使い所の無いモノ。 訓練用に持って来てたみたいね。 機動戦を主眼とする、騎兵にはホントは無用の長物。 でも、今の私達には、天からの贈りものよね。 東側退路近くに設置したのよ。 狙いは、救護天幕の中心。 其処に敵を誘い込めれば、一撃必殺なのよ。
矢は大きな鏃付き。 いつでも発射可能状態で保持。 二射目は無い。 私達が待機するのも、この弩の周辺。 「隠遁の魔方陣」を出して、常時起動させておいた。 これで、あっちからは見えない筈。 ” クリーク ” 達、みんなの馬達を退路に並べ、何時でも乗れる状態にする。 是非とも頑張ってもらいたいなぁ…… 馬さん達には、砂糖の塊を上げた。 嬉しそうね。 でも、これからが正念場だから、頑張ってね。 お願いよ。
偵察に出ていた二人が帰って来た。 弩のあたりに固まって待機している私達の元に駈け込んで来たの。
「報告!」
「はい」
「敵魔物一群、北西、1リーグに接近。 予想通り、北西小道より、野営地に侵入の見込み。 到着時時刻、日没! お嬢、当初の読み通りです。 敵概要掴みました。」
「はい。 続けてください」
「お嬢、敵一群の概要は、リーダーらしきもの、グノーム、一体。 戦力の大きいモノから、魔鬼1体、オーク4体、ハイゴブリン8体、灰色コボルト12体 計26体の極めて強力な戦力です。 普通では考えられません!」
「……お疲れ様。 ―――劣勢もいいところですね。」
北西の小道へ続く簡単な柵がある方に視線を向ける。 そうなんだ、これは、異常な集団なんだ。 何かに操られているとしか思えない。 きっと、人に似た行動をしてくると思う。 それに、操ってるもの、こんな編成でも、集中運用してるって事は、軍事知識は無いね、きっと。 私だったら、分けるもの、ぜったい。
「お嬢……やれるのか?」
「あちらの動き次第です。 リーダーのグノーム……これが此方が優位に立てるかもしれない、唯一の情報ですね」
最後の私の言葉に、皆が口を噤んだ。 いよいよ、来る。
*************
陽が沈む…… 夜の帳が落ち、周囲が闇に沈む。
天幕のあたりにあるカンテラと焚火が、救護天幕を、闇から浮かび上がらせる。 報告通り、野営地に予測していた方向から、魔物集団がついに到来した。 ほんと、優秀な偵察索敵だね。 時間までバッチリだよ。 オーガを先頭に野営地に入ってくる魔物達。
やっぱり変だよ。 だって、こいつ等、周囲を伺ってんだもん。
おかしいよね、普通は、直ぐに暴れ始めるよ。 特に戦端が開かれた後なら。 奴等、こっちの攻撃になんの感情も持ってないみたいな振る舞いをしてやがんの。 これは、おかしい。 注意深く見てたら、リーダーらしい、グノームが何か指示を出し始めた。
他には目もくれず、救護天幕に向かってんのよ。 なんか、目的があるみたいね。 なんだろう? リーダーのグノームが、魔方陣を展開して、何かの呪文を唱え始めた。 風の魔法? だろうかねぇ…… そんな感じがする。
ん? なんだあれ?
「目の良いかた、あれを。 魔物達の胸に何かの紋章が有りますね。 ご存知の方居られますか」
上半身、裸の、”魔鬼”の左胸の上の方に、なんかの紋章が見える。 黒い紋章だね。 奴隷の紋章も、使い魔の紋章も、紋章自体は丸いから、違うし……なんだろう? ひし形の紋章なんて、見た事無いぞ? さっき、偵察に出てた、兄ちゃん学生が、遠眼鏡で確認してくれた。 一人は知らなかった。 もう一人、元冒険者って人が、断言した。
「あれは、ミルブール国教会の紋章だ。 ミルブールの神殿で、見た事がある。 いけ好かない神官共だったな。 そう言えば、やつら、黒魔術を良く使うと聞くな、お嬢」
「そうですか……ミルブール国教会……ですか……」
「何かを詠唱してる、グノームの腕見てくれ、お嬢……あれは隷属の魔方陣と、操作の魔方陣……操られてやがる……」
確かにそうだった。 黒魔術の体系の中に有ったような気がする。 遠隔地から、何かを操る操作の魔方陣……たしか、モノにしか効かない筈……そうか、隷属の魔方陣で、あのグノームをモノ化してるのか…… これで、魔物達の異常行動の理由が判った。 うん流石、黒魔法……いやらしい方法ね。 そんじゃ、私も!
弩に準備されている矢の鏃の横に立った。 結構大きいのね。 その鏃に黒魔法「誘惑」の魔方陣を定着、そんでもって発動。 常時発動で、私の魔力が切れるまでね。 グノーム絶対に、黒魔法の防御障壁を纏ってるから、同じ黒魔法の「誘惑」の魔方陣を張り付けた。 これで、あいつの防壁、無効にできる筈。
そんで、「誘惑」の魔方陣を使った理由は、もう一つあるんだけど……効くかな?
鏃は中空になってて、その中に水の精霊が祝福した水が入ってるの。 冒険者さん達が俗に言う【 聖水 】、 魔物の体内に入ったら、魔力の回復が極端に遅くなるのよ。 だから、仕込んだ。
これで、ダメなら、全力で逃走する。 馬さん達も、私たちの緊張が判るのか、じっと息を潜めて待っていてくれる。 うん、いい子たちね。
グノームの詠唱が終わった。 大きな風の塊が救護天幕を襲ったのよ。 風の魔法ね。 やっぱりね。 巻き上げられる天幕がお空から、遠い所に堕ちたのよ。 せっかく作った真ん中の柱、ぽっきりと折れてたのよ。
ぬぬぬ、許すまじ!
中にいた、傀儡10人は、飛ばされてなかった。 きっと、天幕だけを飛ばす為に、あんなに慎重に魔法をかけてたのね。 ふーん。 傀儡の目と耳を通して、魔物が何を言っているのかが判る。
「ミツケタ。 聞いてた話の通りだ、コイツだ。 白い服のこいつだ。 後の者は、お前たちの好きにするがいい」
グノームの視線は、中央の白衣白帽のクロエを見ていたの。 傀儡の視線を通して、バッチリ目が合ったのよ。 濁った、虚ろで、邪悪な光を宿してたわ。 それが、グノームのモノか、操っている者のモノか判んないけど……
これで、ハッキリした。 確信が持てた。 こいつ、と云うより、グノーム操っている奴、わたしを、探してたんだ。 そんで、私が9組に組分けされてて、医務方に居る事を誰かから、教えて貰ってたんだ。
だから、真っ直ぐに、この野営地に来て、真っ直ぐに、救護天幕に来たんだ。 でも、ちょっと情報が古くて、私が衛生兵になってるの、知らないみたい。 救護係の白衣白帽をみて、私と認識したね。 顔も、あんまり判ってないよ。 だって、全員同じ顔してるのに、白衣白帽の私を、目標って認識してるもの……
嫌な予感程、当たるんだよね、私って……
ハイゴブリンが、周りの軽装鎧のクロエに襲い掛かろうとしたんだけどね、エルが張っててくれた、魔法の防御壁が、いい仕事してるんだ! 奴等、思いっきり、弾かれる。
エルの防御魔法って、物理衝撃には、相当特化してるから、あの、”魔鬼”の、一撃すら、耐えられるよ? 狙いは、グノームの魔力の消耗。 グノームは忌々しそうに、火球を魔法防御壁に当ててるね。
狙い通りだよ。 ―――その間に、軽装と、重装の傀儡には、戦闘準備として、跪拝をやめさせ、剣を抜かせた。
耐える防御結界……でもね、重結界じゃないし、術者も居ないから、結界も限界もそれなり。 自分でやればいい事なんだけど、この後の攻撃に使いたいじゃん、自分の魔力。 出来るだけ温存してるのよ。やがて、力尽きる様に、結界が光の粒になって、昇華されていく。 限界が来たみたい。
もうね、そっからは、酷いモノよ。 遠目の魔法で、見てるのと、傀儡から押し寄せる感覚。 傀儡は、ある程度、操れるけど、十体もの傀儡を操るのは、至難の業なのよ。 何匹か傷を負わせたけど、直ぐにグノームが回復魔法掛けやがんの!
もし、あそこに居たら、ホント、ジリ貧でやられてるわね……
でさぁ……いくらなんでも、数が多すぎるのよ。 それに、戦闘職の傀儡三体しかいない……次々に襲い掛かられると、対応が追い付かないの。 中央の一団を護る様にしてたんだけど、無理…… もう無理…… ホント、もう無理…… ハイゴブリン達に、ついに私の傀儡が、蹂躙されちゃったのよ。
ほら、何でか判んないけど、今回作った私を模った傀儡、とっても良く感覚が通ってるの。 そうなの、傀儡の痛みは、真っ直ぐに私が感じる痛みになるの。
……痛いよ ホントに痛い。
気を抜くと、絶叫しそうなくらい。 歯を噛み締めて、辛うじて叫び声が出るのを抑えつけるの。 私が、叫んじゃったら、「隠遁の魔方陣」が何の役にも立たなくなるし、この迎撃戦の準備が、全部無駄になる。
爺様の顔が思い浮かんだよ……
多分、爺様も同じ痛みをその身に受けたんだよね……。 切り刻まれてたもん…… 爺様。 でも、私は、……私には傷一つない。 耐えなきゃ…… カール=グスタフ=シュバルツハントの孫娘だよ、私は!!
痛みに耐えてたら、思い出した。 傀儡作ってる時に、 ” 指 ” 、ガラス瓶の破片で、切ったんだ ……あれか ……血が媒介となって、繋がりが強くなるんだ…… これ、魔法科の自由研究にしよう………… 課題が一つ片付いたね! って、そんな事言ってる場合じゃないよ!! 真ん中の白衣白帽の傀儡を除く、九体分の蹂躙の痛み……
半端ねぇ……なぁ…… この痛みは!
その痛みを必死に堪える。 冷汗が滝のように流れ落ちる。 膝がガクガクしてる。 声が出そうになるから、自分の腕を噛んで、声を押し殺してる。 でも俯かない……真っ直ぐに見てるの。 タイミング見計ってるの。 だから、目を背けられないし、叫び出したりもしない!
冒険者やってた人が、心配そうに見てるのよ。 きっと、昔組んでた人が、 ” この魔法 ” 使えたんだろうね。 様子を伺うように、私をみるのよ。 私が、腕を噛んで痛みに耐えてるの、じっと見てるの。 そんでね、小声で聞いて来たのよ。
「お嬢……耐えられるのか? ” 返しの風 ” だろ? 十体も傀儡作って、それが全部、攻撃受けてるんだぞ? それでも、大丈夫なのかよ……」
無理矢理、笑顔を作った。 冷汗がダラダラ流れてるの。 膝もガクガク震えてるし…… 全然、大丈夫じゃない。 でもね、負けないの。 ここで、私が倒れたり、叫び出したりしたら、全部おじゃん。
当然、残ってくれた人たちの命だって危うい…… 絶対に負けない! ガッチリと歯形が付いた腕を離して、震える声で、答えた。 私のやせ我慢も、一級品よ!
「耐えねば、 ”すべて” が、無に帰します」
必死の形相だと思うのよ。 それを聞いた、オッちゃん学生の元傭兵が聞いて来たの。
「お嬢、何を待っている。 もう、罠の中に入っているんじゃないのか?」
「あのグノームが、弩の軸線に来る時を……その瞬間を待っています」
そうなんだ、グノームが生き残っている限り、この戦闘は終わらない。 そんで、いずれジリ貧になる。 この人達に、私を残して、撤退しろって言っても、絶対に撤退しないと思う。
だって、愛称付けてくれたんだよ? 仲間って、認識してくれたんだよ? 傭兵とか冒険者は、仲間を見捨てるくらいなら、自分も一緒に戦って死んじゃう人達なんだよ? だからね、私は逃げられないの。
九人の傀儡が、倒された。 と云うより、惨殺された。 痛みやら、色んな感覚が、一体だけになった。 ちょっとだけ、楽になったよ。 これ以上、痛みの感覚は戻ってこないからね! でね、中央の白衣白帽の傀儡だけが取り残されたの。
でね、いきなり、魔鬼に、両手を掴まれぶら下げられたのよ。 まったく、抵抗できないの。 もうね……
それまで、遠巻きに見てたグノーム、やっと、近寄って来たのよ。 きったねぇ、視線を向けながらね。 こん畜生!! 両手を、魔鬼に捕まれて、ぶら下げられて、かなり視線は高い所にあるのよ。 思いっきり、見下してやったわ。 ” 意思の力で、頑張ってます! ” 的にね。
「ただ殺すには惜しいな……よく見れば、……なかなかに、美形ではないか……天龍の巫女は……」
ば、馬鹿野郎!!
なに考えてやがる!!! 下品な笑いがグノームの頬にタップリと浮かんだよ。 傀儡の目を通して、見てるけど、ほんと、怖気が走る。 グノームが手を挙げて、風魔法を発動したんだ。
軽い奴。 ” かまいたち ” って呼ばれてる、風魔法の低位魔法……でも、高位魔法使いが使うと、結構色んな調整が効いて、お役立ち魔法の一つ……。 って、おい、なんで、白衣を切り裂く!!!
ボロボロになったじゃん白衣! 白帽は飛んでった。 もう、ボロ雑巾を纏ってるって云った方がいいくらい。 下からじゃ、なんもかんも、丸見えだよ!!! クソッ!! なんで、舌なめずりする!! なんで、さっきとは違う、目の色になる!!
おまえ…… なに考えてるんだ……
そんな様子は、灯火に照らし出されているんで、みんなの目にも映っている。 くそ! オッさん! お前ら、なんで、目を背けるんだ!! もう少し…… あとちょっとなんだ…… 軸線に乗るの。 眼を背けるなよ!
正念場だよ!!
私に、下品な笑いと、欲望を滾らせた目付きで、グノームは近寄って来たんだ。 ジリジリとね。 まるで、獲物をいたぶるみたいにね…… 恐怖の感情が、 ” 魔物 ” 取っては、 ” 美味しいごはん ” だって、婆様に聞いた事があったね、そう言えば。 くそ、恐れるもんか! 負けるもんか!
そうだ、あとちょっとだ!
来いよ……もう後、数歩だ、
そうだよ、
その腐った感情と共に、蹂躙してやる!
ブックマーク、感想、評価有難うございます。
読んで頂き、誠に有難うございます。 頑張ってます。 超頑張ってます!
ご期待を裏切らない様、精進していきます!
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クロエがとうとう、ぶちキレました。 怒り心頭です。 準備は整いました。
反撃準備完了です。 クロエの無双が始まります。 オッサン生徒も戦い抜きます!
次回、久々のスカッと回です。 中の人スカッとしてます。
乞う、ご期待!




