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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
泣き言は言わない
44/111

クロエ 校外実習に参加する さん

yasano 様より

 誤表記お知らせ頂きました。


修正いたしました。 7/14


 


 先生達が乗る馬が、視界から消えて、一番最初に言葉を口に出したのは、やっぱり、ギルバート様だった。 いち早く、現実に立ち戻り、必要な行動を取ろうとしておられた。 そうよね、ぼけっとしてる時間なんて、無いわよね。 


 まず、魔物達の動向を探る。 今回は偵察のみ。 絶対に手は出さないって。 今、編成出来る人員で、まともな戦闘力を保っているのって…… あんまりいないね。 でもさ、魔物達がどっちの方向へ、どのくらいの速さで動いているのかが判れば、結構対策もとれると思うよ。


 ギルバート様が有志を募ってる。 指揮官権限で指名する事も出来るけど、士気が落ちた状態での偵察は自殺行為だもんね。 結局、ラージェを含む、小隊長たちが手を挙げてた。 全部で八人。 少ないね。 まともに情報を収集する為には、もうちょっといる。 せめて魔法かなんかで、精度と安全を両立しなきゃ。


 皆がまだ、動き出す前、ギルバート様に、挙手して発言の許可を貰ったの。 意見具申って奴。 内容は、エルを連れてけ、って事。 彼女、魔法科では、かなり優秀よ。 この組(9組)の防御魔法を任されている事からも、判るよね。



 でも、それだけじゃないのよ。



 彼女、探知魔法も使えるの。 探知半径、約3リーグは強みよ。 探知範囲に入った、生命力の強い生き物なら、個体識別まで出来るらしいの。 これって、凄い事なのよ。 でね、ラージェの馬に一緒に乗って、相手から見えない内に、こっちは動静を掴めるわけよ。 みんな、忘れてたでしょ。 


 ギルバート様も、エルも、ラージェも、ハッとしてた。 具申した意見は取り入れられ、襲撃の有った方向へ探索に向かうギルバート様の探索分隊。 直ぐに森の中に搔き消えてしまったよ。 ちょっと……んにゃ、かなり心配。 どうか、無事に帰って来て……


 その間に、私達、衛生兵分隊は、残った人達に、撤退準備をお願いした。 だって、そうでしょ? 万が一、魔物が此処に来るようだったら、まともな戦闘力を持たない、9組は文字通り全滅しちゃう。 生き残る道を探した方が、建設的だよね。


 動ける人たちは、武装を固め、動けない人達を馬車に乗せて、待機した。 そう言えば、ラージェが言ってたよね。 魔鬼オーガが群れを作ってるって。 ……本当に嫌な予感がする。





 その言葉を聞いて、ちょっと、ある可能性が、私の頭の中に浮かんだのよ。 

 それが、可能性じゃなくて、現実だったら、私、やるべき事があったのよ。 




          最悪を想定してね。 




 9組のみんなに、食事を作ってたお陰かどうか分かんないけど、魔物を討伐した時に落っこちる、 ” 魔石 ” を、貰ってたの思い出したのよ。 これって、いわゆる、討伐部隊の、 ” 役得 ” でね、売れば、結構なお小遣いになるのよ、王都シンダイでね……。 


 それをね、 ” お礼に ” って、くれた人たちが居たのよ。 よっぽど、携帯食料が嫌だったんだね。 貰えるものは、有難く貰うのが、私の礼儀なの。 


 ポーチに何気なく手を入れたら、コツンって感じで、指先にその、 ” 魔石 ” が、当たったのよ。 これで、ある ” モノ ” を作れるの。 かなり際どいけど、一応、合法。 それで、可能性の問題。 最悪の状況に成ったら、使うかもしれないもの。 だから、ちょっと、衛生兵の人にも、手伝ってもらった。





「あの、すみません。 お忙しい所、申し訳ないのですが……救護天幕の中を開けて貰えませんか?」


「ん? 後でいいだろ?」


「後では、時間が足りなくなりますので」


「そうか……わかった、シュバルツハント令嬢。 どの位の広さが要る?」


「……十人くらいが座れる程で、結構です」


「わかった」





 脳筋三人くらいで、天幕に入って行った。 私は、愛用のハサミで、背中に伸びている髪を、ふた束程、切った。 エル達が伸ばせ伸ばせって煩かったけど、伸ばしておいてよかった。 これ、必要な材料なのよ。 


 魔法科の課題をこなす為の道具の中から、ガラス瓶を取り出して、水と、アルコールと、薬草を放り込んだの。 其処に、自分の切った髪を入れて、よく混ぜてから、魔方陣を展開。 呪文を唱えると、髪が溶けて、薄い蜂蜜色の液体になるのよ。 




 よかった、半分成功。




 で、その中に、貰った、 ” 魔石 ” の中で、大き目のモノを十個放り込んだのね。 魔石がドンドン、その液体を吸って、薄い蜂蜜色に変わっていくの。 よし、これで、八割方、成功。 取り出そうと思った時、手が滑って、ガラス瓶を落っことした。 




 あっちゃ~~~、でも、もう、吸収終わってるから、大丈夫な筈。


 痛っ!




 色の変わった魔石を拾う時に、指の先切っちゃった。 ちょびっと、血が出た。 まぁ、なめときゃ治るんで、そのまま作業続行…… 行先は、解体用物干しの有る場所。 その地面に、魔石を、 ” 植える ” ように埋めるのよ。 これで、周囲と馴染んでくれたら…… そうそう、残りの切った私の髪も、一緒に撒いとくの、忘れない様にしなきゃ。


 天幕の中を片付けてくれた、衛生兵分隊の人が戻って来て、私に聞いて来たの。 不思議そうにね。





「何やってんだ?」


「これですか?」


「ああ……で、シュバルツハント令嬢は、撤収準備、終わってんのか?」


「ええ、私の分は」


「で、なにやってんだ?」


「これは保険です。 使わなければ、ココを去る時に焼き切ります」


「何、作ってたんだ?」


「まだ、云えませんが、保険です」


「ん……まぁ、お前が云うのならな」





 なんか、衛生兵分隊の人は、聞き分けがとてもいいのね。 不思議~~。 まぁ、時間の掛る、準備はこれだけだけど、もう一つ。 ちょっと大物が有るのよ。 倉庫で見つけたの。 また、衛生兵分隊の人に頼んでみたの。





「すみません、此れ、動かすの手伝ってもらえないかしら?」


「えっ? 黒龍のお嬢さん……これって……おおゆみじゃないですか」


「ええ、その通りですよ。 野営地の東の出口辺りに置きたいのですが……」


「なんで、また、こんな大層なモノを?」


「万が一です。 わたくし一人では、ちょっと持てないので、お願いしたいのですが?」


「……まぁ、黒龍のお嬢さんが云うのであれば……構いませんが……」





 ほんと、なんでか、とっても素直なんだよね。 不思議…… よほど、ご飯が良かったのかな? まぁ、私にとっては、とっても幸運なんだけどさぁ…… その、兄ちゃんに、おおゆみ持ってってもらった。 矢は、十本組一束だけね。 そんなに要らないし、あっても、使わないしね。


 これで、私の、時間の掛る準備は終わった。




―――――――




 ギルバート様達が戻って来た。 ついでに周辺の探索も終わったって。 問題の魔物の集団は、野営地の北西、約4リーグに居るって。 今度は、見つからずに偵察できたって。 よかった。 でね、周辺は、その一集団だけらしいの。


 これも、おかしいわよね。 そんな、大きな集団だったら、絶対に斥候とか出してるはずじゃん。 それが、気配もしないって。 ……なんでじゃ?


 なんか、北の辺境とは様子が違う…… こっちの特性なのかな? こっそり、冒険者やってた衛生兵分隊の人に聞いてみたら、やっぱり、普通と違うって。 ん~~~~ なんか、おかしい。


 それで、ゆっくりとその集団は、こっちに来てるって。 ほぼ、直線的に野営地に向かってるって。 丁度、日没くらいに此処に到着するって…… ホント、変だ。 食料、漁ってるんだったら、もっと迷走するはずだしねぇ……


 ラージェが気になる事言ってた。 集団の中に、やっぱり治癒師みたいな役割のグノームが一匹、いたって。 でね、そいつ、人語、喋ってたんだって。 まるで、リーダーみたいに、魔鬼オーガとかに、指示出してたって…… 





       絶対におかしい!!





 あり得ない。 グノームって、小型の魔物よ? それが、森の中では、 ”最強” クラスの魔鬼オーガに指示? 聞いた事無いよ…… そんな事。 さらにね、そのグノーム、何かか、誰かを探して居るらしいの。





 ” いない、ココにもいない ” って、ブツブツ言ってたんだって。





 ラージェが風の精霊の力を借りて、聞き耳を立ててたんで、聞き取れたって。 う~~~ん。 なんだか、ホントに、嫌な予感しかしない……



 エルが突然、 ” 警戒警報 ” を、発したの。





「人らしきモノ探知、数、8、方向、野営地の西北西より三リーグ。 急速に接近中!!」





 ギルバート様がその方向をキッと見詰めた。 野営地から、森に入る小道が有る方向。 私は、最初、救援部隊かなって思ってた。 でも、ギルバート様が言ったの。





「救援にしては、数が少なすぎる。 斥候としてもおかしい。 なんだ?」





 ほどなくして、野営地の入り口に入って来たのは、緋色のクロークに身を包んだ、フランツ第一王太子殿下と、薄緑色のクロークの親衛隊の合わせて、八騎だった。 皆様、結構ボロボロ。 でも、流石は龍王国でも最強の誉れ高い親衛隊ね。 皆さん、まだまだ戦闘力を保っていたよ。 そんでね、ギルバート様が、お尋ねになったのよ。 何しに来たのかってね。


 殿下、全校外実習参加学生の処に視察に行ってて、今日が最終日で、9組の視察に来てたんだって。 助教としての責務なんだって。 真面目ねぇ……。 そんで、さっき、魔物の集団に襲われたんだと。


 で、魔物の事を、ギルバート様が、お聞きになったのよ。 判明したのは、同一集団かなって事。 あの小道、魔物達に、見つかったらしいって事。 それと、フランツ殿下の周りを固めていたのは、近衛騎士の中でも精強な親衛隊だったけど、歯が立たず、撤収、今に至るって事。


 緊張が走ったよ。 時間がずれた。 小道を使ったら、もっと早く、此処に到着するかもしれない。 日没前にね。 野営地のみんなに、集合がかかる。 直ぐに、9組の全員が集合したわ。  


 フランツ第一王太子殿下から現状の確認。 正規の騎士である先生達が救援要請に出払って、現在の最先任は、ギルバート様で有る事を報告されたのよ。 フランツ殿下よりも、親衛隊の方が、驚いてたわね。 そりゃそうね、敵中真っ只中に、学生部隊が、取り残されている様にしか見えないもの。 


 やっぱり王族ね、そこで、フランツ殿下が指揮権をギルバート様から譲り受け、臨時に9組の臨時指揮官になったのよ。 フランツ殿下、直ぐに、ギレ砦に撤退する事をお決めになったの。


 妥当ね。



 あそこなら、赤龍大公様が預かる、正規兵、それも、重装騎兵が一個大隊常駐してるはずだものね。 この森の、魔物討伐の前線基地としての役割もあったしね。


 フランツ殿下は、即時命令として、ギルバート様に伝令として、ギレ砦に行くことを命ぜられたわ。 伝令内容は、救援と保護。 ギレ砦は、野営地より、東側20リーグぐらいに有るの。 野営地に来る前に、立ち寄ったからね。 ちゃんとしてたよ。


 で、ギルバート様は、この組で一番騎馬の扱いが上手い上に、剣の腕も立つから、当然伝令役に持って来いなのよ。 フランツ殿下は、伝令後、原隊復帰を命令したわ。 と、言う事は、ギレ砦から、保護部隊を引き連れて来いって事ね。 判る。 正解ね。 そんで、即時、ギルバート様は出立していった。





――――――――――




 フランツ殿下は、ココに残っている学生に、この場よりの撤退を指示したの。 撤退準備進めててよかった。 それでもね、フランツ殿下は、一般教則に則った方法を指示したの。 時間がかかる。 近衛騎士達もその点はわかっているみたい。 


 でもね、学生しかいないため、やむを得ない事情と言う事で、了承してた。 きっと、今すぐにでも、殿下と一緒に駆け出したいでしょうね…… 学生のみんなが、自分の天幕に帰り、撤収準備を続けたのよ。


 もう! いま、ここに居るのは、私を含めた、衛生兵分隊と、各小隊の小隊長と、副官だけ。 つまり、25人の生徒。 年喰った人が大半。 


 私ね、ジリジリしてた。 ちょっと、時間が掛かり過ぎるのよ。 多分撤退準備が整う頃に、魔物到着って最悪な状況になるわ。 これじゃいけない。 息を吸って、大きな声で、思い切って、叫んでた。





「意見具申!」 





 殿下、ビックリしてた。 ” 私の声で ” じゃ無くって、 ” 私がこの組に居る事に ” よ。 なんでじゃ? 編成表見れば、判るじゃろ? まぁ、そんなの後回し。 現状の戦略的勝利条件を殿下に判りやすく説明したの。




 1)フランツ第一王太子殿下が無事、ギレ砦に入り、身柄の安全が保障される事

 2)9組の非戦闘員(魔法科)が、ギレ砦に入り、身柄の安全が保障される事

 3)9組の戦闘員(騎士科)が、ギレ砦に入り、身柄の安全が保障される事

 4)9組、実習参加者全員(全科)が、ギレ砦に入り、身柄の安全が保障される事




 殿下、なんか、納得いかない顔してた。 何故、自分が、最重要なのかと。 もう! 貴方は、第一王位継承権者なのよ。 一番に保護されるべき対象なのよ! 武人の「勇猛さ(・・・)」は、武人だから、褒められるものであって、貴方は違うの!



 貴方は、「生き抜かなければならない」の! そう、何が有ってもね。



 もう、フランツ殿下の表情(・・)は、完全に無視したの。 そうじゃないと、時間がいくらあっても、足りなくなるから。 親衛隊の騎士さん達、続きを促してくれた。 だから、私は、撤退構想を、話始めた。




 1)第一王太子が非戦闘員、および、戦闘力を失った学生を連れて、直ぐに出発。 傷病兵は、荷馬車を使用。 速力重視。


 2)ラージェが、エルと一緒に馬に乗り、先導。 エルの探知魔法で、前方哨戒。 親衛隊はフランツ殿下の周りを固め、敵中突破陣、紡錘陣形にて、ギレ砦に向かう。 


 3) 戦闘力を有する生徒で、最終防衛線を引く。 撤退支援、遅滞防衛戦を実施。 支援継続時間は、フランツ殿下が、ギレ砦に入られる予定時間まで。 





 第一王太子、目を剥いて怒る。 ” 一番 危険な殿を誰がするのか! 現状を鑑みるに、最悪全滅する!! 学生を盾する事など、出来ない!!”  って、めっちゃ怒ってた。 ついに、殿下は、 ” 自分が殿しんがりをする! ” とか、言い始めちゃった。



 そう言う性格、好きよ。



 責任感が強くて、部下を愛する気持ち。 ある意味、清々しい程の、脳筋。 でもダメ。 絶対にダメ。 フランツ殿下が残るという事は、当初の、勝利条件に合わない。 殿下の生還が、まず、龍王国にとって、最重要なの。 私が、フランツ殿下にダメ出ししてると、親衛隊の騎士さんが、同意してくれた。





「どんな場合でも、フランツ殿下は、最後まで生き残る事が、最重要なのです。 クロエ殿の案、至極もっともであります」


「では、その最も苛烈な後衛戦闘を誰が担うのか!!」





 って、フランツ殿下が怒ったように、聞いて来た。 当たり前よね。 貴方の気持ち、判る。 自分が、絶対に生き残らなければならないって、とっても重いもの…… 自分の為に、自分の大切な人達が、命の炎を揺らす…… 耐えられないわよね。 でも、王族は、それを耐えるのが仕事。 護って貰った命で、より多くの命を守るのが仕事なのよ……


 私は、ゆっくりと、答えた。 敢えて、ゆっくりとね。





「この場に残る、学生の最先任・・・・・・が、その「役目」を 負います」





 嫌な顔をする第一小隊の小隊長さん。 その顔を見て、フランツ殿下も顔を顰めた。 でもね、それが規則なのよ。 軍令に有るのよ。 だから、それが、最善の方法なのよ。 小隊長さんも、それを知ってるから、覚悟を決めたように、薄ら笑いを浮かべた。


 あぁ……この人、命、投げ出すつもりだ……そんでもって、私の方は見ない。 当たり前でしょうね。 実際、死んでくれって、言った人見るの、私でも嫌だもの…… 



 違うんだけどね。



 ” すまぬ ” と、謝りつつ、全体の構想を無理矢理「理解」したフランツ殿下。 直ぐに撤退を開始する様に、残余全生徒に、命令を変更したの。 一般撤退準備が中止され、「構想通り」 戦闘力を残した面々を除いた、全員が騎乗、又は、馬車に乗り込む。


 集合時にね、衛生兵分隊の同い年の二人の衛生兵に、大事な役割を渡したの。 出来るだけ多くの回復ポーションと、傷薬を渡してね。





「貴方達は、とても大事な役目があるの。 きっと、フランツ殿下、無茶な行軍するわ。 脱落者とか出そうなくらい。 貴方達は、そんな人たちを護るの。 絶対よ。 約束して。 一人も脱落させないって」


「「お、おう!」」


「これは、救護天幕に残っていた、最後のポーション類。 これを使って。 それと、このクローク。 体が冷えると、ダメになる場合が有るの。 着て行って。 貴方達が部隊の生命線よ」


「「お、おう!」」





 私のクロークを渡して、着て貰った。 ちょっと短めだけど、騎乗してたら、あんまり分からないね。 これで、よし。 部隊の最後尾に着くように、お願いしといた。 エル達が見てる。 彼らが、くるりと、馬の鼻先をみんなの方に向けた。


 彼らを抜けさせた理由? そんなの決まってるわ。 彼らは魔物との戦闘、未経験だったもの。 初戦が最悪って、どうよ? それが、最大にして、最高の理由。 他の衛生兵の人達も、小隊長さん達も、私は殿下と一緒に、撤退するもんだって思い込んでたねぇ。 軍務令上(・・・・)、出来る筈ないじゃん。


 紡錘陣形をつくり、東のギレ砦にむかう為に、東の小道の入り口に集合が完了したわ。 今から出て行ったら、日没後だけど、ちゃんと、敵の勢力範囲から出られるわ。 各員の装備を点検した後、フランツ殿下は大きく息を吸って、怒鳴る様に言ったの。 カッコいいわよ! ちょっと、見惚れた……





「全員強速! 目標、ギレ砦。 一刻も早く砦に到着する事が、此処に残る者にとって希望となる! 続け!!」





 走り去る一団を見詰め、ギレ砦に無事につく事を祈ったの。



 ”どうぞ、どうぞ、彼らの道行きに希望を!”



 その時に、各小隊の隊長と副官、それに残ってた衛生兵の人達が、私を見つけたの。 それぞれに、口々に、目を剥いて質問を始めるのよ。 時間が無いって云うのに!!!



「なぜ、シュバルツハントが此処に居るのか」


「私が、最先任ですので」


「お前は非戦闘員じゃないのか」


「行政科は戦闘員です」


「最先任は騎士科の俺の筈だ」


「違います。 騎士科と、行政科では、同階層ならば、行政科が先任となります」


「それは、行政騎士科だ」


「違います、行政科全体です。 規定に記載されています。 したがって、この場の最先任は私であり、殿下より、指揮権を移譲されております」


「ぐぬぬ……ね、狙ってたな! お前、わざと、あんな曖昧な言葉で!!!」


「いけませんか? こうでもしなくては、貴方達、みんな、此処で果ててしまいます」


「おまえ……勝つ心算でもあるのか?」





 私の頬に、ニヤリとした笑みが浮かんだのが判る。 その笑みを見て、残った男達に波紋が広がる。 そうさ、勝つよ。 殲滅してやる。 たとえ死に至って無くても、龍王国の民の血を流した者に、容赦と慈悲は無い。 それにね、私が、護るべきは、王族なんかじゃない。 真に守るべきは、龍王国の民。 私の後ろに撤退中の民が居る。 ぜってい、負けない。





       すき好んで、死に急ぎもしない。




        迎撃戦の準備は終わってる。 





         後は、戦うだけさ!!





ブックマーク、感想、大変ありがとうございます。


迎撃戦はいよいよ佳境に。 そんでもって、ちょっと重要な事が起こります。


明日も、宜しく お願いします。



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