クロエ 校外実習に参加する にー
野営地についてから三日目。
食事がつらい……
美味しくない食べ物を食べて、士気の向上なんて、あり得ないわよね。 だって、こうやって森の中の野営地に来て、ずっと携帯食料と、その作り直しだなんてねぇ…… なんか、美味しいモノ無いかなぁ。 採取した果物も有るんだけどなぁ…… ええっと、規定にはっと。
あったよ、此れ使えるよ。 早速、先生にお伺いを立ててみよう。
「申し訳ありませんが、教官殿」
「なんだ。シュバルツハント」
「はい、規定の中に、野外での食料調達と云うのが有ります。 戦地にて、出来るだけ糧秣を節約するために、周辺での狩り、および、採取をする事が有ります。 実習でも推奨されていますが、如何致しましょうか」
「うむ……そうだな。 規定にある、採取、狩りを許可する」
「有難うございます。 早速、皆に伝えます」
やっほい!
これで、食事の向上に繋がるぞ!!
先ずは、衛生兵分隊の同い年の子に伝えてみたけど、あんまり乗り気じゃないみたい。 やっぱり狩りは、騎士のやる事じゃ無いって思ってんのかなぁ…… 仕方ないから、年嵩の人に伝えてみた。
「あの、狩りを実施すれば、もっと食事が豊かになります。 許可も貰えました」
「本当か? じゃぁ、さっそくやってみるか! 俺は、元は傭兵だったから、狩りは得意なんだ! ところで、お前、捌けるのか?」
「ええ、まぁ……一通りは……」
すんごく喜んだ後に、胡散臭げに見られたよ。 そりゃ、大公家の娘が、 ” 狩って来た動物を食べられるようにする ” なんて事は、想像できないだろうしね。 きっと、ビックリするよ、私が解体出来るの見て。
ちょっと楽しみ。
そうそう、衛生兵分隊のみんなは、やっぱり、庶民階層の人ばっかりでね、二人を除いてみんな年上なのよ。 色々有ったみたいよね。 元冒険者とか、元傭兵とか…… 安定を求めて、マナーを勉強して、騎士科に入学したんだって。 騎士科はね、一人でも多くの、”有能な騎士”が、欲しいから、龍王国としては、門戸を大きく開いてるんだって。 剣の腕とかは実戦で鍛えてるから、双方に利点があるのよ。
階層意識はとっても強いけどね。
一人のオッサンみたいな見掛けの人が言ってた。 9組に纏められて、かえって良かったって。 他の組みに行かされてたら、きっと雑用ばっかり押し付けられてただろうって。 いかんよねぇ。 ホントに。 でも、ギルバート様は、分け隔てなく付き合いやすいって。 そりゃ、あの赤龍大公閣下の息子さんよ? 戦場で傍に立って一緒に戦う男達の事を粗略に扱う訳ないじゃん。
で、その脳筋から、他の小隊にも話が行って、その日の訓練、兼 魔物討伐が終わって、全員が揃った時には、 ” ジャイアントラーズ ” っていう、巨大兎が8羽も集まったのよ。 ドンダケ嫌だったのよ、携帯食料。 いかん! さっさと捌かないと、日が落ちてしまう。
そんな巨大兎を一回、並べてさ、お祈りするの。
「天と地と精霊様。 命を奪う罪深さ、その血肉をもって生きる、我らの業を、お許しください。 そして、今日の糧を与えて頂いた事、感謝いたします」
よし、解体するぞ!
「シュバルツハントは、北の方に行った事あるのか?」
私の御祈りの言葉を聴いて、衛生兵分隊の人が聞いて来た。 行った事って云うより、其処の出身なんだよ、私。 でも、曖昧に笑って誤魔化しといた。 だって、面倒なんだもの。 色々説明するの。
取り敢えず、 お ・ に ・ く !
大工さんやってた人にちょっとした解体用の物干しを作ってもらってから、其処に兎を吊るして、さっそく解体を始めたのよ。 やっぱり、ビックリしてた。 足を縛ってつるし上げて、首を落として、血抜き。 足首に刃を入れて、一気に毛皮を剥くの。
なんで、エルとラージェが、引いてるの!!!
あなた達、私が辺境で、生まれ、育ったの知ってるでしょ!!!
これ出来ないと、お肉食べられないのよ!!!
別にいいじゃん! お嬢様でなくても!! 美味しいモノが、食べたいのよ!!
気を取り直す。次々と解体していくのよ。 時間が無いのよ。 先生たちの天幕の外に転がってた空の酒樽もってきちゃった。 蓋、打ち抜いて、森で採取しといた果物の汁とハーブを混ぜて、中に注ぎ込んどいた。
で、お肉になった、兎さん。 ポンポンと中に落とし込んだ。 勿論、水玉で綺麗に洗ったよ? 血抜きも万全。 皮は勿体なかったけど、内臓と血と一緒に穴掘って埋めた。 解体用の物干しの下ね。 いずれ土に帰って、また、命の糧になるの。
お肉になりさえすれば、みんな見知った物になるのよ。 だから、魔法科の人も一緒に、その辺にある小枝を串にして、お肉を刺していくの。 ブツブツとね。 いい感じに下味付いたよね。 後は、でっかい焚火を作って…… って、もう出来てた。 そうか、元冒険者さん、いたっけ。 私が何をしてるか、判ってたんだ。
そんで、焚火の周りにぐさぐさ差していくの。 ものっそい、いい匂いが辺り一面に漂うのよ。 他の小隊の人達も、ゾロゾロ来たね。
「みなさんの分も御座います。 存分にご賞味下さい」
ニッコリ笑って、そう言うと、歓声が上がったね。 そうだよ、これ、校外実習の醍醐味だよ。 楽しいね。 みんなで同じ、美味しいモノ食べるの。 ホントに楽しいね。 ちょっと怖い顔してた、エルも、ラージェもやっと笑ってくれた。 御茶会みたいなもんだよ。 ちょっと、野趣あふれてるけどね。 楽しそうで何より。
ほえぇ…… 先生も居たのかよ。 なんで、酒樽持ってるんだ?
おいおい、マジかよ…… 宴会になるぞ、これ……
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救護天幕の中が騒がしい。 ポーションとか、傷薬の薬草なんかを持って、飛び回ってる。 食事事情も改善したし、行政内務科と魔法科の課題も順調にこなしてた、野営6日目。 もう、後二日で、ココともオサラバな日になって、9組に怪我人が出た。
9組の主力、「魔物討伐隊」って、第一小隊から、第八小隊まであるのよ。 各小隊に10人ずつ居るのよ。 でね、その内、第一から、第四の小隊の人達が、派手に怪我して帰って来たの。
各小隊を纏める、小隊長さん達は、騎士科の中でも、一目置かれる、元冒険者とか、元傭兵の人。 危険が有ったり、歯が立たないと思ったら、すぐに引く事が出来る人たち。
でも、こんなに多くの人が一度に怪我をするなんて、考えられない状態なのよ。 傷口を見ると、爪か何かで引き裂かれたように見えるしね。 よっぽど、隙を突かれたんだと思った。 予想に反して、とっても悔しそうな隊長さん……
「威力偵察でやられた。 直ぐ引けるように準備しておいたが、相手の方が上手だった」
ものっそう、悔しそうに、第一小隊の小隊長さんが呟いていたよ。 つまり、歴戦の冒険者さんが、歯が立たない相手が居たって事。 ちょっと事は重大。 小隊長さんに傷薬を渡しながら、辺りを伺ってみた。 結構、酷い怪我の人が多い。 戦力評価からすると、部隊全滅判定が下りる、三割以上戦闘不能者が出ているね。 ……深刻。
「何が居たのですか?」
「ちょっと……大きな群れだった。 多分、リーダーはオークだと思う。 四体か五体居たと思う……それに、コボルトも…… 他に…… ゴブリンもいたな」
「大きな群れですね、珍しい」
「あぁ……あんな群れ、見た事無い」
沈黙が、落ちる。 怪我をした人には、ポーションか、傷薬か聞いて、欲しい方を上げていたのよ……ポーションの使用中止した方が良かったかも…… 9組に配備されている治癒ポーションは、中、低クラスのポーションでね。
ちょっと、問題が有るのよ。
いつも、行政騎士科で使っているバカ高いポーションは、ハイポーションって言って、ちょっと休んでたら、回復できるんだけど、中、低クラスのポーションは、一定時間休まなきゃ、回復効果が望めないの。 回復量自体も小さいし……
だから、ポーション使った人の再戦力化は、早くて、明日の朝。 勿論、夕方までには、ある程度回復もするし、立ち上がって動き回る事も出来るわ。 でも、魔物相手に戦うのは無理。 万全の状態でも、こんだけ、怪我して帰って来るもの……下手打てば、生き残れない……
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小隊長さん達は、やっぱり、実戦経験豊富ね、ポーションじゃなくて、傷薬で対応してた。 本格的には治らないけど、表面の傷はふさがって、血も出ないしね。 何より、一定時間休む必要が無いのよ。
いつでも臨戦態勢整える事が出来るの。 戦闘力はちょこっと落ちるけどね。 深い傷じゃ無かったら、そんなに落ちないから…… 経験の差ね。 此処が、最前線って感じていらっしゃるみたい。
先生達が重い腰上げて、行動に移ったのよ。 やっとね。 第五小隊から第八小隊を全部合わせて、二個中隊を臨時編成。 先生達20人いるけど、その中の10人が、半分ずつ各中隊について、威力偵察をしに出て行ったわ。 ラージェ達、女性騎士10人は第八小隊……無事に戻って来て! お願い!!
緊迫した空気が、野営地に流れていたわ。 第一小隊の小隊長さんが、その敵に遭遇したのは、野営地の北西、5から6リーグの所らしい。 中隊が、二方面から偵察するって。 お昼過ぎに、一個中隊が帰って来たの。
もう、ボロボロ…… さっきよりも酷いの。 慌てて、ポーションを渡したの……もうね、傷薬じゃ間に合わないの…… 何とか帰って来たってみたい。
ら、ラージェ!! だ、大丈夫かな…… 怪我してないかな…… まさか、行動不能とかじゃ……
ものっそい、心配してたら、もう一個中隊が、やっと帰って来た。 コッチもボロッボロ。 もうね……救護天幕一杯になって来てるの。 ほんと、ダメ……
ラ、ラージェは? 彼女は無事?
めちゃくちゃ心配してたんだけど、幸いな事に、ラージェは無事。 第八小隊みんな無事。 女性騎士は、遠巻きに観察する役目だったみたい。 だから、直接戦闘はしてないって。
ホッとした。 ほんと、ホッとした。
でもね、たった半日でこの惨状……いったい何が起こってるの? そんなに強い相手なの? なんで、威力偵察で、こんなに被害が出るの? おかしいじゃん。 それに、此れだけの被害が出てるのに、相手には被害が無いの? 様子を伺ってから、ラージェに聞いてみた。
「お嬢様……それが変なのです。 此方の攻撃はきちんと当たっているのですが、次の部隊が到着する頃には、回復しているのです。 その時間は、余りに短いのです。 ……何か、お心当たりでも?」
ラージェの言葉の途中で、思い当たった事があった。 そう、回復魔法。 結構希少な魔法で、使い手も少ないの。 だから、ポーションが大活躍なのよ。 回復魔法なら、ほぼ回復期間無しで、回復する。 術者の魔力が大きいのなら、それこそ、無限に湧き出す戦力よ…… 分が悪いわ。
「ねぇ、ラージェ。 大きいの……どんなのだった?」
「……大きかったです。 周りに居る緑色の大きなのよりも、二回りくらい大きくて、灰色の肌をしてました。 角も大きく頭の両方から突き出ておりました」
……魔鬼だ。
辺境でも、めったに見ない奴だ。 ……なんで、こんな所に? 王都シンダイに近いよ、ココ? でも、おかしいなぁ…… 魔鬼は、普通単体で行動するし、群れを作る習性も無いよ? 辺境での、魔物暴走でも、魔鬼は出てこないし……
何でだ?
私が、そう疑問に思い始めたころ、教師陣が大パニックに陥ってたって。 半分の教師が、ほとんど行動不能。 曲がりなりにも騎士職だし、教師になるくらいだから、腕も自信があった筈。 まぁ、草臥れたオッサンだけどね。 そんで、滅茶苦茶、慌てて、救援依頼を掛けに伝令を出す手筈になったらしい。 うん、 ” らしい ” のよ。 みんな、自分が伝令に成るって言って、収拾がつかないんだって。
なんだそれ? よっぽど、怖い目に合ったのか?
まぁ、教師の皆さまは、ほぼ、軽装騎兵さんなんだし、魔鬼相手じゃ、力不足だしね。 重装騎兵、要るもんね、魔鬼の、相手をするのなら……
嫌な予感がする。
最先任の先生が、ギルバート様を呼び出してた。 指揮所の天幕に入って行ったギルバート様。 ちょっと不安げ。 私も不安。 いや、今の状況が不安なんじゃないよ? 色々と対処方法あるし。 まだ、攻撃された訳でも無い。 ココに来るって決まってる訳でもない。 先生達の行動に不安があるの。 まさかとは思ってたけど、嫌な予感ってのは当たるのよ。
先生の決断。
至急応援を呼ぶって事。 そんで、伝令は危険があるってんで、五人一組。 それを四組。
決定は、私達9組全員に知らされた。 もう………… ね。 言うべき言葉が無かった。
あれ?
五人一組で四組って、二十人? 全員じゃんか!!! 誰が、9組を指揮監督するのよ? 先生でしょ? だれか、残るべきよ!!
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最先任指揮官は、「指揮命令権」をギルバート様に委譲したのよ。 9組の生徒の中で最先任だから。 それで、この野営地での一般待機命令を発令。 魔物が近くにいるけど、 ” 結界の中には入ってこれない筈だから ” 、だって。 その結界張ってんのも、生徒だよ!!
異常な状態なの知ってるのに…… その判断おかしくない? みんな連れて、荷物放棄して、近くの砦に駆け込むってのもアリだと思うのだけど…… そうか、砦は赤龍大公閣下の管轄下。 そんで、教師の皆さま、白龍大公閣下の係累……
馬鹿じゃねぇの?
こいつ等、白龍大公閣下の大公領自衛軍に駆け込むつもりだ! どういうつもりか知らんけど、そっちの方が安全だと思ったのか? 赤龍大公閣下の管轄下に入るのが、そんなに矜持に触るのか?
早々に出立する、先生方の後姿を見ながら、私達学生、9組のみんなは、ちょっと途方に暮れた。
誰も残らなかった教師陣……
見捨てられた気分がしたね。
もう、お前ら、騎士、辞めちまえよ!!
ブックマーク有難うございます
この後、激しい戦闘シーンが続きます。
宜しく、お願いします。




