クロエ マリーのサロン【大公家のお茶席】に出席する
ホント、何考えてんだか、ボリス=フォン=エクスター子爵。
私が何も知らずに、これ喰ってたら、なんか、”おかしくなってた” かもしんない。 「精力増強と、催淫作用」って、私に、「何時か」、「何処かで」、「誰かが」、「何かをスル」、つもりが……あったのか?
判らないね、目的が……
単なる『お遊び』にしては、悪質過ぎる……
「クロエ……この事は……」
マーガレットの問いかけに、ハッと、我に返った。
「内密にしよう。 実際、エクスター子爵が、故意なのかどうか、一人でしている事なのかどうかも、判らないしね」
「そうだね……しっかし、厄介ごとばかり、抱えるね」
「厄介ごとが、私の事好きなんだから、仕方ないじゃない?」
「確かにね……話は、変わるけどさ、マリーのサロンへはいつ行くの?」
一応、 ” クッキー ” 問題は、後回しだね。 様子を見ないと何も言えないし…… マーガレットも、同じ考えなんだろうね。 だから、マリーの、【サロン 大公家のお茶席】に話題を変えたんだよね。 うん、そうだね。 厄介事は、後回しにしよう。
何時にしよう……多分、お部屋の開設準備は整ってるはず……多分。 これ以上の横槍は、無理だったみたいだし、マリーは、正攻法で攻略したからね。 どこにも、付け入るスキは無いものね。
でだ、彼女から送られてきた、【サロン 大公家のお茶席】の規約を読んでたら、なんかおかしい。 特に最初の五人の権限が大きすぎる。 いうなれば、主催者が五人いるみたいなものだった。 他のサロンだったら、登録者以外を部屋に招待する時は、必ず、事前に主催者にお伺いしないといけない筈が、私達当初の五人が連れて来た人なら、無審査で入室可能とかね……
時間の規約も、無いのよ。 他のサロンじゃぁ、結構、拘束時間が多くてね。 それでも、入りたい、社交したいって云う、令嬢、令息が沢山いるんだって。 お前ら、いつ勉強してんだ? まぁ、私が、気にする事もないね。
でだ、マリーのお部屋の時間規定なんだけど……基本、放課後開放。 いつ来ても、何時退出しても大丈夫。 ほら、 ” ちょっと顔見に来た! ” って、云うのもアリ。 そんで、その入退室管理は、マリーの実家の青龍大公家の、” 偉大な偉大な執事様 ” が、一手に引き受けるらしい。 マリーが、言ってた。
「ご高齢に見えますが、凄い人ですわよ。 ”青龍大公家から、誰か”と、お願いした時に、一番に手を差し伸べて頂きました」
ってね。 なんでも、青龍大公家の家令頭だった人。 御名前は、ボリス=ウーラン様。 黒龍の御家のマリオみたいな人なんだろうね。 ボリス様、後進に席を譲り、自分は、お嬢様の元に行くと、言ったわけだ。
ホント、愛されてるね、マリーは。
マーガレットは、手帳を出して、予定を確認している。 ふむ、いい心掛けだね。 忘れ物少なくなるよね。 大事な事は手帳に付けるの。 私もしてるよ。 ちょっと、書けない事も有るけどね。
「たしか、明後日には、お部屋に入れるって、言ってたよ」
「そうなんだ。 マーガレットは?」
「一応、開設日に行くよ。 放課後にね。 お茶菓子持って」
一応ね、釘は差して置こう。 この子、時々、【悪戯】仕掛けるからねぇ…… 間違っても、それ、持ってこないでね。 ビジュリーあたりに食べさせたら、面白そうだけど……はっ! いかんいかん! ダメ、絶対ダメ!
「 ”それ” は、持ってこないでね!」
「はははは! もっと、”強烈な奴”、混ぜとこうか?」
おい! やっぱ、不穏な事考えてたな。 ダメだよ。 せっかく、マリーが、頑張って作った【サロン】なんだからさぁ…… 順当に、お茶しようよ。 ホントに。 でも……マーガレットさんよ、……もし、持ってったら、誰に食べさせるつもりなの? ちょびっと、興味がでた。 で、マズいとは、思ったけど、小声で聞いてみた。 小声でね。
「誰に食べさせる、つもりよ……そんな物……」
「そんなの、クロエに決まってんじゃん! 「麗しの氷の令嬢」の、”氷”が、解ける様子を、見てみたい!」
はぁ? 私? ば、馬鹿! 私に使ったって、良い事無いよ。 戦装束を、着てる時は、魔法が掛かってて、綺麗に見えるだけだよ! 普段は、変な笑いを顔に張り付けてる、田舎娘なんだから! そんな、私に、【薬】使うって、……どういう了見だ!
「なに言ってんのよ! 眼つきの悪い 可愛くもない、田舎娘に! だいたい何よ、「麗しの氷の令嬢」って、こっちは、必死で、笑顔の仮面、張り付けて、閣下の足引っ張らない様に、がんばってんのに!!」
キョトンとした表情を浮かべてるよ、マーガレット。 はぁ? なんで、そんな虚を突かれたような顔してんだ?
「え、怒る所、そこ? ……なんで? あぁ、クロエ、自分の事そんな風に思ってたんだ……へぇ」
「なによ」
ちょっと、睨む。 普通にしてても、睨むなって云われてた目付きだよ。 マーガレット、どうだ、怖いだろ! …………あれ? ……あれれ? なんで、爆笑してんのよ!
「あははは! そんなに、睨まないでって。 クロエの、いつもの凛とした表情から、『 孤高で近寄りがたく、絶対に手に入りそうに無い、可憐で、”花のような” 貴人 』って云う、”男子生徒共” のイメージ……台無しだから!」
「はぁ? なによ、そのイメージ」
「知らなかったの? 貴女へ贈られる、二年生、庶民階層の男子生徒からの、”憧れ”の視線。 なんとか、お近づきになれないかって、私にまで聞いてくる奴いるんだよ? まぁ、勝手にやれって、突き放しとくけどね」
頭を抱えたくなった…… 茫然と立ち竦んでしまった。 最近、なんか感じてた、妙な視線……。 まさか……そんな事、言われてたなんて……
ば、ばか……
「グフッ、フフフフ、アハハハ! クロエ、顔、真っ赤だよ! 」
「な、なにを、い、言ってるの!!」
からかわれた…… 絶対に嘘だね! くそっ! だめだ、此処に居たら、私、こいつの、良い玩具だ! とっとと帰ろう! クッキーの件で、変な思考に成ってたから、マジ、引っかかったよ! もう!
「明後日、放課後ね! じゃぁ ごきげんよう!!」
お腹を抱えて笑う、マーガレット。 ホントに、もう! そんじゃ、私も、なんか用意しようかな。 足早に、薬草園を後にしたよ。 そうで無いと、また、からかわれるよ。 まったくもう!
*************
んでね、マリーにちゃんと確認して、サロン【大公家のお茶席】の開設日を聞いたんだ。 きちんと遣り取りしてね。 そんで、その日に一人、ゲストを連れて行くけど、大丈夫かどうかも聞いた。 うん、ギルバート様をご招待する為にね。 快く、受けてもらったよ。 一杯引き連れて行くんじゃなくて、一人だけって云うのが、良かったみたい。
で、ギルバート様に「ご招待状」を、書きましたよ。 はい、すぐに返事貰いました。 よかった。 来てくれるって。 で、私の部屋にエスコートに行きましょうかって、ご丁寧にも添え書きがあったんだ。 ほら、婚約者様の手前、下手打てないから、丁重にお断り申し上げて、当日、サロンの部屋で落ち合う事になりましたよ。 うん、これでいい! バッチリな筈だ。
お土産何にしようかなって悩んだけど、まぁ、無難にお花でも……と、思ってたら、黒龍のお屋敷から届け物。 何だろうって思ったら、なんとヴィヴィ妃殿下からの贈り物だった。 箱一杯の果物。 丁度、完熟した「いい感じ」の、南アフィカンの薫り高い、瑞々しい、果物たち。
嬉しかったね。
御礼状書いて、即、送っておいた。 勿論、届けて下さった、黒龍のお屋敷の、奥様、ソフィア様へもね。 ” お心遣い有難うございます ” って。 でも、奥様も、ソフィア様も、まだ、晩餐会の事引き摺ってるのよ。 ちょっと、今度の休みにでも、会ってこようかしらね。
それで、その絶品果物達の一部を、お土産にさせてもらった。
いいよね。 一緒に食べるんだもんね!
あの、中庭の御茶会に使う、例の籠に入れて、冷やして持って行ったのよ。
でね、お部屋。 こじんまりとして、いい感じなのよ。 場所的には、大きなサロンが使う様な、一般的に見て、 ” いい場所 ” では、無いけど、寮のお部屋ともそんなに離れて無いし、なんと、バルコニー付きなんだよ。
いいよねぇ~~~
そんで、ご招待されてたのが、お休みの日だったから、エル達にお願いして、戦装束を装備して貰ったのよ。 あぁ、この間の舞踏会に着たの。 ちょっと、お気に入りなんだ! 前に作ってもらった緑のね、ちょっとサイズ的に厳しくなってね……ゴメンなさいして、黒龍のお屋敷に戻したの。
まぁ、ドレスがコレしかなかったってのも有るけど、ほんと、綺麗なのよ。 お気に入りなのよ。 ” ちゃんと、これ着こなせる、人にならないと! ” って、気合も入るしね。
お部屋について、まず、サロンの人にご挨拶。 この人だよ、出来物の執事さん。 びっちりと銀髪をオールバックに撫でつけて、一部の隙も無い姿で、対応してもらえましたよ。
「クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント黒龍大公御令嬢様。 お待ち申し上げておりました。 皆様、中でお待ちで御座います、クロエお嬢様」
「いたみ入ります。 ボリス様。 これは、本日のテーブルにでも、お出しして頂ければ幸いです」
そう言ってからね、果物入りの籠を渡したの。 喜んでもらえたみたい。 後で、南アフィカンのヴィヴィ妃殿下からの、贈り物ってちゃんと言っておこう!
落着いた色合いの壁紙に、シックな調度品。 なんか、いい匂いもするね。 流石は、青龍大公家のホンモノの、”お嬢様”。 センスも品も凄く上品だね。 ほんと、凄いね。
「クロエ様! お待ちしておりました!」
「マリー様! サロン【大公家のお茶席】開設、おめでとうございます!」
マリーの両手を取って、ニッコリ。 素の笑顔が出るね。 マリーもニッコリと微笑んでくれる。 大きなソファーには、すでにマーガレット、アスカーナ、ビジュリーが居た。 ごめん、出遅れた。 そんで、ギルバート様もお座りになって居られた。 なんでか、私を見ると、バネみたいに立ち上がってね。 見習い騎士の制服に身を包んで、凛々しかったよ。 ちょっと、ぎこちないけどね。
「クロエ様、ご招待頂き、誠に有難うございます」
そう言って、手を胸に一礼。 いや、そんなに畏まられても……
「ご招待を受けて頂き、誠に有難うございます」
序列同格でも、カーテシーを決めておくよ。 ホント、感謝の気持ち。
テーブルの上には、色んなお菓子も置いてあって、給仕さんが早速、南アフィカンの果物も切って持って来てくれた。 えへへへ、気を使ってもらって、悪いね! よく見たら、もう一皿、果物の鉢があった。
マリーが、この部屋の主として、【大公家のお茶席】の開設を宣言したの。 うん、いい感じ。 みんなで、拍手。 これから、宜しくね。 なんでも、お部屋の係の人、他の部屋が忙しくて、回して貰えなかったんだって。 それで、マリー様、必要な人を全部、青龍大公家から、引き抜いて来たんだって。 ミニ青龍大公家が出現した訳よ。 凄いね。 やる事は、エゲツナイけど。
でも、それって、規則上大丈夫なの? へぇ……規定、無かったんだ。 ほうぅ、知らんかった。
アスカーナが、笑顔で言って来た。
「ギルバート=クロイツ=ルベルグラディウス子爵が、お越しになられて、【大公家のお茶席】、本当に、サロン御名の通りに成りましたわね。 サロンに、四大大公家の内、三家が揃うなど……今まで、聞いた事も、御座いませんわ」
「そうよねぇ。 ホントよねぇ。 何かと牽制し合ってるものねぇ。 でもねぇ、ココでは、みんな仲良しで、良かったわぁ」
「あははは、そうだね。 クロエ、嫌いなんだもんね、”身分差意識” きっと、それが原因だね。 でなきゃ、こんな奇跡の情景は、出来て無いって!」
アスカーナの言葉に、ビジュリー、マーガレットが、相槌をうってた。 そんなもんなんだ。 よく分からないよ。 学院に来るまで、あんまり、気にした事無いしね。 へぇ……
「わたしくも、そう思いますわ。 クロエ様の、御承諾を貰えて、良かった。 アスカーナ様に相談して良かった。 皆様のおかげですわ」
めっちゃいい笑顔。 マリーのこの笑顔、大好きさ! この笑顔を見れたから、承諾して良かったって思うよ。 なんか、照れるなぁ……
談笑が始まって、貴族科の事とか、魔法薬学科の事とか、行政内務科の事とか、まぁ、主に学院の事、喋ってたよ。 楽しいお喋りと、美味しいお菓子とお茶。 すんごく、豊かな時間よね。 まるで、中庭の御茶席に居るみたい。 あっちも、あっちで楽しいけどね。 で、果物なんだけど、ヴィヴィ妃殿下からの贈り物だって言ったのよ。
そしたら、マーガレットがね、云うのよ。
「あ~~、その、黄色いの、やっぱり、南アフィカンの特産品だったのかぁ~。 じゃぁ、こっちの鉢の白いの、これと一緒に食べない方がいいよ」
ってね。 えっ? どうゆう事?
「この二つ、食べ合わせが悪いのよ。 一緒に食べたら、今夜、大変な事になるよ、主にトイレ関連で」
マリーは、優雅に、
「判りましたわ……気を付けます」
アスカーナは、生真面目に、
「はい、マーガレット様がそう言われるのであれば」
ビジュリーは、ホンワカと、
「えぇぇぇ、両方食べたいなぁ~、ダメなのぉ~」
ギルバートは、カチコチに固まりながら、
「す、すみません! なにを持ってきたら良いか、判らなかったもので……」
」
きちんと、マーガレットの言う事聞いてるね。 うんうん、専門家の言う事は、聞かないとね。 手に持ってる、黄色い果実を頬張りながら、聞いてたよ。 うんうん、とっても、美味しいよこれ……これって~~!!
……遅いんだよ! 云うのが!!
ギルバート様が、謝ってたのは、もう一方の白い果実持って来たの、彼だったからね。 ちぇえ~~、食べそびれたよ。
「クロエ、判ってるよね。 貴女は、”ブランデール” 食べちゃう様な人だから、特に注意してね!」
うはぁ……ここでそれ、云うのか! ち、畜生! 面白話、するんじゃなかった。
「はい、肝に銘じます」
なんで、私だけ、釘差されてんの? どうして?
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出来物執事が、差し替えのお茶を入れようとして、ちょっと手が止まった。
「あの……マリーお嬢様」
「なんですの?」
「この茶葉なのですが」
「あぁ、それは、開設のお祝いに、エリーゼ様から頂きました。 どうしたの?」
何となく不穏。 ボリスさんが、ちょっと言い淀む。 かなり珍しい事らしい。 マリーがボリスさんを見上げてた。
「この茶葉なのですが、見慣れぬ葉が入っておりまして…… ラベルから、ミルブール王国産、エッフェルの最高級茶葉では、御座いますが……」
「ちょっと、見せて」
マーガレットが、ボリスさんにそう言って、茶葉の入った茶缶を受け取った。 そんで、中を見る。
「確かに、違うもの混ざってるね。 でも……これは、見た事があるよ」
不審気にマリーが、マーガレットを見てる。 そりゃ、エリーゼ様から頂いたんだものね。 なんだろう?
「これは、薬草だね。 鎮静効果がある筈。 でも……なんだっけ? 最近、何かで見た事が有るんだけど……思い出せないなぁ……」
「特製のブレンドなのでしょうか?」
「あり得るね。 落ち着くのにいいかもね。 ほら、エリーゼ様って、よく頭に血が上るじゃない」
アスカーナの言葉に、ニヤリって、マーガレットの、” 歪んだ笑顔 ” が、炸裂したよ。 うん、確かにそんな噂があるね。 エル達からも、聞いた事、有るよ。 あっちの使用人の人達、物凄く気を遣うってさ。 実際に、勘気に触れて、”お暇” 喰らったメイドさんも居るらしい。 泣いてたってっさ。 誰かの、気遣いなんだろうね。
*************
ちょうど、そん時に、バタバタ、廊下の方がうるさくなったのよ。 此処まで聞こえるんだから、相当騒いでるね。 なんだろう? ボリスさんの配下の人が様子を見に行ってた。 直ぐに帰って来て、ボリスさんに耳打ちしてる。
「どうかしまして?」
「マリーお嬢様。 様子を伺いましたところ、白龍大公令嬢のお部屋で、なにやら、騒動が御座いました」
「それで?」
「はい、白龍大公令嬢のお部屋で、エクスター公爵家のお嬢様がお倒れに。 紅茶を飲んだ直後に苦しみだして、其処にいらした、魔法科の上級生の方が治癒魔法を、お掛けになった処、更にお苦しみが酷くなり、現在、医務官が駆けつけて居られます。 医務室への搬送かと」
「それは、たいへん!」
嫌な予感がした。 クッキーに混入していたハーブ、そして、御茶に混入していた、異物…… なんか、ピースがハマって、一枚の絵が浮き上がってくる感じがした。
これは、ヤバい。 相当ヤバイよ。
マーガレットの顔を真正面から見る。 彼女の顔も青くなり始めた。 視線が絡む。 うん、きっと、アレが原因。 軽く頷くと、マーガレットも私の ” 頷き ” 意図を理解したみたい。
「皆様、この場を失礼します。 急ぎ医務室へ向かいます。 マーガレット様、医務室へ。 直ぐに!」
「はい!」
呆気にとられる面々を後に、二人して医務室に駆け付ける。 医務室に到着するまでに、マーガレットに、原因を尋ねてみる。 想像通りだった。 嫌な予感は、的中したって訳ね。 なんで、……いっつも、……こんな、事ばかり……なんなのよ、一体!
「薬草の相性ね。 クロエの視線で、思い出した。 あのクッキーに入ってた、” 夜の為の薬草 ”、あの茶葉に混ぜられてた、 ” 鎮静効果ある薬草 ” と滅茶滅茶に、 ” 相性 ” が悪い。 体の中で、毒素が生成される。 禁忌として、記載されてた。 更に悪い事に、治癒魔法の魔力に反応して毒素が爆発的に増殖するの。 これも重大注意事項で記載されている。 ある程度、増殖すると、今度は毒素が、患者の魔力を喰い始める……普通の解毒方法じゃ、止めようが無いって……」
二人して、駆け込んだ医務室。 そこで見た光景は……あんまり、見たくないものだった。 胸を掻き毟り、苦しむ マリアベル=ナーナ=エクスター。 押さえ付け、落ち着かせようとしている、看護官。 原因が分からず、治療の方針が立たなくて、困惑する医務官。
マリアベルの苦しみは深くってね、綺麗なドレスの胸元はボロボロに引き毟られているの。 白い肌に深いひっかき傷が幾筋も入っていてね。 見てらんない。 咄嗟に、看護官を押しのけて、彼女を抱き締めた。 これ以上、彼女が、自身を傷つけない様に。 私の背中に回された、彼女の手が、爪が、私の背中を深く抉る。
辛いんだ。 彼女の喉が鳴る。 込み上げて来るんだ。 寝てたらダメ! 息が詰まる! 抱き起し私の胸に、彼女の顔を押し当てる。 途端に、胃の中のモノを、戻し始める彼女。 強い匂いが漂う。 血の匂いも。
「マーガレット! 解毒方法は!」
「ポーションはダメ! 魔法も厳禁! いま、彼女の中で、毒素が魔力を喰ってる! 此処にポーション入れたら、毒素の増殖が止まらずに、彼女、……死ぬ」
「どうすればいいの!!」
「彼女自身の、『魔力』が今、彼女の毒になってるの!! なんとか、彼女の魔力を抜かないと!! どの位か判らないけど、一定以下になると、毒素の生成は止まる。 水の魔法かなにかで、彼女に精霊の祝福を受けた水を体に直接入れれば、毒素は分解する筈。 時間が掛かるけど、それで行ける筈!!」
「わかった! 何とかする!!」
胃の中のモノを、戻し続けるマリアベル。 とっても、苦しそう。 意識が無くなっても、体が苦しがっている。 顔色が紫色になってきている。 一刻の猶予も無い。 魔力を抜く? どうやって? なにか、大きな魔法を、彼女に使わせる? そんな事、今の彼女には無理だ。
ええっと、 ええっと、 なんかあったよね。 なんか……。 そうだ! 例の魔導書。 あの中に有った大魔法の中に……そうだ、魔力排出だ! でも……大魔法級よ、あれ。 私に出来るの?
突然、黒龍大公翁の声が頭に響く。
《クロエの常識に任せる。 お前が必要と思うなら使え》
……やらなくちゃ……手の中で、揺らぐ、命の炎……消したく無い。 今度は、私が護る番。
母様! お願い! 力を貸して!!
⦅古の精霊に願い奉る。 我 クロエ=ハンダイが、我が真名を持って、封印されし古の魔術をここに具現せしむる事を求め訴えん! 許しを与え給う事、伏して願う⦆
あの魔導書の大魔法は、古い古い、契約の精霊が守護していてね、使用する時は、必ずお伺いを立てないといけないの。 そうしないと、制御が出来なくなって、大きな禍が降りかかるのよ……それに、その契約の精霊……真名しか、認識しないの……こんなところで!!
古代キリル語だから、周りには判んないかな……ダメかな……聞かれたかな……でも、マリアベルは、 龍王国の大事な民。 けっして、こんな事で、失いたくない。
私の周りに、マリアベルを対象とした魔方陣が生み出される。 宝珠と同じ色の緑色のライン。 急速展開される、魔方陣。 私の魔力が辺りに溢れ出す。
「クロエ!!」
「大丈夫! 治癒じゃない。……古代大魔法、魔力排出、発動!」
「えっ?」
マーガレットも含めて、周囲の人達が、息を飲むのが、わかった。 古代大魔法の複雑な魔方陣なんか、出しちゃったもんね。 でも、今はそんな事、どうでもいいのよ。 今の私……見えるのよ。 マリアベルの魔力残量が……やっぱり、古代大魔法ね。 凄いわ。 私の使う魔力も半端ないけどね。
見る間に、マリアベルの魔力残量が、ほとんど無くなった。 直ぐに魔方陣を昇華させる。 普通なら、周囲から徐々に昇華するんだけど、今は、時間がない。 だから、一気に昇華させた。 これも、かなりの魔力を使う、力技。 でもまだ、彼女の命の炎は、揺らいでる。 鼓動が弱い。 毒素が体を犯してるんだ。 くそっ! 此処まで来て……
ええい、行けぇぇぇ!
⦅ 水の精霊よ! 我に力を! 祝福されし水よ! ⦆
私と相性のいい、水の精霊を予備動作無しで、直接召喚。 私の魔力も枯渇寸前……。 マリアベルの体内に、水の精霊が祝福してくれている水を、直接、”注ぎ込む”。 彼女の体の中で、毒素が減少しているのかな? さっきまでの紫色した顔色が、段々と、色が抜けて、白くなっていく。 呼吸も、落ち着いて来た……
出来る限り、水の精霊をこの場に留める……あぁ……魔力が……無くなる……仕方ない、 精霊様には、お帰り願おう……送還呪を唱える。 水の精霊様が心配そうに、見てたね……意識が、保てない……私の視界が、なんかブレて……横になった。
白いね。 うん、視界が、真っ白。
マリアベルを必死に抱き締めているのは判る。
彼女の鼓動がハッキリとしてきた。 もう、大丈夫そうね。
……マーガレット……ゴメン、後頼むわ
そんで、私は、意識を手放した。
ブックマーク、感想、評価 有難うございます。
とっても、嬉しいです。
読んでくださって、有難うございます。
今回、また、クロエが無双してしまいました。
ちょこっと、蛇足を、書きます。 かなり、ノリノリで書いたのですが、医務室に居た人達の陰の薄い事!あんまり、可哀想だったので、蛇足に!
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とある、医務官の日記
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今日の出来事は、なんと書けばいいのか・・・
目の前にある、白紙の業務報告書。 その前で、私は、途方に暮れている。
日記に・・・覚書だけでも、書こうと思う。
白龍大公令嬢の【サロン】の お部屋で、突然倒れたエクスター公爵令嬢。 緊急で医務室に運ばれてきた、エクスター公爵令嬢の症状は、深刻で、手が出せなかった。 魔法科で優秀と言われながら、魔法医学を修めた、私は、途方に暮れていた。
このような症状を見たのは初めてだった。 時間を掛けて居る暇はない。 取り敢えず、鎮静と、治癒と、魔力回復のポーションを準備していたところだった。
暴れるエクスター公爵令嬢を前に、手を出せないで居ると、魔法薬学科の噂の天才、エスパイヤー子爵令嬢が、友人と共に、ドレス姿で、駈け込んで来た。なんだ? と、思っていても、彼女達の真剣で切迫した表情に口を出せなかった。
エスパイヤー子爵令嬢は、エクスター公爵令嬢の突然の疾病が、中毒症状だと言い切った。 後程、文献を届けてくれるそうだ。 エスパイヤー子爵令嬢の友人は、暴れるエクスター公爵令嬢を抱きかかえた。 看護官でも、抑えつけるしかなかったのにだ。 暴れる伯爵令嬢の爪が、その美しいドレスを纏った少女の背中を激しく搔き毟る。
激しく嘔吐を繰り返す、公爵令嬢。 その美しいドレスが汚れるのも、厭いもせず、少女は、その強い意思の光を宿す瞳は変わらずに、彼女を抱きしてめていた。 切迫した状況で、エスパイヤー子爵令嬢と、その友人が激しく言葉を交わす。 私達、医務官は、成り行きを見守るしかなかった。
私の目の前で行われた奇跡について、どうやって、報告すればいいのか。
目の前の少女が、複雑な魔方陣を描き出し、エクスター公爵令嬢に何かをした事はわかった。
しかし、目の前の少女が行った、奇跡については、エスパイヤー子爵令嬢は、硬く口を閉ざしている。
私が認識出来た事のみ、報告書にまとめるつもりだ。
辛うじて、理解できた事のみだ。
水の精霊を直接召喚しただと?
祝福されし水を直接体内に送っただと?
あり得ん!
報告書に記載したところで、誰にも、信じて貰えないだろう。
エクスター公爵令嬢が、危機を脱した時、この少女が昏倒してしまった。
症状は魔力の枯渇。さもありなん。 精霊の直接召喚を準備も無しでいきなり、自分の魔力だけで行うなど、・・・魔力が枯渇するのは当たり前だ。
私に出来る事は、この少女と、公爵令嬢を分け、それぞれに回復治療を行う事だけだった。
この少女の、この献身が無ければ、間違いなく、エクスター公爵令嬢の命はなかった事だけは、事実だ。
クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント黒龍大公令嬢・・・
なんと、報告書に書けばいいのか・・・。
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蛇足でした!
お読みくださって、有難うございます!!




