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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
泣き言は言わない
36/111

クロエ 授業を受ける

yasuno様よりの御指摘、 誤記修正しました。

ありがとうございます。



 

 二年生の授業が始まった。





 物凄く中途半端な学年なんだな、これが。 何も分からなくて、右往左往する一年生じゃ無いし、かといって、専門分野に邁進する中等部でもない。 ましてや、これからの人生を、決める高等部とは、物凄い開きを感じる。





   初等部は、一、二年生。

   中等部は、三、四年生。

   高等部は、五、六年生。





 学院には、そんな区分けが有るんだ。 イヴァン様が前に、言ってた、” 王立魔法学院は、ある意味、官吏養成学校だ ” ってね。 それは、二年生の授業でよくわかった。


 五日置きくらいにある、口頭試問。 順位とか、序列とか、全く発表されない、王立魔法学院の評価方法。 各専門の教授から、私達生徒、一人一人の勉強の進捗を聴き、教官が、助教と一緒に、口頭試問で次の課題を考えるのよ。


 学院の教育方針は、学力を見極めるんでは無くて、あると信じている能力を出来得る限り伸ばすって事だって言ってた。 だから、ハードルはいつも高めにされるのよ。 もうダメだ!って思うのは自分自身の判断のみ。


 ダメだと諦めた時点で、その先の人生が決まる。 貴族籍の有る者は、貴族科に転科して、領地に戻る道がある。 でも、庶民でこの学院に入って来たものには、そんな都合のいいモノはない。


 目標に達し、栄達の道を歩むか、もしくは、手に肉刺まめを一杯作って、その日一日の糧を得るために、額に汗を浮かべるか…… だから、行政科の庶民階層出身者は、みな必死に授業に食らいつくのよ。


 私だって同じ…… 黒龍の御家のみんなは、私の事、” お嬢様 ” って呼んでくれるけど、私は、自分の事を知ってるよ。 そうだよ、黒龍の御家の居候なんだ。 だから、庶民階層の人達と同じ。 



 必死に食らいついて、いるんだよ!! 



 授業は、内務、外務、財務、騎士(軍事)、の四つ。全部行政に関する事なんだ。 この科に入る人達は、大きく分けて、二種類。 家名を背負った、貴族の子弟。 強烈な自負心と、目的意識をしっかり持った、庶民階層の人。 私は、その間にいるのよ。


 兼科してる、魔法科の方は、基礎だから、まず問題ない。 特に実技は、 ” 出席する必要なし ” って、最初の実技の時間に言われてしまったのよ。 ……何でだ? それで、魔法科の方は、座学だけ出席してる。 



 やっぱりと云うか、案の定というか、教室ではボッチだったね。 



 ほら、同じような境遇の人って固まるじゃん。 私と同じような境遇の人ってそうそう居ないからね。 だから、貴族の人達からは上から目線で見られるか、無視される。 庶民階層の人からは、毛色の変わった貴族の子弟って目で見られるのよ。



 もうね……一人で乗り切るしかないのよ。 



 それに……男女比…… 私の居る教室、男子生徒四十五人に対して、女子生徒、五人。 で、その五人の女子生徒、全員が貴族階層の人。 で、私を除く四人が、ミハエル殿下のお付きの取巻き。 たはっ…… まぁ、なんて判りやすい。 ミハエル殿下のお世話係ね。 課題を代わりに遣って、要所だけを教えるの。 


 殿下、それって、男子でも、いいじゃん。 あぁ、男子の取巻きも居ましたね、そう言えば。 十日も経てば、奴らの大声の会話から、名前くらいわかるさ。




 エーリッヒ=ディ=ブラウン子爵。 


 内務の官僚を目指してるって、声高らかに宣言しとったなぁ。 あぁ、そうね。 白龍大公閣下の甥っこさん。 物凄いプライド高い人。 白に近い銀髪で、切れ長の目に、ちょっと赤みがかった、茶目。 冷たく笑う人ね。


 フンベルト=オスカー=クラインハルト子爵。


 近衛騎士のエリート集団、親衛隊を、お望みの、ガタイのデカい、オッサン顔で赤毛の短髪で、濃い茶目の人。 面白い事に、この人、赤龍大公様の筋じゃぁ無いのよ。 これまた、白龍大公様の遠戚だって。 何処の御家にもいる、変わり種。 まぁ、いわゆる、筋肉馬鹿かな? いや、指揮官目指してるから、行政科に来たんでしょ。筋肉馬鹿じゃ無い筈。


 エドガー=パンナレル子爵。


 渦巻きまほうつかいの記章付けた人。 何だかものっそい、軽そうな人。 真っ黒の髪の毛と、黒い瞳の、甘いお菓子の様な表情を出す人。 彼のお父さんは、ノガード=パンナレル侯爵。 宮廷魔術師なんだってさ。 でもね、その人、自負心の塊。 気にくわない事が有ると、周囲に、発散する、” お前呪うぞ! ” の、威圧感が、おかしい。




 まぁ、こんな感じの教室です。 ミハエル殿下と、その取り巻きが教室の一角をドカッと占めている。 お零れに預かろうと、白龍系の貴族の人達が、その周りをグルって取り囲んでいたね。 う~ん、邪魔。 教官が良く見えないよ。 でも、皆、何も言わない。


   私は…… 


 当然、関わりにならない。 私は、私。 向こうも、時々、嫌な目で見て来るけど、気にしなければ、居ないのと同じ。 授業に集中。 「氷の令嬢」としては、婚約者様が、誰と、何をしようと、知らない。





―――――――





 何回か目の口頭試問の時、とうとう、来てしまった、逢魔が時。 助教にフランツ殿下が、入られた。 一通りの質疑応答があって、教官は満足そうにしてらしたけど、殿下は、私の考課表を見ながら、首を傾げてらした。





「シュバルツハントさん。 課題は、”どのくらい”ご自身で、されましたか?」


「”どのくらい”とは、どう云った意味でございますか、殿下」


「助教として…… では無く、以前この学園で学んだ者として、お聞きしたい。この考課表の記載通りならば、黒龍大公家の貴女の優秀な ”御養育子(はぐくみ)” と、一緒に取り組まれたと思われるが?」


「彼女達は、彼女達の課題が御座います。 とても、わたくしの手伝いなど、する時間の余裕は御座いません。 ……殿下、課題は、”わたくし”に、与えられた物。 わたくしが、取り組ま無ければ、成らないものです。 誰の手も借りてはおりません」


「……誰も?」


「はい」


「……そうですか……貴女の姿を、教室以外で見ない訳だ」


「えっ?」


「いや、何でもありません。 頑張ってください」


「はい」





 何だったんだろう? なんの確認だったんだろうねぇ……。 ”ズルしてんじゃねぇの” って、言われた気分。 自分でやってんだよ! 時間に追いかけられながらな! まぁ、今のところは、順調に進んでいるから、別に気にしても、仕方ないし…… それに、殿下は王家の人だし。 良くて、中立。 悪くとれば、粗さがし中? かな? 






 *************






 行政騎士科の教育課程でさぁ、実技があんのよ。 でも、女子は剣を振り回す事はしないの。 なんでも、救護係って事で、白衣に白帽着せられて、演習場の一角に待機させられるのよ。 あぁ~あ、せっかく、鉄心入りの木の棒持って来たのに……


 でさ、演習場で、チャンバラやってる、人達に怪我人が出たら、持たされたポーションでの救護活動なのよ…… お高い、ハイポーション湯水のように使うのよ? バッカみたいに。


 つば付けときゃ、治る様な打ち身とか、擦り傷に、高価なハイポーション使うって、その価値観、未だに慣れないわ。 なんなら、薬草揉んで当てときゃいいじゃん。


 たまに、深刻な人居るけどね。 例えば、今、目の前でぶっ倒れている人みたいな……





「ギルバート様、今、ポーションお出ししますね」


「済まない……クロエ様……でしたね」


「ええ、……楽に。 かなり、酷いケガをされています。 これを……」





 封を切ったポーションを渡し、飲ませる。 かなり酷いよね。 骨折してるし、擦り傷、切り傷がものっそいの。 実戦練習ってことで、模擬武器使って、チャンバラするんだけどね。


 この人、ギルバート=クロイツ=ルベルグラディウス子爵。 あの赤龍大公閣下の三男様なのよ。 赤龍大公家の人にしては、細い方でね、飴色の短髪に、綺麗な緑色の目をされているの。 ちょっとした、美少年ね。



 趣味じゃないけど。 



 で、これをやったのが、フンベルト=オスカー=クラインハルト子爵。 ごっつい体で、大きな模擬戦斧、ぶん廻して、力加減全くなしでの暴挙ってやつ。 一応、授業だから、近くに騎士が付くんだけど、目を盗んでの滅多打ち。 よせばいいのに、ギルバート様、真面目に相手になるもんだから、こんなになっちゃうんだよ。





「ありがとう……楽になった」





 眉をしかめ、美味しくないポーションの一気飲み。 まぁねぇ……型の鍛錬の時は、剣筋も綺麗だし、体幹もブレてないんだけど…… いかんせん、棹状武器ポールウエポン扱うには、センスがねぇ……ギルバート様は、片手武器のセンスとっても有るのよ。 型もソッチ系の型の方が、綺麗だし……自分でも、気が付いてる筈なんだけどねぇ。 やっぱり、アレか?





「ギルバート様……お気を悪くされたら、ごめんなさい。 なぜ、執拗に棹状武器に拘るのですか?」





 ハッと、息をのみ……  苦い笑みが頬に浮かぶ、ギルバート様。





「やはり、判りますか…… ええ、拘りがあります。 クロエ様、ご存知ですよね、我が家名」


「はい、ギルバート様は、ルベルグラディウス赤龍大公閣下の御子息です」


「そう、私は、これでも、ルベルグラディウス家の男なのです。 父上も、兄上も、龍王国の御楯として、強大な武器を携えております。 また、父上は、当代随一と云ってもよい、三叉槍トライデントの使い手です。 兄上もまた、別な棹状武器ポールウエポンでは有りますが、その名を轟かせておられます…… 振り返ってわたくしは……自分でも、気が付いております…… しかし、何としても!」





 やっぱりね。 周りが凄すぎて、期待がめっちゃあって、当人に応える意思が強すぎる場合、こんな事に成っちゃうんだよね…… 才能って、ちょっと、理不尽。 体格とか、センスって、変えられないから、鍛錬でその差を埋めなくちゃならない。 


 でもね、貴方が目標にしている人達って、体格もセンスも並外れているのよ? おわかり? その方々が何かを習得するために必要な努力を1とすると、貴方は、100の努力をしなくては、成らないの。 そりゃ、頑張れば、出来るかもしれない。 でも、貴方が努力している間、彼方も、同じように努力されているの…… 


 なんか、精霊様のバランスの取り方って、物凄く理不尽なのよ。





「ギルバート様……」





 なにか、……そう、なにか、切っ掛けが有れば……もっと、広い視野にたって、自分を見つめ直せるのに……。 ああぁ、モドカシイ!! 


 なにか……

 なにか……

 なにか…… 


 あった!


 無念そうに、目を瞑り、回復を待つギルバート様。 横たわる、彼の横で、静かに問いかけたのよ。





「騎士の誓いを思い出されませ」


「ん? なに? ……騎士の誓い?」


「ええ、行政騎士科に進まれるとき、騎士科志望の方々は、必ず、誓われると聞き及びます」


「 ―――” 我、ギルバート=クロイツ=ルベルグラディウスは誓う。 高潔な精神と頑強な体躯を持って、龍王国の盾となり、敵に当たっては龍と化す。 民を護り、龍王国を護る、剣と盾となる事を、天と地と精霊の聖名に誓う ”……でしたね」


「そうですわね。 『 高潔な精神と頑強な体躯を持って、龍王国の盾となり、敵に当たっては龍と化す。 民を護り、龍王国を護る、剣と盾となる事を、天と地と精霊の聖名に誓う 』 わたくしの御父様、御爺様も、この精霊誓約を亡くなる、 ” その時 ” まで、自分の出来る・・・・・・限りの事をして・・・・・・・護り通しました。 御父様も、御爺様も、可能な限り、御自分の得意な・・・得物ものの練度の向上に勤められておられました……」





 私はね、思うのよ。 なにも不得手な事に拘って、本来の誓約を自分から破る事ないじゃんってさ。 使えるモノは何でも使う。 目的はただ一つ。  ” 大切なモノを護る為 ” でしょ?


 彼の緑色の目が、澄んだ色になって揺らいだ。 なんか、思っても無かった事、言われたよってね。 ジッとその眼を見詰めて、彼の内側に問いかけてみた。





「ご自身の矜持プライドと、誓約。 どちらに重きを置くか…… ごめんなさいね、判ったような口をきいてしまって。」





 茫然と、私を見詰めるギルバート様。 悩むよね。 ほんと。 でもね、 ” 騎士 ” なんだろ?  此処で、心を決めれば、貴方は、きっと、赤龍大公閣下や、御兄さま達と同じくらい、その名を轟かす事になるわ。  きっとね。 





「考えて……みるよ。 わたしに、何が出来るかを……」


「11番と、17番」


「えっ?」





 チョットしたヒント。 もし、鍛錬、真面目にやってたら、判ると思う。 判って欲しいなぁ…… 





「では、回復もされたようですので、これで…… 頑張ってくださいね」





 さらっと、その場を後にした。 ギルバート様、上体を起こして、私の姿を目で追っているね。 そんで、考え事。 


 悩め! そんで、見つけろ! 


 その番号は、貴方が必要とする、軽装片手武器の鍛錬番号。 結構難しいよ? 太刀筋整えるの。 でも、やれるよ。 貴方には、そのセンスがある。 素振りを見てて判ってるから!


     頑張れ!!


 私も、人の事言ってる暇ないのよ。 そうだよ、朝の鍛錬、しっかりと見直そう!



         頑張れ! ギルバート!


          私も頑張るから!!







ブックマーク、感想、評価。 有難うございます。


毎日更新の、糧となっております。 感謝多謝です。



おや? クロエ・・・フラグですか?

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