クロエ 【降龍祭】に参加する。 王立魔法学院 一年目
今年の【降龍祭】は、雨……、雨なのよね。
学院の寮は王城ドラゴンズリーチの中に有るので、雨に降り込まれて困る事は無いけどね。 雨は、あんまり、好きじゃ無いの。 辺境の村じゃ、雨が降ると色々大変だったからね。 ……そうね、大変だったわ。
【降龍祭】は、午後。 私は、指定された場所に、指定時間に行って、そこで待つことになっている。 私の方から、直接【降臨の間】を訪れる事は無いの。 王家の秘儀だそうで、秘密裏に集まる事が必要らしいの。 めんどくさいわね。 だから、朝食が終わったら、直ぐに支度を始めたの。 モチロン一人じゃ出来ないわよ、完全装備の戦装束だもんね。
メイドズ渾身の、”お仕立て”は、私を別人に変えてくれた。 戦場に行くのに装備は必要よね。 閣下に頂いた、パステルグリーンの妖精が纏う様なドレス。 深い青の色帯、デコルテは優美なレース仕様、腰に大きな、ドレスと同色のリボン。 ふんわりと広がるスカート。 ちょっと高めのヒールの靴。
髪はラージェが編み込んでくれた。 器用なのよラージェ。 彼女に髪を任せると、ホントに決まる。 私のちょっと残念な薄い蜂蜜色の髪も、何となく豪華な金髪に見える。
ミーナの魔法で、別人級のメイク。 薄いよ、白塗りにしてないよ。 でも、なんか、すんごく美形に見える。 自分じゃないみたい。 学院に入ってからちょっと背も伸びた。 キツイ目付きも若干緩和されてるね。
エルが仕立て屋さんに、教えを受けた腕で、ドレスを調整してくれている。 チョットした、お直しもしてくれた。 だから、今、完全装備の戦装束姿の私は、完璧《フル装備》なのよ。
皆が全力を出し切った、戦装束を纏って、私は部屋を出た。
「それでは、行ってきます」
「クロエお嬢様、お気を付けて」
「はい」
簡単に挨拶を交わす。 雨の日は、学院の生徒達も部屋に居る事が多い。 自然と他の生徒さん達の目に付く。 鉄扇を持っている為か、あんまり、近寄ってこないけどね。 騎士科以外の学生は、護剣の帯刀が禁止されてるじゃん。 不安じゃん、丸腰って。 この鉄扇は私の護剣の代わり。
エルが言ってた。 この鉄扇、わたしが気に入らない人をぶっ叩く為に持ってるって、噂になってるって。 なんで? 一回もそんなことした事無いよ? 護身用だよ? 自分の身を守る為だよ? これさえあれば、暴漢も怖くないのよ? なぜ、私が怖がられるの? 判らん、さっぱり、判らん。
鉄扇で、一度は命が助かったから、二度と手放さないと決めているのよ。 そうそう、ヴィヴィ妃殿下の短剣を、まともに受けたから、ちょっと壊れてね。 黒龍のお屋敷でヴェルに相談したら、新しいのをくれたのよ。 お代を払うって言っても、受け取って呉れなかった。
「今度の扇は、丈夫で軽くなりました。 前のは、少し重かったでしょう。 黒龍大公家出入りの、武器商人に、” 特別製 ” で、お願いしました。 マリオ様もご存知です。 我等、執事一同の祈りが籠っております。 お受け取り下さい」
……なんか重いね。 重さじゃ無くって、あなた達の想いがね。 ちゃんと伝えたわよ、鉄扇のお陰で、命が護られたって。 そしたら、これだ……護剣の代わりにしてるって、黒龍大公家の執事の皆さん、理解して、作ってくれたんだね……有難いやら、もったいないやら……
ありがとう。 貴方達の気持ちも含めて、大事に、頂くわ。
因みに、この新しい鉄扇、鉄扇って言ってるけど、鉄を使ってないのよ。骨はミスリル製、扇面は薄緑色の特別製魔法紙、何が仕掛けられてるかも、教えてもらった。 まぁ、色々ね。 要もミスリルの削り出し。 ヴェル曰く、持つ人が持てば、大剣の一撃に耐え抜く事が出来るそうよ。 ……そんな事に出合いたくないけどね。
ウエストの切り返しに、挟んで置く場所を、エルに作ってもらってるから、普段は両手が開いているの。カーテシーだって、無様にならないよ。 大丈夫。 みんなの気持ちの籠っている、 ” 身に着けたモノ ” は、わたしに、勇気を与えてくれてるの。
ホントに、ありがとう……
さて、指定の時間には、まだまだ、あるが、指定の場所は遠いから、急ごうかな。
*************
指定の場所は、最外郭西門。 そうよ、白龍大公閣下の御家が護るべき門。 最外郭は、通路で繋がっている。だから、城内を歩いて行ける。 でも、御城を四分の一くらい歩かなきゃならない。 だから頑張った。
カツカツヒールの音を立てて歩く。 完全装備の戦装束姿の私は、目立つ目立つ。 途中で何人もの男の人が、黙ってこっちを見てた。
何というか、声を掛けづらい様子だったね。 ” なんで、此奴がこんなところに居るんだ? ” みたいな、困惑気味の表情だったと思うよ。 でも、そんな事気にしてたら、ホントに凹む。 だから、サラって無視するんだ。
学院に来てから、この能力に磨きが掛かって、どんな視線にも結構、耐えられる。 だって、云われた事とか、指示された事をしてるだけなんだもの。 誰に問われても、なんて事は無い。
最外郭南門から、西門は、馬車での移動が普通なんだよ。 遠いよ、ホントに。 私は、自分の事には黒龍大公家の「モノ」は使わないって、決めてるから、歩いただけ。 エル達は、私が強情なのを知ってるから、諦めてるんだよね。 本当なら、何が何でも、馬車を使おうとするって。
でも、エル達は敢えて私のしたいように、させてくれている。 前に、私が私で居る為に、敢えて、” 特別な快適さは要らない ”って伝えたでしょ。 だから、黙認してくれているの。 そう、私が、私で居る為にね。
そのまま、最外郭西門にたどり着いた。 鍛錬のお陰か、汗一つかいてないよ。 周りを見渡しても、誰も居ない。 なんか、また、厄介ごとに引っかかったみたい。 招待状って名前の、召喚状を取り出す。 間違いない。
うん、ココだ。
到着予定時間。 辺りは、関係の無い方ばかり。 ” 誰だ?こいつ ” って目もあるね。 御城の西側は、外交関連の部署だから、面識の無い人ばかりだったよ。 これが東門とか、北門とかだったら、一発に連絡行くのにね。 はぁ~~~、まぁ、取り敢えず待ってみるか。
ブラブラしたり、座り込んだり出来ないから、じっと立って、門を見てた。 巨大な門でね。 この王城ドラゴンズリーチの中へ敵の侵入を食い止める、最後の防御施設だもんね。
門のあちこちに防御結界魔法が彫り込まれているし、常時、魔力は流されている。 この際だから、良く見てみる。 大魔法系列だね。 例の魔術書の中に、書いてあった奴によく似ている。 勿論、一部は違うけどね。
パタパタと走ってくる人が見えた。 あれは……侍従長だ。 やっぱりね。 おい、薄ら禿! 今度は誰がやらかしてくれたんだ?
「く、クロエ様、此方でしたか! 時間が押し迫っております。 お早く」
イラってした。 招待状を差し出した。
「侍従長様、ご指定の時間を随分と過ぎているようですが、今年の【降龍祭】は、わたくしは、参加しなくても良かったのですか?」
強く降り出した雨つぶが、私の後ろで、広い広い外門へ続く石畳の広場を叩く音がしていた。 ミーナが掛けてくれた魔法が、目の周りだけ解けた様な気がする。 爺様の目付きが浮かび上がっている筈。
父様は、可愛いって言ってくれたけど、云ったのは父様だけだった、私の「鷹の目」。 そういや、父様、コールデスウルフの目付き、可愛いって言ったっけ。 あの魔獣の猛々しい視線をね。
侍従長、私の目付きと、その招待状を見て、絶句してたよ。 場所、時間が、侍従長が当初知らされていたモノとは、全く違ったらしい。 ゴモゴモと言い訳している、侍従長の聞きずらい話を要約すると、私は、部屋で待っているだけで良かったらしい。
学院の中の内外郭まですすんで、其処から、内郭に入る筈で、迎えは今年から、正式に侍従がする事になったらしい。 なにせ、この薄ら禿、ハッキリ喋らないんだよ。 理解するまで、時間が掛かったよ。
何を胡麻化そうとしてるのか知らないけどね。
私を迎えに来た侍従たちに、エル達が、 ” ずっと前に、指定されている最外郭西門へ向かわれたと ” 、告げたらしい。 迎えの侍従たちが、泡食って、侍従長に連絡を取って、私の後を追いかけたみたいね。 時間も押し迫って来てるのに、当の私が来ないもんだから、侍従長かなり焦ってたみたい。
で、目の前の薄ら禿、どうも、筆跡から誰が招待状に悪戯したか、当たりが付いてるらしい。 脂汗流してるんだよ。 招待状持って、その文面見て、手をブルブル震わせてさ。
「その、招待状は、本来、わたくしが受け取るべき、”モノ”とは、違うようですね。 このような事をする方は、よほどわたくしの、王城内郭への参内を嫌がられているようです。 招待状がどの様な手順でわたくしの元に届いたのかは、存じ上げません。 しかし、敢えて言わせて貰えば、” 偽勅 ” と、判断させて頂いても、よろしいですわね」
「い、いや、お待ちを! そ、そのような……」
「偽勅」 王命を偽ったり、捏造する事なんだよね。 公になれば、関係者一同、問答無用で磔刑が、この国のルール。 絶対にしてはならない事の一つなんだよね。 国事犯って事にもなる。 でもって、これは、国王以外の全ての人に適用される。 お妃様、王子様も例外では無くね。 薄ら禿、どう処理するつもりだ?
それに、時間だって無いんだろ?
オロオロしている侍従長。 滅茶苦茶な大事に成りかけてる。 内宮官の権限はそんなに大きくは無い。 ハッキリ言って、この薄ら禿の手に余る。 丁度、その時、小型のカブリオレに乗った、一人の騎士が、篠付く雨を突っ切って、西門に遣って来た。 灰色クロークに、”月と柏の葉”の紋章。 近衛魔法騎士さんだった。
「クロエ様、お乗りください。 内外郭入り口まで、お送りいたします」
ほえ? なんで?
「赤龍大公閣下の御命令で、クロエ様を護衛しておりました。 お話は、魔法糸にて、把握しております。侍従長殿、貴殿には、内郭門外側で、魔法糸を付けさせてもらっていました」
薄ら禿が、目を見開いて、近衛魔法騎士さんを見ている。 魔法糸は特殊な糸で、付けられている人周辺の会話が、遠い所でも聴ける魔法の糸なんだ。 よく、諜報部隊とかで利用されている。
でも、作り出す魔方陣が結構、難しくて、そんなに簡単に運用出来ない筈よ? まぁ、調査対象が侍従長なんだから、いいのかもね。 それでも、内郭の内側は使用禁止だから、門の外側で付けたよって、言ったんだろうね。 近衛魔法騎士さんの口上は続いてる。
「本日は、赤龍大公閣下も、レオポルト王弟殿下も、”緊急の討伐” が、発令され、王城ドラゴンズリーチにはおられません。 閣下からは、予防処置だと、お聞きしましたが、まさか、本当に必要になるとは思いもよりませんでした。 それと、その招待状は、クロエ様にお返しください。 さぁ、お早く! 時間が差し迫っております」
もう、薄ら禿、なんも言えんね。 震える手で、招待状を返してくれた。 近衛魔法騎士さんに手を取られて、馬車に乗った。薄ら禿も一緒にね。 早速、駆けだす馬車。 相当な速度を出して、あっという間に内外郭入り口に到着した。
「さぁ、お手を」
「ありがとう、御座います」
手を取り、馬車を下りる。 近衛魔法騎士さんが、堂々と門番に睨み、開門させる。 スルスルと入っていき、内郭へ通ずる門の前まで来た。
「クロエ様、残念ながら、わたくしは、この扉の内側に入る事を許されておりません。 侍従長! これより先は、貴殿がご案内せよ! 万が一の場合は、判っておろうな!」
凄みと、睨みを効かせる、近衛魔法騎士さん。 凄いね。 脅してるよ。 流石は赤龍大公家の随身だね。 ほんと、怖いモノってあるんだろうか? 薄ら禿震えあがってた。 それでも、自分の職務は忘れて無かったみたい。 時間も間に合いそうだしね。
「相分かった。 この後はしかと、わたくしが、ご案内申し上げる。 我が名に懸けて」
「うむ、頼んだ」
近衛魔法騎士さん、私にニッコリと微笑んでくださったよ。 その笑顔を見て、なんかホッとした。 あのままバックレてやろうかって思ってたけどね。 此処まで来たんだ、キッチリと、御国に役立ってから帰るよ。
ほら、天龍様との約束もあるしね。 バッチリと、彼に、カーテシーを決める。 ほんと、頭の下がる思いだよ。 この礼は、貴方だけで無く、貴方に指示を出された方々へも含まれているから、宜しく伝えてね。
「閣下、殿下には、伝え置く。 クロエ様、どうぞ宜しくお願い申し上げます」
「ハンダイ龍王国と、国民の為に……行ってまいります」
そう言ってから、私は侍従長の後に続き、内郭内側に入って【謁見の間】に進んで行ったの。
*************
そこから先は、まぁ、二回経験してるから、同じ事だった。 辛うじて、時間に間に合ったようで、国王陛下には、何も言われず、王妃様は定番の無視。 王太后様、去年よりずっと、老け込んでいた。
かなりの御心労がある様に、見受けられるわ。 黙り込んでいる。 どうしたのかしらね。 でだ、昨年に引き続き、エリーゼ様がなんか言うかなって、思ってたら、こっちを茫然と見てた。
……一枚噛んでやがったな。
まぁ、その後は、何気に、” 遅かったですわねぇ ” って嫌味噛ましてきやがったんで、打ち返しといた。
「ええ、わたくし宛の勅書に、誰かが悪戯していた様なのです。 「偽勅」になるかもしれないのに……」
ちょっと、困った顔しといた。 私の口から出た、かなり、穏やかでない「単語」に、エリーゼ様、なんか、ギョッてしてたよ。 薄ら笑いが、私の口の端に浮かんだよ。 馬鹿だろう、こいつ等。 でだ、何事も無いように、皆様にご挨拶して、【降臨の間】に、転移しに行った。
今年はねぇ、門の精霊達にも、お土産もって来てたのよ。 あの子たち、精霊なんだけど、ずっと、此処に張り付いているでしょ。 だから、あの子たちに、私の魔力と混ざった、お日様の光で一杯に満たした、小さな魔石を其々に渡したの。
とても、喜んでくれた。 良かったよ。 あの子達にどうやって報いようか、時々思い出しては、あれこれ、迷ってたのよね。
⦅何時も、ありがとう。 お土産、これでいい?⦆
⦅いい、いい、とってもいいよ! これ、いいね! ” 来年も ” くれる? 一年で食べちゃってもいいんだよね!⦆
⦅ええ、私が来る事が出来る限り、持ってきてあげるわ。 ホントにいつも、ありがとう⦆
ニカッって笑う各門の精霊達。 なんだか、和んだよ。 で、【降臨の間】に降りて、天龍様を待つ。 そうだね、待つんだよ。 王太后様が、御妃様に召喚の聖句を告げさせようと、躍起になってた。 ついでに、そのあおりを、エリーゼ様も喰らってた。
もうね、密かに、腹の底で笑わしてもらったよ。 確か、一年前も、王太后様の陰で、モゴモゴ言ってたよね。 せめて、召喚の聖句ぐらい覚えなよ。 ホントに、《 古代キリル語 》嫌いなんだね。 と、云うより、《 聖句 》、覚える気ないんだね。 ……精霊の御加護も受けられなくなるよ?
まぁ、知ったこっちゃない。 私は、呼ばれるまで、壁の大魔方陣みてた。 細かい所も、なかなか、凝った造りになってる。 流石は限定召喚大魔方陣。 天龍様が受けてくれないと、一切の魔力が通らない構造になってる。 つまりは、天龍様次第だと云う事。
” へぇ、そんな使い方出来るんだ ” って、云うような、特殊な魔方陣も組み込まれているね。 もうね、びっくりだよ。 思わず書き写したくなるよ。 ダメだけどね。 だから、必死に覚えてるんだ!
「クロエ、貴女も召喚の聖句を……」
ついに業を煮やした、王太后様、私に振って来た。 御妃様も、エリーゼ様も、何度も挑戦してるんだけど、意味知らないで、音だけ覚えようとしてるから、歪んで変になっちゃうんだよ。 言葉にする、聖句は同じ。 でも、私の場合は、意味が乗るから、違って聞こえるらしい。
⦅ 天龍様、クロエ、参りました。 御姿みせてくださいね。 お話しづらいですから⦆
⦅ おう! 来たか。 今出る!⦆
ボワンって音と共に、天龍様の顔が魔方陣から飛び出して、周囲を明るくした。 やっぱり、王族の皆さんをガン無視して、私の前にだけ鼻を差し出してくる。 もう、慣れっこになってるし、してほしそうだったんで、鼻に手を当てて、私の魔力を贈る。
ぼんやりと両の手が、光、スルスルと、魔力が天龍様に吸い込まれている。 大した量では無いのよ、只、ゆっくりと削られる感じがするだけ。
⦅あぁ……いい、とても、いい⦆
天龍様、気持ちよさそうに目を細めてる。 うん、良かった。 今年も、穢れが払われる。 天龍様の体にこびりついている澱の様な陰気が、徐々に光の粒になって昇華していく。
”願わくば、龍王国の隅々にまで、御威光が届きますように”
口に聖句を載せて、魔力を注ぎ込む。 天龍様の表情が柔らかくなったみたい。 他の人には、判らんだろうけどね。
国王陛下が、去年と同じく、龍王国として注意すべき周辺状況を問うてきた。 そのまま伝え、答えを受け取る。 やっぱり、東側に、黒い魔力の流れを感じるそうだ。 それに、今年は気になる事、言ってた。
⦅地龍がな……芳しくない。 他の龍とも話し合うとったのだが、穢れが相当溜まっておる。 悪龍に落ちなければよいのだが……⦆
これは……言えない。 龍族の間の話は、人には重すぎる。 それに、天龍様、ポロって喋った感じで、後で、 ” これは内密にの ” っておっしゃった。 私もコッソリ、 ” 私どもが気を付けるべきことは? ” って聞いたら、言葉を濁しながら、東側に気を付けろって……
大まかな、情報だけど、それはとても大切な事。 だから、赤龍大公閣下に話してもいいかって、聞いてみた。 備えは早い方がいい。 答えは、” 目立って動かなければ ”、だった。 うん、それとなく伝えておこう……
へたっぴな、送還の聖句を御妃様が紡ぎ出した。 天龍様、めっちゃ迷惑そう。
⦅天龍様、今年も有難うございました⦆
⦅うむ……もう来年が待ち遠しいぞ⦆
⦅そう、仰ってもらえて、クロエは嬉しいです⦆
⦅それにの⦆
⦅はい?⦆
⦅門の精霊達が、お前の事を大切に思って居る。 これを⦆
ポワンと魔方陣が一つ、私の胸に乗り、体の中に入って行った
⦅これは?⦆
⦅門召喚符だ。 クロエが何処に居ても、門の精霊達を呼び出せる。 つまりは、この場所に入り放題になったわけだ⦆
⦅そ、それは……⦆
⦅なに、黙っていれば、誰も判らん。 困った時に使え、許す⦆
⦅有難うございます。 普段は絶対に使いませんので⦆
⦅うむ、そうだの。 使い時は、お前が図れ。 ではな、そろそろ、帰る⦆
⦅来年も、お待ちしております⦆
天龍様は送還されていった。 部屋が暗くなり、今年の【降龍祭】も、無事に終わった。国王陛下も王太后様も、安堵の色を隠しきれてない。 喜びが表情から判る。
憮然としているのは、御妃様とエリーゼ様のお二人。 もう、この人達、どうでもいいや。 意識の外に二人の存在を押し出して、扉の精霊を抜けて、王城へ帰還する。
⦅ 天龍様にとってもいいモノ、もらっちゃったよ ⦆
そう言って、扉の精霊に召喚符をみせたら、この子たち、みんな、喜んでくれた。 聞けば、この子たちが、天龍様にお願いしてたみたい。 そっかぁ……そうだったんだ。 ありがとう。 ホントになんかあった時にだけ使うからね。 宜しくね。
扉を抜け、【謁見の間】に戻って来た。 国王陛下が晩餐会へ、皆を呼んでいた。 さて、帰るか。
「クロエ様……先ほどは、誠に申し訳ございませんでした。」
侍従長が、丁寧に頭を下げて来た。 なんだ?
「今年の晩餐会は、是非ともご参加下さい。 王族の方々との歓談も必要かと……」
「……そうですか。 因みに、御出席者は?」
「王族と、傍系、および、近親者の方々で御座います」
……つまりは、ほとんどが白龍大公家の御一族様達で占められているって訳だ。 青龍大公家も、ちょっこっとだけ、混ざってる感じ?
「黒龍大公の奥様と、若奥様は?」
「ご出席かと」
「判りました。 では、ご案内ください」
「畏まりました」
この時、やっぱ帰るって言っておけばよかった。
奥様と、ソフィア様、悲しませることになったからね……
ゴメン、私の判断ミスだよ……
ブックマークが増えて、とても、とても、嬉しいです。
読んでもらえるって、本当に嬉しい。
楽しんでもらえたら、幸いです




