クロエ 夏季休暇が終わり進路を決める
遅くなりました!!!
とある「御本」が、放してくれなかったのです~~~
黒龍大公翁閣下には、ご機嫌麗しゅう!
ええ、とっても、麗しい、ご機嫌です。 ニッコニコの笑顔を振りまいておられます。 軽食もとても素晴らしいものが用意され、大公領フーダイから、特別にお取り寄せになった、弾けるブドウジュースなるものが、ケースごと、冷却の魔方陣の上に置かれ、程よく冷やされておりましたよ。 ちなみに、わたくしは、
飲んだこと御座いません!!!!
ええ、それは、わたくしの為に用意されたモノではありませんし、私が黒龍大公翁の執務室に行くのは、午前一回、深夜一回の日に二回だけです。 ええ、それは、わたくし以外への、饗応用の心尽くしでありました。
……トホホ……毎回、わたくしは、指を咥えるしかありませんのよ。 楽しんでくれよ、アスカーナ! ち、畜生……黒龍大公翁め……
ゴホン。
私には、私の御勤めがあります。 ほぼ、飲まず食わずで、お客様の接待、接待、ア~ンド、接待。
奥様が、私の社交スキルの上達の為に、わざわざ、黒龍大公の御屋敷で開催している、夜会の半主催者ですからね。やるしかありませ~~ん。 割と、いい方の笑顔の仮面を張り付けて、今夜も頑張っていきます。
確かに、私は社交は不得手です。 社交界デビューを、王室舞踏会で飾ったはずなのに、その後の出来事で、そんな事、忘却の彼方に消えました。 もう、王都では誰も覚えちゃいないのでは? さらに、学院の歓迎舞踏会では、王子様のおかげで、完全無欠の壁の花と化しました。
だから、社交って何? それって、どんな食べ物なの? おいしいの? 的な、状態が続いております。
奥様、なんか、とっても責任を感じてらっしゃってね…… 一生懸命なのよ。 ドレスだって、ほら、無理やり、流行りのデザインのモノを作ろうとしたり…… お飾りだって、ご自分の、ものっそう、ハデハデなモノをお貸しくださりやがったり…… とっても、空回り。 周りが止めてくれなかったら、こないだまでの奥様の、貧相なミニュチュア版ができていたところだったわ……
お屋敷のみんなが止めてくれてよかった。 お屋敷の皆さんや、ソフィア様と、キチンとお話して置いて、良かった。 クロエは、心の底から思いました。 外堀を埋める作業は、絶対に必要!! ってね。 奥様の行動が、善意から来るものだから、余計に質が悪い。 善意の大隊突撃に、クロエの防壁は、殲滅されるところでした。 お屋敷のみんなの、捨て身の防御遅滞攻撃で、なんとか、自分のスタイルを貫けた事は、非常に、非常に、嬉しかった。
アンナさんに言付けよう! 後で、みんなに、 ” お茶菓子 ” を、出して貰うよ。 とっても、美味しい奴。 ちょっと、お高めで、なかなか、 ” 口に ” 出来ない奴。 費用は、奥様に押し付けられていた、” お小遣い ” から、出すから、注文お願いね!
その、 ” お小遣い ” とっても、曰く のある代物だった。普段使いのお小遣いは、大公翁から、貰ってて、それで十分なのにね。
「淑女が必要な、秘密のモノを、贖うには、幾許かの対価が必要です。 足りなければ、何時でも言うのですよ」
そう言って、奥様、大金貨十枚を下さった。 おい、おい、おい、金銭感覚がおかしいんじゃ!! 淑女が必要な秘密のモノって、王都に一軒家を買う程の金額なのか? マジか? アンナさんに聞いたら、
「王族の御身内でしたからね、奥様は……」
との事。 やっぱり、普通じゃなかった。 学院の中庭での御茶会で、たまたま居たヴィヴィ妃殿下に、この事を聞いてみたら、
「秘密の別荘とか、奴隷とか、幻獣とか、色々あるじゃろ? 大金貨十枚とは、奥方様は、清貧を旨としておじゃるの。 見事な御心がけじゃのぉ」
……やっぱり、王族って、 ” おかしい ” 何もかも、 ” おかしい ” 世界中の王族が、経済をとっても、活発に回している事だけは、理解した。 うん、無理。 考え方が、全く異質。 此処は、笑っとこう! やってらんないよ~~~。
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夏季休暇中の最後のお客様は、ヴィヴィ妃殿下。 奥様曰く、” 一番難しい人を最後にしました。 ” との事。 今回もアスカーナは同行してくれた。 寝室でのおしゃべりは、私の癒し! ぜってぇ、放さねぇからな! 今回は準備期間もあって、ちょっと早めにお屋敷に到着。 黒龍大公翁、良かったね。 いっぱい遊べるよ!
私抜きでな!!
私は、必死にお勉強中。 もう一度、奥様と南アフィカン王国の事をおさらい。 ソフィア様も一緒。 優雅にお茶しながらね。 でも、会話で使う言語は、アフィカン語。 ソフィア様……口数少ないよ? …………普通にしゃべろうよ、奥様。
「妃殿下とお話する時に、少しでも円満になる様に、彼方の言葉を使います。 ヴィヴィ妃殿下は、難しい御方。 万全を期せねば!」
奥様、とっても気合入ってるね。 まぁ、今までの夜会、とっても順調だったし、有終の美を飾ろうって訳か。 ソフィア様も、大変ね。 こんな中に巻き込まれて。 ほんと、ゴメンなさい!!!
ヴィヴィ妃殿下は、予定通りやってこられました。 閣下ご一家も、とても緊張されてましたねぇ…… イヴァン様に至っては、本日どうしても抜けられない、お仕事を作られ御欠席です。
ヴィヴィ妃殿下、今日は民族衣装でのお越しです。 寛いでくださいと、奥様がご招待状に書かれていたみたいですねぇ…… ホントに、寛いでた。 ご一家の緊張は、何だったのでしょうか?
⦅のう、クロエよ⦆
⦅はい、なんで御座いましょうか、ヴィヴィ妃殿下⦆
⦅おぬし、リュートを嗜むのかえ?⦆
⦅ぶっ! なんでしょうか、突然……⦆
ヴィヴィ妃殿下の言葉に、やっと口にした紅茶を吹いた。 奥様には見つかってない。 良かった。 ヴィヴィ妃殿下が、その話を振ったのには、チョットした訳があった。 妃殿下と初めてお逢いしたあの音楽練習室、あそこに行った理由は、ビジュリーのバイオリンを聴く為。 あの日は、ビジュリーの練習日だったからね。 そんで、あの修羅場。
その後、ヴィヴィ妃殿下折りを見て、懲りずに、聞きに行ったんだって。 そこで、オトナシク、ビジュリーの練習を聞いてたんだって。 ビジュリーも、音楽好きに聞かれんのは、大丈夫だし、ヴィヴィ妃殿下も純粋に音楽が好きだったらしい。 で、仲良くなったって訳。 何かの拍子に、私の話題になって、ビジュリーの御家から、リュートを贈られた事を知った訳だ。 ふぅ、何処で繋がってるのかと思ったら、そんな事になってたのね。
恐る恐る、ヴィヴィ妃殿下に聞き出したのよ。 そしたら、案の定、何か弾けって。
⦅あの、ヴィヴィ妃殿下。 申し訳ございませんが、いま、リュートは手元にありません。 残念ながらまたの機会に……⦆
⦅ダメじゃ。 次の機会は、なかなか訪れん。 時間も残り少ないしの。 リュートが無いのならば、同じような楽器が有れば、よいのじゃろ? わらわの従者に、ピッパを弾くものが居る。 形が似ておる故、そなたでも弾けよう。 ここで、試すがよい⦆
妃殿下の従者の方が、リュートによく似た楽器を持ってきた。 ほんと、よく似てる。 【ピッパ】って言ってたな。 ちょっと手に持ってみる。 ほう、なかなか重い。 ちょっと、爪弾く。 音が違うね。 音階はあってるんだけど、ビヨ~ンってする感じ。 私の知ってる曲じゃぁ、ちょっと合わないかも……
⦅ヴィヴィ妃殿下、一つお願いしても?⦆
⦅なんじゃ?⦆
⦅御国で、よくお聞きになっている曲を、どなたかに弾いて頂けないでしょうか? 演奏法も判らないので……一曲だけでも……お願いいたします⦆
⦅うむ、もっともじゃ。 アシューラ、手本を⦆
そうヴィヴィ妃殿下が言って、一人の従者の方が、ピッパを受け取り、立膝をついて弾き始めた。 なかなかに、難しそう。 曲調や、コードは何となく判った。 運指も同じ感じ…… うん、何とかなりそう。
でだ。 一曲が終わる。 主題が何回も繰り返す、 ” カノン ” みたいな曲だったから、勉強になった。
私の番だ。 同じ様にピッパを持つ。 ドレスだから、チョットはしたないカッコに成っちゃったけどね。 まぁ、ヴィヴィ妃殿下の強要だから、お許し頂こう。 で、弾いた。
わりと、弾きやすいねコレ。 耳から聴いただけだから、正確な所は判らないけど、まぁ、いい感じに弾けた。 ヴィヴィ妃殿下、とっても喜んでくれた。 じゃぁって事で、もう一個、 ”ピッパ ” を持って来させて、アシューラさんに持たせた。 彼女が一曲弾いて、私がその後を受ける。 でもって、二人で合奏。
五、六曲、弾いたね。 うん、手がパンパン。 でも、楽しいね。 ホントに。
⦅おぬし……⦆
⦅はい?⦆
⦅いい笑顔が出来るではないか⦆
⦅えっ?⦆
⦅いや、なんでもない…………⦆
フッと笑われたヴィヴィ妃殿下。 とっても素敵な笑顔だったよ。 私…… いつも、そんなに不機嫌そうなのかな…… 普通にしてんのに…… ヴィヴィ妃殿下の御前では、一生懸命笑顔作ってたんだけどなぁ…… コッソリ、アシューラさんが教えてくれた。
⦅妃殿下は、作り笑顔が嫌いなのです。 いつも、そのような笑顔ばかり見ているので…… 妃殿下が初めて見られた、屈託の無い笑顔は、御親族以外では、アルバートル副王陛下だけだったのです⦆
⦅……そうですか。 アリ…… いえ、アルバートル副王陛下は、誇り高いアフィカンの戦士。 それに、女性と子供には、何処までもお優しくありますから…… 副王陛下の笑顔は、周囲を明るくする、魔法の様ですわね⦆
⦅まさしく、まさしく!!!!⦆
アシューラさん、めっちゃお喜び。 そんな笑顔を見て、私もつられて、素の笑顔が出たよ。 ニチャって笑いだよ。 ヴィヴィ妃殿下と目が合った。 花が咲いた様な笑顔をされていた。 なんか、暖かくなったよ。
まぁ、そんなこんなで、夜会の方は和気あいあいと、恙なく終了。 にこやかにヴィヴィ妃殿下は、王城ドラゴンズリーチにお帰りになられた。 楽しい時間は、アッと云う間だね。 でも、これって、社交なの? 単にお友達と、遊んだだけじゃないの?
「あの難しい、南アフィカン王国の妃殿下をお迎えして、よくぞあそこまでやり遂げました。 大変でしたでしょ。 素晴らしい事ですわ」
エリカーナ奥様の、 ” まさか ” の絶賛。 う~ん、なんか腑に落ちないよ。 楽しく遊んだだけじゃん。 まぁ、皆さんが良かったなら、良いのだよね。 うん、そうだよね。 そう言う事にしとこう。 さてと、アスカーナの救出に行くか。 黒龍大公翁手加減知らずだから、心配だよ。
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こうして、私の夏季休暇は、忙しく終わった。 終わってよかった。 あのままじゃぁ……死んでた。 学院に人が戻って来た。 休み明けの課題の提出も済んだ。 まぁ、頑張った方だね。 お屋敷から戻る前に、閣下に進路を尋ねられたよ。 何か勉強したい事はあるのかってね。 素直に答えて置いた。
「行政内務科と魔法科を兼科したいと思います」
「うむ、それでいいが、かなり忙しくなるぞ?」
「やってみとう御座います。 知らぬ事が色々と御座います故」
「クロエ」
「はい」
「どこまで出来るのか、試す事も必要だが、無理は禁物だぞ」
「心得ました」
「……頑張れ。 私が言える事は、この位か…… エルグリッドならば、どう云ったであろうか」
「” クーの思うがまま、自身の力を試してみたらいいよ ”、かと」
「うむ。 そうであったな。 あいつも、そう言っていたな。 相分かった」
これで、進路希望書に書き込めるよ。 さて、ホントに忙しくなりそうだね。 二年生から専門教育の時間が沢山増える。 課題だって、もっと強烈に成るって聞いてる。 ほんと、私、何処まで行けるか判らないけど、やるだけはやってみるつもり。
エル達も、専門決めてる感じだし、これから、四人で一緒にお茶する時間、あんまり取れなくなるけど、未来への扉を開く為だもんね。 頑張ろうよ! まぁ、ちょっとした決意表明みたいなものだよね♪
御茶会の面々も、それぞれ行く科を決めたみたいだし、中庭の御茶会も他の人達がメインになるかもね。 そん時は、お邪魔させてもらおう。 まぁ、マリーとは同じように、御茶するけどね。
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希望は聞き届けられたよ。 ンでもって、二年生用の教科書が届いたよ。 すんごい量だよ。 一年でこれだけ勉強するの? ……が、がんばるね
そして、今年の【降龍祭】の時期に差し掛かった。
やっぱりと云うか、なんというか…… 王室から、【降龍祭】への出席命令書が来たよ。 行きたくねぇ…… 今年こそ、出席者の人、誰でもいいから、古代キリル語を勉強してきてくれ。 もう、通訳は勘弁だよ。
頼むから!!!
ブックマーク有難うございました。
毎日、増えて行くブックマークに、力が湧いてきます。
本当に有難うございます!




