クロエ 夏季休暇を満喫する
風に吹き散らかされた、彼女の言う、”会報”とやらを、一緒に拾い集めて、何気なく目を落とした。 紙に書かれている内容に、絶句する私。 そりゃね、そうだよね。 これ書いたの、黒龍大公翁だねっ。
癖のある筆跡で丸わかり。 まさか、私の呼称が、 ”悪魔を身の内に飼う女童” とかね。 で、内容が、私の悪口。 私が読むとは思ってなかったんだろうなぁ……
遠い目をして、ばらけた会報の一部を持って、茫然と、その紙面に視線を落とす私に、アスカーナ=ホテップ男爵令嬢が声を掛けて来た。
「あの……クロエ様、会報を読まれておられますが、内容が読んでわかるのですか?」
アスカーナ、驚いてるよ、そりゃそうだ。 前文と、感想が本題みたいなものだもんね。 内容がアレだし……。 それに、他のページは、ゲームの事知らないと、たぶん記号の羅列だもんね。 たまに図表が入るくらいだし……。
それも、専門用語ばっかりでさ…… しっかりと理解できるの、このゲームを、かなり遣り込んだ人だけだもんねぇ。 ……”悪魔を身の内に飼う女童”が、私だってことは、黙ってた方が良いかも……
「ええ、……まぁ……この字に見覚えが御座います。 黒龍大公翁閣下の御手と、思いましたもので、つい、何をお書きになっているのかと、興味がわきましたの」
ふぅ、ごまかせた……かな?
「そうなのですか。 ……まさしく、これを書かれた方は、アレクサス黒龍大公翁閣下でございます。 ゲームのグランドマスター様で、本来、わたくしが手に出来るものでは御座いませんが、お許しを得て、読ませて頂いておりましたの」
「左様でしたか。……お許しとは?」
「ええ、 ゲームの高位競技者で組織されている、マスタークラブの方々のお許しで御座いますわ」
「でも、アスカーナ様も、マスターと、聞き及んでおりますが?」
「学生のマスターですわ。 学内にも、一般の組織の下位となるクラブが御座いまして、その一員ですの、わたくし……」
「なるほど、そのクラブでの最高位と云う訳ですね。 素晴らしいですわね、流石に行政内務科、王国戦略局志望ですわね」
「……いえ……そんな……」
恥ずかしがっとるね。 そんなもんかね、能力があるんだから、精一杯伸ばせばいいのよ。 そうだ、いいこと思いついた!
「アスカーナ様、もしよかったら、アレクサス黒龍大公翁閣下とお逢いに成りませんか?
「は、はひっっ?!」
「夏季休暇で、黒龍のお屋敷に帰る事に成ってしまったの。 一度、ご一緒してもらえると、嬉しいのですが、……ダメでしょうか?」
「よ、喜んで!!」
よしよし、まぁ、呼び付けられてるのは、本当だしね。 夏の休暇の間に四回程、帰らなきゃならんのよ。 理由は、奥様の企画されてる、” 夜会 ” に出席する為。 あの、魔法爆発みたいな、サプライズ夜会から、奥様、お屋敷への出入りが許可されて、今では、ちょくちょく、お屋敷に帰ってるらしいの。
ソフィア若奥様もいるしね。 二人して、仲良くしてるって、エルから聴いた。 で、奥様。 なんかとても反省されたみたいで、これまでの驕慢な態度が無くなって、思った事を素直に言葉にしてるって。
これは、ラージェ経由、マリオ情報。 お屋敷の使用人達も、最初は懐疑的だったけど、優しい笑顔の奥様が、ソフィア様と睦まじく、お茶してる所を見たり、 あの溺愛してたリヒター様に、ソフィア様の気持ちを考えて行動するように、諭されたりね。
ビックリしたのは、奥様、閣下と仲良くなってるんだって。 なんか、顔を赤らめながら、一生懸命にお話してるんだって。 ミーナ経由、アンナさん情報だから、間違いないね。 そんで、色んな夜会に二人していくんだって。 そんで、夜会の約束しようとするらしいんだけど、帰ってくる度に、奥様の顔色が悪いんだって。
理由はね、私。
かなり評判が悪いらしい。 ソフィア様とリヒター様ならいいよって言われて、更に凹んでたって。 ご招待しても、まず、私が出席するか聞いて来て、” その予定が有ります ” って、答えた瞬間にお断りされるんだって。 これは、エルさん経由、ヴェル情報。 確度は高いね。 まぁ、そうだよね。 学院でも色々やらかしてるしね。
で、奥様考えた。 事情を知らない異邦人のお客様を呼ぼう!ってね。 取り敢えず、龍王国周辺の四大国の方々と、その衛星国の方々をご招待するんだって。 それの、御接待を仰せつかってるのよ。 いやぁ……まぁ、ね。 ご迷惑かけますね。 ……行きたくないなぁ……
そんなこんなで、味方が欲しかった。 ちょっと癒しが欲しかった。 だから、頼んだ。 うん、ゴメン、巻き込むよ!
*************
指定された日の前日、お屋敷に二人して戻った。 私は余裕を見て、黒龍大公翁に時間を作ってもらう様、マリオに頼んでおいた。 なんか、めっちゃ喜んでたって。 当日、黒龍大公翁の執務室にお邪魔した。 そう、あの執務室ね。 そこなら、いくらゲームの話をしても、誰も困らない。
「アレクサス黒龍大公翁様、ごきげんよう!」
「よく、帰って来た。 学院はたのしいか?」
「はい、御爺様。 とても、楽しいです。 今日は、お友達をお誘い致しました」
「ん。」
「アスカーナ=ホテップ男爵令嬢様です。 とても、よくして貰っております」
「そうか」
いつもみたいに、めっちゃ睨んでるよ。 でも、いつもと反対、目が優しいね。 そんな事知らない、アスカーナ様、めっちゃくちゃ緊張してるねぇ。 アスカーナ様、憧れのグランドマスターの御前だもんね。 ガッチガチに硬いカーテシーを決めてる。 震えてるよ、大丈夫?
「エ、エルグリッド=ホテップ男爵が娘。アスカーナで御座います。 本日は、クロエ様にお誘い頂き、罷り越しました。 何卒、よしなに」
「丁寧な挨拶、痛み入る。 アスカーナ……あぁ、学生マスターの。 名前は聞き及んでおる。 かなりのやり手と聞く」
「勿体なく……」
「会報を回しても良いかと、問い合わせが来ていたので、有望な者ならばと、許可した。 受け取ったか?」
「あ、あ、有り難く」
「そうか! よし。 では、此方へ」
黒龍大公翁、早速始まったよ。もう、こうなったら、止まらないよ。 がんばれ! まけるな! 応援だけはするぞ!
「クロエも来い」
「御爺様、わたくしは、これから、奥様の言いつけで、夜会の御接待が有りますので、失礼いたします」
「なに?」
黒龍大公翁の側に寄り、小声で、アスカーナに聞こえない様に、耳打ちした。
「”悪魔を身の内に飼う女童”は、ココには居ません。 いいですね」
眼に力を込めて、極めていい笑顔で、黒龍大公翁に、お伝え申し上げた。 ” 絶対に、バラすな! ” ってね。 ご理解、頂けたようです。 何よりです。 ちょっと、シュンってなった、黒龍大公翁は、なんか、可愛いよね。 アスカーナ! あと、宜しく!!
―――――――――――
夜会は、上手く行った。 今回は、ミルブール王国の大使ご夫妻と、周辺国の人達。 あちらの国情とかを、それとなく情報収集。 結構、実り多かった。 あちらの方々も、楽しげにしてらっしゃたしね。 大使が面白い事云ってたよ。
「来年か、再来年に、我が国の上位貴族の娘御が、ハンダイ龍王国の王立魔法学院へ留学する事となっております。 まだ、準備が整い切らず、多分にご迷惑をおかけしております。」
ほうほう、誰か、高位貴族の令嬢がくるんだ。
「御年、十三歳に成られる方ですので、クロエ様と御同窓に成られるやも」
「それは、楽しみで御座います。 お友達になれますでしょうか?」
「それは、もう。 黒龍大公家の御令嬢と友誼を結べましたら、これに勝る喜びは、御座いませんでしょう」
「有難うございます。 楽しみに、お待ち申し上げます」
ふんふん、どんな子かなぁ…… まぁ、社交辞令なのは、判ってるよ。 ミルブール王国からの留学生だったら、王族とか、白龍大公一派とかが、がっちり巻き込むだろうしね。 御顔を見て、こんにちは!的な付き合いになるだろうね。 ……ちょっと、調べときますか。
和やかに、ホントに和やかに夜会は終わったよ。 とっても有意義な時間だった。 変な話、龍王国の貴族の方々とお話するよりも、ずっと実りが大きい。 話題だって、広範囲にわたるし、彼の国の常識とかが、会話から透けて見えるね。 色々、面白かったよ。
お客様がお帰りになって、閣下、と奥様が、居間に私を呼んだの。 なんか、失敗したかなぁ……
「クロエ、お疲れさまでした。 十分に役目を果たしたわね。 満足しております」
奥様の御言葉。 カーテシーを捧げて、答える。
「エリカーナ奥様の薫陶のおかげで御座います。 有難うございます」
「クロエの評判の悪さは……わたくしのせいね。 ごめんなさい。 どうかしてた」
「けっして、そのような事は……」
「いいの、謝らせて。 幼い貴女に、何という事を、してしまったのかしら。 悪評の数々は、わたくしのつまらない言葉から……もう、 ” 噂話 ” は、一人歩きしてしまって、わたくしには、どうする事も出来ないの……今となっては、謝る事くらいしか……」
閣下が、奥様の手を取っていた。 うん、反省してるよね。 たしかにね。 お得意の嫌味も、当て擦りもなく、素直に謝られたよ。 ……困ったなぁ…… あのビリビリした、” 緊張感 ” 好きだったのになぁ……んじゃぁ、いっちょ、言っとくか。
⦅奥様の御心が安んじられ、黒龍大公様と睦まじく過ごされますよう、精霊の聖名において、我、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントが、祈り捧げます⦆
うん、古代キリル語。 俗に言う精霊の言葉。 祈りの言葉で、奥様を言祝ぐ。 嘘偽りの無い、本心をさらけ出す為の言葉。 ……いままで、色々有ったんだろうね。 これからは、幸せな時間になると良いね。
奥様……泣き出した。
うわぁぁぁ……予想外!!
閣下! なんとかしてよ! って、なんで、閣下も、泣いてんのよ!! もう!泣いて居る女の人は、とっても、苦手だって、言ってるでしょ!!!
そう言えば、今日も、奥様、薄化粧だったなぁ……あれが、本来の奥様なんだろうなぁ……
*************
用意されていた部屋に帰って、エル達と顔を合してたんだ。 ん? なんか、足んない。
やべぇ~~~~
アスカーナ!!!!
ゴメン! 忘れてたよ!!!!
ドレスも着替えずに、急いで黒龍大公翁の執務室へ走って行った。 部屋の前で、一息入れ、ノック、ノック!
「良いぞ、入れ」
の、御言葉を貰って、入ったら、めっちゃ、いい笑顔のアスカーナが居たよ。
「クロエ様!!! 本当に、本当に、本当に、ありがとう!!!!」
「はっ?」
なんでも、黒龍大公翁の、手解きを受けられるのって、クラブの相当上位のマスタークラスしか出来ない事なんだって。 そんで、黒龍大公翁、私の時みたいに、小規模戦、何戦もやったんだって。 ルールは知ってるから、やりやすかったみたいね。
「儂も楽しかった。 ” 悪魔を身の内に飼う女童 ” とは違う、素直で真っ直ぐな差し手だったの。 このまま、育って行けば、御国の大切な頭脳となろうな」
「もったいなく……」
おい、じじい! ”言うな”って、いったろ! なに言い出すんだ!
「大公翁様に、なんど、お尋ねしても、その方の事は何一つ教えてもらえませんの……クロエ様からも、お願いしてもらえませんか?」
「い、いやぁ……そ、それは……」
黒龍大公翁、ニヤリって笑うな! 言わんぞ、絶対に言わんぞ!! どうせ、私は、 ” 悪魔を身の内に飼う女童 ” 、だからな、 ” 腹黒 ” で、 ” 人でなし ” なんだよな。 言えんよ、そんな事、彼女には……
引き攣った笑いを浮かべてるのは、知ってる。 でも、他の表情が出来ない。 楽しげに、実に、楽しげに、黒龍大公翁は、私に伝えた。夏の休暇の時は、私がお屋敷に来る時、アスカーナも一緒に来る事が、決まった。 決定事項だ、反論は許されないみたいだ。
ば、馬鹿……
御爺様の
馬鹿ぁぁぁ!!!!
さらなる、ブックマーク、本当に有難うございます。
あのぉ・・・読み難くないですか? ダイジョブでしょうか?
ちょっと、心配になってきました。




