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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
ヌーヴォー・アヴェニール 本編 物語の始まり
3/111

クロエ 困惑する

 

 私を王都シンダイに連れて来た”おじいちゃん”と、”おっちゃん”が私の前でめっちゃ謝ってる。 なんだこれ?特に”おっちゃん”。 涙目で謝ってる。 おじいちゃん、そんな、おっちゃんになんか、お怒りの御様子。 でもって、お屋敷の使用人達、みんな涙目。 なんでだ? 理由が判らん。


「クロエの姿が見えなくなって、……どんなに心配した事か……何故、赤龍大公閣下の処に居たんだ? それに、この家の何が気に入らなかった?」


 えっ? どういう事? なんで、私から出て行ったみたいな事に成ってるの? あれ? おお、そうだ、 ” おっちゃん ” の、ウラミル閣下の執事補佐のヴェルって奴に説明してもらおうか。




「ウラミル閣下。 事情は、ヴェル様がご存知です」




 背筋を伸ばして、ヴェルを見る。 あはははは! なんか、小刻みに震えてるぞ。 こいつ。 分かんなかったら聞けばいいのに。 その労を惜しむからだ。 執事が全てを知っているってのは、都市伝説だよ。 父様がそう言ってた。




「しかしだ、今は、そんな事は、後回しだ、……御爺様が先ほど、……身罷られた……」




 悲痛な表情と、声を出してウラミル閣下が私を見た。 どうも、「永久の別れの口上」を言えと云う事らしい。 いいっすよ。 お別れは、慣れている。




「閣下、どちらに、居られますか?」


「行ってくれるか。 案内しよう」




 閣下自ら、先に立って、部屋を出た。 迷わない様にって配慮か、後ろにアレクサスのお爺ちゃんが、くっ付いて歩いている。この屋敷に来るときに出来るだけ綺麗な恰好をしようとしたけど、やっぱり、ボロいね。 お仕着せの方が断然綺麗だ。 村で着てた服は、このお屋敷では作業着にもならないね。 うん、やっぱ金持ちは違う。


 段々と、重苦しい雰囲気になって来た。 永久の別れの席で使われる、あの香りが強く漂う。 うん、やっぱり死体だもんね。 匂い消しに使うよね。 でも、私、これ嫌い。 暗い廊下を進んでいく間に、おっちゃんに聞いた。




「閣下、申し訳ありませんが……」


「何かな?」


「パウエル様は、何の『香り』が、お好きでしたでしょうか? 薔薇でしょうか、他の花でしょうか?」


「……御爺様は、森の木々をお好みだった。 鬱蒼とした深い森が……。 龍王国が大きくなるにつれて、ここ、王都シンダイの周辺から消えて行った、森が好きだった」


「深い森の清冽な香り……お人柄がでますね」




 よし、決まり。 「死者の香」の香り取り払っちゃる。 魂が安息に向けて、その導き手になるのは、生前好きだった香り。 うん、婆様も言ってたね。 父様や母様、爺様、婆様の時は、村の生活の香りを使った。 満足そうだった。 「死者の香」の香りなんて、だれも好きになんかなれない。 体は、魂が抜けだした後の抜殻でしかない。 だから、魂が好む香りが一番いいんだ。 特に永久の別れの席ではね。


 陰々鬱々とした気配が感じられる部屋の前に着いた。 扉の向こうにパウエルお爺ちゃんの抜け殻がある。ウラミルのおっちゃんが、扉を開けた。 物凄い ”陰気”が流れ出た。 思わず顔を顰めたよ。 魂がこんな中に留め置かれたら、それこそ、死霊になっちまうぞ。 覚悟を決めて中に入る。 デカいお爺ちゃんが寝台の上に横たわってた。 胸に剣を置いて、長い年月を生き抜いて来た人に共通の、重~~い ”陰気”をダダ漏れさせている。




「永久の別れを、奏上させて頂く前に、陰気を払いますね」




 ウラミルのおっちゃん、なんか言いたそうだったけど、頷いた。



 ⦅天と地の精霊の聖名において、我、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントが奏上する。 長きに渡りハンダイ龍王国にその身を捧げ、魂が肉体と別れしパウエル。 その魂の平安を得る為に、その身に纏いし汚濁を、彼の者が好みし香りにて払う。 地と樹と水の精霊に助力嘆願す⦆



 精霊が好む、古代キリル語で奏上して、魔法陣を召喚した。 パウエルお爺ちゃんの上下に魔法陣が展開されて、下から森の香りが噴き出して、上の魔法陣が ”陰気”を吸い取る。 ついでに「死者の香」の香りもね。 部屋に鮮烈な深い森の香りが充満する。 ”陰気”が霧散して、穏やかな空気に替わる。




「こ、これは……」




 ウラミルのおっちゃん目を剥いてた。 けど、そんな事どうでもいい。 一応、肉親なんだし、精一杯お送りしよう。 亡骸の前に跪拝して、手を組んで、「永久の別れの口上」を始める。 人となりとか、何をしたかとか、そこは知らないから、ぶっ飛ばして、御霊を精霊様にお送りするところからね。 じいちゃんご苦労さん。


 ⦅遠き時の輪の接するところ、刻が意味をなさぬ場所、精霊様のご加護により、彼の者、パウエルの御霊を導き給え。 彼の者の成した諸々の所業に相応しき場所へ。 願わくば、彼の者の血縁者の御霊の元へ。 彼の者の、魂の平安をここに祈ります⦆


 古代キリル語は、こんな時便利。 開拓村にキリル自治領から来た男の子が居たから、教えてもらった。 なんかわかりやすかったから、すぐに覚えたよ。 あとで、父様にその事言ったら、よくやったって、撫でてもらった。 嬉しかったなぁ……


 ウラミルのおっちゃん。 なんか、泣いてた。 アレクサスお爺ちゃんもな。 そうだよね、肉親が亡くなったら、悲しいもんね。 泣くといいと思うよ。 その涙は、魂の浄化の涙。 流すだけ流したら、前に向ける。 明日に繋がる涙だもんな。 ……私が流せなかった涙だもんな……




 *************




 おっちゃん達に連れられて、元の部屋に戻った。 他の人達はみんなどっかに行っていた。 ウラミルのおっちゃんが、なんか真剣な目をして、話しかけて来た。





「クロエ、君はそんなに幼いのに、どこで、古代キリル語なんて覚えたのだい?」


「開拓村に、キリル自治領の子たちもいて、教えてもらいました」


「あれは、そんなものでは無いだろう」


「……父様にも、ちょっと」


「やはりな……それにしてもだ」





 アレクサスお爺ちゃんがなんか遠い目をしてた。 焦点が合って、私を見た。 ちょっと! なんか怖いんですけど!




「永久の別れの前に行った、あの魔法はなんだ? 部屋が清冽な空気で満たされ、父上の全盛期を思い起こさせる、あれは……」


「亡くなった方の好きな香りで、”陰気”を追い出しました。 ”陰気”は魂の汚れ。 長く生きた方はそれなりに魂に汚れがこびりつきますから、精霊様方にお願いして、汚れを浄化します。 その時に亡くなった方の魂をより分ける為に香りで識別するそうです。 人が好きな香りは、その人の魂の香りです。 婆様から教えてもらいました」




 説明は、いるよね。 普通は「死者の香」つかうもんね。 それに、「死者の香」は、亡くなった人が、どんな香りを好むのか判らない時に、強い香りで、それをごまかす為のものだもんね。 本当の近親者が送り人だったら、亡くなった人の好む香りもわかるしね。 だから、意外だった。 あんなに強く「死者の香」を焚きこんでいたのが。 知らんかったんか?





「……そうか、父上は召されたか」


「ええ、今は、精霊様と共に遠くへ行かれたと。 まぁ、父様や爺様と同じ所へお願いしますよって言いましたけど」


「ああ……聞いていた。 ありがとう。 父上が最後の最後まで気にしておられたからな」





 シンと静まったその部屋。 おっちゃんと、お爺ちゃんがなんか感慨にふけってる。 さぁ、私は……開拓村に戻してもらおう。 剣と宝珠は、もういいや。 きっと、最初はきっとこの家の家宝かなんかだったんだろうし、返してくれって言っても無理そうだし……ほんと、草臥れ儲けだ。 




「本当に、ありがとう」


「儂からも礼を言うぞ、クロエ」


「何か、欲しい物があったら言って欲しい。 ここ暫く、この家には女児が生まれていないのでな」


「なんでも、用意するぞ」




 おっちゃんと、お爺ちゃんが、口々にそう言ってくれてた。 まぁ、用無しな人間には、なんかやって追い払うのが常ですよねぇ。 突然連れてこられたと思ったら、屋敷の中をたらい廻しされて、よそんの  ” 小間使い ” に、なってたんだからねぇ。 給金も貰えんかったし…… 先立つモノをちょっと貰おうか。




「あの。誠に申し訳ないんですけど」


「なんだい?」


「路銀を……ロブソン開拓村まで帰る路銀を貰えたらなぁ……って」




 なんか、二人とも絶句してる。 なんで? 路銀で厄介払い出来るんだよ? お得だよ? そんなに出せないの? 嫌なの? もう!!




「い、いや……この屋敷に居るのは嫌なのか?」


「剣も、珠も、渡しましたよ? 」


「こ、此処で暮らせないのか?」


「使用人さん達は足りてるみたいだし……私、必要なんですか?」


「し、使用人?!」


「ロブソン開拓村には、みんなのお墓もあるし……」


「し、使用人とは、何の事なんだ?」




 ウラミルのおじちゃんが、泡食ってるぞ? よくわからんよね。 だから、此処に着いた日からの出来事を全部話した。 うん、赤龍大公様の処で働いていたんだってね。 アレクサスお爺ちゃん、ウラミルおじちゃん、目が点になってた。 なんか、再度、物凄く謝られた。 知らんよ、そんなもの。 





「誤解があったようだね。 執事には話したつもりだったのだが…… クロエ、我が家は君を養女として迎える。 君は私の娘として、シュバルツハント黒龍大公家の娘として、此処で育てるつもりだ。 ダメかい?」





 えぇぇぇ? 何を血迷った事を? 私が大公家の娘? あり得んでしょ。 開拓村の医者の娘だよ? そりゃ、父様とか、爺様とかは、この家の息子だったけど…… 父様のお友達だった、エミール=バルデス伯爵様も、もう父様も爺様も貴族じゃないって言ってたし……なんで? どうして?





「少なくとも、今夜は寝なさい。 明日、もう一度、ゆっくり話し合おう。 父上、宜しいですね」


「もちろんだ。 クロエ。 儂たちは、お前を立派な大公家の娘にする義務がある。 亡き父上の御意思でもある。 嫌だとは、言わないでおくれ……頼む」





 あ~ なんで~! 何が何だか訳が判んないよ!!!








曾祖父死す。 クロエ、大公家の息女となり、貴族籍取得す

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