クロエ 生涯の友人達を得る よん
「クロエ様!! 直ぐに音楽科の練習室に!! お願いです!!! たすけて!!!」
マリーが泡食って、ノックもせず、先触れも無しに、部屋に飛び込んで来た。 いや、飛び込めず、扉にぶち当たって、初めてドンドンってノックというか、破壊工作というか、物凄い音がしてた……なんだ? あの大人しいマリー……何があったの!
ほんと、ビックリして、扉を開けたら、真っ青な顔のマリーが、物凄い形相で、私の手を取り、走り出そうとしてた。
「クロエ様は、外国語、何種類も話せましたよね。 助けて! お願い!!」
物凄い力で、ぐいぐい来るね。 良く状況が呑み込めないよ。 でも、なんか、切迫してる事だけは、理解できた。 だから、一緒に走ったよ。 音楽科の練習室に。 たしか、今日は、ビジュリーが来るってんで、かなりの数の高位貴族様たちが、押し掛けてたような……
はて?
まぁ、一目でわかった。 奥の方で、白龍大公令嬢が、クッションをモリモリに積んでる中に横座りしている、滅茶苦茶、” 妖艶な女の人 ” に、食って掛かってる。 ちらほら聞こえる単語が、非常に危ない。 ” 田舎者! ” とか、 ” 遊女 ” とかね……
あのね、エリーゼ様。 貴女が滅茶苦茶、 ” 罵ってる相手 ” って ……多分、南アフィカン王国の北の族領の御姫様だぞ? 知らんのか? 貴女、仮にも、第一王太子の婚約者だぞ? 未来の王妃なんだぞ?
緩くウエーブのかかった、黒檀のような漆黒の黒髪。 同じ色をした瞳。 切れ長の目、通った鼻筋、愛らしくちょっと厚めの真っ赤な唇。 もう、美の神に愛されているって、確信出来ちゃう様な、御顔。 その美しい御顔は、薄いベールで被われているねぇ。
額に見えている、サークレットには、血の様に赤いルビー、何重にも掛った、金と銀の鎖が、デコルテに掛かっている。 色帯が、胸と腰に巻いて、薄物の上掛けが何枚も…… お靴は履いてなくて、綺麗な足が見えていたよ。 薄い褐色の肌が、彫像みたいで、ものすごっく、スタイルいいの。
……見惚れそうね。
なんか喚いているエリーゼ様の取巻きの中で、青い顔で、状況のヤバさを理解しているのは一人だけ。 でも、なんも言わんのよ。 ダメでしょ。 貴女達、白龍大公家の傍系の人でしょ? 外交で龍王国に仕えているんでしょ?
ヤバいでしょ。
なんで、止めないの? ほら、お姫様の侍従、剣呑な雰囲気出し始めたぞ? 言葉は、判らないんだろうけど、エリーゼ様の口調から罵倒されているのは、判ると思うよ?
死ぬよ? マジで。 無礼討ちは、南アフィカン王国では違法ではないのよ?
緊張が高まって来てる。 ホントにヤバイ。 そっと、青い顔してる令嬢の後ろに立って、言葉を掛けた。
「マーベル様、御兄さまの、コンダンレート子爵様を、お呼びになって下さいません? その間、なんとか時間を稼ぎます。 マーベル様、エリーゼ様を練習室から、遠ざけてください。 取り敢えず、間に入ります。 このままでは、エリーゼ様の【御命】が危ない……」
ハッとして、私の顔を見詰める、マーベル様。 あんた、兄ちゃんに、 ” ぶっ叩かれた事 ” 、根に持ってたよね。 時々、遠くから、睨みつけてたよね、見えてたんだよ。 でもね、今は水に流してあげる。
流石に、人の生死に関する事だもん。
青い顔で、震えながらも、彼女は頷いてくれた。 あとは、私が上手くやるだけ。 激昂してるエリーゼ様と、お姫様の間に、さりげなく滑り込んで、カーテシーを決める。
「これは、これは、異国の御姫様。 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント と、申します。 どうぞ、お見知り置きを」
視線を合わせる。 強い視線だね。 エリーゼ様、絶句してる。 マーベル様、今だ! 後ろへ! よし、下がってくれた! あれ? あれれ? 剣呑な雰囲気そのままだぞ? 目の前のお姉ちゃん、笑いながら怒っとるぞ?
「そなた、何故、わらわの楽しみをうばったのじゃ? それに、立ったままで、挨拶とはのぉ……」
うわぁぁぁ、【龍王国】の言葉で喋ってるよ…… という事は、あの罵倒、全部理解なさってたって事だよね…… すぅぅって、目を細められた異国のお姫様………… うはっ、戦闘続行中だ。 こりゃまずい、南アフィカン王国の正式な座礼に切り替えだ! 確か、奥様とのやり取りにあったよね。 初挑戦だけど…………
いけぇぇぇ!
左足を折って、右ひざを抱えるように座る、両手を広げて、指先を床に付ける。 腰から上を曲げて、顎を持ち上げて顔を見る。 ここで、俯くと臣下の礼に成っちゃうから、必ず、顔を上げるんだっけ。
「誠に、失礼いたしました。 姫様」
相手の目が、丸くなる。 驚いてるね。 よし、成功! 奥様、ホントに感謝! でも、まだ、周囲に居る侍従から、殺気が抜けてない。 仕方ない…… 此処に居る人には、判らんだろうけど……アフィカン語に変えよう……
⦅誠に不躾ながら、姫様の御芳名を頂く事をお許しください⦆
⦅ふむ、わらわは、ヴィヴィ。 ゲーテン族のヴィヴィ。 おまえ、クロエと云うのか?⦆
よし、やっぱり、母国語だよね。 ちょっと、殺気が収まった。 ん? ヴィヴィ? う、う、うぁぁぁぁ!!! やべぇ、やべぇよ!!! 南アフィカン王国の北方族領最大の勢力の御姫様だ!! よく、あの罵詈雑言に我慢してたなぁ!
⦅左様に御座います。 ゲーテン族 第一族領姫 ヴィヴィ=ダーラ=ゲーテン様⦆
⦅うむ。 では、先ほどの質問に答えてもらおうかの⦆
⦅……”何故、楽しみを奪うのか”との、ご質問でしたわね⦆
⦅そうじゃ、おぬし、判っておったろう、もう少しで、赤い花が咲くと⦆
⦅咲かせとう御座いませんでしたので。 ここ、龍王国、王城ドラゴンズリーチの中で、赤い花が咲くと、北アフィカンの大地が赤く染まります⦆
⦅ほう、無礼討ちでもか?⦆
⦅正式な作法に則れば、龍王国でも可能です。 が、相手は僅かに十二歳の女童。 女童の暴言は、戯言とお聞き流し頂きますよう、伏してお願い申し上げます⦆
⦅礼法も知らぬ者が、わらわの前に立つか!⦆
⦅礼法を教育するための学院で御座います……何卒!⦆
⦅…………そうか⦆
なんか、考えてるね。 侍従たちは殺気を治めてくれた。 ちゃんと話が出来るもんが来たからな。 この対応は、嬉しい。 あれ? お姫様、ニヤッって笑ったよ。 なんだ、この、人を不安にさせる笑みは…… 嫌な予感しかしないよ。
⦅よく、学んでおるな、クロエは。 わらわの名、良く知っていた。 じゃがの、ちょっと古いぞ、その名は。 立ちゃれ⦆
云われた通り、立ち上がった。 なんだろう、風の精霊が警報を発してる。 そっと、スカートに挟んであった鉄扇を握る。 礼法上、起立姿勢だから、問題ない。 ヴィヴィ様、ふわっと風の様に立ち上がると、一気に間合いを詰めて来た。 本能が、右手を上げさせた。 最大警報が鳴ったからね。
ザシュッ
ガジッ
鉄扇が、何かを受け止めた。 ほえぇぇぇ…… 何時の間に、ヴィヴィ様、短刀持ってんの! 鉄扇じゃ無かったら、切飛ばされてたよ……私の首。 一応、目に強い力を込めて、ヴィヴィ様を睨む。 他の人からは、刃物は見えない。 上手く隠すね。 お付きの侍従たちも、虚を突かれて動けていない。 これは、ヴィヴィ様の単独犯だ。
さらに、風の刃も幾重にも纏いつかせていたね。 おかげで、顔とか、手とか切り傷だらけになったよ。 でも、初撃は凌いだ。
⦅ほう、避けたか。 ならば、教えようぞ。 我は、南アフィカン王国の副王が妻 ヴィヴィ=ヌクイヌス。 第一王妃じゃ。 クロエ、おぬしの名は我が夫、副王アルバートル=ヌクイヌス から、聞いておるぞ。 我が夫が、精霊に、 ” 生涯を掛ける誓約 ” を、捧げられたと聞く⦆
ギリギリと、刃が行ったり来たりしてる。 切り傷から、血が噴き出す。
⦅あれは、僅か五歳の女児の事を哀れに思われたからです。 他意は御座いません。 手すら握った事ありません。 誇り高き戦士、アリ様はそういう方です!!⦆
もう必死! ヴィヴィ様、私の事そんな風に見てたんだ! 違う、ち~が~う~!!
⦅それに、わたくしにも、婚約者がおります。 不誠実な事は決していたしません!!!⦆
ふっと、力が緩んだ。 ふえぇぇぇ…… こえ~よ、このお姫様。 刃物を人に向けても、にこやかな笑み、絶やさなかったよ……この人、笑いながら人殺せるね。 うん、きっと、何人か死んでるよ。
⦅なんじゃ、そうだったのか。 ……ゆめゆめ、忘れるでないぞ、その言葉。 アルバートルはわらわの物じゃ⦆
⦅御意に御座います!⦆
やっと、短刀を引いてくれた。 距離を詰めたのと同じように、フワッて、元に位置に戻られた。 私も跪拝に戻った。 やってらんねぇ~~~~!!!
そん時、やっと、マーベル様が横に来て、私と同じように跪拝した。
「ヴィヴィ様、我が兄が参ります。 今しばらく、お待ち下ださい。 外務の者の不行き届き、お許し下さいませ」
「うむ……よきに、計らうがよいぞ」
ヴィヴィ様、なんか機嫌が良くなったね。 良かったよぉ~~~。 ちょっと、釘差しとくか。
「ヴィヴィ様」
「なんじゃ、クロエ」
「この事は、アルバートル様には、お知らせされませんわよね」
「……何の事じゃ?」
「ヴィヴィ様のお付きの、 ” 侍従さま達 ” にも、そうおっしゃいますか?」
「……クロエ……おまえ、わらわを脅すのかや?」
「はて? 何の事で御座いましょうか?」
彼方此方の切り傷から、血が滴ってる私の顔に、笑みが浮かぶ。 きっと壮絶な微笑みだろうね。 うん、釘、効いてるよね。 ヴィヴィ様の笑顔が初めて凍ったね。 よしよし。 そんな私を、マーベル様、目をまん丸にして、見てた。
なんか、絶句してる。 いいんだよ、これは、ヴィヴィ様の焦りだよ。 受け止めなきゃね。 しっかし、王族って怖いね。 なんかあったら、すぐに死んじゃうよね。 気を付けよう。
暫く、当たり障りない、腹の探り合いのような会話をヴィヴィ様と続けて、ようやく、相互不可侵条約を口約束出来た。 まぁ、お互いちょっかいを出さない様にしようねって所で、手打ち。 その会話を聞いてたマーベル様、改めて、私の方に向かって頭を下げた。
「クロエ様…… 数々の非礼、誠に申し訳ございませんでした。 わたくし……なんと……お詫びを言えば…… それに、エリーゼ様の為に、このような……」
「お詫びは要りませんわ、これからも、エリーゼ様を良く御守してね。 龍王国には必要な方なんですもの」
「……はい。 肝に銘じます」
やっとこ、コンダンレート子爵が、外務の人連れてやって来た。 なんとか成った。 人も死なずに済んだ。 まぁ、アフィカン語が判らない周りの人から見れば、エリーゼ様がお話してた、外国の人に、突然私が話し掛けて、お怒りを買ったみたいに見えたでしょうね。
血まみれの私だものね。 外務の人も、コンダンレート子爵もちょっと引いてたね。 まぁ後から、マーベル様が事情を説明してくれる事を期待しようか。
外務の人達とヴィヴィ様が出ていかれる時、小首をかしげた彼女が私に聞いて来た。
「クロエ、おぬしの後ろには、誰が居たのじゃ?」
質問の意味を考えてから、答えたよ。
「龍王国の民と、南アフィカン王国の民ですが、なにか?」
「そう……なら、私の負けじゃ」
ってさ。 なんで、そうなるの? 良くわからんよ。
で、その場は、解散。 血まみれの私は、医務室直行。 また、マリーが泣いたよ。 ” わたしのせいです~~ ごめんなさい~~~ ” って。 メイドズも駈け込んで来た。 そんで、泣いてた。 だ~か~ら~、女の人泣いてるの、苦手だって言ってるでしょ!! もう!!!
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そんな事があって、ちょっとしてから、黒龍大公家から、『お叱りの手紙』を受け取ったよ。 ” 事情は外務の人から聞いたけど、もうちょっと穏やかな方法は無かったのか ” とね。
うん、あったら、教えて欲しい。
私だから、切り傷で済んだんだよ? あれが、エリーゼ様だったら、確実に死んでた。 そんで、南アフィカン王国と戦争に成ってた。 たくっさんの人が不幸になったよ? 切り傷で済んだんだから、良かったじゃん。
「お嬢様……マリー様のお話を聞いて、生きた心地がしませんでした……」
エルの青い顔は暫く続いてたよ。 ヤバいと感じた閣下が、護衛の手配をしようとしてたんで止めた。 私はね…… 自分の為すべきことを為しただけ。 護衛に意味は無いし、たとえ、居たとしても、変わりは無かったと思うよ。 だから、無用の者は必要ないですって、お断りしたの。
あとね、奥様に丁寧にお手紙書いた。 奥様との戦のお陰で、白龍大公様の大切な御子の命が助かりましたってね。 本当に感謝してるよ。 だから、文字はアフィカン語にした。
命が掛かった遣り取りの後ね、とっても、良い事が有ったのよ。
やっと、法務官の審査が終わったの。 学生会の掲示板に、大きく張り出された裁定の結果。
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--- 布告 ---
宛: ハンダイ龍王国 王立魔法学院 理事、および、学生会
発: ハンダイ龍王国 法務院 審査室
主文:
ハンダイ龍王国 王立魔法学院 理事、および、学生会より発議された、中庭使用制限の申請を却下する。 また、今後、同申請、及び 類似した申請を受け付けない。 仮処分の取り消し、および、中庭使用は現時点を持って発効する。
事由:
王立魔法学院規則、および、学生規律に当申請に該当する条文が存在せず、また、根拠となる規則、規律も存在しない。 中庭使用の権限を全生徒に与える事は、王立魔法学院の設立理念に則っている為、当発議を受諾した場合、王立魔法学院の設立理念に反する事となり、学院の解散を命ずる事に成る。 よって、たとえ、全学生、および、全職員が賛成したとしても、法務院 審査室はこの申請を却下するものとする。
異義は認めない
署名: ポール=ブスレット=グランリーブラ法務大官
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だって!
やっほい! これで、大手を振って、中庭、使えるよ!! やったね! 最高な気分だ!!! 嬉しい!! 精霊祭までに、何とか場所見つけようと思ってたんだ~~~。 でも、これで、中庭を使えるし、また、マリーとお茶出来るねぇ!! ビジュリーもお昼寝出来るし、 マーガレットも、ヤバい草、地植え出来るよ!!
みんな~~~、やったねぇ!!
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うららかな、春の終わり。 咲き乱れる花々。 白いテーブルクロス。 色んな茶器。 美味しいお菓子。 眩しい笑顔、笑顔、笑顔。 嬉しい! 楽しい!!! みんな戻って来て呉れた!!!
マリーは、ホンワカ笑ってるし、ビジュリーは寝てるし、マーガレットはいつも通りだし、アスカーナは喰ってるし。 ほんと、いつも通りに成ってくれた。 良かったぁ~~
上級貴族達からの、横槍は無かった。 やっぱり、本職の決定は効果的だね。 ホントに一発で収まった。 まぁ、もともとの状態に戻った、だけだけどね。
でもね、 私の横に、とってもいい匂いがするのよ。 絶対に居そうにない人が居るのよ。 ちゃんと普通のドレス着てるのよ。 にこやかに笑ってらっしゃるのよ。 でも、周囲に五人程、侍従さん達が立ってるのよ。 もう、落ち着かないったら、ありゃしない。
「クロエ、それはなんぞ? 良き匂いがするのぉ」
「はい、ヴィヴィ様、ミルファード産の紅茶に御座います。 お入れしましょうか?」
「たのむ」
「はい」
なんで、ヴィヴィ王妃、中庭でお茶してんのよ~~~!!!!!
色々と嬉しい事が有ります。
ブックマーク100ですって! 素敵です。
読んでもらえて、ホントに嬉しいです。
引き続き頑張ります。




