クロエ 生涯の友人達を得る さん
御茶会が出来る場所…… 探しましたよ。
ええ、頑張りましたよ。 外郭、歩き回りましたよ。 でもね、ないのよ。 庶民階層の誰もが出入りできる場所って……ほんと、中庭くらいしかないのね。 倉庫とか使えるかなぁ…… って思って、行ってみたら、荷物で溢れかえってやんの。 そりゃそうだよね、運び込まれる荷物、半端な量じゃ無いもんね。 滅茶苦茶、忙しそうで、みんな殺気だっとるね。
この中で、御茶会? ビジュリー寝れる? 無理無理!
はぁ…… どうしよう。
放課後、外郭の中、場所を探してウロウロしていたら、見知らぬメイドさんに呼び止められた。 お仕着せのピシって決まってる様子とか、持ってる小物とかで、伯爵家以上の御家に勤めている人と感じたね。 所作だって綺麗だったし。
「あの…… 突然、お声かけして、申し訳ございません。 ……シュバルツハント黒龍大公御令嬢様で、御座いましょうか?」
「はい? 確かに、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントで御座いますが、……何か御用でしょうか?」
なんか、話し掛け難そう。 エルが時々、こんな顔するよね。 原因は、主に私が、ヤラカシタ時。 ” 分かっちゃいるけど、そこまでしなくても…… ” の、表情。 そのメイドさん、ちょっと息を吸い込んで、
「中庭での、【大公家のお茶席】は、各家の使用人たちの…… 安らぎでした…… あの場所での時間は、まるで宝石の様にキラキラと輝いた時間でした。 そんな時間を作って頂いた事に感謝を…… シュバルツハント黒龍大公御令嬢様におかれましては、ここ暫く、よく外郭のあちこちで、静かな場所をお探しになっておられるご様子ですね……」
「ええ、散歩がてらにね」
「……残念ですが ……外郭にはもう、静かで、余っている場所はございません。 わたくし、外郭に出入り出来る商人達の管理をしている、さる伯爵家にお仕えしております。 それとなく、御主人様に外郭の部屋や倉庫の空き状況を確認しましたところ…… 今年度から、王族の方、高位貴族の方、他国より留学される方が多数、入学されまして、それに伴い、取引量が増大して、現状も満杯状態が続いているそうなんです」
「……そうなのですか。 やはり、ありませんか。」
そんな気がしてた。 荷物が本当に多い。 回廊のあちこちにも積み上げられているしね。 う~ん、ほんとに場所が無い。
「……あの」
「はい?」
「どうして、そんなにまでして……お探しになるのですか? 【サロン】をお開きになった方が……」
あぁ……ここにも居たのか……この言葉はねぇ、……ストレス溜まるよ。【サロン】じゃぁ、意味ないんだよ。 【サロン】じゃぁね。
「だって、皆さんが息抜きできないじゃないですか。 私が不用意にビジュリー様にバイオリン弾いて貰って、高位貴族の方々の注意を引いてしまった事から、中庭の使用制限が科せられてしまいました。 わたくしの責です。 先生方にも、お知恵をお借りするのですが、皆様、異口同音に【サロン】の開設を勧められました。 しかし、それでは、あなた達、庶民階層の方々が気軽に来れないじゃありませんか。 それが、嫌なのですよ、わたくしは」
「え、でも……」
「公の場所でのちょっとした息抜き。 いいでは有りませんか。 仰々しい【サロン】で、寛げない人間も居るのですよ、わたくしの様に。 それに、わたくしのせいで、その場所を取り上げられるなんて、全くもって、気に入りません。 だから、探しているのですよ。 ……まぁ、わたくし自身の為でもありますわね」
ニッコリと微笑んでみる。 この笑顔は、貴族共にはしていない、割と素に近い笑顔だ。 もちろん眼も笑ってるよ。 黒龍大公家の、「笑いながら怒る」 仕様じゃないよ。
「左様で御座いましたか。 ……ありがとうございます。 わたくし達の憩いの場の事まで考えて頂いておられたのですね。 誠に有難う御座います」
あれ? なんだこの違和感。 単に、 ” 探してもありませんよ ” で、 ” それでも、なんで、必死に探してんの~ ” 的な感じの他に、なんか隠してるよね。 ……これって、私がなんで、 ” 場所 ” 探ししてるか、何を思って探して居るかの確認よね。 そうで無いと、 ” 感謝 ” の言葉は出てこないよね、二回も。
もしかして……
私の事を、皆が呼ぶように、 ” クロエお嬢様 ” と、呼びかけず、 ” シュバルツハント黒龍大公御令嬢様 ” と、呼びかけた事。 メイドズを介さず、直接私に声を掛けた事。 お仕着せも、まるで仕立て上がったばっかりの様に、真新しい事。
それに、この人は、伯爵家当主に、直接、 ” それとなく ” 運び込まれる物資の量を、聞いたって事。 それって、ある意味、秘匿すべき、 ” 機密事項 ” なのにね。 ……あり得ない。 そうだよね、あり得ない。 だから、一つの可能性が浮かんできた…… 確認しよう。
「いいのですよ。 わたくしが納得できないのですから。 理不尽な処置でも、ルールはルール。 法は法。 従うべきは、「 法の精神 」ですね。 だから、足掻くのですよ。 理念と現実とをすり合わせる為に…… そうでは御座いません事?」
「えっ?」
「……貴女の御主人様に、お伝えください。 どのような「裁定」を下されましょうとも、粛々と従いますと」
「 っ! ……ご存知でしたの……」
「何となく、そうではないかと。 では、ごきげんよう!」
困惑した顔のメイドさんを後に残し、さっさと、その場をずらかったよ。 法務官か、法務官補助だよ、あれ。 絶対にそうだよ。 ” ご存知でしたの ” が、答え。 まぁ、双方から言い分を聞くってのが、法務官の職務の一つだからね。
学生会からの要望……いや、上級貴族の強権での要望を審査するんなら、現状を把握する必要があるもんね。 そんで、中庭に来てた、各家の使用人とか、庶民階層の学生とかに、それとなく情報収集してたんだろうね。
直接、呼び出さないのは、主家の御威光が邪魔するから。 使用人は、主家の人間が、 ” これは、白い ” って云ったら、黒いものでも、 ” はい、白です ” って言わないといけない、弱い立場なんだから、現状を確認する為、細心の注意を払ってるのね。 ……本気で取り組んでるんだ、法務官。 なにが起こるんだ?
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早く、 ” 場所 ” 見つけないと、ストレスで禿げあがりそう!! マリー達とのお茶会、したいようぉ。 癒しが欲しい…… 息抜きしたい…… はっ! エルは? 良かった、見て無かったし、聞こえて無かったよね。 聞こえてたら、きっと。
「今以上、息抜きしたいとは? どういった意味なのでしょうか?」
って、最近身に着けてた、⦅笑いながら怒る⦆ 黒龍大公家の秘技を使われそうだよ。 でもね、そんなに【息抜きばっかり】してないんだよ?
最近、手紙の遣り取りが多くなっているのよね。 文通みたいでしょ。 お相手はね、ソフィア若奥様。 色々と相談事とかあるのよ。 基本、私、ボッチだしね。
それに、エル、ラージェ、ミーナの事を、黒龍大公家にご報告する義務もあるのよ。 だって、私が引き込んだんだものね。 あの人達、私の事と、学院で拾った他家の情報しか、マリオに報告してないみたいなのよ。
だから、私が彼女達の事を、ソフィア若奥様に「ご報告」して、若奥様から、マリオなり、アンナさんなりに、伝えてもらうの。 ほら、彼女達の夜会用のドレスだって、こうやって繋ぎを付けたんだから、良い事でしょ? まぁね、ちょっと時間が掛かるのが難点だけど、考える時間が持てるのは、良い事だと思うのよ。
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最近ちょっと、思い出した事があったの。 学院に留学に来てる、他国の貴族さんを見ててね、私、どれだけ他国の礼法知ってるんだろうって。 ほら、アリが礼法見習いで、龍王国に留まった事有ったよね。 あれって、他国に行って、其処の礼法知らないで、やらかして、取っ捕まったって事でしょ?
怖いよね。 私は何時までも、王都シンダイに居られるとは思ってないし、もしかしたら、他国に行くかもしんない。 そん時、他国の礼法を知らなくて、いきなり、「無礼者~~!!」って、問答無用で殺されちゃう可能性だってあるんだよ? ヤバいよね。
だったら、この国を取り巻く四つの王国や、自治領なんかの事知っておくべきだよね。 特に礼法! 言葉は、変でも何とかなるんだ。 でも、他国の禁忌って、知っとかなきゃ、知らんうちに落とし穴に嵌っちゃうでしょ? だから、礼法、そして、禁忌について、学んでおかなきゃね。 女性に対しての禁忌って多そうねぇ……
でだ、そんな心配をして、取り敢えず、やらかした実績がある南アフィカン王国の礼法に付いて、なんか知らないかって、ソフィア若奥様に手紙を出したんだ。 そんで、その返事がね……
「それならば、わたくしよりも、もっと適任な方が、居られますわ」
って、連絡が有ったのよ。
……エリカーナ奥様が、最適任者だとさ……
流石に王家の人だよ。 他国との関りが多いから、他国の風習、礼法、礼典則、禁忌、風俗、食べる物とか、流通している嗜好品とか、そんな多岐に渡る情報を整理して、覚えてるんだって。 王家の外交は必要不可欠だからって。 ソフィア若奥様も、色々と勉強したらしいけど、あんまり多いので、途中で適当になったって。
でだ、エリカーナ奥様、 彼女、凄い努力家でさ、四大周辺国だけでなく、自治領やら、属州領、部族領なんかも、徹底して勉強したらしいの。 当然、南アフィカン王国についても、 ” よくご存知ですわよ ” ってさ。 今更、仲よくしようとは思わないけど、せっかくソフィア若奥様に促されたんだからって、最初は季節の御挨拶から始めたのよ。
でね、……やっぱ無視された。 そりゃそうよね。 でもね、同じ黒龍大公家に所属してんだから、 ” ちょっとはねぇ ” って、思い直して、切り込んだわけよ。 ” 南アフィカン王国について、御教え願えたら嬉しいです ” ってね。 ……あぁ、ちょっと仕掛けはしたよ。 書いた文字、アフィカン文字。
初めて反応が有ったよ。 一冊の本が送られて来たの。 分厚い奴。 「【アフィカン王国】 その歴史と考察」って奴。 全部、アフィカン文字。 こりゃ、ダメかなって思ったけどね、意地も有ったし。 読破したよ。 面白れぇ内容だった。 くっついたり、離れたり。 内戦したら共倒れしたり。 サバンナ地帯だから、国土は裕福じゃないのよ。 少ない資源の取り合いなのよ。
自然と、 ” 人材 ” の大切さが、あの国では当たり前になってた。 特に女性、および 子供。 知っててよかった。 あの国の生活が想像できるよ。 でもね、なんか腑に落ちない部分もある訳よ。 それをね、アフィカン語でまとめて、送り返したわけ。 ” こんな場合はドウナルンデスカ? ” ってね。
ソフィア若奥様から、来た手紙に書いてあった。 エリカーナ奥様、黒龍大公家にあった、アフィカン王国に関係する本、全部送れって手紙に書いて来たって。 で、マリオに相談して、全部送ったって。
どうも、白龍大公翁にも同じ事書いてたらしい。 こっちは黒龍大公翁の情報。 白龍大公翁から、黒龍大公翁に問い合わせが来たんだって。 大公翁珍しく、私に手紙書いて聞いて来た。
で、ソフィア若奥様に大公翁に説明してもらった。 大公翁から手紙が届いた。納得しとった。
その手紙を貰った、二週間後、スンゴイ長文の回答が来た。
” こんな事も、ご存知ないの? ” って、【キリル語】で書いてあった。 アハハ! ネタぁ割れてんだよ! けどね、せっかく調べてもらったんだし、良く読んでみると、凄い内容が濃いの。 ほんと、良く調べたなってくらい。 だから、御礼状出したのよ。
⦅ 物知らずで、誠に恥ずかしいです。 これからも、判らない事が有ったら、ご教授下さいませ ⦆ って、【古代キリル語】で、御礼状がてら、お送りいたしましたわよ、オホホ!
多分、この遣り取り、全部、閣下知ってる。 エリカーナ奥様への手紙は、閣下が検閲する事に成ってたらしい。 ソフィア若奥様に経由、大公翁情報。 閣下、手紙みてから、たっぷりと悩み込んだ末、ポロっと云ったそうだ。
「なにやってんだ?」
はい、戦で御座います。 でも、凄く刺激的な戦ですわよ。 で、現在も継続中。 四大周辺国の【その国の言語】で、書かれた原書が飛び交っておりますわよ。 クロエ、負けたくないです。 必死に食い下がってます。 ある意味、黒龍大公家で付けてもらってた教授陣よりも、奥様、手強いです。
手紙の挨拶文は、相変わらずの物ですが、どうやら、奥様も私を好敵手と、感じて下さっているらしく、彼方の方から、” この場合は、どうするのが正解なのでしょうかね? ” とか、疑問を投げかけて来て下さいますよ。 そうなったら、図書館通いが始まりますね。 いやぁ~~、負けたくないっす!!
例の中庭使用禁止令が出てから、あちこち、ぶらついた後、部屋に帰って、奥様との戦いにいそしんでおりましたわ! だって、お手紙の頻度、上がりましたもの。 そうそう、閣下と、学院でたまたまお会いした時、仰ってましたね。
「エリカーナが、自分付きの侍従達を王城へ戻した。 あっちの屋敷の使用人達を使って、何やら楽し気に、調べ物に没頭しているらしい。 この間、様子を見に行ったら……化粧してなかったよ。 あれだけ華やかに飾り付けられていた居室が、今じゃ本と書き散らかした羊皮紙で埋まっている。 なにが有ったんだ? クロエ……なにか、知らないか?」
「閣下、 自分の得意とする所が必要とされると、人は変わりますよ? エリカーナ奥様はきっと、【元は】そういう方だったのでは? あんな風になってしまったのは、もしかしたら、閣下にも、ちょっとは、ほんの少しは、……まぁ無いでしょうけど、……責任あるのでは? 必要とされて輝く人も居られますし…… ね」
なんか、閣下滅茶苦茶悩んでた。
女性の少ない黒龍大公家ならではの、” 問題 ”ですわね。
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まさか、
奥様との戦が、
役に立つとは、思ってなかった……
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