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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
泣き言は言わない
24/111

クロエ 生涯の友人を得る



 

 ちょっと、衝撃がデカすぎた。




 何にもやる気が起きない。 部屋でぼ~~っとしてる。 朝の鍛錬だけはしてる。 アルフレッド様が、学院をお辞めになり、故郷の辺境領へ旅立たれる日、私もお見送りに出た。 凛とした御顔……さぞや、無念だろうなぁと、思っていた。 法務官様達が沢山見送りに来ていた。 法務大官様までいた。 学院の同窓の方々も大勢いらっしゃった。


 法務官様達は一様に沈痛な面持ちだったし、御同窓の方々は、男性は悔しがり、女性は泣いていた。



 私が、もっとうまく避けていたら…… 


   私のせいだ……


     私のせいだ…………

 

       私のせいだ…………


         私のせいだ………………




 アルフレッド様は、法務官様達に丁寧にご挨拶されてた。 御同窓の方々には、一瞥もくれずに私に向かって歩いてきた。 途中、私たちの間に割り込むような形で、一人の女性がアルフレッド様に向かい合った。





「なぜ、アルフレッド様が、退校されなければならないのですか! この娘のせいですか!」





 その顔に見覚えがあった。 四人組の上級生の一人だ。 たしか……





「ネー男爵令嬢、君は、まだ、君のしでかした愚かな行為に、自覚が無いのだな。 もう、私は、君に何も言う事はない。 反省もせず、自省もできない、愚かな君にかける言葉すら見いだせない。 退いてくれ」





 女の人が泣き崩れた。 知らん。 泣きたいのは、私の方だ。  私は、あの日結んだ、精霊誓約があるから、私は、泣く事すら出来ないんだ。 だから、アルフレッド様を真正面から見つめる事しかできなかった。





「クーちゃん。 そんな顔しないで。 俺は、これでも清々してるんだ。 王都の暮らしも悪くは無いが、やっぱり、俺は辺境領がいいな。 帰れるんだよ。 いい事だよ。 クーちゃん。 待ってるからね」





 そう言って、優しい笑顔で、私を抱きしめてくれた。 


 アルフレッド様を乗せた、伯爵の馬車は南門を通り抜け、小さく小さくなっていった。 見えなくなるまで、その馬車を見つめていた。






 *************






アルフレッド様の姿が、学院から消え、私の気分が最低な毎日を送っていた。 そんな、つまらない、引きこもりの毎日に、 驚きの出来事が、二つ立て続けに起こった。



――――――



 一つ目は、婚約者様のお目通りだった。 まともにミハエル第二王太子殿下を見たのは、この時は初めてだった。 でもさぁ……態度でけぇのよ。 なんか、見舞いに来るって感じじゃ無かった。 不貞腐れている、ミハエル殿下(婚約者)を、連れて来たのは、まさかのフランツ第一王太子殿下だった。


 ミハエル殿下(婚約者)の、素っ気なく、冷ややかな言葉が、彼の口から流れ出した。 挨拶の言葉も無くね。





「なんだ、元気そうだな。 顔を切ったそうだな。 眼の下か。 まぁ、眼つきの卑しいのはそのままだがな」


「ミハエル!! 何てこと、言い出すんだ! 謝れ! クロエ嬢に謝れ!!」


「えっ? なんで、王族の俺が、高々、黒龍大公の、 ” 養女 ” に、謝らねばらなんのですか、兄上?」


「お、お前本気で言っているのか?」


「母上もそう言っていましたが? 身分の怪しい下賤の女が黒龍大公の養女に潜り込んだって。 そんな者が、御婆様の一言で、王族のわたしの婚約者に成りおおせたんですよ? このくらい……」


「もういい、帰れ。 お前が何を言おうが、考えようが知らん。 知りたくもない! しかし、覚えて置け。 お前の目の前に居るのは、紛れもなく、黒龍大公家の令嬢で、今回の事件の被害者だ。 さらに、お前が、どう思っていようと、彼女の婚約者でもある。 王族、王族と云うのなら、王族の品位を考えろ! ……帰れ」


「言われなくても……帰ります。 こんな所に来るんじゃなかった」





 そう、言い残して婚約者様は、お帰りになった。 ……不毛だ。 なんで、お願いされて、婚約者になったのか、ホントに判らん。 アナスタシア王太后様も、ごり押しだなぁ…… 幾らでも、【降龍祭】への出席理由なんか作れるのになぁ……歴史書読めば、【龍の巫女】ってのも居たことあるんだし…… はぁ、安直に準王族に組み入れるから、こんな事になるんだ。


 でだ、派手に兄弟げんかをした、片割れが残っている。 そう、フランツ第一王太子殿下だった。 こっちが申し訳ないくらいに、 ” 萎れて ” いる。





「ミハエルが……奴が、一度も見舞いに行っていないと聞いて、引きずって来たんだが、悪かった」


「殿下が悪い訳では御座いません。 お気持ち、嬉しく思います」


「……それにしても、御顔、大丈夫でしたか?」


「すこし、引き連れますが、目は無事でしたので……大丈夫です」


「そうですか。 お大事にしてください。 災難でしたね」


「全くです。 もう少し、わたくしが、きちんとした対応を、出来ていれば……、アルフレッド様に申し訳なくて……」


「うむ、アルフレッドは、本当に残念な事だった。 彼には、周囲も大いに期待していたのだ。 馬鹿一人の為にな……」





 何だかしんみりしてしまった。 此処にも、アルフレッド様の良き理解者が居られた。 フランツ殿下が王位を御継ぎに成られたら、きっと………… アルフレッド様への罰則も恩赦頂けるのではないかなぁ…… 淡い期待だけど、無きにしも非ずだもんね。 期待してるよ! 殿下!


 突然の訪問に焦ったけど、取り敢えずは、アルフレッド様の事を案じてくれている王族が居た事が嬉しかった。 





 *************





 二つ目は、エルが持ってきた、お手紙だった。 う~ん、お手紙と云うより、喚問状かな。 差出人は、ポール=ブスレット=グランリーブラ法務大官様。 グランリーブラって云う、役職名がそのまま、御名前になる人。 爵位と家名は、法務大官様になる時に、ハンダイ龍王国に返上される。 一代限りの生涯官職。 強い権限を持った、国王様でも従わざるを得ない、法典の守護者。 うんと偉い人。 普通は会えないし、会いたくも無い人。


 内郭の内側に法務院、全局が置かれる、本当の意味での龍王国の中枢。 諸外国との同盟や条約なんかも、このグランリーブラ法務大官様の御署名が無ければ、無効になってしまうのよ。  この方が喚問するっていう事は、もう、国事犯クラスの犯罪を犯さないといけない位。 ……あの、私、被害者ですけど……?


 でも……あそこは、アルフレッド様がお勤めされていた場所でもあるのよね、法務院って。 ちょっと、見たい気もする。 呼び出し日時、場所を確認して、お返事をしたため、ご返送した。 ” ご指示通りにお伺いいたします ” ってね。


 内郭への門は、とんでもなく厳重に警備されていた。 一応、閣下おじさまに、喚問状が届いた事をお知らせしたら、当日、扉の前にイヴァン様が待っておられた。





「知らせを受けた。 随行するよ、クロエ。 大丈夫だ。 なにを問われても、事実をお話すればいいだけだからね」


「はい、従兄様」


「……傷……大丈夫かい?」


「はい、従兄様。 もう痛みませんし、多少引き連れるだけですわ」





 だいぶ、吹っ切れてる。 傷は思ったより深くて、なかなか閉じなかった。 直ぐに治ると思って、ほおって置いたら、引き連れた。 目じゃなくて良かったよ。 治癒魔法は、目が近すぎるから、掛け辛くってね。影響がでたら、困るし、自然に任せようと思う。 だいたい、開拓村だったら、” つば付けとけ ” って言われてたしねっ!





「……女性に、クロエに何てことしやがったんだ!」





 ボソッとそう呟くイヴァン従兄様。 そんなに心配しなくても……過保護だよ。 ホントに! でだ、従兄様の先導で、法務院の中を歩く。 色んな部署が有るもんだね。 アルフレッド様、何処に居たんだろうねぇ……





「アルフレッドは、内事局だったから……あの辺で仕事をしてたよ。 優秀でね。 ホントに残念だよ」


「はい…… 龍王国にとって、大変大きな損失ですね」


「ああ、その通りだ。 きっと、その辺も聞かれるな。 彼は、グランリーブラ法務大官様にとても大切にされていたと聞くよ」


「そうでしょうとも。 あれほど優秀な方は、そうは居ませんものね」


「なんだ、クロエ。 アルフレッドの話をするとき、妙に力が入るね」


「……従兄様……」


「いや………… 何でもない……行くよ」


「はい」





 従兄様、なんで笑ってんの?  私、なんか、顔に火が付いたみたいだよ。 なんだよ…… いきなり……   もう!





――――――



 ポール=ブスレット=グランリーブラ法務大官様 壮年の渋いおっちゃん。 もうね、威厳が服着て歩いてるみたいな人だった。 今回の事で、 ” すこし、判らない事が有るから来てもらった ” と、おっしゃった。 基本的には、事実確認ばっかり。 それも、直接の事件じゃ無くて、本当の原因。 マーベル=トーニア=コンダンレート公爵令嬢の暴言とかね。 そっちの方だった。 


 イヴァン様も知ってたみたいね。 特に驚くことなく、聴いていらした。




 ” 配慮 ” をもって、特に、 ” 不問 ” とした経緯とか、その理由とかね。 公にしたら、それこそ、大惨事。龍王国の外務にも影響が出る。 エルヴィン=トーマス=コンダンレート子爵は、ご理解頂けていたみたいで、親しかったアルフレッド様にもご相談したそうね。 法務大官様の言葉で初めて知りましたよ。 本当に私が何の行動もとらなかった事に、安心と感謝をしていたとね。 


 そんな中で、暴走したのが、あの四人組なんだって。 寝た子を起こす様な真似をして、アルフレッド様の怒りを買って、法務官候補の地位を棒に振った。 で、どうしても法務官になる様に、一家で頑張ってたあの人が、暴発したって事。 つまりは、私の配慮が原因って訳。 ……焼け野原にしたくないよ。





「良く分かった。 私には判らんのだが、何故君が、其処までされなければならないのだ?」


「わたくしにも………… ただ…………」


「ただ?」


「ナタリヤ妃殿下のお気に召さない事が御座いまして……」





 歯切れ悪く、【降臨の間】の出来事を思い出しながら、そう言った。 法務大官様、額に手を当てて、唸っていたよ。 その一言だけで、全てが氷解したって顔されてた。





「クロエ嬢、気を付けた方がいい。 あの方の後ろには、ルードヴィッヒ白龍大公閣下が居る。 何かと野心の大きなお方だ。 今の王室は大半が白龍大公閣下の勢力下にある。 これからも、何かとあると思うが、挑発には乗らない様に。 ……それと、もう一つ」


「はい」


「今回の犯人に付いてだが、厳罰を望むか?」





 ちょっと考えた。 そりゃ、ひねり殺したいぐらいだけど……ねぇ。 それに、直接手を出したのは一人だけだし、背後関係も、どこまで遡ればいいのか、微妙な問題だし…… 下手を打ったら、それこそ大惨事になる。 そんな事は望まない。 自分の感情は取り敢えず取り分ける。 自分は無力だと思い知ったから。





「法の定める罰を。 それ以上は望みません。 また、法務大官様は、政務への影響もお考えでしょうから、わたくしから、申し上げるべき問題ではございません」 


「よろしい。しかるべく。 因みに、直接犯は、爵位剥奪、貴族籍離脱、連座で御家の爵位は降格。 君を呼び出した連中に付いては、やはり、貴族籍の剥奪と云う所だ。 実質、彼らにとっては身の破滅だな。 市井に交じり、額に汗して御国に尽くしてもらう。 また、彼等には今後、一切の法務に関する職業を選択できぬようにした。 ……すまぬ、これ以上は、藪蛇になる」


「理解しております。 …… 一つだけ?」


「なんだ?」


「アルフレッド様が法務官で居られなくなった事と引き合いますか?」





 ちょっとした、嫌味だった。 政治的決着、大いに結構。 しかし、それはそれ。 どうしても、法務大官様の本音を聞きたかった。 唸る様に、腹の底から不気味な声を絞り出した法務大官様。





「割りに合う訳なかろう! すぐさま、一族郎党縛り首にしたい程だ!!」





 怒りが伝わる。 法務大官様の本音が聞けて良かった。 アルフレッド様を大切に思う方が、もう一人見つかった。





「失礼いたしました」





 私の、くっきりと口元に浮かぶ笑みを、イヴァン様は横目で見ていらした。 驚くように、そして、咎めるでもなく…… 部屋を辞し、学園に戻る途中、イヴァン様から。





「良く聴いてくれた。 あの方の本心など、誰も聴いた事が無い。 俺も……嬉しかったよ」


「はい、従兄様。 アルフレッド様……高く評価されて居られたんですね。 本当に嬉しいですね」





 私の言葉に頷いてくれた、イヴァン様。 敵味方の印が次々に張られていくね。 本当に王城ドラゴンズリーチって伏魔殿だねぇ…… 黒龍大公家の皆さま、お腹の具合は大丈夫ですか? 胃に穴開いてませんか? なにか……気がまぎれる様な事が有ればいいのに。





 *************





 ちょっと、溜飲がおりた。 でも、やっぱり、気分は最低だった。 エル達も、何かとしてくれるんだけどね。 ミーナが先触れを伝えてくてた。 誰かが来たいそうだ。 誰だろう……あんまり気分が乗らない。 ミーナが強く推して来たよ。





「お嬢様。 お嬢様はアルフレッド様の御気持ちを受け取らないんですか?」





 胸に鋭い痛みが走る。 ゴメン、ミーナ、その名前を耳にするのは、今の私には辛すぎるよ。 でも、彼女の意図はわかった。 頷いて、身嗜みを整える。 暫くして、ノックの音と共に、聞こえて来た声。





「クロエ! 大丈夫? 御顔を見せて貰いに来たわ」





 鈴を転がす様な、歌うような、心に柔らかな光が差す様な、そんな声だった。 マリー=ハンナ=アズラクセルペンネ青龍大公令嬢その人だった。 扉が開くと同時に、走り込んで来たマリー。 私を見つけると、大きく腕を開いて、突進してくる。 しっかりと、……しっかりと抱き締められた。





「クロエ! クロエ! 心配したわ。 張り裂けるくらい、心配したわ。 せっかく出来たお友達に、酷い事が降りかかるなんて!! 大丈夫?」





 矢継ぎ早にそう言うマリー。 真っ赤な顔。 腫れぼったい目。 泣いてくれていたんだ。 


 お友達…… かぁ……


 嬉しいな。


 私、お友達、出来たんだ。







「マリー! クロエは大丈夫です!!」


 





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