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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
泣き言は言わない
23/111

クロエ 冬の庭園を慶ぶ




 冬はいいね。




 こう、空気がピンと張り詰めててね。 王城ドラゴンズリーチも、寒さの中に、凛として聳え立ってるよ。 冬の暖かいベッドの誘惑は、夢魔の誘惑(インキュバス)級だね。 ほんと、二度寝したら、絶対に起きれないよ。 気合を入れて、起き上がるんだ。 いっつもね。


 そうそう、あれから、ちょくちょく、アルフレッド様から、お茶のお誘いがある。 旧交を温めるべく、寒い中庭の東屋に行く。 ほら、私、これでも婚約者もちだから、男の人と逢うのは、ちょっと気を遣うのよ。 だから、アルフレッド様も、考えてくれて、シーガイカ辺境伯爵領出身の人達とか、何の紐もついてない人達も交えての、御茶会を仕組んでくれてたの。 うん、旧交を温めるのよね。


 エルたち、メイドズも一緒に行く。 みんな制服。 これで、完璧に単なるお茶会。懐かしい話で盛り上がるよね。 メイドズとかには悪いけど。 口調はお嬢様風を堅持してるけど、内容は完全に辺境の子供の、 ” あるある ” 的な「お話」。 でもね、アルフレッド様、旧悪を暴く事は、旧交を温めるとは言いません事よ?




「クーちゃんが、お嬢様言葉だと、爆笑もんだな! エリックに聞かせてやりたいよ」


「……アルフレッド様」




 エリックは、開拓村の村長の息子さん。 いつも、殴り飛ばされてる様なやんちゃ坊主。 私の片腕で、悪友。 そんでもって、力持ち。 顔は凶悪なんだけど、めちゃ優しい男の子なんだよねぇ…… どうしてるかなぁ……





「それはそうと、クロエ、お前、まだ、鍛錬やってるか?」


「ええ、まぁ」


「やっぱり、七十二通り全部?」


「もう、日課みたいなものですから……」


「あれから、六年経つよなぁ……体も出来上がってきてるし」


「まぁ、アルフレッド様! そんな、はしたない!」


「今度、辺境領に来たら、また・・魔物討伐でも、してくれ!」


「もう! 嫌だわ!」


「ハハハハッ」





 エルが目を丸くしてる。 そうね、やっぱりそんな反応するよね。 同席してる人達も、ほぼ一緒。 今じゃ、黒龍大公家のお嬢様やってるけど、お転婆通り越してたからなぁ……。 多分、今でも、伝説になってんじゃないかな、コボルト十匹全滅させる五歳女児なんてね。 アルフレッド様が、こんな事言うのには、訳があるんだ。 



^^^^^



 まだロブソン開拓村に居た頃、爺様の剣を持ち出して、近所で魔物狩りをやってた。 ある日、エミールおじ様がアルフレッド様と一緒に来た時の事よ。



 私が出歩くのが、危ないからって、アルフレッド様が、”護衛してやる” って言ったのよ。



 そんで、お外についてきた時、オークが一匹、出て来たんだよ。 で、アルフレッド様が私を逃がそうと、頑張って呉れたんだ。 ―――頑張ったけどね、やられそうになったのよ。


 わたしさぁ……爺様と父様から、 ” ちょこっと ” ……ううん、違う、 ” みっちり ” 手解き受けててさぁ……片手に防御魔方陣展開して、爺様の剣で、急所攻撃して、討伐したのよ。


 もう、魔力も体力もすっからかんだったけどね。泥だらけ、血まみれになりながら、討伐部位もって、家に帰ったら、めっちゃ怒られた。 私がだよ・・・・! 





「エミール領主様の息子さんに万が一の事が有ったら、どうするつもりなんだ!」


「えぇぇ~~~、だって、アルフレッドが付いてくるって言ったんだもん。 私が頼んだんじゃないよ?」


「それでもだ!! 守り切れる自信があったのか?」


「うん。 そんなに森の奥に行かないから、大丈夫!」





 そん時のアルフレッド様のかおったらね…… 守ってるつもりが、守られてたんだからね。 今でも思い出して笑いそうだよ。 爺様も、父様も、最後には笑ってくれたけどね。 それ以来、アルフレッド様、私の護衛はしなくなって、勉強頑張ってたわ。 ” どうせ、剣で遣り合っても負けるし、どうせなら勝てる方に力を入れる ” って。 


 その結果が、卒業前に法務官に任官するほどの、超エリート様におなりになったのよ。 何が幸いするか判らないわね。 まぁ、こんな話は、今の私達には、黒い過去でしかないから、黙ってるけどっ!  ……ね、アルフレッド様っ!


 御茶会は、楽しんだよ。 ホントだよ。 アルフレッド様が、ああいった会を設えているのは、多分、閣下おじさまの手配だ。 エルから、マリオか、アンナさんに、私がボッチしてるって、報告が行って、そんで、心配した閣下おじさまが、エミールおじさまに頼んだ感じがしたのよ。


 だって、任官している法務官って、滅茶苦茶忙しいのよ? ほんと、入学してから暫く、アルフレッド様の御姿、学内でみなかったもの。



 そんで、お礼を言ったのね。





「……アルフレッド様……お気遣い、本当に有難うございます」


「ん? 何の事?」


「お友達が、出来そうですわ」


「……何よりだね。 一生の友達になれるといいね」


「はい」





 ニッコニコ顔のアルフレッド様の顔が眩しいよ。 何時も助けられてる。 ん、父様達が亡くなった時も、何にも言わずに、抱き締めてくれたの、アルフレッド様だったもんね。 


 そんで、一人、お友達が出来た。 青龍大公家のお嬢様。 なんでも、一番下の方らしい。 御名前は、マリー=ハンナ=アズラクセルペンネ青龍大公令嬢。 ” マリーって呼んで ” って、云われて、嬉しかったぁ。今度、アルフレッド様抜きでも、御茶会しようねって、約束したよ。


 マリーはね、青龍大公様のお嬢様なんだけど、なんでも、” 龍印 ” が、大層弱くしか受け継がれなかったんだって。 青龍大公様、早々に、彼女を王室へ、 ” お輿入れ ” させない事にしたんだって。


 でも、魔力は凄く沢山持ってるし、優しいし、頭もとってもいいのよ。 何より性格がね。 ホンワカとした雰囲気と、愛らしい顔で笑って、お喋りしてる姿を見てると、女子力たっけぇなぁ~~~って思う訳よ。 


 そんで、お友達になりたいなぁ~~って思ってたら、彼方から、 ” お友達になって ” ってさ!! お貴族様の中のドロドロ嫌いなんだって。 だから、普段はお部屋に籠っているって。 んじゃ、今度お邪魔したいなぁ、って云ったら、即 





「宜しいですわよ。 何もない部屋ですが、お迎えできればうれしいわ」





 だって!!!! 行く行く! 直ぐ行く! 閣下おじさまに、貰ったいい紅茶あるんだ! 持ってくよ! 


 冬の東屋の寒い中、私はとっても幸せな時間を過ごせたみたいだ。





*************





 授業は楽しい。 知らない事、知らなければならない事、いっぱいあった。 私って、偏った知識しか持ってなかったのね。 でも、まぁ、いいや。 此処でしっかりとした基礎を作ればいいんだから。 課題もたっぷり出るしね。 授業が終わって、部屋に戻ってきたら、扉の前に誰かいた。 なんか、物凄く暗い雰囲気が漂ってる。 





「く、クロエ……様……」





 私? なんで、私? ババッっと周囲を見る。 何人かの人がいる。 衛兵さんもいた。 なんとか、なるかなぁ……





「なんで、御座いましょうか?」


「せ、先日は、ま、誠に…… す、すまない」


「先日?」


「よ、呼び出しの事だ」


「あぁ…… 別段、気にしてませんわ」





 これでいい筈。 自分としては、危害を加えられた訳でも無く、放校処分を言い渡された訳でも無い。 至って、普通に・・・、暮らしておりますよ? 





「い、いや、その何だ。 バ、バルデス伯爵様に、く、口添えを……」





 そういや、あの並んでた四人の中の一人だったね、この先輩は。 口添えって、何すりゃいいのよ。 知らんよ。





「ほ、法務官に成らねば……お、俺は……破滅だ」





 ほほう、何を言い出すのかと思えば、そんな事か。 ハッキリ言おう、





「ご自分で、バルデス伯爵様にお伝えください。 私には関りありませんわ」





 いや、お嬢様言葉は長い。 単に、” 知らん!! 自業自得だ! ”って云えれば楽なのにね。 部屋の前にいて、入れないよ。 なんか、目を血走らせて、こっちを見てる。 迷惑だなぁ…… 怖い顔をしても、私には関係が無い。 仕出かした事の報いだ。





「た、頼む!! 何とか……」


「そこを、お退き下さらないかしら? お部屋に入れませんわ」


「ぐぐぐっ……も、もはや……な、ならば…………!!!」





 なんか、懐に手を入れたと思ったら、いきなり、ナイフを持ち出しやがった! 何考えてるんだ? 仮にも、法務官、目指してたんだろ? お前、学院内で、それも、決闘では無く、男子生徒が女子生徒に切りつけるって…… それにアンタは、上級生だ。 それも、最上級生だ。 生徒の模範たれ! って、常々、言われてるだろ! あぁぁ、何か頭に来た。


 まるで、なってない。 ナイフで切り付ける、上級生。 一応、大声で周囲に危険を知らせる。





「誰か! ご乱心です! 助けて!」





 よし、注意は引いた。 衛兵さんが、こっちに意識を向けた。 こっちに来るまで、ちょっと時間が掛かりそう。 じゃぁ、こいつが手にナイフを持ってる事、教えておこう。





「刃物で、何を成さるつもりですか!!!」





 よし、衛兵さん、速度を上げた。 駆けつけてくれるみたい。 でも、間に合うかな…… バックステップで避けようにも、後ろは壁だ。 無手でも、撃退出来るけど…… やっぱ、殺っちゃったら、物凄く問題がでるよね。 しかし、こいつ、ブンブン振り回すね。 体格がデカいから、それなりの圧迫感あるね。


 し、しまった。 誰だ、こんなとこ濡らした奴は! 足が滑った!! ナイフの刃先が顔の側を通る。 目はヤバイ、ちょっと上を向く。 刃先が眼の下を切り裂いた。 うわぁぁぁ、爺ちゃんゴメン! 油断した!! 


 やっと、衛兵さんが取り押さえてくれた。 ふぅ…… 汗をぬぐったら、目の前真っ赤になったよ。 あぁ、血か。 ちょっと出血したね。 血止めあったかな?





「衛生官!!! 衛生官!!!! 早く!!!」





 衛兵さんが絶叫してる。 上級生、泡吹いてひっくり返ってるからなぁ…… 手厚い看護・・・・・が。必要だね。 って、云うか、駆けつけて来た衛生官さん達、なんで、私の周りに群がるの? ちょっと切っただけだよ? なんで、担架持ってきてるの? 寝ろって? えっ? ちょっと、切っただけだよ?






 部屋に帰りたい……







*************





 大事に成りました。


 私のせいじゃないもん。


 みんな、大混乱だ。


 学院内で傷害罪が発生するのは、初めてだって。 





 ウラミル黒龍大公閣下、アレクサス黒龍大公翁閣下、揃ってお出ましだよ。 学院長の部屋に、二人して入って行ったって。 どす黒いオーラ撒き散らしてたって。 何人かの気の弱い淑女の皆さんが、その場で気絶したって。


 教師陣、警護官、みんな呼び出されたって。 んで、あの上級生の御家の方がすっ飛んできたって。 なんでか知らんけど、あの冬の東屋に居た上級生全員、家族諸共、呼び出し喰らったって。


 最後に、滅茶苦茶怖い顔で、真っ黒のオーラを纏った、アルフレッド様が学院長室に入ったって。 アルフレッド様、法務官のマントじゃなくて、臙脂色のマントを纏ってらしたって。 全部伝聞なのは、私は医務室に軟禁されてたから。




 そんで、私は医務室から、学院長室に呼び出された。




 まぁ、事件直後だからね。 まだ、お部屋に帰ってない。 だから、着替えも出来なかった。 ブラウス……真っ赤だよ。 血液の染み抜きって……どうやるんだっけ? 




 コンコンコン




 ノックして、学院長室に入った。 一礼して、顔をあげたら、大惨事だった。 私を見た、アルフレッド様、見る間に目に涙を一杯貯めた。 いやいやいや、いい男が台無しだよ?





「クロエ……すまない。 これ程の馬鹿とは思いもよらなかった」





 なぜ、アルフレッド様が謝る? おかしいじゃない。





「クロエは、大丈夫ですよ。 ちょっと切っただけですから」





 可愛く言ってみた。 余計に惨事が広がった。 うわぁぁぁ





「学院長……内務寮は事を最小限に押し止めた」





 冷たく重い、腹に響く閣下おじさまの声。 もう、怒りを隠してないね。 こりゃ、全部、知ってるね。 焦土になりそうだね。 うん、やめて。 ほら、学院長、青を通り越して、真っ白な顔してるよ。ブルブル震えてるよ。


 そうだよねぇ……、私だって、こんなに怒っている、閣下おじさま見るの初めてだもん。 これまで、隠し通して来た事、全部バレてるって。 でも、なんで隠せるって思ってたのかしらね。 単に私が無視してただけなのにね。





「此度の一件。 アルフレッドが、法務官の任を辞任する事で、内務寮は事を抑えた」





 はぁ? な、なんで、なんでアルフレッド様が! どえらいエリート様なんだよ! すんごく賢い人なんだよ!! ば、馬鹿ぁぁぁぁ!!!





「何故ですか!!」





 もう、黙っていられない。 私の顔を見て、赤く染まったブラウスを見て、申し訳なさそうにアルフレッド様が言葉を紡ぎ出した。





「僕が……学生達の法務官候補者達の監察官だったからね。 仕方ないんだよ。 こんな馬鹿共を候補者として、今まで認めていたんだからね。 クロエは何も気にする必要はないよ。 ……父上を手伝うよ。 あっちの方が住みやすいし」


「えっ? どういう意味ですか?」


「学院もやめる。 もう、此処にいる必要も無いからね。 クロエとまた、お別れするのは寂しいけど、まぁ、辺境領に来たら寄ってよ。歓待するよ」


「な、なんで…………」


「そういう、責任の取り方さ。 まぁ、龍王国の法務には携われないけど、父上の元で同じような事出来るしね」





 視界が、真っ赤に染まり始めた。 純粋な怒りだ。 磨きこまれて、顔が映るくらいになった、怒りの塊だ。 プルプルと震えだす体。 固く握り込んだ拳。 今にも爆発しそうな感情。 怒気が膨れ上がる。


 傍にいた、看護師さんが、”ヒッ” って言って、座り込んだ。 そんな私を押し止めて居るものが有る。 法典だった。 黒龍の御屋敷で教授陣が教えてくれた、龍王国の大事な法典。 


 法は、万人の上に平等。 絶大な権力を持つ者の、責任の大きさは、まさに絶大。 頭の中で、様々な条文が飛び交い、アルフレッド様の処分を如何にか出来ないか、何か無いか、探しまくった。 一つの結論に至る。




 ”如何ともし難い”





 見事な落しどころだった。 むろん凶行に至ったものは、それなりの刑罰を受ける。 しかし、その監督者もまたしかり。 彼を救う為には、全てを無かった事にするしかない。 ……無理だ。 閣下おじさまだけでは無く、黒龍大公翁おじいちゃんまで出張ってる。 無理だ…………





 私は、無力だ……





 膝から、力が抜けた。 崩れ落ちそうになった。 


 やっぱり、助けてくれたのは、アルフレッド様だった。





「今度は、辺境領でお茶にしようね。 待ってるよ」





 耳元で、そう囁くアルフレッド様の声は、何処までも、何処までも、優しかった。








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