クロエ ”お友達”とお話する
行動すると、何かしら起こります。
誤記、修正いたします。
ご指摘有難うございました。
翌日……
朝さ、いつも通り起きて、鍛錬を始めようとした訳よ。 鍛錬着に着替えてさ。 まだ、ほの暗いのよ。 夜も明けきってないし、灯火も、すっごく絞ってあるし、部屋の中、暗いのよ。 まぁ、剣術の七十二の型の鍛錬だから、明るさなんて、いらないしさ。
でね、いるのよ…… ぼぉぉっと薄暗がりの中、メイドズ、三人が……
まぁ、時々、ラージェなんかには、基本の型なんかを教えてあげてるから、居てもおかしくは無いのよ。 ただね、黙ったまま、蹲る様にして居ると、心臓に悪いわよ。 マジびっくりした。 どんだけ恐怖体験よ。 そんでね、エッグ、エッグすすり泣く声がしてるわけよ。 怖いよぉ……これは。 なまじ、綺麗な三人だから、余計にね。 なんか、されたんかな?
「何事ですか! 誰かにイジメられたのですか? ……それとも、エスコートさんに、何かされたのですか! ならば、イヴァン様に苦情を……」
「「「ごべんなざい~~~!!!」」」
「えっ? なんで、謝るの? なにがあったの? 教えて! う、うわぁ!」
「「「おじょうざま~~~~」」」
びっくりした~~~。 声をかけると、三人が飛び掛かって来たよ。 そんで、足とか腰にしがみついて、エッグ、エッグから号泣に変化したのよ。 もうね、パニックよ。 想像を絶する怖さよ。 しがみ付いてくる三人を纏めて抱きしめて、 落ち着くのを待ったよ。 ほら、泣いてる女の人は、基本放置だから。
「あんな中に、クロエお嬢様を、お一人にしてしまって……」
「あんな、非道をされるなんて……」
「” 今、近寄っては、いけない ” って、連れ出されて……」
「「「ごめんなさい!!」」」
あぁ、昨日の話ね。 別に気にしてないよ。 リュート弾けたし、楽団の人と楽しくおしゃべりできたし。 なんも、困ってないよ? もう、やだなぁ…… そんなに気にしてたんだ。 寝てたから判んなかったよ。
まぁ、舞踏会の間中は、ほぼ ボッチで、立ってるだけだったけどね。 いわゆる壁の花? みたいな。 でもね、おかげでいろんな人、観察できたよ。 ほら、私、耳いいから、コソコソが聞こえるのよね。 大まかな状況だいたい把握できたし。 まずは上々だよ。
「気にする必要はないわよ? 貴方達は、貴方達が必要とする知識の吸収と、貴族たちの、 ” お話 ” を、収集する、 ” お仕事 ” が、有るんだもん。 それで、情報は集まったの?」
泣いてばかりじゃ、困るよ。 それが目的で、わざと距離取ってるのにねぇ。でも、流石はうちのメイドズ、ショックを受けながらも、ちゃんとお仕事こなしてたわ。 うんうん、そうでなくちゃ!
でだ、第二王太子、かなり婚約者の私の事、嫌ってるね。 ” どこの馬の骨ともわからない ”って言う枕詞は、王妃様から、第二王太子へ受け継がれてたみたい。
私がボッチで壁の花してるのを、笑ってたって。 取り巻きの皆さんと。 んで、なんか、容姿についても色々言ってたみたい。 さらにね、遊女の子供って事になってるらしい。 メイドズ泣いてたよ。
踊ってるとこ見てないから、踊れないとか、ドレスが小汚いとか。 ん? それは、頂けない言葉だなぁ…… って言うか、ドレス作って呉れた職人さんに謝れ! この良さがわからんのならば、お前らの目は、節穴以下だ!
あの馬鹿は、そんな事言って、取り巻きと盛り上がってたってさ。
閉会の辞、云わないもんだから、三々五々人波は途絶えてって、有力者たちとのお茶会に縺れ込んだって。最後まで居たのって、変人なんだって。
うふふ、変人。
結構いい響きじゃない? リュート、弾いて、楽団と音楽会してたんだもんね、十分変人だね。 そこは、認める。 でも、その事を奴らは知らない。 楽しかったんだぞ。
取り巻きは、大公家が一家、公爵家が五家、侯爵家が結構沢山、男3女7位の割合。 でもって、その大公家のお嬢様が、第一王太子のご婚約者さん。 いいのか、それ? でもって、こ奴らが、ある事、無い事、「噂」回しまくり。
あの舞踏会の会場のほぼすべてが、私に対しての、「悪感情」持ちってわけ。 だいたい、全校の七割強かな。 そうだねぇ……そのうち、なんかあるんでないかい?
朝の鍛錬を三人娘と終えて、シャワーを浴びて、御着替えして、朝ご飯に、食堂に向かった。 メイドズは先に行ってもらって…… なんで、行かないの?
「後ろから行きます。 周囲を確認します」
ハイハイ、よろしくね。 んじゃいこうか! まだ、暑いし、鉄扇持って行こ! 骨が鋼線の扇子。丁度いい重さなんだよね。 自己防衛用なんだっ! ヴェルに貰ったんだ! いいだろ!
エル、なんで、微妙な顔してるんだ?
*************
トコトコ歩いて行くと、食堂に向かう廊下に十人余りの女生徒がたむろしてた。 そのうちの何人かが、私の姿を見つけたみたい。 コソコソ耳打ちしとるね。 昨日の今日だから、きっとこんな事だろうと、思ってたよ。 さて、どうしようか?
真ん中に居た女生徒が、なんか、上から目線でこっちを見た。 なんだ? やる気か?
ハラリ
一枚、ハンカチが廊下に落ちた。 綺麗な刺繍がしてある。 うん、その女生徒が落としたみたい。
「あら、落としてしまったわ そこの貴女、拾ってくださらないかしら?」
でたよ。 早速、上下関係確認儀式だ。 小首を傾げて相手を見る。 まぁ、”何を言っているのだ?” の、視線だが。 モチロン、表情は「氷の微笑み」標準装備でね。
「あぁ、なんだ、あなただったの。 早く拾ってくださいな」
「お落としになったのは、貴方ですわね。 なぜ、わたくしが?」
水を向けてみた。 うん、さぁ、遣り合おうぜ! 久しぶりの生徒さんとの会話だ。 是非、不毛な会話にならない様に、しっかりと戦おうぜ!
「まぁ、非常識な方ね。 流石は、遊女の娘ね。 躾がなってないわ。 黒龍大公家も色々と黒い噂のあるお家ですものね。 遊女の娘を、恐れ多くも、ミハエル王太子殿下の婚約者に押し込むなんて、なんと、非常識なのでしょう! 流石は、犯罪に手を染めて、傍系の方々を失った、悪徳大公家と云ったところかしら。 いったい、どこまで龍王国を蝕めば気が済むのでしょうね。 下賤な身の者が、栄えある王立魔法学院に在学するなど、慄くばかりですわね」
ニヤッと卑し気な笑みが浮かぶ、その女生徒。 周囲の女生徒も同じような、卑し気な顔をしてるね。 うん、良いね。 戦う気、満点だよ。 私の事はいい。 別に、何言われたってさ。 でもね、貴方、超えてはいけない処を超えてちゃったね。 判んなかったのかな。 どっちにしてもさっ、馬鹿じゃん。
さて、周りをザッとみる。 エルが一人の男性を引き連れて来た。
「お、おい! マーベル! お前、何をやってるんだ? 行くぞ」
「嫌よ、” お友達 ” である、 ” 下賤な者 ” に、物の道理を教育しなくちゃ!」
「いいから、行くぞ」
ちょっと、待て、そこの兄ちゃん。 まだ、落とし前ついてないぞ。 その子に、自分の言動についての、 ” 責任 ” について、考えて貰わなくちゃならんからな。 言葉の重みを感じてもらえるまで、放さんよ。
鉄扇で、自分の太ももを一発叩く。 まぁ、気分は、 ” 拍車 ” を、当てた感じだね。
パッアアン
うん、いい音鳴った。 兄ちゃん、ビクッてしてた。 ちょっと笑える。
「わたくしは、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントと、申します。 以後、お見知りおきを。 貴方は?」
一応上位者に送る礼をする。 上級生だしね。 本来は、従臣に送るものでいいんだけどね。 兄ちゃんに、名前を問う。 逃がさんぞ。 仕方ないって顔で、兄ちゃんが名乗った。
「エルヴィン=トーマス=コンダンレート子爵だ。」
冷たい「氷の微笑」を、最大発揮する。 ジリって後ろに下がる、コンダンレート子爵。 この家名、白龍大公家の傍系だ。 貴族名鑑にあった。 そんで、エルヴィンって名前、次期当主だ。 長男なんだよね。 よし、これはいける。
「コンダンレート子爵様、御噂は、かねがね、聞き及んでおります。 白龍大公家にとって片腕ともいえる、コンダンレート公爵家の御長男ですね」
もう一回、カーテシーを決めとく。
「さて、卑賎なる身、浅学なわたくしに、御教えを頂きたいのですが?」
「な、なにか?」
引いとるな…… 侵攻開始。 状況固定、退路遮断、目標固定、攻撃準備完了。 さぁ、始めるかぁ
「御家は外交を持って、私たちの祖国、ハンダイ龍王国に仕えられていると、聞き及びます」
「うむ」
「仮定の話をいたします。 判りやすいように。」
「うむ」
「龍王国と同規模、もしくは、それ以上の経済力、軍事力を備えた国から、この学院に留学生として、みえられていると、 ” 仮定 ” 致します。 その方は、正王妃の御子では御座いません。 更に、その方が、他の王族とご結婚の予定が有るとします。 外務を担当する家の御家族が、 ” お友達 ” と、称して、その方を、” 遊女の娘 ” と、呼称する事、 その方の籍がある国を、 ” 悪徳国家 ” と、呼称する事は、外交儀礼的に、常識なのでしょうか?」
兄ちゃん、返答は? 判り切ってるでしょ? さぁ……早く、返答を。 鉄扇が唸るよ?
パッァァァン!
「え、いや、しかし」
パッァァァン!
「ご返答は?」
「い、いや……儀礼的には間違っている」
「良かった。 わたくし、黒龍大公家で、お教え頂いて参りました、 ” 常識 ” と、白龍大公家の大切な、御家の方々と、その認識が、かけ離れて居たら、どうしようかと思っておりましたわ」
「い、いや、その」
「振り返って、我が身で有りますが、わたくしは、黒龍大公家の養女として、この学院に参っております。 わたくしに関しましての御噂等、別段、気にもなりませんわ。 私的な事ですし、私が関知しなければ、どうと言う事も御座いません。 しかし、黒龍大公家に対する侮蔑、間違った情報による誹謗は、これを看過する事が出来ません。 お分かりですね」
「……うむ」
よし、追撃に入るよ。 常識的に考えて見れば、誰が何といっても非は、あっちにある。 糾弾させてもらうよ。
「私をダシに、黒龍大公家に含むものが有るとすれば、これは、ウラミル黒龍大公閣下にお話申し上げねばなりませんね。 ご存知とは思いますが、主家の預かり知らぬ場所で、行われた犯罪でも、主家はその責を問われます。 たとえ、犯罪を犯した者が、陪臣格の御家で有ろうと、そのお家は、お取り潰しに成ります。 さ ら に 、主家の御一族の誰かがその罪の責を取る為に、貴族の籍を失います。 先ほど、そちらの方が、おっしゃっていたように、子爵様も、ご存知の事と思いますが?」
「…………」
兄ちゃん、返答は? 都合が悪くなると、黙るな此奴。 さぁ、考えろ、退路はあるぞ……遅いな、早く返事しろよ! 腹へってんだよ!
パッァァァン!
うはっ! ビビってるよ。
「ご返答は?」
「し、知っている」
「では、私が名も知らぬ、 ” お友達 ” の、発言は、どう解釈すればよろしいのでしょうか? 明らかに、黒龍大公家に対して、悪意が御座いますね。 わたくしの一存では、処理しきれませんので、閣下にお話……」
「い、いや、そんな事は無い。 妹もそういう意味で言ったわけでは無い筈だ。 私から良く言い聞かせるので……」
後ろで私を睨みつける少女が目に映る。 ほほぅ、まだ、やる気だ。 んじゃ、とどめ差しとくか。
「後ろをご覧ください」
「!!!!!」
理解力の無い人を、身内に持つと、当主は死ぬね。 うん、そんな人に成らない様に、閣下の邪魔にならない様にしよう。
「お判りですね。 さて、朝食をとる前に、筆を執る必要が御座いますね」
「い、いや、ま、待ってくれ、……、待ってください。 お願いします!! おい、なに遣らかしてくれたんだ! 馬鹿野郎! 家が、家名が無くなるぞ!!」
兄ちゃん、ちゃんと理解してんじゃん。 よしよし。 後ろの少女、 ” 御兄さま ” に怒鳴られて、なんか、茫然としてるね。 知るか!!
「……傍系家の不始末で、追いやれれる者の痛みは、わたくしは知っております。 わたくしの御爺様の名前は、カール=グスタフ=シュバルツハント。 例の事件で貴族籍を失った男です。 主家の中でも何の関係も無かった近衛騎士団所属でしたのにね。 痛みを知る、わたくしは、そんな人を作り出すような事をしたくありません。 今回の事は、不問に付します」
「あ、有難うございます!」
「今回だけですよ? 妹様の御理解が足りない様に見えます。 一度、御家でお話し合いをされた方が宜しいかと。 ……落とされたハンカチに、美しい刺繍が御座いますね。 庶民の方々の間では、御針子が、足りないと聞き及びます。 ……良かったですね、食べて行けますよぉ」
土下座せんばかりの、最敬礼だった。 そんなの要らないのに。 普通にしてればいいのよ。 ” 普通に ” にね。
「誠に、申し訳ございませんでした!!! 妹は、家に連れて帰って、 ” 物の道理 ” を、再教育いたします!!!」
「きちんとした、ご理解が出来る事を、希望します」
「はひぃぃぃ!」
よし、これで大丈夫。 でっかい釘打ち付けて置いた。 周りも引くぐらいね。 さぁ、朝ごはん食べよう! うん、ホントに引いてる。 兄ちゃんが、妹の手を強引に引っ張ってた。 それでも動かない妹、思いっきり、引っ叩いてた。 うはっ、初めて見た。 引っ叩かれて、真横にぶっ飛ぶ、お嬢様。 悪さして、殴られてた開拓村の悪ガキ思い出したよ。
そのまま、歩いて、食堂に行こうと思ったら、まだ、集団がぐずぐずしてる。
「道を開けて下さらないかしら?」
極めて冷たくそう言ってみた。 効くかな? うん、効いたみたい。 私の前、二つに割れたよ。 まぁ、怖がられるね。
これで、確実に、ボッチ確定だよ。
ボッチ街道を驀進するようです。
良い子なんだけどなぁ・・・




