表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
ヌーヴォー・アヴェニール 本編 物語の始まり
2/111

クロエ 激怒する

クロエ・・・本当に口が悪いよ・・・


6/25 赤龍大公閣下の御名前、間違えてました。訂正いたします。

 

 私は、まだ子供だけど、ここのおっちゃん共の態度は、なってないな。 アリから聞いたけど、このおっちゃん共は、何でも騎士達で、剣を持ってハンダイ龍王国に仕えて居るんだって。 父様から ”騎士は高潔な精神と頑強な体躯を持って、弱者を助け、敵に当たっては龍と化す”って事らしいけど、そんな奴、此処にはいないな。


 アリは、南アフィカン王国からやって来た人だ。 広大なサバンナ平原の中で暮らす、誇り高い人達だ。 これは爺様に聞いた。 そんな国から来たアリもまた、立派な戦士だったらしい。 南アフィカン王国の使節団がハンダイ龍王国にやって来た時にくっ付いて来たって言ってた。 そん時に、ちょっと一悶着あったんだってね。 


 アリに聞くと、儀礼上の行き違いどうとか言ってた。 簡単に言うと、そん時の手打ちに、アリはハンダイ龍王国に残ったらしい。 今後、そういったことが無いようにって、儀礼を学ぶ為に、赤龍大公様の処に置いていかれたって事。 


 ん? それが何で、この練兵場の使用人をしているの? 判らん。 で、アリに聞いてみた。モチロン周りの人にばれないようにアフィカンの言葉でね。


 ⦅アリ様は、戦士だったのでしょ? なんで、此処にいるの?⦆


 ⦅……礼儀作法を学べと、赤龍大公様がおっしゃられてな⦆


 ⦅答えになってないよ? 礼儀作法は下男の仕事で身に付くものなの?⦆


 ⦅最初は、こんなんじゃ無かったんだ。 騎士達と同じ空気を吸って、騎士の精神と、礼儀を学んでくれと此処に連れて来られた。最初はな⦆


 ⦅……誰かが、それを捻じ曲げた? 大公様は忙しすぎて此処には来られない、だから、増長したあの人達がアリの立場が弱い事を利用して、雑事を押し付けた?⦆


 ⦅まぁ、そんな所だ……騎士に礼節が無い事は判った。 あとは、何時、此処・・を出て行くかだけだな⦆


 ⦅赤龍大公様への義理か何か?⦆


 ⦅不始末をしでかしたのが、俺の仕えていた人でな……その人の命を助けてもらった⦆


 ⦅……アリは戦士なんだねぇ……爺様が言ってた。 ”誇り高いんだぞぅ 南アフィカン王国の人達は”って。 滅多に怒らなくって、子供や女性にめっちゃ優しくって、めっちゃ強いのに普段は物静かで、高潔な精神は騎士なんかも見習わないといけないって……⦆


 ⦅この国に来て、そう言ってくれたのはクロエが初めてだ。 ……そうありたいとずっと願っているがな⦆


 此処まで話してくれるようになったのは、練兵場に来てから二か月も経った頃。 お仕着せを貰えるまでは、給金が出ない事を教えてもらって、ちょっと絶望感が有ったんだけど、そんなら、給金が或る程度貯まるまで、”居てやっか”って思ってさ。 その間は、此処のおっちゃん共の技を盗むかって、練兵場のおっちゃん共を観察してたんだけど……ダメだなあいつら。 なってない。 見るべき所が無いんだ。


 一番偉そうにしてるおっちゃんにも、多分勝てる。 モチロン爺様の剣が有ればの話だけどね。 くそっ! やっぱりあれが目的だったんだ! 仕方ないけど、まぁ、アリは気持ちのいい奴だし、抜け出してもアリが困るだろうし……そんで、残ってた。


 練兵場は赤龍大公様の管轄らしい。 赤龍大公様はハンダイ龍王国の軍事を司ってる大公様なんだと。 常に忙しく動き回れて、ハンダイ龍王国の治安を担っているんだと。 でもなぁ……騎士達、緩み過ぎじゃない? あんなんじゃ、辺境の警備は無理だよ。 小型の魔物にだって屠られてしまう。 大丈夫なのか?


 今日も相変わらず、剣をカンカン打ち鳴らしているけど、剣筋むちゃくちゃだし、ヨレヨレだよ。 重い装備を着けて、重い剣を振り回すんだったら、もっと地力つけなきゃねぇ…… 例えば、装具を着けたまま走るとか。 なのに、こいつ等、馬車で練兵場を移動してるんだよ……歩けよ! 走れよ! そっちの方がよっぽど鍛錬になるぞ?


 呆れかえって、もう、相手にするのはやめた。 こいつらの装備の手入れとか、洗濯とかしとけば、取り敢えず此処には居られるから、関わりは持たない事にした。


 *************


 清々しい朝の空気を吸いながら、鍛錬をしてた。 爺様の型と、婆様の言いつけを終わった処で、視線に気が付いた。 なんかキラキラしてる男の子が居た。 こざっぱりした仕立ての良い服を着てた。 ちょっぴり、暗い顔をしながら、訊いて来た。


「なにしてたの?」


「鍛錬」


「なんで?」


「しないの? 普通?」


 男の子が目をまん丸にしてた。 にっこりと笑ってやった。 男の子もニッコリ笑った。 うおっ! 可愛い!! そんな笑顔、出来るんだ。


「貴方はどうしたの」


「うん……ちょっと嫌な事があって……」


「朝はいいよね。 清々しくって」


「えっ?」


「ほら、お日様もキラキラしてるしさぁ……婆様の鍛錬教えてあげる」


「うん……」


「お日様に向かって……大きく息を吸って……ゆっくりと吐き出す。 吐き出すときに体の中の嫌なモノとか悪い物とかを一緒に吐き出す。 ゆっくりとね。 おでこの、ここんところがキーンってするまで続けるの……やってみたら?」


「……そうか……うん、やってみるよ」


 男の子は、鍛錬をしてたけど、なんか違う。 隣で見てて、そう思った。


「ちょっと、違うね。 見てて」


 私は婆様の鍛錬方法を見てもらった。 男の子、もう一回目をまん丸にして見てた。 


「こうするの」


「やってみる」


 うん、近い。 後は、毎日したらいいよ。 体の中が綺麗になる感じがするから。


「……なんか、良いね。 これ」


「でしょ。 朝のお日様が一番いいって。 婆様が言ってた。 特に夜明け直後だって」


「そう……そうか」


「うん!」


 男の子はなんか考えてたけど、ニッコリと微笑んでから、なんかポケットから差し出して来た。


「こんな気持ちよくなったのは、久しぶりだ。 お礼にこれをあげる」


 出して来たのは、中くらいの金属の輪っか。 何をするモノか判らんけど、お礼は貰っとく。 でも、私も貰いっぱなしは嫌だ。 なんかないかなって、ポケットを探ると、ヒスイの輪っかが有った。 母様が魔除けにってくれた奴だ。 ここら辺じゃ要らないし……母様の想いでの品だけど、この子の笑顔が良かったから、あげる事にする。 


「じゃぁ、私から ”これ” をあげる」


「……なに?」


 ヒスイの輪っかを差し出したら、この子、目を見開いたまま固まった。


「おーい、どうした?」


「い、いや……この意味知ってる?」


「何が? 魔除けの輪っかだよ? 嫌な事をはじいてくれる奴。 お礼だよ」


「そういった意味じゃなくて……」


「貴方のキラキラした ”笑顔・・”のお礼だよ。 とってもいい物、見せてもらった」


「……そうか……知らないのか……」


「だから、何が! いらないの?」


「いや、貰う」


「だよね! 貴方に良い事が有りますように」


「ありがとう」


 輪っかの交換が終わった処で、アリの呼ぶ声がした。 朝ごはん作んなきゃ! 


「そんじゃね!」


「ああ……君、クロエって云うのか」


「そうだよ! 朝の鍛錬、さぼんなよ!」


 私は、そう言ってから、走り出した。  朝ご飯、朝ご飯! 今日は、なんにしようかなぁ~




 *************




 ある日、練兵場に赤龍大公様が来た。 練兵の成果を見るって事だった。 朝からおっちゃん共が緊張してた。父様が言ってた。普段頑張ってる人だけが、実力を発揮できるもんだって。 お昼過ぎに豪華な馬車が練兵場にやって来た。 うん、すんごく豪華。 馬が六頭もついてる。 馬の頭にまで、羽根飾りがついてる。 こんなの見た事ねぇや…… お金持ちって凄いね。


 アリも呼ばれてる。 だから、私もくっ付いてった。 隊列の一番端っこにいて、見てた。 馬車が止まって中からでっかい人が出て来た。 着てるモノもキンキラしてる。 遠くてよくわからんけど、取り敢えずあの人が赤龍大公様だろうな。


「礼!」


 一番偉い人がそう言った、 アリには「騎士の礼」教えといたから、アリも礼を捧げる。 ちかくに居た騎士がびっくりしたように、アリを見てた。 ざまぁ!! お前ら、アリに教えんかったろ。 こんな時はきちんと挨拶するんだって。 だから、私が教えといた。


 アリの「騎士の礼」を見て、赤龍大公様は頷かれていたみたいだ。


 よっしゃぁ!!


 そっからは、部隊行進やら、何やらで、おっさん共汗だくになってた。 普段、歩かんからだ! 私は端っこから見てた。 赤龍大公様なんか不満げだった。 うん、不機嫌オーラがすんごいね。 遠くからでも判るよ。 で、午後のメインは、模擬戦。 カンカン剣を打ち鳴らして、赤龍大公様に見せてた。 ありゃ踊りだね。 実戦じゃ役に立たんよ。 ほら、もう息が上がってる。


 その様子を見て、赤龍大公様、やっぱり不機嫌。 とっても不機嫌だった。


 アリが呼ばれて行った。 なんかヤバい雰囲気。 一緒にチョコチョコついてった。 んで、近くに控えとく。 赤龍大公様がアリに、その模擬戦に出る様に言ったみたい。 アリの武器は棒。 長さがアリの身長位ある鉄の樹の棒。 ちゃんと磨いておいたよ、私が。 いい感じの武器だった。 よく使いこまれて、ヒビ一つなく、真っ直ぐで。 アリみたいな武器だった。


 騎士達、忘れてたんだろうな。 アリが南アフィカン王国の戦士だって事。 アリの棒術は、爺様の型の二十五番目と五十三番目に似ている。 跳ね上がる棒の先が突然横薙ぎに変わる変化業だ。 うん、綺麗に決まるね。 騎士のおっちゃん共が吹き飛んでいく。 赤龍大公様も御機嫌。 でも、ちょっと不穏な空気が騎士達に流れてるなぁ……


「野蛮人め!!」


 騎士の一人がそう言って、確か使っちゃダメってなってた真剣で斬りかかった。 樹の棒と真剣じゃぁダメだよ。 棒の先っぽが切飛ばされた。 あぁ~ バランスが~~~ 


「いい気になるなよ!」


 うん? なんか、カチンと来た。 いい気になるな? ほう、面白い事を言うな。 赤龍大公様……なんも言わんな。 どう、落とし前つけるんだ?


「罪人の分際で! 我等に盾突こうなど、笑止!」


 罪人? 罪人って言ったよ、この人。アリは南アフィカン王国からの行儀見習いだよ? いわばお客だよ? 誇り高い人に、罪人って……ダメだ、これはダメだ。 人としてダメだ。 頭に血が上るのが判った。久々に頭に来た。 もう、怒った。 許さない。 龍王国の民として言ってはならない事を言った。 こいつ、潰す。


「赤龍大公様。 御前にて騒ぎ立てる事お許しください」


 一応、赤龍大公様に、断りを入れる。 くそ、こいつ、ろくな腕、持ってないくせに偉そうにしやがって。 叩きのめす!!


「そこの騎士! アリ様に謝れ。 そうすれば貴方の暴言不問にする」


「なに? 小童。 アリの従者か? こんな罪人になぜ謝らねばならん」


「……騎士殿、 手合わせ所望する。 貴方が手を地に着けば、アリに謝ってもらう」


「ははは! 笑止! 小童! 泣きを入れても許されんぞ!」


 アリの傍によって、アフィカン語で言った。


 ⦅アリ様、ごめんなさい。 ハンダイ龍王国の民として、謝罪します。 あのバカの暴言、許せない。 貴方の名誉は、同じハンダイ龍王国の私が護ります⦆


 ⦅お、おい、クロエ……おまえ……行けるのか?⦆


 ⦅あのバカの太刀筋なんぞ、屁でもないですよ⦆


 ⦅赤龍大公様の御前だそ?⦆


 ⦅なおさら、良いんでない? 自分の部下の不始末、その眼で見られて⦆


 ⦅……クロエ……ありがとう⦆


 騎士の前に出て、模擬戦の前の騎士の礼を取る。 父様に教えてもらった、これから起こる事一切苦情は申しませんの挨拶だ。 相手の騎士、なんか驚いてるけど、知ったこっちゃない。 


「我が名は、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント 龍王国の民。 民の誇りを持って いざ!」


 名乗りをあげたら、もう、相手も後には引けんだろ。 徹底的にやったる。 鍛錬用の鉄心入りの棒を握りしめる。 手に馴染んでいる。 私は、もう、後には引かんよ。 


「わ、我が名は、近衛騎士アントン=ウルリヒ=ルベルグラディウス子爵 赤龍大公家一族 輝かしき家名を持って、いざ!」 


 なんだ、赤龍大公様の御身内か……だから、こんなに尊大たかびしゃなんだ。 ならば、御前で、”叩き潰しても”いいよね。その ”家名の御威光”とやらと一緒に、あんたの矜持プライドも粉砕してやる。


 一気に間合いを詰める。 重装備の騎士は、動きが遅い。 まして、鍛錬を怠っている者の動きなんか緩慢でみてらんない。 私の鍛錬用の棒が騎士の小手に当たる。 鈍い音。 うん、ちょっと折れたね。 間合いを取り直して、相手を見る。 


 なんかえらい勢いで、怒っているけど、知ったこっちゃない。 感情に任せて振るう剣なんか、怖くない。 そりゃ手負いのオークなんかは怖いけど、あれは地力が凄いからね。 手首、脇、腰、鼠径部、膝裏、足首。 装備が覆ってくれる場所以外は、そんなに重装甲じゃない。 それに、私の得物は鉄心入りだ。 十分な速度も出ている。 型の中でもそんなに難しくない 一番から二十番辺りまでで、こいつ沈むな。 


 ほら、膝裏、 次は腰! 


 息が上がってるね。 うん、ダメだ。 使い物にならない。 こんな短時間で、息が上がるなんて。 やみくもに剣を振り回して、自分から消耗している。 もっと、相手を見なきゃ……って、ほんと龍王国大丈夫か? こいつ近衛騎士だって言ってたろ? 僅か五歳の女の子に、こんなにやられて、……自分の国の事が心配になって来た。


 両手を地面につきやがった。 うん、お前の負け。


「それまで!」


 赤龍大公様が、大声でそう言った。 棒を背中に回して、跪拝する。 模擬戦は終わった。 近衛騎士の馬鹿は、それが判ってなかった。 いきなり、剣で斬りかかって来た。 赤龍大公様の腰の物が一閃した。 鈍い音が練兵場に広がった。そいつ、遠くにころがってるなぁ。


「痴れ者! お前に我が家の名を名乗る資格は無い!」


 めっちゃ怒っとる。 んで、そのまま私を見た。 ほう……私にも怒りがあるのか? 違うか。 怒りが収まらないんだ。 ここは、一つ、冷静に…… 私も頭が冷えた。 うん、もう大丈夫。


「娘!」


「はい」


「あの者の振舞は許せ。」


「御意に……」


「アルバートル=ヌクイヌス」


「はっ」


「許せ。 よもやこのような次第になっているとは」


「もったいなきお言葉」


「娘!」


「はい」


「なぜ、アルバートルを庇った」


「龍王国の民として、当たり前と感じました故」


「……事情は知っておるんだろ」


「アリ様より聞き及んでおります」


「アルバートルの従者か?」


「いいえ」


「義侠心からか?」


「文化の違いからの無礼で、行儀見習いとして留めおかれておりますアリ様に、行儀、礼節を教えず、下男として扱う。 さらに、罪人と蔑む。 龍王国の礼儀が問われます。 一命をもってして、誇り高き南アフィカン王国の民である、アリ様の名誉は護らねばなりません。 これは、龍王国の民の矜持です」


「うむ……」


 赤龍大公様、なんか考えているね。なんか、思いついたみたい。何だろう。 ちょっと目が優しくなった。


「相分かった。 そなたの矜持、龍王国の民として、全くもってあっぱれである。……そなた、家名をシュバルツハント と云うのか?」


「はい」


「黒龍大公家のゆかりの者か?」


「判りません」


「父の名は何という」


「エルグリッドと申します」


「エルグリッドだと?」


 其処に、騎馬が一騎駆け込んできた。 アリの居所を教えてくれた人だ! 覚えているよ! 木陰で騎士のおっちゃん達の鍛錬見てた人。 んで、その後、姿が見えなかった人だ!


「リカルド赤龍大公閣下! 判明いたしました! その女児はクロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント! ウラミル黒龍大公閣下が今、全力でお探しされている”姫”です!! あの・・エルグリッド筆頭魔法騎士の御息女です!!」


 なんか、大変な事になって来たよ……どうなんの私?


まだ、五歳なのにねえ・・・強過ぎね? 彼女?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ