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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
ヌーヴォー・アヴェニール 本編 物語の始まり
19/111

クロエ 学院生活を満喫する

 始まります。 ええ、始まりますよ。

 悪役令嬢への道。

 意図せず、動くと深みに嵌るクロエ 彼女の未来に幸有らん事を!

 

 にこやかな笑みを浮かべて、周囲のキラキラした視線を浴びて、はにかむ様に言うんだ! みんな注目してくれて、先生も、 ” さぁどうぞ ” ってな感じでさぁ。 みんなに聞こえるくらいの声で、話し始めるのよ。




 ”王立魔法学院 一年生 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントです。 黒龍大公家から来ました。 趣味は、読書と鍛錬です。 あぁ、植物を育てるのも好きです。 好きな食べ物は、チーズをのっけて焼いたパンです。 皆さん、宜しくね!”




 うん、そんな、自己紹介考えてたよ。 授業初日。



 で、なに、この微妙な空気。 学院初年度は、まだ進路を決めての授業が無いのよ。 魔法科は一年生でも、専門授業あるけどさ、それでも一、二時間、後は、みんなと同じ授業を受けるのさ。 でね……いきなり始まる訳よ。


 ガンガン進むわけよ。 課題も一日目からドカンと出たし。 でも、皆さんなんも疑問に思ってないよ。なんか、私以外すでに、お友達関係とか、上下関係とか、確立しちゃってるみたいだし、貴族でない人達も、結構ひも付きらしいから、どこぞかのお嬢様とか、御令息とかと一緒に行動されているのよ。 




 ぼっち確定だよ! 夢の甘い学園生活とは、大違いだよ!!




 ちなみにメイドズ……早々に色んな所のメイドさん、侍女さんと横の繋がりを持ってた。 んで、”御養育子(はぐくみ)”って事で、よそのお家のメイドさんとか侍女さんに、ものっそ尊敬されてた。 そうだよね、黒龍大公家の、”御養育子(はぐくみ)” だかんね。


 濃緑色の制服をバッチリと着込んでいる彼女達は、教室でも輝いているのよね。 私は、敢えて教室では距離を取っている。 まぁ、寮のお部屋じゃ、いつも通りだけどね。 寮のお部屋、マリオはああ言ってたけど、いいお部屋よ。


 十分な広さはあるし、従者用の小部屋、五部屋もあるのよ。 だから、そのうちの一部屋、鍛錬部屋にしたよ。 それにね、この部屋、ウプププ、東向きに窓が有るの。 呼吸鍛錬出来ちゃうのよ。 嬉しい!!


 で、ほら、やっぱり、”多段重装型猫鎧さいきょうのかいねこ”の標準装備いつもいっしょ 状態って大変なのよ。 だから、寮のお部屋は、お屋敷のお部屋くらい、快適にしたいわけよ。


 だからね、うん、”例のヤバイ魔導書” に記載されてた大魔方陣組んだよ。 部屋全体が防音と覗き見出来ないようにね。 それと、重防御大魔方陣も重ね掛け。 こっちは少し小さめ。 その代り、王城の宝物庫並みだよ。 宮廷魔術師でも、入れるもんなら入ってみろ!



 それにねぇ……面白い魔法が有れば順次組み入れるしね。


 エルが、みんなを代表して、言い難そうに聞いて来た。





「クロエお嬢様、学園の生活は如何ですか?」


「如何って?」


「少し、心配しております。……いつも、御一人だから……」


「うん、快適だよ」


「はっ?」





 ビックリしてるね。 ほら、普通ボッチって、精神こころ 削られるからね。 他家の皆さん、それを怖がって、従者もタップリ、付けて来てるし。 んで、横の繋がりを持つつもりで、色々とやってんじゃない。


 でも、言いたいよ、お前ら勉強しに来てんだろ!!ってね。 やれ歓迎会だ、やれ御茶会だ、わけわからん。 あの課題の量こなすのに、時間足りるのか?


 一年目の授業って、そんな疎かにして、大丈夫なもんかね? 爺様と父様に言われてたよ、” 基礎は、何よりも大事 ”ってさ。 見た感じ、教科書は基礎の基礎だよ。


 でも、大事な事全部網羅してるよ。 これ、ホントに優れもんだよ。 自分が足りなかったところ、自覚させてくれるもん。 エル、ビビりながら、話の矛先を変えてきよった。





「クロエお嬢様は、お昼は如何されて、おられますか?」


「ん? 中庭か、屋上にいるね」


「はっ? な、なんで?」


「えっ? 煩いもん。 ガヤガヤと」


「へっ?」


「教科書、読込んでるよ? 今は魔法関連。 いやぁ。勉強になるよ」


「い、いえ、 そ、その……お昼ご飯……」


「あぁ、その事。 うん、食べない。 満腹になると思考が鈍る」


「へっ?」





 メイドズ、私を見て、なんか固まった。 うん、ガッチガチにね。





「だって、お屋敷に居た時から、教授陣とのお勉強の時は食べなかったじゃん」


「そ、そうでしたの」


「礼法の時は別だけどね」


「え、ええ」


「ところで、あなた達は、充実してる? 他家の人達と上手くやってる? 私は平気だけど、あなた達、大丈夫?」





 私の話はいいや。 いつも通りだし。 メイドズ! 君たちの話を聞きたい。 特に人関連。 および、私に関する噂。 だって、周囲の雰囲気次第で、自分の方向性決めないと。 閣下おじさまの外聞にも影響出るしね。 ミーナが、これまた言い難そうに口を開いた。





「私たちは、主家の、”御養育子はぐくみ”として、きちんと認識されております。 主家にとって、有益な存在となるべく、この学院に入学したと。 ……お嬢様。  問題はクロエお嬢様なのです」


「問題?」


「はい。 すでに学院の全生徒は、お嬢様がミハエル様の御婚約者であると云う事は、知れ渡っております」


「うん、そうだろうね」


「しかし、まだ、一度も、お嬢様がミハエル様に接触していない。 第二王子の御婚約者ですから、他家の皆さんは、当然、お嬢様がミハエル様の御側に侍られると、お思いです」


「嫌だね。 そんな事。 第一時間が無いよ。 こんだけの課題どうすんの?」


「他家の侍女達や、従者様は、主家の令息、令嬢の補佐をしております」


「はぁ? なにそれ? 自分でしないの?」


「要点だけを、掻い摘んで、お知らせするのだそうです」


「バカじゃないの?」





 色々と判った。 学園でも、学業を優先すると、社交が出来ない。 そんで、貴族は社交が仕事。 仕事に支障が出るから、学業は従者に任せ、要点だけを聴く。 ……身に付かない筈だね。 じゃぁ私の評はどんなになってるんだ?





「ちょっと、聞くけど、他家の人達、私については、なんて言ってるの?」





 三人が黙り込んだ。 う、うわぁぁ…… コレって……一番、 ” ヤバイ状況 ” じゃないのかな? 一番年嵩のエルが、真剣な面持ちで答えてくれた。





「氷の令嬢と……御噂されております」





 あら? なんか……別人の話? 私、そんな事、云われてたんだ。 知らんかった。





「ソフィア様が学園に在籍されていた時は、あのソフィア様ですら、リヒター様に付き従っていたそうです。 仲睦まじげに、お話されている姿を、下級生が微笑まし気に、温かく見守っていらしたそうです」


「うん、だいたい、ソフィア様から聴いてた」


「クロエお嬢様は、凛として、御一人でいらっしゃる。 ミハエル様があちこちに顔を出し、他家の御令嬢と睦まじくされていても、一切、関わろうとされない。 誰にも、御心を開こうとはされない。 周囲が寒さを覚える程、澄み切った表情をされている。 だから……氷の令嬢と……」





 はぁぁ? いや、あのね……私、勉強頑張ってんのよ? 自分の食い扶持を稼ぎ出せる職に就かないといけないのよ。 何時までも黒龍大公家にお世話になるわけには行かないし…… 自分の力で生きて行けるように、努力して資格を取って、国の官吏に成れないまでも、地方の行政官くらいにはなりたくてね…… どうしよう……





「も、もう少し、他家のご令息や、お嬢様たちと……」


「嫌だ……もう、こうなったら、徹底的に『氷の令嬢』とやらになって、ややこしいのとは、関わらない」


「お、お嬢様……」


「そのうち、誰か、私を見てくれる友人も出来るよ。 きっと」





 楽観しとこう。 此処は。 婚約式の時の屈辱は、ぜってぇ忘れんよ。 顔すら見に来ない男が、婚約者だぞ。 そんで、こっちから、へばり付けって? 冗談じゃない。 いざとなったら、天龍様にお願いするよ。


 遠い所から魔力は送るんで、龍王国の事、お願い!ってね。 どす黒い感情が噴き出したのかな、メイドズが私の顔を見て、固まった。 ゴメン。 メイドズ、貴女達には迷惑かけるかも……


 方針は決まった。 うん。 ひたすら、お貴族様とは、関わらない。 いいじゃないか、ボッチで。 研究やら研鑽に時間が取れる。 うん、そうだね。 一人納得してると、必ず追い打ちをかけて来るのが、家のメイドズの標準仕様。 





「お嬢さま……お忘れですか?」


「何を?」


「あと、一週間で、学園学生会主催の舞踏会が御座います」


「あぁ……欠席……」





 食い気味に否定されたよ。





「一年生は全員出席と、通達が御座います」


「……」


「それに」


「それに?」


「舞踏会の開催を宣するのは、ミハエル殿下です。 ダンスのお相手は、クロエお嬢様です」


「……それって、確定なの?」


「決まり事の様ですね。 在籍する生徒の最高位の方がマスターとなると云う不文律が御座います。そして、パートナーには、その方が選んだ方か、御婚約者と決まっているそうです」


「良く知ってんね。 でも、とっても、めんどう……」


「当日、如何なさいます?」


「あっちが誘って来たら、一曲だけ踊る」





 溜息と何とも言えない表情で、メイドズが私を見てた。 いいじゃん。 それで。 御役目果たすだけでしょ? 一曲踊ったら、終わりだよね。 五分前集合、開催の辞、一曲目。 以上! これで、乗り切るよ。


 そうね、その「氷の令嬢」とやらに、 ” 専用の笑顔 ” 、作ろうか? ほら、冷たい微笑ほほえみって奴。 閣下おじさまが 「笑顔で怒る表情」 作るじゃん、あんな感じ。 やっぱり血筋なんだろうね。 この頃、出来るようになったよ、あの笑顔。 


 ある意味、楽しみになって来た。 


 歓迎の舞踏会が……





 疲れたから、寝る。 お休み。






 *************






 魔法学の授業って面白いのよ。 ホント。 今やってるのは、ごく基本的な、発火魔法と、風魔法。 魔方陣の書き方とか、魔力の乗せ方とかね。 基本的な事なんだけど、何でそうなるかって言う、理論がきちんと説明されるのよ。


 開拓村とかでも魔法を使う人沢山いたし、いや、むしろ使えないと死活問題だから、みんな使ってたけど……理論じゃなくて感覚で教えてもらってた。 だから、めっちゃ面白い。


 課題なんだけど、理論を理解するためのものだから、真面目に取り組んだ。 羊皮紙10枚の大作になったよ。 魔方陣の書き方では、ちょっとした派生型の考案とか、詠唱時間短縮の為の術式とか、色々書いちゃった。


 まぁ……それが理由かな、呼び出し喰らったよ。 先生に。 優しそうな、お爺ちゃんでね。 御名前は ”ウランフ=ボリス=エイグストス伯爵” 御年なんと、72歳! 元宮廷魔術師だって。





「あぁ……来て下されましたか。 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント様」


「はい、何で御座いますか? ウランフ先生」


「この課題は……ご自分で?」


「勿論で御座います。 ご指導の内容の良き復習となりました」


「そう……ですか」


「基本的な理解が出来ましたわ」





なんでか、ウランフ先生の表情が硬い。 何だろう?





「……クロエさん、ちょっと、発火の魔方陣、出してもらえませんか?」





 この、お爺ちゃん先生、なんか知ってる。 魔方陣は、”書く”モノで、”出す”モノでは無い。 出せるのは、”魔力”で書いた魔方陣だ。 出来んって言ってみるか? いやいや、ダメだろうそれは。 み、右手でいいよね…… 何知ってんだろ……





「はい……これで、宜しいでしょうか?」





 右手の手のひらに、発火の魔方陣を浮かび上がらせた。 お爺ちゃん、じっと見てた。 そんで、こそって言ったよ。 私、耳いいんだよ? 聞こえたよ? ”マジかよっ” って、どういう意味?





「では、風の魔法を左手に」


「はい……こうですか?」





 熱風作る時と同じだね。 そん時は逆だけど。 ウランフ先生・・ お~~~い なんで、黙ってんの。 なんで、怖い顔してんの? 言われた通りにしただけだよ?





「リヒター様に聞いては居たが……」





 あぁ? リヒター様? なんで? ……思い出した。 ラージェに質問されて、現物見せた時だ。 あんとき、リヒター様見てたよ。そう言えば。 でもでも、コレって、辺境では、出来る人結構いるよ?





「制御も出来て、二重魔方陣が出せる…… クロエさん、どうだね、魔術科の特進教室に来ないかね」





 即答は避けよう。 特進教室ってたら、宮廷魔術師専門コースだよね。 王族専用になるんだよね。 んじゃ、パス。 関わらない様にするから。





「先生の御言葉、大変、有難いのですが、黒龍大公閣下から、”行政科へ”とのご意向が御座いますので……誠に申し訳ございません」


「……そうか……惜しい……大変惜しい……兼科と言う事は、考えておらぬか?」


「もし、私にその能力が御座いましたら、専攻を決めます時に、お願いに上がるやもしれません」


「うむ……楽しみに待っている」


「有り難きお言葉、痛み入ります」





 最敬礼して、部屋を辞した。 うはっ! リヒター様、何を言ってるんだ。 穏やかに過ごさせてくれよ! ウランフ先生の部屋から出て、自室に戻ろうとしてたら、なんか争う声がした。 なんだ? 教室から遠いよ此処。 そんで、食堂とか、運動場も反対側だし…… 図書館も……違う区画だ。 此処は先生たちの部屋が有る区画だよね…… ん?





「下賤な者が、崇高な魔法科に行く? ふざけてんのか?」


「何様のつもりだ。 何処の家の者だ!」


「魔法は貴族の物だ! 庶民には過ぎた物だ!」





 なんか、翡翠色の制服が 二、三、四人いるね。 一人の生徒を囲んで、周りからガヤガヤ言ってる。 うっせぇ~~ 取り囲まれてんの、女の子だ。 マントに銀製の渦巻きの記章があるね。 ありゃ、魔法科特進教室の人だ。 あの貴族、知らんのか? 知ってたら、あんな事云わんよね。 だって、もう、女の子は魔法科に属してるんだもん。 





「貴方達、何を騒いでいるの? はしたない」





 取り囲んでた貴族の男共が私を、ギリッって睨みつける。 全然怖くねぇ~。





「女は黙っていろ! こいつに教えてやってるんだ!」





 リーダーらしき男がそう吠える。 馬鹿じゃない? 





「あら、魔法科特進教室・・・・・・・の生徒さんに何を教えるの? そんな学園の規則は無くてよ? 何時、そのような規則が追加されたのでしょう。 寡聞にして、聞き及んでおりませんわ。 まさか、あなた達が、ご自分達でお作りになったの? まさかね。 もし、そうだったら、大変な事になるわ。 学園規則、第8条4項、2、及び 3 で、処罰されますわよ? 罰則規定 第6条、2項が適用されたら、あなた達、もう、その深緑の制服は着れなくなるわ。 どうしましょう?」





 極めて冷淡に、何の表情も浮かべず、底冷えのする声で、言ってみた。 有難う!閣下おじさま、そして、黒龍大公翁おじいちゃん! お二人の、怒りを覚えた時の話し方が役に立ちましたわ!! コソコソ三人組が話してるわね。 聞こえてるわよ?





「誰だ?」


「や、やべぇ……「氷の令嬢」だ!」


「うわぁ……これは、……い、行こう。 エドウィン! 」





 すんごく失礼な方達ね。 プンスカ! でも、まぁ、視界から消えてくれて、ホッとしたね。 これ以上馬鹿の相手は疲れるし、万が一、万が一よ、相手が手を出したら、返り討ちして、大事になってたもの。 いやぁ~へたれてくれてよかった。 取り囲まれてた、小さな女の子が、私を見てた。 氷の表情は解除したよ。当然ね。 にっこり笑って、その子を見た。





「あ、あの、お騒がせいたしました」


「いいのよ~。 この国が、民の力で成り立っているのが理解できない、貴族の方々が多くて、困ってしまいますわね。 気を付けてね」


「は、……はい。 あの、私、ミルヒー=エックスと申します。 助けて頂いて、あ、有難う御座いました」





 あら、ちゃんと、名乗れるんだ。 いいね。 とっても、いい。 じゃぁ、私も!





「ご丁寧に有難う。 私は クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント と、申します。 お見知りおきを」


「く、クロエ……様……こ、氷・・氷の令嬢……・」





 慌てて、ミルヒーは頭を下げて、脱兎の様に私の前から消えた。 あれ? あれれ? あれれれれ?





 なんでじゃ!!!






 どうも、トンデモナイ噂が流れとるらしいな……


 こんなんで、本当に…… 友達……




 出来るんかな………………










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