クロエ 入学する
悪役令嬢になる為の、条件が整いました。
ダメ押しの状況整備です。 固めました!
【降臨の間】までは、王家一行が先導してくれるって。 ここで、レオポルト王弟様、赤龍大公様とは暫しのお別れ。 うん、大丈夫だよ。 そんなに心配した目で見なくていいよ。 此処からは、私自身の戦いだしね。 レオポルト王弟様、リカルド赤龍大公閣下、ホントに有難う。 クロエは、行きます。
陛下が玉座を立って、先を御歩きになる。 玉座の後ろに扉があった。 ん? 見覚えがあるぞ? なんだ? ゾロゾロその扉に向かって、皆さまがお歩きになってるよ。 ついて来いって事? なんにも説明ないのね…… なんでじゃ!
陛下がモゴモゴ言ってる……あっ、消えた。 あぁ、あの扉か……あれ、色んな所にあるんだね。 王太后様も消えた。 うんうん、そんで……御妃様……なかなか行かないね。 やっと行った。 なんで、あんなに時間が掛かるのかな…… ふと、視線を感じた。
「貴方が、クロエなのね。 へぇ……庶民上がりの、上手くシュバルツハント大公家に潜り込んだって云う、下賤で卑しい女って! 恐れ多くも、第二王子ミハエル様の婚約者にまでに成り遂せるとは。 ウラミル黒龍大公様に、一体どんな、薄汚い手を御使いになったのかしら? それとも、ウラミル様の妾の子かなにかかしら? まったく、れっきとした、エリカーナ様って云う奥様がいらっしゃると云うのに! 遊女の子が! 高貴な龍印を保有しているなど、信じられませんわ! どうせ、魔導かなにかでごまかしたんでしょうに!」
うわっ! 初対面でこんな悪態つかれたの初めて……へぇ、やっぱりそう言う評価なんだ。 それにしても、酷いね。 うん、これは酷い。 私の事をとやかく云うのはどうでもいいんだが、ウラミル閣下の事、母様の事まで言ったね、この馬鹿。 自分が言われたら、どんな顔するんだ? まぁ、いいや。 ここで事を荒立てても、結局はウラミル閣下の迷惑になる。 笑顔の仮面は、まだへばりついてるな。 よし。
「クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントです。 お初にお目に掛かります」
バッチリ、カーテシーを決める。 この馬鹿の名前は知らないけど、この扉を抜けようとしてるから、きっと エリーゼ=ナレクサ=ブランモルカーゴ白龍大公令嬢なんだろうね。 第一王子のフランツ様の御婚約者。 馬鹿は名乗らんけどね。
チリリッ
ん……なんか……なんか胸の奥で、ちょっと焼けた感じが…… なんだ? コレ・・
「ふん!」
うぇぇ~~~ 嫌な感じだ~~~ あぁ……扉の前でモゴモゴ言って、奥に消えてった。 後は、私だけかぁ……また、視線を感じた。 またかぁ~~。 宮中で、私、ドンダケ嫌われてんの?
「ご無礼を……クロエ様。 お急ぎ下さい。 お時間が迫っております」
あぁ……慇懃無礼な態度がアリアリとでとるね。 見覚えがあるよ、侍従長さん。 【降龍祭】の説明全く無しだよ、今の、今まで。 どうなってんの? 王家の秘儀だよ? 庶民とか言って、見下してるんだろ? じゃあ、説明くらいしろよ。 この、薄ら禿! 行くよ、判ったよ。
「左様で御座いますか。 何もご説明、頂いておりませんでしたので、存じ上げませんでしたわ。 では、失礼」
ちょこっと、嫌味返し。 私の説明に慌てるくらいなら、もっと、状況を見ろよ! 執事といい、侍従長と云い、万能説は、やっぱり、王城でも都市伝説だな! さて、行くか。 おお、あの、ちっこい「門の守護者」居るね。 久しぶり~~。
⦅今年は、来てくれたんだ!⦆
⦅うん、呼ばれてね!⦆
⦅天龍様、去年めっちゃ怒ってたから、なだめんの大変だったんだぜ!⦆
⦅そうなんだ、なんか、ゴメン⦆
⦅今年は、来てくれたから、早速報告しとく! 今年は、ご機嫌になるな。 きっと⦆
⦅なら、良いんだけどね⦆
⦅当ったり前じゃん! 聞いてるよ! 天龍様の穢れを払ってくれてんだろ。 ずっと、魔力が送られて来てるって、お話されてたもんな⦆
⦅よかった。 ちゃんと届いてたんだね⦆
⦅ああ、 いくかい?⦆
⦅ええ。 行くわ。 いつもこの扉を守ってくれてて有難う!⦆
⦅良いって事よ! まかせなっ!⦆
なんで、精霊様はいつも優しいんだろうね。 私は扉を通り抜けた。 古代キリル語での会話は、他の人達には、きっと聖句を並べてるように聞こえるんだよね。 侍従長さん、目をまん丸にして、私を見てるのが、視界の端に入ってたよ。 流暢に古代キリル語を話す私は、珍しいか? 珍獣扱いするんじゃねぇぞ! その位の情報は拾っとけよ! 薄ら禿!
無視、無視! 二枚の扉を抜け、転移門から飛んで、さらっと【降臨の間】に辿り着いた。 薄暗いね。まぁ、天龍様がいらしたら、めっちゃ明るくなるけどねぇ。皆さん、頭を垂れて、壁の大魔方陣の前に陣取ってらっしゃるね。 それぞれが、聖句らしきモノを口にしてる。 でも、それ意味、通じませんよ? 単語だけが、羅列されてて…… 天龍様とか、御降臨とか丁寧に言ってるつもりなんでしょうが、めっちゃ無礼ですよ?
⦅・・な・天龍様・御降臨・・よく……き・み・わ・ば・・か・・こ・・け・・らじゅ・されしこと・ふし・・てね・・い・らん。古き契約……の・・我ら・願い・かなえ・て・・⦆
もうね……、何言ってるのかも分からない。 幾らなんでも、酷過ぎる。 私のいる場所は、……末席も末席。 壁際の端っこ。 まぁ、そんな扱いでしょうね。 こんな言葉を聞かされる、天龍様の御気持ちを考えると…… 我慢してたけど、もう、 ” 限界 ”。 無理、無礼を通り越してるよ。 だから、お願いしてみた。 まぁ、人の事、云えないけどね。 これよりはマシ。
⦅ 天龍様、クロエ、参りました。 御姿みせてくださいね。 お話しづらいですから⦆
限定転移魔方陣がパァって光って、天龍様御光臨されました。 二年ぶり二回目ですね。
⦅おおお、クロエ! 我が愛し子! 来たか! この日を楽しみにしていた!⦆
開口一発目からもう! 並みいる高貴な方々をまるっと無視して、私だけに声を掛けられる天龍様。 おとなげないっすよ? そんでもって、誓文をもってガタガタ震えてる エリーゼさんも完全に無視して、私の前にその大きな顔を持ってこられた。
⦅クロエ、鼻先に手を⦆
⦅はい。 私から魔力を注ぎますか?⦆
⦅やってくれるか? 宝珠を介するより、直接の方がやっぱり良いからな⦆
⦅はい⦆
天龍様の鼻先に手を添え、内なる魔力を注ぎ込む。 ぼんやりと手が光る。 それに反応して、天龍様の頭や体が金色に発光する。 眩しいよ、近くで見たら。 こびり付いた穢れが、光に浄化される。 うん、いい感じ。
⦅クロエの頼みを聴いているのだが、あれで大丈夫か?⦆
⦅問題ありませんよ。天龍様は、十分に、この地に平和を与えて下さってます⦆
⦅ならば、よい。 儂も満足だ⦆
和やかな空気が、【降臨の間】一杯に広がる。 ゴホンと咳払いが一つ。 陛下だ。
「クロエ、悪いが、天龍様に聞いて貰えるか? ハンダイ龍王国が注意を払わねばならぬ事を」
「はい、陛下。 お待ちください」
天龍様が気持ちよさそうにしてらっしゃるから、鼻先に手を当てたまま聞いてみた。
⦅天龍様から見て、なんか危なそうな所有りますか?⦆
⦅そうだな……領域の北と南は大丈夫だろ……西側の森も……儂の力が戻って来たから、そんなに問題は無いな…… 魔物の暴走も止まってるはずだし……ん、そうだ、東側だ。 思い出した。 人の子の作る邪悪な魔法が、東側の領域付近にチョロチョロしてる。 まぁ、我が領域内には、まだ入っていないが、様子見って所かな⦆
⦅有難うございます⦆
天龍様の口から漏れ出る古代キリル語。 みんな聞いてるよね。 大丈夫だよね。 王族なんだから、理解出来るよね。 あ・・あれ? なんで、私の顔見てるの?
「で、天龍様は、なんと」
うへぇぇぇ……わかんなかったったんだ!! ど、ど、どしよう。 誓文みたいな言葉知らんよ私。 ええっと。取り敢えず、教えてもらった事は伝えてみる。 信じるかどうかは……もうちょっと古代キリル語を勉強して、自分たちが直接聞けたら良いんじゃない?
「はい、天龍様の御威光が空を覆い、龍王国の北、西、南側は、安寧が護られております。 東側も平穏では御座いますが、御威光が届かぬ場所にて、黒魔術の気配が有ると。 備えよと仰られております」
「東側か……わかった。 ハッキリ伝えてくれた事、感謝する。 ……いや、有難う。 もう一つ、古き血の契約は、まだ守って頂けるのか」
天龍様に向き直り、国王陛下のお言葉…… つうか、ご質問をお伝えするの。 ホントは云いたい、 ” 自分で聞けよ!!! ” ってね!
⦅古の契約の続行を望んで居られますけど……天龍様?⦆
⦅……おお、半分寝てた。 いや、気持ちイイな、お前の魔力は。 それで、何だと?⦆
⦅いえ、あの古き血の契約……⦆
⦅あぁ……クロエも一族の血を、引いているのだろ? なら、いいぞ⦆
⦅有難う御座います⦆
今度は、国王陛下に向き直って、素直にお伝えするのよ…… なんで、仲立ちするみたいになってんのよ!! ホントにもう!!!
「引き続き、ハンダイ龍王国にご加護を頂けるそうです」
「うむ、重畳、重畳!」
陛下は、とても満足されていた。 暗かった顔が明るくなった。 きっと、物凄く心配だったんだろうね。 反対に、その言葉を聴いた、その辺に居る女ども…… なんで、睨むのさ。 私、間違った事してないよ。 あんた達も天龍様の言葉聞けたんだろ? 古代キリル語だぞ? 勉強したら、判るぞ? って云うか、判れよ! 通訳なんぞ、したくないんだよ。
アナスタシア王太后が、送還の聖句を紡ぎ始めた。 天龍様……何となく不満気……
⦅クロエ、来年またな⦆
⦅……はぁ……判りました⦆
そう言って、天龍様は限定召喚魔方陣の彼方に消えていかれた。 薄暗くなった部屋。 陛下が、大声で、笑った。 晴れやかに。 心の底から嬉し気に。
「皆の者! 私は、まだ、見放されていなかった! 重畳、重畳!! よし、祭りは終わった。 帰るか、宴会ぞ!」
皆に確かめる様に、そう言うと、転移門へ向かい、消えた。 残ったのは、女三人。 ナタリヤ妃殿下は何も言わず、転移門へ向かい、ゴモゴモ口の中で何かを唱えてから、消えた。 エリーゼさんも同じように、私に目を合わす事すらせず、ゴモゴモ言いながら、転移門から消える。
アナスタシア王太后様。 私の近くに寄って来た。 うわぁぁ……また、なんか言われんの?
「良くやってくれました。 天龍様もお喜びの様でした。 ……来年の祭りも期待しているわね」
「はい」
はぁぁぁぁ~~~ 心の中ででっかい溜息が出たよ。 確定だよ。 毎年来る事に成ったよ。つまりは、姿を見せなかった馬鹿に、嫁げって事だね。 ……本気で逃げたくなった。
嫌な事はサッサと終わらせるに限るね。 まだ、日も完全に落ちてない。 これなら早く屋敷に帰れる。転移門と、扉を三枚通り抜けると、【謁見の間】に、戻れた。 良かった。 レオボルト王弟様と、リカルド赤龍大公様が待っていてくださった。 よかった。
侍従長が、”晩餐会・・” とか、 ”ミハエル王子が……” とかなんとか言ってたけど、レオポルト様が、
「クロエ殿はお疲れだ。 儂がお屋敷まで、送って差し上げる。 お前は、陛下に伝えよ」
って、言ってくれて、お屋敷に帰れた。 うん、また、確実に王宮関係者に、嫌われたね。 いいや、もう。 今回の事でハッキリわかった事がある。 そうだ、王家の人は私の事が嫌いなんだってね。 別に好かれようと思わない。 出来るだけ近寄らない様にする。 例外はレオポルト様だけね。
じゃぁ、ごきげんよう!
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嫌な事があっても、頑張って耐えた。 うん、耐えきった。 黒龍大公家の面目は護ったよ。 それに、ちゃんと、” お屋敷 ” にも、生きて、帰って来た。 みんな喜んでくれた。 特に閣下に。
なんか、嬉しいね。
でね、【降龍祭】が終わったら、すぐに学園の卒業式になる。 今年はイヴァン様がご卒業になられるのよ。一杯お祝いしなくちゃね。 ソフィア王女も、卒業後ほぼ直ぐに、リヒター様とご結婚になる。 その準備でお屋敷は大変忙しかった。 うん、とってもね。 お荷物の搬入とか、調度品の入れ替えとか、黒龍大公家総出で準備していたよ。
その間は、私とメイドズ、オトナシクしてた。 でもね、私が学院に入るまでに、やっときたい事、あったんだ。 だから、ヴェルにお願いして、マリオを通して、黒龍大公家お抱えの、” 暗部 ” の人達に警護を、お願いして、メイドズの実家に顔を出したのよ。
最初は渋られたけど、マリオも許可してくれたしね。 絶対に失踪しませんって、精霊誓紙に契約書作成されたよ…… それでも行きたかった。 うん、メイドズの親御さんたちに謝らなきゃね。 私の言葉から、実家と六年間、離れちゃうんだもんね。 これだけは入学までに終わらせたかった。
皆の協力で、上手く行ったよ。
三人の御実家にそれぞれ、ご訪問してね。 手土産持って、ご挨拶に行ったのよ。 皆さん快く迎えてくれたわ。 特に、エルのお家。 パン屋さんだった。 売り物のパンが、ものすっごく美味しそうなパンだったよ。
なんか、”ゴメンなさい”したら、反対に頭を下げられて、感謝されたよ…… なんでだ? お土産もいっぱい貰ったよ? どうして? まぁ、許してもらえたと思とこっか!
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従兄様の結婚式は荘厳だったそうだよ。 王女様、本当に綺麗だったみたい。 私は王城での結婚式へは行かなかったよ。けど、それはそれは素敵な結婚式だったそうよ。 ヴェルがお屋敷のみんなに、お話してくれた。 リヒター様も、ソフィア様も、とってもいい笑顔だったって。 安心した。
王女様……じゃなくて、もう ソフィア若奥様だね。 リヒター様が王宮で陛下に突き付けた、結婚する為の条件が、ソフィア若奥様が、お屋敷に入る事だったんだって。 王宮関係者……白龍大公様の一派は、物凄く反発されたらしいけど、当のソフィア若奥様は、あんまり気にしてなかった見たいよ。 御同窓のイヴァン様曰く、
「そうだね、ソフィアはそこん所は、無頓着だったね。 彼女は噂によると、セシル様に似ているそうだ」
うわぁぁ……婆様に似てるんだ…… イヴァン様、あんまり無茶すると、ケツ、フライパンでぶっ叩かれますよ? まぁ、そうなった時の、リヒター様や、イヴァン様の御顔を見たい気もするけどね。 そう言えば、お部屋は、当初の予定通り、私が使わせてもらってた部屋になったみたい。 大公翁も、快く許可したって。 あの部屋では無茶できないだろうからってね。
ソフィア様、がんば!
で、ソフィア若奥様は、あの部屋にお入りになった。 エルザさんも一緒にね。王女様の御道具入れたから、まるで違う部屋みたいになったけどね。 一度、表敬訪問に行ったのよ。 ほら、一応 私、黒龍大公家のお嬢様って事に成ってるから。
そしたらね、ソフィア様、凄く喜んでくれたのよ。 一緒にお茶して、色んな話して……なるほど、婆様の考え方に近いね。 きっと、辺境でも生きて行けんじゃないかな。 うん、たくましいよ。 お部屋を辞する時に、ソフィア様から、
「いつでも来てね♪」
って言われちゃったよ。 なんか、嬉しいね。 後ろでエルザさんも頷いてたから、社交辞令じゃ無いよね。信じちゃうよ。私。 これから、良い時間を紡いでいって頂けたらいいなぁ…… 願いを込めて、祈りましたよ。 はい
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収穫祭のある月の、第一日目。
王城ドラゴンズリーチの南の城門前。
ハンダイ龍王国全土から、十二歳になる貴族の子弟、子女と、年齢がバラバラな庶民が、集められた。
みんな、真新しい深緑色の制服に、これまた、翡翠色のコートを着ていた。
周囲には、上級生が並び、正面には先生たちが並んでいた。
学園長が、長い祝辞と入学の許可を私達に言った。
柔らかい光が降り注ぐ中、 私たちは、王城、南の城門から、これから六年間過ごす学び舎に足を踏み入れた。
頑張るぞ! 目指せ、自分の食い扶持を稼げる女!
そうだよ
学生生活が始まるんだよ。
うん、とっても楽しみ。
活動報告でのご質問に答えて頂き、誠に有難うございました。
へんな質問してしまって、すみません。
精進します。




