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ヌーヴォー・アヴェニール   作者: 龍槍 椀
ヌーヴォー・アヴェニール 本編 物語の始まり
15/111

クロエ 対峙する

※ 長いです


yasano様よりのご指摘。 誤記直しました。

 



 我が家(黒龍大公家)の、お兄様方が、皆さんを貴人用応接室にご案内したね。 豪華調度とは言わないけど、この部屋の重厚さは、ちょっと凄いと思う。 内務官僚の総取締役でもある、閣下おじさまの、趣味丸出しで、御座います。


 まぁ、ちょっと、特殊な方々も一族には、いらっしゃいます。 爺様とか、父様とかね。 だから、武具なんかも、飾られております。 部屋の隅にね。 全体に重い雰囲気の部屋ですよ。 女性の家人が極端に少ないこのお屋敷では、色合いの変化が大変乏しいの。 キラキラの無い、重厚さって、重いよ? 大丈夫かな、王女様。


 私以外の皆が腰を下ろす。 さぁ、接待だ! あれ? なんで、二人ばっか、 ” 立ってる ” の?  王子様の後ろと、王女様の後ろ。 変じゃん! お二人とも、お仕着せじゃないよ? ちゃんとした訪問用の正装だよ? これは、いけない。 マリオを呼ぼう。





「マリオ、御座席が二つ足りません。 早急に用意を」


「はい」





 あれって顔をされた。 王子様と王女様に。 マリオが私の視線を読んで、王族の近くに椅子をセットした。





「どうぞ、御掛け下さい」




 私の言葉で、戸惑うお二人さん。 なんでじゃ? 王子様が私に聞いてきた。




「この者達は、私達の従者だが?」


「同じ乗り物で、お屋敷に見えられ、正装されておられる方々は、等しく大公家のお客様でございます。 黒龍大公家は、お客様を粗略には致しませんわ」




 暫しの沈黙




「うむ……そうか。 わかった。 ならば、良い。 君たちも掛けなさい。 そうしないと、彼女も座って呉れないだろうからな」




 お二人は、頷き、着席された。 よかった~~。 これって、変じゃないよね? ソフィア王女が、ついている方に、にこやかな視線を向けられたよ。 そんで、私にも。




「ありがとう クロエ。エルザは、白龍の御爺様が、 ” 特に ” と、言って、付けてくださったの。 エルザは、ルーブトン男爵家の御息女だから、貴女の言葉は嬉しいわ」





 あれ? 貴族が従者なの? それは……まぁ、相手は王族だしね。 ” あり ” 、なんだ。 殿下の従者も、それ相応の身分なんだろうね。 聞かないけど。 


 ルーブトン男爵家って言えば、……貴族名鑑に絵姿も載ってたよね。 特記事項が有ったような……たしか、ご当主と、奥様が馬車の事故でお亡くなりになって、今は、白龍大公家の人が家名を御継ぎになったとか……。 


 その方、まだ、新婚さんだから、エルザって人くらいの娘さんなんか、いない筈だし……あぁ、そうか、亡くなった方たちの忘れ形見か……


 頭の中で、ザックり思い出したよ。 やっぱり、礼法の先生の指導は凄いね。 こうやって、知らない人の背景がスルッてわかっちゃうもんだね。 これは、凄いことだよね。 まぁ、なんだ。 控えて、目立たない様にしてる理由が分かったよ。


 私が着席すると、お茶会みたいになった。メイドさん達が、緊張の面持ちで、紅茶を入れ、茶菓子を出し、一礼して去ってゆく。 うん、大変結構な手捌きで! 失礼に当たる箇所、無かったよ。 とっても洗練されてたよ。 お客様は、満足してくれたみたいだよ。 


 暫く、歓談みたくなって、閣下おじさま含めて、いい感じ。 お天気の話とか、学院の話とかね。 で、ソフィア王女様、基本ニコニコしてらっしゃって、そんな悪い感じしない。 でもね、……エルザさんの表情が硬い。 硬いね。 なにか、別の意図があるみたい、この、 ” お茶会 ” にね。


 そんな観察してたら、突然、王子が話を振って来た。





「君の、 ” クロエ ” という名は、珍しくないのか?」





 何気に、殿下が私の名前に興味を示された。 まぁ、私の名前はそんなに珍しくないよ? 開拓村の周りの村や、町なんかでは、よく耳にする名前だしさ。 母様と一緒に買い物に、村まで出た時に、おんなじ名前の子が呼ばれてて、私の事かと思って、付いて行きそうになった事、思い出したよ。




「いいえ、殿下。 北端の村々では、”クロエ”という名は、そう珍しいものでは御座いませんわ」


「そうか……ならば、良い」





 なんで、がっかりした顔すんのよ。 なんかアンの? 喧嘩、売ってるの? 殿下が手をモミモミしてる。 ん? 中指に嵌まってる輪っか……なんか見覚え有るなぁ……なんだっけ?





「お兄様、まだ、下女・・の ”クロエ” とやらを探しておられるのですか?」





 ソフィア王女が、笑いを堪えたような顔で、殿下を見ながらそう言った。 ”まだ” ってどうゆう事?





「いいだろ、別に。 あの者には、偶然(たまたま)、知り合えただけだ。 イヴァンがいつも自慢している、妹の名前が、” たまたま ”、同じだっただけだ」


「あらあら」





 ソフィア王女、コロコロ笑っとるぞ?





「……殿下は、お探しになってるのよ。 子供の頃に逢った、その子の事。 殿下の右手をご覧になって、翡翠の指輪が中指にあるでしょ。 その子に貰ったって言って、ずっと嵌めているのよ。 なんででしょうね、ウフフフフ」





 うーん……なんでだ? 物凄い見覚えがある……あれ? あれは……母様の魔除けの輪っか……に似てるね……でも、違うよね。 うん、違うと思う。 万が一そうだとしたら、ものっそい、不敬、かましたことになる。 黙ってよう……笑ってりゃいいよね


 まぁ、そんな事もありました。 ドキドキしながら、お話の ” お相手 ” してたんだけど、殿下と、イヴァン様が、ゲームの話を振って、それに、リヒター様が乗っかった。 うわ、ダメな奴等。 ソフィア王女もいるんだよ? そんな、【超局所的趣味話】 持ち出して、どうすんの? うわ、御手合せって…… こら、空気、読めよ! ソフィア王女、困ってるぞ! 


 おい、マリオ! なんで、準備してる! メイドさん達、至福の時間を持つ為にって、準備手伝うなよ! ……あ、あぁ、あぁぁぁ!  そうだ、閣下おじさま! 止めて、お願い! この、”男の子達” を、止めて!!





「これは、見応えがある、対戦となりましょうな」





 ばかぁぁぁぁぁ! なんで、閣下おじさままで! ど、ど、ど、どうしよう!





 仕方ないね。 ”男の子しょうねん” の心を持った、大人達だもんね。 でもな、一番大切な接待を十一歳の子供に丸投げって、どういう事よ! いいよ、わかった。 あとで、とっちめる。 その前に接待だ。 よし、巻き込んでやる。



 だれか! そうだ!!! ヴェルを呼べ! 一緒に付き合ってもらう!



 ソフィア王女と、エルザさんにお屋敷を見てもらう事にしたんだ。 ヴェルは、キーマスターに成ったばかりだけど、大丈夫だよね。 彼が開けられない扉は、閣下おじさまか、大公翁おじいちゃんしか開けられない筈。 超重要部屋って事。 まっ、あんま、無いんだけどね。


 基本お屋敷の中は、あんまり飾り気がない。 王城ドラゴンズリーチの北門だからね。 お屋敷の一階の大部分は、北門の守護騎士団が駐屯してるし、黒龍大公家の、 ” お屋敷だ ” 、って言っても、城門に併設されてるみたいなもんだしね。 まぁ、巨大だけどね。 ソフィア王女、目を丸くしてるよ。 そりゃそうだよね。 王城ドラゴンズリーチには無い、防御施設ばっかだもんね。





「……まるで、砦の様」





 エルザさんの言葉だよ。 そうだよ、その通りだよ。 砦だよ。 ここは。 私が言った、質実にして、剛健ってこういう事だよ。 ”飾りはいらない、その分の費用を、国力の増大に使用する”ってね、大公翁おじいちゃん言ってたよ。 お二人さん、なんかコソコソ話し始めたよ。 ……ん? キリル語? なんでまた?



(なんだか、白龍の御爺様のお屋敷とは、様子が違いますね)


(全くですわ、姫様。 このように、むさ苦しいとは……これでは……)


(でも……婚姻のお約束は、この屋敷に住まう事でしたし……)


(なぜ、そのような条件が付いたのでしょう、嘆かわしい)


(……叔母様が……王城にお暮しになって……なんだか、良くないことが起こったとか)


(……そうですか。 しかし、これでは……白龍大公様だんなさまにお知らせしなくては!)


(そこは、任せるわ。 それより、あの、クロエって子……お母様の言うような、悪い人には見えないわ)


(……まだ、分りません)


(……そうね……まだ・・ね)





 おやおや、エルザさんの ” 旦那さま ” は、白龍大公閣下かぁ……お母様って、あの、シッコ漏らばっちいしの白塗り仮面(御妃様) でしょ? やっぱり、悪し様に言われてんだろう なぁ…… 確か、うちの白塗り仮面おくさまも、白龍大公閣下の御身内でしたよね。 私、相当嫌われてんなぁ……


 それにね、密談をキリル語でするって……知られないと思ってるんだろうなぁ……私の情報って、出回ってないのねぇ……知らんぷりしとこ。





*******





 あちこちを見回ったけど、やっぱり、あんまり、御気に召さないみたい。 そうだよね。 キラキラな世界に住んでいたら、黒龍大公家は、それこそ ” 砦 ” だもんね。 ” 虚飾を廃し、実用性を重んじる ” みたいな。


 この屋敷はマジで、王城の守りの要で、ここを抜かれると、王城落ちるもんね。 各大公家にも同じ役割がある筈なんだけどねぇ…… そのお約束を、文字通り、 ” 守っている ” のが、黒龍大公家と、赤龍大公家の二家ってのもなぁ……


 そうこうする内、案内すべき場所は全て案内し終わった。 ヴェルご苦労さん。 よく歩いたなぁ…… 貴人用応接室をちょこっと覗く。 ”男の子こどもの心を持った大人達は、未だ夢中で盤面を覗ぎこんどる…… うん、ダメだ。 お仕置きが必要だ。 さて……どうしよう?





「クロエ、わたくし、貴女の部屋が見てみたい」





 ええぇぇ……むさくるしいっすよ? でも、まぁ、王女様にそう言われればねぇ。





「ええ、もちろんですわ、殿下。 此方です」





 ヴェルが走った。 うん、そうだ、君の判断は間違いない。 エルや、ラージェ、ミーナにお知らせしなくてはね。 もしかしたら、いつも通り、三人でお茶してる可能性もあるからな。 偉いぞ! ヴェル、あの空間は私の分身だから、緩み切ってる可能性もあるぞ! 今から、五百数える。 その間に、何とか間に合わせろ! 君の能力に期待するぞ!


 お部屋までは、そんなに遠くない。 でも、他の処と違う事があった。 明るいのだ。 絨毯も真新しく、複雑な文様が織り込まれている。 燭台も他の通路とは違い、沢山あった。 また、要所、要所に衛兵さんが立番していて、ちょっと物々しい。 壁も腰板も真新しく、美しく輝いている。 うん、別の御屋敷みたいだね。 これには訳があったんだけどねぇ……


(なにか、この廊下だけ、違いません事?)


(クロエの為だけに、新調したのかもしれません)


(大事になさっているのね)


(姫様より大事な方など居る訳も御座いません)


(フフフ…… 此処は黒龍大公家よ? 白龍の伯父様のお屋敷とは違うわ)


(次期当主の奥様に成られる方です。 相応のお部屋でないと!)


(まだ、一年あるもの、その間に用意してもらえるわ)


(左様で御座いますでしょうか? 私には、そうは思えません。 ウラミル黒龍大公閣下の奥様も非道な扱いを受け、王城に籠られたとも側聞いたしております)


(あら、白龍大公閣下おじさまもそんな事おっしゃってたわね。 そうなの?)


(黒龍大公家は、女性にお優しくないとの噂が御座います)


(まぁ……それは、嫌ね。 それにしても、綺麗ねこの廊下。 とっても明るいし……)





 この部屋までの廊下の豪華さは、ある意味、” クロエ対策 ” だったらしい。 勝手にお屋敷抜け出す、トンデモお嬢様な私は、重監視されているのだよ。 


 廊下の絨毯の織模様……あれ、探知魔法の魔方陣になってるんだ。 黙って出ようとすると、マリオとヴェルの部屋に大音響で警報が鳴る。 壁がピカピカなのは、下地に魔法障壁が彫り込まれてるから。 そう、跳躍魔法や、転移魔法が使えない。 燭台はみんな魔法の灯火で灯されているから、隠形の魔法が通じない。


 そんでもって、最後は人力。 あの衛兵さん達、みんな、黒龍大公家お抱えの暗部の人。 知ってた? ヤレって言われてたら、国王様が夜に何回寝返りを打ったかも分かるんだよ? なんで、そんな人たちがって思うだろうけど、私、あの人達出し抜いて、屋敷、出たことあるからね…… それ以来、定詰になってんだよ。 えへへへ、笑うしかないよね。


 なんか、お二人さん、言いたい事云ってるね。 私が判らないと思って、まぁ、あけすけに…… 気を付けようよ、他人様の御家なんだからさぁ。 でもね、王女様達の言う事、微妙にズレてるんだ。


 この家のおとこどもは、女性に対して男性と同じように対応するんだ。 家人に女性がホントに少ないから、判らんのよ。 機微が。 今も、ソフィア様ほったらかしで、ゲームにうつつを抜かしてるんだ。 ホントに、女心とか、判れよ! さて、495,496,497,498,499,500!


 部屋の前でヴェルが恭しく頭を下げ、扉を開けてくれた。 よし! 間に合った。 偉いぞヴェル、凄いぞ、メイドズ! 


 さぁ、入ろう! お姫様を私の部屋に招き入れた。




「まぁ、素敵」





 開口一発目。 喜んでくれた。 うん、そう、この部屋も、 ” クロエ対策 ” 済み。 大体、白色で統一されている壁。 淡いクリーム色の調度、淡緑色パステルグリーン調の小物群。 本棚にはズラ~~~っと教科書で使った書物の背表紙。


 床はふかふかの絨毯……の下に重防御結界魔方陣、常時展開中 等々。 そんでもって、香りはラベンダー。 人工的な匂いがダメな私は、自分で摘んで、乾燥させて、ポプリにして、部屋のあちこちに仕込んでいる。 人が動くと、ふんわりと香るの。





「落ち着けるお部屋ね。 とても綺麗だし……」





 ウットリとしているソフィア王女。 そうか? まぁ、色々ゴタゴタ置いてあるよりマシだよね。





「バルコニーにお茶のご用意をいたしました」





 エルがにこやかにそう言ってくれた。 まぁ、あんまり長く部屋に居られても、マズイ物もあるしね。 ほら、”例の魔導書” とかさ。 エルに促されるまま、バルコニーへお二人を誘う。 うん、今日も御城が綺麗だ。夕日を浴びた御城は、赤く染まっている。





「これは綺麗ですね。 こんなに輝くドラゴンズリーチをクロエは毎日見ているのですか?」


「はい、晴れの日も、雨の日も、御城は美しく厳かにいつも有ります」


「素晴らしい眺めですわ」





 うっとり、その景色を楽しんでおられるね。 まぁ、私は朝日が浴びれたら、何処だって良かったけどね。 エルザさんになんか耳打ちしてる。 聞こえてるよ?





(輿入れして、この屋敷に移り住むのならば、この部屋がいいですね。 気に入りました)


(そうですね、姫様に相応しいお部屋です。 此処ならば、姫様もお寛ぎできるでしょう)


(ねぇ、エルザ。 頼んでみてくれないかしら?)


(今、で御座いますか? ご当主様にでは無く、クロエにですか?)


(あら、だって、この部屋、クロエのよ?)


(わかりました)





 あぁ・・部屋が御所望なんだ。 やっぱ、景色いいからねぇ…… そう言えば、私、学院に行くんだった。 卒業までは王都に居られると思ってたけど、それからの事考えて無かった。 まぁ、そん時には十八歳になってるから、自分の行先は自分で決められるからねぇ。 このお屋敷に帰ってくるってのもあったけど、私、居候だし、そん時には、開拓村に帰るのもアリかもね。 


 ソフィア王女が、降嫁されるのは一年後。 私が、王立魔法学院に入るのも一年後。 うん、切がいいね。 メイドズには悪いけどさ、メイドズにはメイドズの幸せが有るんだから、私に付き合わせられないしね。 決まりだ! 部屋は明け渡す。





「クロエ、頼みたい事があるのです」


「なんでしょうか? エルザ様?」


「ソフィア王女が、いたくこの部屋を御気に入られて、お輿入れの際、この部屋を王女様の居室にしたいと思し召しなのです。 よいですか?」





 うん、上から目線ですね。 お望みは、お部屋ですね。 分かりました。 でも、一存では無理ですよ? 先ずは、黒龍大公翁おじいちゃんに許可を貰いますね。





「わたくしは、問題ありません。 逆にソフィア王女のお気に召したと云う名誉を感じます。 しかし、この部屋の権限は、アレクサス黒龍大公翁に御座います。 これから、わたくしより、御許可を頂きにまいりますので、暫し、此方でお待ち頂けると幸いです」


「はい、お待ち申し上げます。 アレクサス黒龍大公翁は御許可……して頂けますよね。」


「存外の思し召し、きっと大丈夫だと」


「左様ですか。 宜しくね」


「はい」





 部屋を出て行くときに耳に聞こえたのは、エルザさんの驚きの声だった。





(あっさりと、明け渡すそうです。 何なんでしょうか、なにか裏が有るのでしょか?)


(思いの外、わたくしは歓迎されていたのでしょう)


(思い入れのある筈の部屋ですし、これ程、手が入っている部屋をああもあっさりと……)


(きっと、御心が広いのよ、エルザ、少し認識を変えなければなりませんね)





 うん、ソフィア王女も私の事、疑ってたね。 これで確定。 そんじゃ、黒龍大公翁おじいちゃんの処へいくか!





 *************





 黒龍大公翁おじいちゃん、旧執務室に居たよ。 ほら、こないだやった諜報戦の盤面出して、なんか唸ってるよ。 やだなぁ~~、もう! 





「アレクサス御爺様、クロエです」


「おう! 来たか」


「お願いが有り、参りました」


「ん? 珍しいな。 なんだ?」


「はい、私が今使わせて頂いている部屋なのですが」


「ん?」


「ソフィア王女様がお輿入れの際、自室にと所望されております」


「拒絶せよと?」


「嫌ですわ、御爺様。 そんな我儘、クロエは言いません。 御許可を頂きたく」


「?……なにが有った」





 私の笑みに、何かを感じて下さった。 ちょっと、ご注意を申し上げよう。





「エルザ=ルーブトン男爵令嬢。 ソフィア王女様のお付きの方ですが、御主人は白龍大公閣下です。 私についての予断が、王妃様、黒龍大公閣下の奥様、白龍大公閣下より聞かされているようです。 また、黒龍大公家になにやら含むものも御座います。 丁度、宜しかったのでは御座いませんか? あの部屋・・・・で……」





 黒龍大公翁おじいちゃんスンゴイ目で私を見た。 うん、ハッキリ言って睨みつけられた。 でも、怒られてるんじゃない。 これは、黒龍大公翁おじいちゃんの癖。 その眼をしている時は、忙しく頭を働かせている時。 実際には、私の事なんか見ていない。 さんざんこの顔はこの部屋で見た。 だから、オトナシク最終決断を待つ。 暫しの沈黙の後、黒龍大公翁おじいちゃんの口は開いた。





「許可する。 理由は、お前が懸念した事だ。 釘はさせるな」


「出来得る限り」


「よし。 客人が帰ったら、儂は出かける。 ヴェルを呼べ」


「はい、御爺様」





 部屋に帰る途中、ヴェルに黒龍大公翁おじいちゃんの旧執務室に行くよう言った。さあ、部屋に帰ろう! でも、また、エルたちが泣くかなぁ…… それは、ちょっと、勘弁してほしいなぁ……


 お部屋に帰って、エルザさんに了承を貰った事を話した。 当然、ビックリしてた。 対応が早いって。 そんな事云ったって、王族の頼みだよ? 断れるわけないじゃん。 だったら、あっさり了承して、こっちから動いて、印象良くした方が、得策じゃん! それに、自分なりの理由もあるしね。


 みんな幸せ! って、やっぱりエル達が睨んでるよ……ゴメンね。 そう言う訳だから。 お部屋付解消になるよ。 そんなに睨まないで、あなた達だって自分の幸せを追いかける事出来るのよ? こんな私に付き合う必要ないって!


 で、もう日が陰って来た。 お外は寒くなるから、貴人用応接室に向かった。 奴等、まだ、やってんのか!  行くと、ホントにやってた。 もう! お客様、どうすんの! 王子様、今夜此方で一泊されるって?



 マジ? ば、晩餐! ヤバい、何の用意もしてないぞ!



 なんで、マリオしたり顔なの? どうして、アンナさん、自信たっぷりなの? 任せとけって? はぁ……わかりました。 存分に、あなた達の能力を見せつけてください!


 でね、晩餐にダイニングに連れだって行く前に、リヒター様に声を掛けられて、盤面の前に連れていかれた。





「どう読む?」





 簡潔なご質問有難う御座います。 ぱっと見た目互角。 双方とも手詰まり状態。 ふふん、正々堂々やってるのね。 この状態を破る? 自陣の有利な様に? はぁ……こんな潔癖な盤面見たら、なんか和んじゃうね。 丁度、閣下おじさまも後ろに居る。 どうしよう……・まぁ、いいか。





「御兄さま、綺麗な手か、汚い手かどちらがお好みですか?」


「は? 綺麗な手と、汚い手? どういう意味だ?」


「面子を取るか、民を取るかです」


「……どういう事だ?」


「ルールは限定ルールでは無いですよね」


「ああ。 フルスペックを適用しているね」


「では、簡潔に。 一つ、盤上の駒を駒とは思わず、人と思ってください。 一つ、相手の首都を落とすのではなく、国の制御を潰すと思ってください。 一つ、使える資源は、人も含まれます。 一つ、汚れ仕事は一撃のみ。 最後の一つ、盤上ではリヒター様は、官吏では無く、国王です。 後は、何をするか、お分かりですね」





 盤上を睨むリヒター様。 そして、ハッとした顔をして、私を見る。 当然の帰結が有るので、ニッコリと笑ってあげる。 その様子を見た、閣下おじさまが、口を開いた。





「リヒター、間違った矜持は国を亡ぼす。 生き残りを賭けた戦には、綺麗も汚いも無い。 全ては国を支える民の為。 黒龍大公家はそういう家だ ……クロエ、父上に鍛えられたな」


「いえいえ、私など全然ですわ」





 にこやかに、ダイニングに向かう。 後ろで、リヒター様が閣下おじさまに、ボソリと呟いているのが聞こえた。





「そこまで……」


「現実も同じだ。 おいおい判る時が来る。 ゲームで心を鍛えて置け。 非情の決断は連続で来るぞ」


「く、クロエは……」


「あれは、もう、経験している。 ずっと昔にな……」





 なにはともあれ、これで今夜中にゲームは終わる。 多分リヒター様の勝ちでね。 殿下お可哀そうに……





 *************





 晩餐は急遽用意された筈なのに、とても素晴らしかった。 やっぱり、能力のある人たちの仕事って凄いね。 もう、感心してしまう。食後の歓談も早々に、ゲームに戻りたがる、”少年の心を持った大人の人達”は、もう知らん。 ソフィア王女様も、お泊りする! って言い出して、困ったよ。 


 仕方ないから、私の部屋を明け渡したよ。もう、絶賛お気に入りだよ。 王女様には、湯あみをして貰って、彼女のドレスは、急遽ランドリーに回して、部屋着兼、寝間着に着替えてもらった。 幸い、アンナさんの新品が有ったので、それを使った。 アンナさん、あんな趣味だったんだ……フリフリのスケスケ…… 認識変えよう。 めっちゃ乙女じゃん!


 やっぱり、王族は違うわ。 私のベッドに潜り込んだかと思うと一分もしない内に、眠りに落ちられた。 私だったら……きっと、一晩中起きてるね。 無理だよ。 この状況で眠るなんて。 エルザさんにも湯あみをして貰って、ドレスを替えてもらった。


 エルの新品がストックされてたんで、此方を渡し、控えの間で寝てもらった。 いつもはメイドズの誰かが寝ずの番をする所。 ちゃんとベッドもあるよ。 休んでもらおうって配慮だよ。 寝れるかな?


 私は、部屋の隅で、ランプを細く絞って、本を読んでいる。 こないだミーナに貸してもらった、流行りの小説だった。 なかなか関係の進まない男女の話。 まぁ面白く読ませてもらったよ。 多分普通の読者とは違った目線だろうけどね。


 なんか、貴人応接室の方が騒がしい。 きっと、阿鼻叫喚の世界が展開している筈だね。 そういう風にそそのかした。 リヒター様、鬼人無双してるよ、あれ。 条件は十分整ってたしね。 同じ事は殿下の側にも言えるんだよ。


 勝敗はより、”人でなし”に成れた方。 うん、確実に嫌な奴になるね。 でもね、国王陛下は、こんな事、毎日体験されているのよ。 お前らも、大人の苦労を知りやがれ!! って十一歳の子供が言っても説得力無いよね…… 





 あぁ、私、なんて無力!





^^^^^^^^^^^^





 深夜。 耳が痛くなるような静けさの中、衣擦れの音がした。 





「エルザ様、眠れませんか?」





 案の定、エルザさんだった。 みんなを起こさない様に、テーブルの上にあった茶器で、ハーブティーを二杯用意した。 カモミールティーだけど、御口に合うかな?





「クロエ……嬢様。……あの……」





 なんだ? 





「飲んで下さい。 落ち着きますよ?」


「いや……あぁ……カモミール?」


「ええ」


「……久しぶりです。 お母様が良く入れてくれました」


「不躾で、申し訳ございません。 お話は聞き及んでおります。⦅龍王国の民が魂の平安をここに祈ります⦆」


「!!!!」





 ビックリしてるよね。 そりゃそうだ。 私が古代キリル語をしゃべったんだものね。





「私に対しての悪感情をお持ちなのは、知っております。 黒龍大公家に対しても大層警戒されている事も。 私の事はいいです。 悪感情をお持ちなのも、排除対象なのも理解できます。 まぁ、王立魔法学院に入学すれば、寮生活になるのでしょうから、六年間は視界に入る事もありませんわ。 それは、別段なんとも思いません。 世界は悪意に満ちています。 そこに、少し加算されるくらい、どうと云った事御座いません。 しかし、黒龍大公家の皆様に対しては、どうぞ、そんな目で見ないで下さい。 黒龍大公家の人達は、愚直なまでに真面目で、本当にハンダイ龍王国を愛しておいでです」





 自分の目の前に居るのが、何か得体のしれないモノと感じているのが、手に取るように判る。 それでも、これだけは言っておきたい。 これから、この屋敷で暮すのならば、絶対に必要な情報と希望だから。





「どうぞ、どうぞ、素直で公平な目で見てあげてください。 予断に惑わされず、本質を見極めてください。 どうしても、納得の行かない時は、私を憎んで下さい。 それで、御家に優しくなれるのならば、それが、 ” わたくしの役割 ” です。 お願いします。 そして、何卒、ソフィア様を御守り下さい。 黒龍大公家に嫁ぐ事は、きっと大変な事です。 だから、エルザ様。 約束してください。ソフィア様を守ると」


「……クロエ嬢様」





 言いたい事は言った。 何にしろ、相手は王族だし、私は居候。 私の御役目は、ソフィア様が心安らかに、黒龍大公家に嫁げる様にする事。 大事な御役目だね。 黒龍大公翁おじいちゃんって云う手も打ったしね。 余計な雑音を入れたくないよ。 安らかで温かい家庭を築いて欲しい。その事が一番大事だよ。 そうそう、黒龍大公翁おじいちゃんに言われてた、”釘” 差しとこ!





「もう一つだけ。 ⦅あなたの主人は誰ですか⦆ これの答えが、『ソフィア王女様』で有る事を私は祈ります……」


「……だ、大丈夫です、クロエ嬢様。 わたくしの主人は、ハンダイ龍王国、第四王女ソフィア様だけです」


「有難う……その言葉で安心いたしました。 カモミールティ……エルザ様の御気持ちが少しでも癒されたら宜しいですわね」


「母に叱られた気分です」


「まぁ……ごめんなさい」


「いえ……懐かしくもあり……ご、ごめんなさい。 お、お母様……お母様……」





 なんか、エルザさん、泣き出したよ。 知らんよ。 わたし、泣いてる女の人、苦手なんだ。 なんにも言葉掛けられないし、下手に話しかけると、もっと、泣かれるか、怒り出すもん。 一番の対処法は、そのまま放置。 泣き止むまで、知らんぷり。 これ、私の絶対回答。 まぁ、側は離れんけどね。


 暫く、掛ったけど、エルザさん、やっと泣き止んで、控えの間、に戻った。 ふ~~っ なんか、めっちゃ接待したよ。 頑張ったよ。 だれも、褒めてくれない…… 




 何でじゃ!




 次の朝、こっそり鍛錬を終えてバルコニーから戻ると、エルザさん立ってた。 なんか、深々とお辞儀してた。ニッコリ笑って、手を振って! 声出して行こう!







「おはようございます! エルザさん!」








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